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世界に色を付ける系アイドル始めました  作者: 廿楽 亜久
7話 白墨事件

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28/53

01

 その日は、父が警護する仕事を見学するために、ふたりの兄と共に池袋に来ていた。

 しかし、幼すぎる私は見学させてもらえず、近くでやっていた魔法少女イベントで待ってるように連れてこられた。


「はい! 参加バッヂ。これを胸につけて入ってね」


 ピンクと白のリボンをたくさんつけた、少女アニメの主人公みたいな魔法少女が描かれたバッヂを受付のお姉さんに渡される。

 これが参加チケット代わりらしい。

 クラスの友達たちが、ママごとのようなごっこ遊びをしているのは見たことがあるし、流行っているらしいことくらいは知っている。

 だが、全く興味がわかなかった。

 周りがアレほど楽しそうにしている理由もわからず、そのバッヂをポケットにしまおうとすれば、いつの間にか横にいた何かに、小さく悲鳴を上げてしまう。


「誰!? 何!?」

「リボンちゃん……」

「へ? あ、これ?」


 このキャラクターの名前かと、バッヂを見せれば、嬉しそうに目を輝かせて頷いた。


「…………え?」


 全く意味が分からず、つい眉を潜めてしまえば、近づいてきた体の大きな少年。


「見つかったのかァ?」

「うん」

「じゃあ、俺のと――」

「え゛っ! だ、だから、ヒロくんのは、チャオちゃんだから……」

「あ゛? だから、交換が基本なんだろ? 被ってねーんだから仕方ねーだろ」

「そ、う、なんだけ、ど……」


 男の子に責められ、むくれる彼女がやりたいことは、なんとなくだが、理解できた。

 要は、このバッヂのキャラクターが欲しいのだ。

 ただ、このバッヂはチケット代わりでもあるし、ここに来るような魔法少女が好きな人は、自分の好きなキャラのバッヂが欲しいわけで、一方的にもらうことはできず、交換する必要があるということ。

 そして、彼女と彼のキャラクターは、彼女としては渡したくないという、彼としてはとても困った状況。


「いいよ。あげる」


 別に興味が無いし。

 バッヂを差し出せば、彼女は嬉しそうに目を輝かせ、ものすごい勢いで腕を掴んできた。


「いいの!?」

「いいよ」


 ヒロくんと呼ばれた彼は、納得してない様子で頭を掻いていたが、後ろから近づいてくる影に顔だけ後ろに向ける。


「本当にいいのか? 交換ならするぞ?」


 ふたりの親らしい男が見下ろし、彼女が少しだけ躊躇うように受け取ろうとしていたバッヂから手を離そうとするから、それを掴んで、バッヂを握らせる。


「いいの。バッヂだって、好きな人のところにあった方がいいだろうし」


 帰って捨てるだけの私のところにあるより、大切にしてもらえる方がずっといい。


「? 君は、誰が好きなの?」

「いないよ。あんまり興味ないんだ」


 不思議そうに首を傾げている彼女の反応は最もだ。私だって、女の子なら好きそうだというだけで連れてこられたのだから。

 適当な理由でここへ連れてきた父の部下という男を睨めば、意外にも部下は驚いたように、彼女たちの後ろにいる男の方を見ていた。


嵜沼(さきぬま)さん? なんでここに……」

「付き添いだ。仕事じゃねーから、面倒事回すんじゃねェぞ」


 その目は真剣なもので、この人も父の関係者かと目をやるが、睨まれていないのに少し怖い目つきでこちらを見下ろした。

 だが、すぐに視線を部下の方へ戻してしまう。


「こっちだって、幸延さんの息子さんたちが見学するとかで大変なんですよ」

「この子は? 見学させてやんないのか?」

「あー……まぁ、そうですね」

「…………」


 大人たちの小声の会話は聞き取りにくくて、近づこうとすれば、ふたりはすぐにこちらに目をやり、会話をやめてしまった。


「灯里。ちゃんとお礼言ったか?」

「まだ! ありがとう! えーっと……」

「彩花」

「さやかちゃん」


 本当に嬉しそうにバッヂを抱えている灯里に、腰に手をやり小さく息をついた。

 なにがそこまで嬉しいのかわからないけど、嬉しそうな人の顔を見るのは悪くない。


「じゃあ、自分は仕事に戻るんで、彩花ちゃんはここで待っててね」

「わかりました」


 父の部下も仕事があるから仕方ないが、このイベント会場に入れてしまえば、あとは大きな危険もなく、暇つぶしもできると思っているのだろう。

 ついため息が漏れると、目の前の彼女がじっとこちらを見ていた。


「何?」

「さやかちゃん、ひとりなら一緒に回る?」


 興味が無いイベントで時間を潰せと言われても、どうしたものかと思っていたが、誰かいるなら少しは気が紛れるかと頷けば、嬉しそうに微笑まれた。


「はァ⁉ なんであそこまで届くわけ!?」

「俺がスゲーから」


 子供向けのイベントのため、体を動かすゲームの置かれた場所が多く、気がつけばヒロと的あてゲームで盛り上がっていた。

 それなりにスポーツは得意なつもりだったが、的あての最奥の的に届かない。

 身体強化の魔法を使って、ギリギリ当てられるぐらいだが、同い年であろうヒロが見事に的を弾いていた。

 今考えれば、大人用の的だったのだろうが、対戦相手が当ててしまっていては、文句の言いようがない。


「灯里と合わせれば、こっちの勝ちだし」

「それはズリーだろ!」

「ズルくないですぅ」


 我ながらひどいとは思ったが、灯里の成績はあまりにひどいので構わないだろ。正直、私とヒロの半分のスコアも言っていない。

 ノーコンで力も足りず、応援はするが、教えるのは何回かで諦めた。

 だが、本人は何も気にせず、ヒロのスコアで景品をもらっていた。

 どうやら、ヒロも魔法少女には興味が無いらしく、灯里に付き合って来ているようだ。


「私のもいいよ」

「え、でも、さやかちゃんの好きなのもらった方がいいよ」


 そもそも魔法少女に興味がないのだが、さすがに知り合ったばかりの相手の景品までもらうのは、灯里でも気が引けるらしい。

 また灯里に押し付けてしまおうかとも思ったが、先程渡したキャラクターのぬいぐるみにはスコアが少し足りない。

 頭を悩ませた後、食べて無くせてしまえそうなお菓子を選んでおいた。おまけのシールは灯里にあげよう。


『まもなく特設ステージにて、桃井桜子ちゃんによる特別ステージが行われます』


 なにかイベントの放送が掛かり、おそらく有名なゲストが出るのだろう。

 誰かはわからなかったが、灯里が目を輝かせているのを見てしまっては、行かない選択肢はない。

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