痴漢冤罪で捕まりかけたら恋に落ちた俺の話。
「きゃあッ!!」
そこそこ込み合った電車の中で、突然前に立つ女子高生が悲鳴を上げた。そのままぐるりと振り返ると俺の手首をがっちり掴んで睨み上げてくる。
「え、」
「何するんですか?!ッこの人痴漢です!!」
「ええええ?!」
バサッと持っていた小説が落ちたけどそれどころじゃない。え、なに?痴漢?どういうこと?訳が分からな過ぎて何も言葉が出て来ない。でもこのままじゃ拙い事はわかる。
「お、俺何もしてません!」
「え、なに?」「痴漢だって…」「えーヤダ最悪」「いかにもって感じ」「うわでかっ」「ハハッ巨人かよ」「キモッ」「おい速く降りろよ遅れんだろ!」
「わぁッ!」
ドンッと誰かに背中を突き飛ばされて騒めくホームに突き出された。痛い。なんで?なんでこんな目に…泣きそうになって顔を上げたら未だ睨みつけてくる女子高生と、俺の状況から察した電車待ちの人達から突き刺さってくる嫌悪や好奇の目で見られ心臓が凍るみたいに痛んだ。
「ちが、違ぃま、俺ッ、やって、なッ、」
「すみません、他のお客様のご迷惑になりますので、お話はあちらで…。」
誰かが呼んだのかいつの間にか駅員二人と…警察が二人、俺を囲んでいた。一気に血の気が引いたのがわかった。終わった。と思った。ただ漠然と思った。頭の片隅で痴漢は例え冤罪でも捕まったら終わりだとか、冤罪ならすぐその場から去るしかないとか、今になってどうしようもない情報が渦巻いて。でも現実には頭は真っ白で心臓の音がうるさいのに指先は冷えて。突き刺さる視線を避けたくて下げた頭と視界には自分の靴だけで一歩も動けなくて。
「あのぉ。その人痴漢じゃないです。痴漢はこっち。」
「やめろ!はなせッ!」
突然の声に、反射的に顔を上げた。顔を赤黒く染めて唾を吐き怒鳴り散らす小太りの男。明らかな体格差を物ともせず、男を引きずって来た女性に見覚えはない。女子高生と駅員は戸惑っているし、俺も何が起こっているのかよくわからない。ただ、漠然と、この人が俺を助けてくれるとわかった。
「そこのお兄さん、凄いでっかいなぁって見てたんですよ私。片手はつり革の棒掴んで、もう片方で本読んでました。はいこれ、お兄さんの本ですよね?で、斜め前のお嬢さんは携帯いじってた。このおっさんが駅に着いた瞬間お嬢さんのスカートの中撮ってお尻触ったの、みました。お嬢さんがお兄さんに詰め寄ってる間に素知らぬ顔で逃げたから、捕まえに行ってたんです。すぐに出て来れなくてすみません。」
淡々と話す女性に駅員とやって来た警察官は顔を見合わせて。警察官はわめく男を、駅員は俺と女子高生と女性を控室へ連れて行った。携帯から証拠の写真が出てきた男は痴漢の現行犯で警察に捕まって…携帯に残された画像から余罪を調べるそうだが、もう女子高生からも謝罪を受けたしどうでもいい。それよりも…
「ありがとうございました!!」
「いえいえ。誤解が解けてよかったですね。」
目を細めて優しく微笑む女性…王子かなめさん、を、見ると顔に熱が集まってくる。助けてくれた時は格好良くて名前の通り王子様の様だったのに、こうして笑っていると普通の…小さくて、可愛らしい女性で。きらきらして見えるのは、俺の眼にまだ涙が溜まっていたからだろうか。
「あの、ほんとにありがとうございました。…ッその、よろしければご飯とか!どう、ですか?!お礼をさせてください!!」
「んー…、あんな場面で知らんぷりなんて寝覚めが悪いから、自分にできることをしただけだよ。私のためだから気にしないで。」
「えっと、じゃああの、連絡先とか…ッ、」
「あ…ごめんなさい。もう行かないと。本当に気にしないで。」
なんとかもう少し一緒にいたい。と、口実を探すけれど時計を見て肩を竦める王子さんに、これ以上言い募ることは出来なかった。こんなに言い寄っているようで、ナンパの様で…お礼をしたいのは本心だけど、もっと、話したいなんて醜い下心が空けているのかもしれない。…軽蔑されているだろうか…嫌われたくない…。そう思うと尚更、笑顔を張り付けるので精一杯だった。
「ッ本当に、ありがとうございました。」
「うん。それじゃあ。」
頭を深く下げた俺に、王子さんは片手を上げて人混みに消えて行った。
326『へぇ~凄いな。《名乗るほどのことではない。さらば。》なんて、現実にあるんだな。』
タマキ『めっちゃヒーローじゃん!カッコいいにゃあ!』
326『ヒメちゃんが惚れるのも頷けるぜ。』
「そうなんだよ!めっちゃかっこよかったんだよ!!」
ゲーム内のチャットに向かって叫ぶ俺。三面あるモニターの右に攻略情報を、左にチャットログを出しつつキーボードを叩いた。人見知りな俺はこの外見…無駄にある身長に癖の強い黒髪に眼鏡だ。も、相まって人と話すのが苦手だ。でも人嫌いなわけじゃなくて、普通に人恋しいと思うしさびしい。だからゲームの中ではついつい現実で起こったアレそれを話してしまう。もちろん身バレには配慮しているが結構そういう人は少なくないと思う。偽名で見ず知らずの相手だからこそ話せることもあるだろ。
ヒメ『ああ、会いたいなぁ…王子様…。』
タマキ『ここから始まる恋物語…!まるで電車男だにゃ!』
326『ムネアツ展開まだか?』
中央モニターで妖精の様な可愛らしい女の子のアバターが、俺の打ち込んだ文字を吐き出す。頭上のアバター名は《ヒメ》。俺はネット内で女の振りをする…所謂ネカマだ。いや、ちょっと長くなるけど聞いてほしい。初めてネットゲームに触れた時…俺のアバターは男だった。当時からデカくクラスの奴らから遠巻きに見られていた俺は人との繋がりが欲しかった。とりあえず促されるままに作ったアバターとカッコイイ武器に憧れ剣士を選択した。しかし…もともと争いも苦手だった俺はイベントや抗争が激化するほどゲームへの熱が冷めログインが億劫になって最終的に卒業してしまった。
次にネットゲームを始めた時、生産職という選択肢を知った。攻略掲示板でのほのぼのとしたやり取り、自分たちの家畜をスクショして見せあう優しい世界。これだ。俺が求めていた繋がりはこっちだったんだ。速攻俺は生産職としてキャラメイクした。最初は良かった。皆優しくて、あったかくて助け合ってた。でもある時仲間内で《ネカマ》のカミングアウトがあった。それ自体は何という事もなく、俺は初めて聞いた単語を調べて、そう言うのもあるのか。程度の事だった。予想外だったのは、仲間のほぼ全員が男で、そして何故か俺が《ネナベ》…現実では女だけれどゲーム内では男を選択している。と、思われていたことだ。否定した。全力で否定したけど…ほとんどの人は俺を女だと思ったまま話が有耶無耶になった。
事件が起こったのはそのすぐ後だったと思う。ネットの中の仲間に告白された。恋人になってほしい。本気だと。俺はすぐに断ればよかったのに…好意を向けられたのが嬉しくて、直ぐに断れずに三日悩んでしまった。結局、俺も相手も男だし俺にそのつもりはないんだと断った。食い下がられてゲーム用のチャット番号を教えて通話して…第一声が、《うわ、マジ男かよ。言動完全に女だったじゃん…キモッ。》だった。未だにあの言葉を浴びせられた時のことを覚えている。すぐに通話は切れて、冷や汗が出た。所詮ネットの事なんだからと、気にしないように努めたけれど、…相手もそうとは限らなかった。俺に告白してきたそいつはあることない事吹聴して回りちょっとした騒ぎになった。仲間だと思っていた皆は俺が男なら要はないと消えて行った奴らと騒動に関わりたくない奴が離れて行って…結局残ったは、俺と俺によく注文してくれていた槍使いのサブローだけだった。
結局そのゲームともお別れして…しばらく落ち込んでた。たかがゲーム、されどゲームだ。俺はゲームに《人との繋がり》を求めてしまっていた。だからのめり込んでいたしやり込んでいたし…その分だけ愛着もあった。楽しかった。でもそれだとダメなんだ。こんなに何の気力もわかなくなるほど、ゲームに注いではいけないんだ。うん。高い授業料だったと思おう。今気が付けて良かったんだ。そう思って何とか立ち直った。
三度目に触れたゲームが今のゲームだ。一時期過疎ったりもしたけど持ち直して長寿コンテンツと化している。のめり込み過ぎ防止と、いっそネナベと間違われるのならと可愛らしい女の子のアバターを作った。一人称以外は普通に打ち込んでいるが今のところこのゲームに誘ってくれたサブロー以外には完全に女だと思われている。と、思う。まぁ、男だとバレたって痛くも痒くもないが。
たまご『おいすー。』
「あ、たまごさん。」
猫獣人のタマキさんと槍使いのサブロー、そして重戦士のたまごさん。この三人が俺の新しい仲間で、このゲームを彩ってくれるネット友達だ。
326『おいs』
タマキ『O2』
ヒメ『乙カレー』
思い思いに挨拶を打ち込み他愛もない話に花が咲く。和気あいあいとしたこの時間が一日の癒しだ。
たまご『で?なんか盛り上がってたみたいだね。』
タマキ『ヒメちゃんが王子様を見つけたんだにゃあ!』
たまご『ほほう。ついに僕らのお姫様が王子様と出会ったのか…。つまり恋人が出来たってことでFA?』
326『いやいやww展開早すぎんだろ。』
「こっ、こいびと…ッ!」
たまごさんの言葉にボッと顔が熱くなって、指が震えてタイピングができない。
「恋人なんてそんな、た、確かに王子さんは見返りなく助けてくれてむちゃくちゃ格好良かったしでも笑った顔とか凄く可愛かったし髪もさらさらで綺麗でいい匂いがしてそうだしッ?!でもだからってそんな恋人とか俺ごときが烏滸がましいと言うかお礼がしたいって思ったのは確かだしもっと一緒に居たかったしなんならまた笑ってくれたらな、なん、て…、」
誰に聞かれたわけでもないのに悶えて吐き出された自分の気持ちに、はた。と動きが止まる。いや、違う。ダメだ。普通に考えてもう笑顔を見る機会なんてない。だってあんなにしっかりと拒絶されたんだから…。
「はぁあぁあ…、」
重く吐き出された溜め息は情けない音を出して。ガンッ!と鈍い音を立てて机にぶつけたおでこが痛い。じんわり涙が出てくるくらい。
ぴこんッ!ぽこんッ!しゅぽんッ!とゲーム内の吹き出しが飛び出して三人の会話が弾む音がする。…嘆いても仕方ないよね。うん。潔く諦めてすがらなかっただけ、王子さんの中でも悪くない記憶になっていて欲しい。
ティロンティロン ティロンティロン
「…サブロー?」
着信音に顔を上げるとサブローのアイコンがピカピカ点滅していた。んん?どうしたんだろ。項垂れていた体勢から椅子に座り直しつつ通話のスイッチを入れたら、
「おーっす、お前寝落ちた?チャット読んだ?」
「いや、起きてたけど読んでない。どうしたの?」
「ログ開いてんなら早く読め。」
「はぁ?ちょっと待って…、」
慌てた様子のサブローに急かされてマウスのスクロールを下げる。考え込んでるうちに三人の会話は大分盛り上がっていたみたいでちょっと長い。俺のアイコンがでるまで流して戻り、読み進める。その間何故かサブローは一言も話さずに待ってくれていた。
「えーと…、俺が助けてもらった話を皆でしてて…、盛り上がって…?」
「たまごさんもこの間痴漢捕まえたんだと。冤罪のメガネのでっかい兄ちゃんって…お前じゃね?」
チャットログにはたまごさんとタマキさんの会話が残っていて。それにはたしかに女子高生とおっさんと…背の大きな黒縁メガネの男の話が軽くまとめて書かれていて。『お兄さん落ち込んでないといいなぁ。録画予約忘れて慌てて帰ったから、きっと感じ悪かったしなぁ僕。』と心配の言葉まで書かれていた。…えっ。
「えええッ?!えッ、どッ、ええええッ?!」
「ぶっは!いや気持ちはわかるけど落ち着けって…くくッ、」
「いやいやいや、ハッ?!え、たまごさんが、王子さんなの?!」
軽くまとめて書かれているから絶対とは言い切れないけれど、全容を知っている俺にはもう俺の話だとしか思えない。
「ん?ヒメ助けてくれた王子様はガチで『王子』って言うのか。すげぇな。」
「嫌そこは良いんだよ!え、っていうかたまごさん女性なの?!」
「ネットに性別持ってくるなんてナンセンスだろ。ヒメもビジュ女じゃん。」
「そ、そうだった!そうだけど!」
「とりあえず落ち着けって。おら深呼吸しろ。」
「ぅぐっ、ご、ごめん…、」
頭の中は今だ大混乱だったけど、サブローに窘められて一先ず深呼吸を繰り返す。頭がすっきりとはならなかったけど少し落ち着いた。心臓がバクバク鳴っていて手が震える。
「落ち着いたか?で、どうすんだ?」
「ど、どうって…?」
胸に手を当てて自分の心臓を押さえつつ、モニターに返事をするとサブローの重々しいため息がスピーカーから聞こえてきた。
「だぁから…、たまごさんが『王子さん』なのか確認すんのかってきいてんだよ。」
「あ…ッ、ど、どうしよう?!」
「どうって…お前はどうしたいんだよ。お礼したいんじゃなかったのか?」
「そ、それはもちろん!!だって俺、本当に社会的に殺されるところだったし…ッ!!」
呆れた様なサブローの声に眉間に皺が寄って少しムキになって返してしまった。だってまさかこんな近くにというか、たまごさんとはこの一週間も普通に遊んでたし…と考えつつもどうやって確認する?個別チャットに呼ぶか?!とまた頭が混乱してうまく言葉が続かない。
「おーおー。じゃ、通話に呼ぶからな。」
「ええええッ!?は、ちょっと待っ!!」
リリリリン リリリリン
サブローがグループにたまごさんを招待するやいなや、たまごさんのアイコンが点滅して呼び出し音が鳴り始め思わずその場で硬直した。
「結果だけでも教えろよー。」
「えっ?!」
一緒にいてくれるんじゃないの?!ピコンっと軽快な電子音だけ残してサブローは颯爽といなくなってしまって。残されたのは呼び出し音の鳴るたまごさんのアイコンと何故かヘッドフォンをスピーカーに着けて震える俺。緊張で口から心臓が出そうだけどこの機会を逃したら絶対に一ヵ月はモダモダする…!出てほしい、出ないで欲しい。ぐるぐる悩みながら呼び出し音を聞き続ける。実際は一分も鳴っていないと思うけど、俺は体感五分以上震えていた。
リリリ…ぽひゅ
「…こんばんは?」
何度も思い出した柔らかくて低い王子さんの声が耳元で聞こえて、心臓を殴られた。
「こっこんばんわ!」
わぁああああ!!やっぱり王子さんだどうしようヤバイ心臓痛いぃい!ドキドキと五月蠅い心臓を押さえたくて胸を掴む。緊張して声裏返った恥ずかしいヤバいどうしようどうしよう
「ふふ、たまごだよ。よろしくね。」
奮発して買ったヘッドフォンが、たまごさんの声というナックルを付けて俺の耳に殴りかかってくる。高音質でクリアな聞き心地があなたに新体験をもたらします。なんてありきたりな売り文句だったけど…ッ五万したけど…ッ買ってよかったぁあッ!!
「ひ、ヒメですッ、あの、いきなり連絡してすみません!今お時間大丈夫でしゅかッ!」
ガチガチに上がりすぎて噛んだ…終わった…。
「あはっ、んん゛…大丈夫でしゅよ?」
「ひぇ…ッ」
緊張してるのが丸わかりな俺が噛んだのが面白かったのか、耳元でたまごさんの笑う声がして…揶揄い声で噛みを真似された。まだ後を引いているのかくすくす笑う声が耳元で聞こえて、王子さんの笑った顔をが呼び起されて背中がぞくぞくして小さく悲鳴が出た。ヤバい、ヤバいなんだこの可愛い人…ッ!火照る顔が薄暗い画面に反射していて、余計恥ずかしくなった。
「それで?ヒメちゃん…でいいかな?僕に何か御用だったの?」
今回のイベントのことかな?と話を振られてやっと本題を思い出した。そうだ悶えてる場合じゃないぞ俺!!
「あの、さっきチャットログ見て…ッ、いきなりすみません、あの、…王子さん…ですよね?」
シンと静まり返る室内にハードのモーター音だけ聞こえて…緊張で喉が渇く。
「…うん。やっぱりヒメちゃんがあのお兄さんかぁ世間って狭いねぇ。」
はぁ、と。安著の様なため息が聞こえて肩から力が抜けた。ああああぶねぇえ!よく考えたらネットで身バレ発言とか普通に警戒案件不審者待ったなしモラル警報だわ!マジでしっかりしろ俺!!でもいまたまごさんも《ヒメ》が《姫乃》だって気付いたって言ったよね?!
「お、俺って気付いてたんですか?」
「ううん?今ね。あの話の後に電話が来て、声聞いたら…あ、あの子かな?って。ごめん、姫…川じゃなくて…姫宮…姫乃…」
「ひ、姫乃です。」
「あ、そうそう。姫乃くんだ。ごめんね姫乃くんは覚えててくれたのに。私はあの時さっさと帰っちゃったし。」
「いえいえいえいえ!むしろあの一回で覚えてる俺が変って言うか!!」
流石に名前までは覚えてないですよね…!でも王子さんの記憶に残ってるだけでもう嬉しい…。
「本当は慰めたりするべきだったなぁって家に帰ってから我に返って反省したんだよね。」
「大丈夫ですほんと!今期の覇権アニメ楽しみにしてたの知ってますし!」
「ふふ、ありがと。」
「んぁ゛ッ」
楽しみにし過ぎて予習捗ってたら予約忘れちゃったんだ。なんて照れ笑いの声が聞こえてきて、胸が、ぎゅぅうと締め付けられるような息苦しさで死にそうになる。思い切り変な声出た落ち着け俺。
「あッの!その、ほんとに俺、あの時終わった。って思って。俺やってないのにみんな信じてくれなくて、冷たい目で見られて声もうまく出なくて…王子さんが来てくれなかったら、どうなってたか…。ありがとうございました。」
思い出しただけで涙がにじんで声が震える。あの時の事が結構トラウマになっていて思い出すと血の気が引く。夜に何回かうなされて起きたりもした。…でも、そんなときはいつも、記憶の中の王子さんが俺を助けてくれる。引っ張り上げてくれる。だから、うなされて起きても最後には落ち着いてまた眠りに着ける。唇を噛んで、見えるわけないのに画面に向かって誠心誠意頭を下げた。
「…ん、どういたしまして。」
短く、でも優しい声色に、頬が緩む。
「俺、王子さんになにかお礼がしたくて…っ、一回断られてるのに、しつこくてごめんなさい。でもやっぱり…。」
「んー…、なんでもいい?」
諦めきれない俺の我が儘に、しばらく王子さんがなにか考えこんで。むしろ今現在進行形で迷惑をかけてしまっているんじゃ。と血の気が引き始めた時、ぽつりと落とされた呟きに俺は速攻喰いついた。
「はい!もちろんです何でもします!」
「ほぉ、今何でもするって言ったね?」
楽しそうに鉄板のセリフを使う王子さんに笑ってしまう。
「いいました!二言はありません!」
「あはは、じゃあ…デートしよ?」
「…えっ。」
言い切る俺に笑いながら提案して…なん…デ、デート?!突然の爆弾発言に思考が止まって頭の中が宇宙になりかけた。
「再来月のはにゃわのコラボカフェでカップル限定メニューあるの知ってる?ミニ色紙コンプリートしたいんだけど、手伝ってくれないかな。」
「…ッ喜んでお供します!!!」
「わっ!あはは、びっくりした。」
デート…。王子さんとデートッ!!じゃあ後で予定合わせようね。と通話が切られた後ももしかして今のは夢だったんじゃないかと落ち着きなくうろうろ部屋を徘徊したり、夢じゃないことに悶えて震える俺がいて。そして、気がついてはいけないことに気付いてしまった。
「サブロー!!デートって何着て行けばいいんだぁああ!!」
「うるせぇええ!!」