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苦手な方はご注意ください。

一般界・魔法界シリーズ

あの悲劇を忘れた市民達

作者: 隧道坂 燈

人によっては残酷な描写だと感じられる可能性の場面が一部あるため、念のため残酷な描写ありにチェックを入れてあります。

1.プロローグ


王家に雇われた魔法の使える市民でスパイをすることになった斗南華。

魔法界としても、同じ世界に住む魔法の使えない市民との戦争は避けなければいけない事案だった。

なぜなら今の国力で双方が、ぶつかると魔法界は存続の危機であったからだ。

ただでさえ、前回の戦争で領土と国力を奪われたトラウマは大きい。

そのため、壁の向こうの市街地で戦争の芽を摘まなくてはならなかった。

科学を否定した魔法界であったが、溶け込むに為にスパイには科学を教えて、科学者ということで留学をさせて戦争の動向が無いかなどをチェックさせる魔法界だったが、しかしこれも一般界に見抜かれつつあった。

そのために新しい手を考える必要に差し迫られていた魔法界だったが、昔からの血統政治ではその案の提案も遅々として進まなかった。


一方、一般界では内燃機関の製造に成功してから飛躍的な発展を遂げて、発展の度合いは魔法界と遜色が無いまでになった。


魔法界との戦争の結果は独立を勝ち取った歴史的な転換点として、一般界ではそう教える教育が主流だった。


2.菅原涼太との出会い。


その頃、斗南華はスパイだという素性を隠して一般界のとある科学の研究所に入った。

しかし、研究所で働くのは長くは続かず、次の職を見つけるか帰国期限が迫っているときだった。

街の中で、男性とぶつかってしまった。

斗南華は「大丈夫ですか…」と言う。

その男性は「すみません…僕の不注意で…」と答えた。

その男性は「お詫びに近くの喫茶店でお茶をおごります。だから、一緒に来ませんか?」と言った。

斗南華は「奢って頂けるなら…行きます!!」そう言って男性について行った。

その男性は紅茶を二人分頼んで、席に着いた。

斗南華は「じゃあ、遠慮無く…」と言って紅茶を飲んだ。

その男性は言う。「君の名前はなんて言うの?」

斗南華はとっさに「遠藤遥香です…」と嘘をついた。

その男性は「僕は菅原涼太。よろしくね。遥香さん」と言った。

菅原涼太は「そういえば、遥香さんはどんなお仕事をしてみえるのですか?僕はIT企業で打ち込みをしています」

斗南華は「私は、研究所に居たけど…。計算が苦手でやめちゃって…実質無職で…」と言った。

菅原涼太は「僕の勤めている会社。人手が足りないから、社長に話を通しておくよ。明日面接においで?遥香さんが良ければだけど…」と言った。

斗南華は言う。「ごめんなさい…」

菅原涼太は「初対面でこんな提案。変だったよね…こっちこそごめん…」と言う。

斗南華は「違うの。あなたの会社で働きたいけど、私。実は遠藤遥香じゃなくて斗南華って言うの…」

菅原涼太は「華さんって言うんだ。可愛い名前だね。良い名前だから偽装しない方がかわいいよ」と言って、会社の名前と住所、電話番号の書いた紙を斗南華に渡した。


そして次の日。

面接を一通りしてから、働き出した斗南華は計算以外は優秀勤勉ですぐ評価された。


帰りの時間、菅原涼太が斗南華に言う。「明日、この国の独立記念の軍事パレードがあるけど…。一緒に見に行かない?」

斗南華は一緒に行けば怪しまれずに写真を撮れると思い「行きます!!」と即答した。


待ち合わせの時間。

菅原涼太と斗南華は落ち合う。


斗南華は言う。「私服に対して感想は?」

菅原涼太は「やっぱり何を着ても可愛いな」と言った。

斗南華はちょっとムッとした様子で「それ本心で言ってるの?」

菅原涼太は「本心だよ」と笑顔を見せた。

斗南華もそれ以上は反論が出来なかった。


機械の鳥は高速で空を飛び。

戦車は煙を出して走る。

兵士は大統領に敬礼をして一点を見つめる。

この国にへの忠誠を死んでも誓っている様子だった。

斗南華は写真を何枚も撮った。

菅原涼太は「今時、こんな古いカメラを使っているんだ…。新しいカメラを買ってあげようか?」と言った。

斗南華は言う。「故郷ではデジタルな機器は普及して無くて、現像するのも一苦労なので…。印刷したのを持って行かないと伝わらなくて…」

菅原涼太は「華さんは、田舎の奇跡だったんだろうなぁ…」と言った。

斗南華は魔法界でも都会生まれの方だったけど田舎だと嘘をついた。

菅原涼太はパレードが終わって、足早に帰宅しようとする斗南華を引き留めて言う。

「パレードは楽しかった?本当は色々と案内してあげたかったけど…」

斗南華は「楽しかったわ。だけど、機械の鳥はあんなにも大きな音を出すのね…。私、結構驚いたわ。あと、戦車というのは、あんなにも煤煙を出して環境に悪そうだわ」と言った。

菅原涼太は「華さんは意識が高いのですね。僕は国を守ってくれているから感謝しか無かったけど…。でも、華さんのその姿勢も勉強になります」と言った。

二人は、どちらとも無くそれぞれ別の道へ行った。

菅原涼太はまっすぐに帰宅して、斗南華は残り10数枚撮影可能枚数を残してフイルムを巻き取り写真屋へと現像に出しに行った。

斗南華は写真屋の店主に「プリントで」と言った。

店主は「いつものプリントだね」と言って店を出て、喫茶店に寄って十握(とつか)遥に会う。

同じく、魔法界から一般界に来ているスパイだ。

十握遥は言う。「軍事パレードの写真。撮った?」

斗南華は「撮った。現像待ち」と答えた。

十握遥は「明日、午後6時。喫茶櫟で待ってる」と言い席を立った。


斗南華は帰宅して、日記を開いて書いた。


十握遥はいつも無茶な要求ばかりをしてくる。

私は再就職したばっかりなのに、コーヒーを奢らせたり。

あのあいつの方がまだ金払いが良い。


斗南華は仕事に行った。

いつものように文章を打ち込みながら、片隅にあるのはフイルムのことだった。


斗南華は残業を断って、写真屋へと向かった。


店主は明るく「プリントしておいたよ」と言う。

斗南華は「ありがとうございます!」と言い喫茶櫟へと向かった。


喫茶櫟はそれなり混み合っていた。

時間は6時10分だった。

十握遥は「10分遅刻だ」と言った。

斗南華は言う。「残業を断るのに時間が掛かって…」

十握遥は斗南華の直接脳内に語りかける。「殺されたいのか、科学者を落ちこぼれた上に…。無断でやめて無断で新しい会社に行ったあなたに拒否権は無いから」

斗南華は魔法で喫茶櫟ごと、十握遥をぺったんこに潰してやりかったが、そんなことすると魔法界出身だとバレるし、なんせエリート諜報員である十握遥の仇を取りに本国から刺客が来ると考えて、ぐっとこらえて十握遥の脳内に直接語りかける。「魔法能力だけは、本国でも右に出るモノが少ない私に対してなんつーう口の利き方よ。そんなんだから、本国で旦那に逃げられるんだわ」

十握遥は「旦那は関係ないし、そんなに魔法を使いたいなら魔法界に帰れば?どうせモラルが無くて収監されるだろうけど」

「写真を渡さずに私は帰るわ。引退して旦那とゆっくり生活するはずが旦那に逃げられて、この年になっても魔法で肌の張りをごまかして諜報員をすることになった遥さん」と十握遥の脳内に直接語りかけて、斗南華は立ち上がり喫茶櫟を出ようとする。

十握遥は「写真を渡さないと、魔法界に帰った時を狙って外交特権を使って捕まえるわよ」と斗南華の脳内に直接語りかける。

斗南華は「あと1回しか残ってない一生に3回使える特権をそんなつまらないモノの為に使い切っちゃうの?」と言う。

斗南華は「私はまだ、一回も使ってないからね?特権を使って牢屋から出るけど?」と言う。

十握遥は「資格を剥奪してから、捕まえるわ」と言う。

斗南華は言う。「特権は一行為に対して一回だから、資格を剥奪したら私を捕まえて収監することは出来ないと思うけど?」と言う。

十握遥は「お願いします。この通りですから」と土下座をした。

斗南華は「仕方ないわ…」と言いプリントされた写真を十握遥に渡した。


斗南華は日記に書き記す。


一般界も街が破壊される戦争を望んでは、いないだろうし…。

しかも、あの軍隊もきっと抑止力で本音では戦いたくは無いだろう…。

普段の生活をする分には、戦争を望んでいるような世論にはみえないし…。

上層部もきっと抑止力で軍隊を持っているだけで、本音では損耗の激しい戦争などしたくないはずだ。

魔法界が攻撃を仕掛けてこない限りはきっと戦争は起きない。



3.バレる素性


次の日も斗南華は何事も無かったように打ち込みをしていた。

そしてヘトヘトに疲れて帰路につこうとしたときだった。

後ろから、見知らぬ男性が付いてきていた。

地下鉄の駅も一緒に入ってきて、斗南華はいつもの列車を見送って、違う系統の列車に乗るが、その男は付いてきた。

気味が悪くなって、手前の駅で降りる斗南華。

その男性はそれでも付いてきた。

斗南華は走って階段を上るが、ヒールが折れてこけてしまう。

足音からして、その男性は斗南華にどんどん近づいてきていた。

斗南華は菅原涼太の顔を頭に思い浮かべた。

お節介だけど、いざという時は助けてくれたであろう男性の菅原涼太を。


階段の上の方からも誰かの降りてくる足音がした。

それはこの前も聞いた、優しい声だった。

「華さん。こんなところで何をしているのですか…」

華は安心した。

上から降りてきたのは菅原涼太だったからだ。

菅原涼太は折れたヒールを見て、「これじゃ歩けないね?」と言い斗南華をお姫様抱っこして、駅の外へ出た。

そのときだった。

斗南華の後を付けていた、怪しい男性が階段を上りきって地上へ出てきた。

何故かその男性は銃を構えていた。

菅原涼太は言う。「何のつもりだ!!!!」

その男性は言う。「貴様、その女性を渡してもらうじゃ無いか?」

菅原涼太は「華に手を出すのは、この僕が許しません!!!!」と言って斗南華をお姫様抱っこしたまま走り出した。

斗南華は言う。「どうして、ここが分かったの?」

菅原涼太は「それは後で!」と息を切らしながら走った。

狭い路地裏で、二人は一休みした。

菅原涼太は「とりあえずはここで休憩しよう…」と言って息を整えた。

斗南華は「なんで、私の居場所が分かったの…」 と言う。

菅原涼太は「なんか華の助けて!!という声が聞こえた気がした後に、携帯電話の地図アプリが勝手に起動して、ここの駅ばかりを表示していたから、モノは試しに行って見たら、転んで今にも泣き出しそうな華を見つけたまでだよ…」

路地を塞ぐ形で車が止まった。


それに気づき菅原涼太は「逃げよう!!!」と言う。

斗南華は言う。「ここは私に任して…」

菅原涼太は何が何だか分からない。

さっきの男性とその仲間達だろうか?

車から数人の男性が銃を構えて降りてきた。

斗南華は綺麗な青い目をしていたが、それが赤く光った。

そして、ずれた眼鏡を指で上げて「私が相手です!!!」と言った。

その中では一番えらそうな男性が言う。「丸腰なおねーちゃん一人で何か出来るとでも?」

「斉射!!!」の掛け声とともに銃弾が飛んでくる。

しかし、その銃弾は斗南華に当たる前に空中に突き刺さって止まった。

そして、斗南華が指をパチンとはじいた後だった。

組織のボス以外の男性が一気に血を吹き出して倒れた。

空中に突き刺さって静止していた銃弾も無くなっていた。

組織のボスは「貴様、こんなことして許されると思うなよ!!」と虚勢を張るが明らかに声が震えていた。

斗南華が指をパチンとはじいた。

組織のボスとみられる男性はそのまま喋らなくなった。

菅原涼太は驚きのあまり言葉も出ない…。

斗南華は「車にもたれかかっている、この人。もうじき死ぬわ」と言った。

菅原涼太は「何が起きたの…」と言う。

斗南華は「ちょっと眠っていてもらうわ…」と言い菅原涼太を眠らせて逆にお姫様抱っこして、菅原涼太の家を訪ねる。

そして、菅原涼太をベットに寝かして言う。「おやすみ。愛しい人よ。今日はありがとう…」


斗南華は日記にこう書き記す。


緊急避難的に魔法を使ってしまった。

涼太には悪いけど、記憶を操作させてもらったわ。

まさか本当に涼太が来てくれるなんて思わなかったけど、とてもうれしかった。

明日はお詫びに朝ご飯くらいは作ってあげようかな?



斗南華は日記を閉じて、そのまま涼太の部屋で眠りについた。



朝が来た。

斗南華は朝一で食材を買って、キッチンを借りて涼太のために朝ご飯を作った。

菅原涼太が起きてきた。


斗南華は言う。「おはよ」


菅原涼太は「合鍵は誰も持っていないはずだけど…。どうやって入ったの?」と驚いた様子だった。

斗南華は「昨日、酔っ払って路上で寝ている君を見つけたから、私がここまで送ったのよ。ここまでたどり着くの大変だったのよ」

菅原涼太は不思議なことに昨日の記憶が曖昧だった。

だけど、お酒を飲んだ記憶は無かったし、ここ2年は全くお酒を飲んでいなかった。

何か、飲んだとしたら特別な理由だろう。

しかし、その理由も思い出せない。


菅原涼太は「本当にお酒を飲んで酔っ払って寝ていたの?僕は…」と斗南華に聞く。

斗南華は「えぇ」と答えた。

そして、斗南華は「今度から、記憶が飛ぶほどお酒を飲むのは体に良いとは言えないから、やめた方が良いですわ」と言った。


???「違法な行動を繰り返すマフィアが壊滅した」

????「それは良いことじゃないか」

???「それが魔法の使える人物が壊滅させた。しかもかなりの魔力だ」

????「ここまでの魔法が使える人物をこっちに送り込んでいることを考えると、魔法界はこっちの世界に近いうちの宣戦布告をしてきて、この世界を滅ぼしてしまうことも考えられる。それで該当者の氏名はなんていうのだ?」

???「斗南華。27歳。最近になって研究所から首都のIT企業に転職したようです」

????「科学の研究所から転職してIT企業とは魔法界スパイの典型的な経歴だな」


菅原涼太と斗南華は一緒に出社する。

上司は言う。「あれー?二人はそんな仲だっけ?」

菅原涼太は「これはたまたまですよ。たまたま」と言うが、

斗南華は「たまたまじゃ無いですよ、これは私なりの贖罪です」と意味深に答えた。


お昼休憩を終えてしばらくしたときだった。

辺りが騒がしくなった。

軍服姿の男性達が来て言う。「警察だ。この会社内に魔法界への内通者がいる」

辺りがかなりざわついた

菅原涼太は言う。「何かの間違いでは無いですか?」

軍服姿の男性は眼鏡をクイッと上げて「斗南華って女性を知らないか。そいつが魔法界への内通者だ」と言った。

菅原涼太は「華はそんな悪い人ではありません!!!昨日は酔っ払っていた僕を家まで送って介抱してくれました!!」と言う。

軍服姿の男性は「その記憶は本当にあるのか」と言って軍服の内ポケットから写真を取りだした。

そこには後ろで何も出来ずに固まっている自分、菅原涼太と銃弾を結界で受け止める斗南華が写っていた。


菅原涼太は徐々に記憶を取り戻していく。

菅原涼太は言う。「華は自分が襲われそうになったから、僕たちを含め自分を守っただけだ」

後ろから斗南華は歩いてきて。

「涼太…。もう良いよ…。バレてしまった以上はこれ以上ここには居られない…。今までありがとうね…」と言った。

菅原涼太は「そんな…」それ以上、言葉が出なかった。

斗南華は「ありがとうね…。涼太。また来世で会おうね」と言い菅原涼太の頬にキスをした。

また、来世で会おうとは、魔法界からやってきたスパイが一般界の良くしてくれた人たちに言う言葉だった。

菅原涼太は「僕はあきらめないから!!!君の無実を証明するまで!!」と言う。

斗南華はそのまま軍服姿の男性達に連れて行かれた。



斗南華はすぐに取調室へと連れて行かれ、尋問が行われた。

秘密警察の男性は言う。「この前の軍事パレードの写真を魔法界に送ったな」

斗南華は「えぇ。一応は頼まれましたので…」

秘密警察の男性は「あっさり認めるのだな…」と驚いた様子だった。

斗南華は「私は確かに魔法界から来て、スパイを任されました。しかし、魔法界のしきたりが嫌で逃げてきたも同然だったのです…。そして、研究所を自分の意思で辞めてから、何も知らない菅原涼太に誘われて入ったのが今の会社です」と洗いざらい話すことにした。

秘密警察の男性は「どうして、あそこで魔法を使ったのだ。それさえしなければ、このような大事にはならずに済んだはずだ」と言って魔法を使った経緯を聞き出そうとした。

斗南華は「丸腰では銃を持った相手とは戦えない。私は菅原涼太を守るため仕方なく使う判断をした」と言う。

秘密警察の男性は「あの男性がそんなに魅力的か?」と言う。

斗南華は「涼太は、しきたりの厳しい魔法界へ帰らないといけないところをギリギリで救ってくれた。いわば私の恩人です。今回もあのように私が悪いのに。全力で守ってくれました」と答えた。

秘密警察の男性は言う。「取引と約束をしよう。今後は魔法界への情報提供を行うフリをして、魔法界から情報を聞き出して欲しい。今後は逆スパイとして働いてくれるなら、今回は正直に話してくれたから、解放して今までのような生活を送ることを認めよう」

斗南華は言う。「それは許されるのですか…」

秘密警察の男性は「私がそれを約束しよう」と言った。

斗南華は「私はその言葉を信じます」と言った。


4.提案されて二重スパイになる斗南華。


斗南華はその日のうちに解放された。

建物の前には菅原涼太が居た。

菅原涼太は「華!!!生きてて良かった…。このまま二度と会えないかと思った…」と言って涙を流した。

斗南華は「一緒に帰ろっか…」と言う。

菅原涼太は「でも、終電はもう出ちゃったよ?」

斗南華は竹箒を出して「コレに乗って」と言う。

菅原涼太は半信半疑でそれに乗る。

斗南華は「行くよ」と言って、空を飛んだ。

そして、菅原涼太を家の前で下ろすと「ここからは近いし歩いて行くよ」と斗南華は言う。

菅原涼太は「この前のこともあったし、夜道の一人歩きは危ないから、僕がついて行くよ」と言って斗南華の家の前まで行った。

斗南華が家に無事入るのを確認してから、菅原涼太は家の方角へと歩みを進めた。


斗南華は日記を開いた。

一般界に素性がバレてしまった。

だけど、私は散々魔法界に嫌な思いをさせられた。

だから、今度こそは魔法界に復讐してやる。


そう書き記してから斗南華は布団に入って寝た。


斗南華は打ち込みの仕事にも慣れてきた頃だった。

斗南華は巧妙な嘘情報といくつかの真実を混ぜて、魔法界へと伝える。

そして、文化振興のためと偽って魔法界の最高機密などを持ち出しては一般界の上層部へと伝えた。

十握遥は魔法界へと帰っていたので、新人の志摩玲司が斗南華との連絡役になっていたので、簡単に騙すことが出来た。


斗南華は日記に


毎日が充実している。

魔法界もまさか私が二重スパイだなんて思っても居ないだろう。

バレても魔法界にはもう未練はない。


そう書き記して、斗南華は布団に入った。


朝、斗南華は起きて仕事へと向かう。

途中地下鉄で一緒になった菅原涼太に「おはよう!」と挨拶をする。

菅原涼太はイヤホンを外して「おはよう!」と答えた。

そして、隣の席が空くと斗南華は菅原涼太のとなり座った。

斗南華は何故か心臓がバクバクしていた。

降車する駅に着き、二人はどちらからでもなく列車を降りて二人は改札を出る。

地上へ向けて階段を上った。


仕事の時も何故か、菅原涼太が気になって仕方がなかった。

仕事を終えてぼちぼちと帰り始める時間になった。

菅原涼太は忙しそうに立ち上がる「お疲れさまででした、お先に失礼します」と言う。

斗南華はそれに続いて、「お疲れさまでした。お先に失礼します」と言い菅原涼太を追いかけた。

菅原涼太はいつもと違う地下鉄路線に乗って、家とは違う方面へと行く。

やがて地下鉄は地上へと上がりその列車の終点だった。

その後、別の列車へと乗り換える菅原涼太。

斗南華もそれに続く。

大きいけど、寂れた駅へと到着した。

そこで菅原涼太が降りたので慌てて斗南華も降りるが菅原涼太に気づかれた。

菅原涼太は「華さん!?こんな所で何をしてんですか!?」と言う。

斗南華は「涼太さんこそ、こんな田舎までなんのために…」と言う。

菅原涼太は「僕の幼馴染みがね…。結婚するらしいから最後に会いたいって連絡が来たから、だから田舎まで帰ろうとしただけだよ」と何処か、もの悲しげな表情をしながら語った。

端っこの小さいプラットホームにその駅には似つかわしくない大きな気動車が入ってきた。

時間的に終列車だろう

バレてしまった以上は一緒の列車に乗って行く斗南華。

斗南華は「私ね。魔法界でも名家の出身だったの。だから親がしきたりとか礼儀だとかうるさくてね…。言い回し一つ取っても、そんなんじゃ王族と結婚する身なのにとかうるさくて…」

菅原涼太は聞きに徹していた。

「だから、私が一般界へ行くことを。強く反対していたのよね…。だけど、私の生き方は私が決める!!!って出て行ってからそれっきり疎遠なのよね…」

菅原涼太は「僕だって、本当は田舎の農家を継ぐはずだったけど…嫌になって首都まで飛び出して今の自分があるから…。華と同じだよ。だから、あの時に華を放っておけなかったのかも…」

二人は菅原涼太の実家最寄りである、列車の終点についた。

この駅で降りる乗客は菅原涼太と斗南華の二人だけだった。


菅原涼太が実家に帰ると両親と妹が出迎えた。

しかし、斗南華の姿を見て驚く。

妹は「にーちゃんが彼女を連れてきたー」と言った。



夜も遅いのでとりあえず、斗南華も泊まることになった。

斗南華は日記に

涼太には幼馴染みがいたらしい。

もし、涼太が幼馴染みを選んだら…。

そう思うと、胸が締め付けられる。


そう書いて、そのまま眠りについた。


次の日。


菅原涼太は一人で幼馴染みに会いに行った。


書き置きを残して。


斗南華は書き置き見て慌てて、土地勘のない田舎で菅原涼太を捜そうとする。

菅原涼太の母親は言う。「そのうちきっと帰ってくるわよ」

だけど、ざわつく心が。

そわそわが押さえられなかった。

斗南華は飛び出して捜しに行ってしまう。


公園の東屋で親しく話す、男女を見つけた。

しかし、それは菅原涼太と幼馴染みでは無かった。

斗南華は昨日の夜から何も食べてなかった。

斗南華はフラフラになっていた。

意識が遠のいていく。

斗南華は道ばたで倒れた。


斗南華は目を覚ます。


見知らぬ坊主の男性がいた。

「私が助けていなければ、危うく轢かれていたでしょう…」とその男性は言った。

斗南華は「ここは宗教施設ですか…?」と言う。

その男性は「そうですね。一応、宗教施設という感じですかね」と答えた。

斗南華は驚いた。

一般界にも宗教施設があるということに。


菅原涼太は斗南華を捜して、お寺にたどり着いた。

お堂で座っている斗南華を見て。

「心配したんだから…。本当に無理しあがって…」と菅原涼太は言う。

菅原涼太は住職の東さんに頭を下げて、とりあえず斗南華を車に乗せて連れ帰ることにした。

斗南華は言う。「ごめんなさい…私…。嫉妬しちゃって…」

菅原涼太は「誰だって嫉妬はあるけど無理はしないで…」と言った。

菅原涼太は言う。「あと、昨日から何も食べてないでしょ?だから、どっか食べるところに寄っていくから」

斗南華はその心遣いをとてもありがたく感じた。


料理が運ばれてくる前に斗南華は言う。「そういえば幼馴染みとは何を話したの?」

菅原涼太は「本当は相手など居ないから僕と結婚したいって言われたよ」と言う。

斗南華は「で、返事はどうしたの?」と聞く。

菅原涼太は「断ろうと思ったけど、君が土地勘がないのに飛び出したと聞いて…。答えを伝えられなかったよ…もちろん全力で捜したからね…」


料理が運ばれてきた。

ふたりは「いただきます」と同時に言った。


食べ終えてから菅原涼太は「お金は払っておくから先に外に居て」と言う。


斗南華は外で待っていた。


程なくして菅原涼太は来た。

菅原涼太は車に乗ってエンジンを掛ける。

菅原涼太は斗南華に乗るように促した。

斗南華が乗ってシートベルトをしたのを確認してから車を走らせた。


斗南華は再び、戻ってきた菅原涼太の実家に泊めて貰う事になった。


斗南華は日記を開いて、


今日は菅原涼太やその両親に心配や迷惑を掛けてしまった。

本当に嫌だ。

自分の勝手な勘違いで…。


そう書き記して、布団に入り眠りについた。


次の朝。

菅原涼太に起こされて、斗南華は目を覚ます。

そして菅原涼太は言う。「幼馴染みに答えを出さないままだったから、答えを伝えてくる」

斗南華は寝ぼけたまま「やんわり伝えるんだよ…」と言った。

菅原涼太は「分かった」と言って玄関を出て行った。


幼馴染みの東花海は菅原涼太の家の門の前で待っていた。

菅原涼太は「ごめんね…。君の事が別に不満な訳ではないんだ…」と言った。

東花海は言う。「不満じゃないのなら、結婚しましょ?」

菅原涼太は「君とは知りすぎてしまったから…」と言った。

幼馴染みの東花海は「それはどういうこと…。結局は私に不満があるって事じゃない…涼太の好みなら何でも知って居るのに…」と泣きながら訴えてきた。

菅原涼太は「ごめん…。それでも…」と言いよどんだ。

東花海は「分かった…。その言い方はきっと他に好きな人が居るんだよね…。でも、私。絶対に涼太たちより幸せになって見返すから…」と言って泣きながら去って行った。

本当にコレで良かったのかは、菅原涼太には分からなかった。

でも、東花海に嘘をついて斗南華を裏切ってまでも幸せになるくらいなら、ありのままで幸せになった方が良いと思ったのだった。


斗南華と菅原涼太は仕事があるので首都に帰る為に列車に乗る。

菅原涼太は「この車両に乗るのもコレが最後かもな…」と言った。

プラットホームには菅原涼太の父親と母親、妹が居た。

遅れて、東花海も来た。

東花海はまだうつむいていた。

列車の発車時間になる。

斗南華は列車の窓を開けて手を振り「涼太を絶対幸せにしてみせるから」と言った。

列車は轟音を立てて速度を上げていった。

この車両は行きに乗った車両とは違い。

4人掛けのシートがいくつも並んでいた。

風光明媚な場所で特急列車を待つために、列車が長時間停車するというときだった。

菅原涼太は真剣な眼差しで言う。「話があるんだ」

斗南華は「なに?」とよく分からない様子だった。

菅原涼太は鞄から指輪を取りだして「僕と結婚して下さい」と言った。

斗南華は答える。「もちろんよ」

車内には二人しか居なかった。


列車は発車して乗り換えの駅へと向かう。


斗南華は菅原涼太の腕の中で指輪を付けたまま寝てしまった。


列車は運用上の終点に到着した。

菅原涼太は斗南華を起こして、降りたホームの反対側の首都方面の電車に一緒に乗った。


今回は快速に乗ったのであっという間に地下鉄の乗り換え駅へと着いた。


地上を走る地下鉄に乗り換えて、しばらくすると地下に入った。

車両は地下に入ってから、斗南華は言う。

「涼太の地元の駅でこの車両に乗るのも、もう最後かもしれないな…。って言っていたけど、あれどういう意味?」

菅原涼太は「帰り乗ったあの汽車?気動車?なんて言えば通じるか分からないけど、製造から時間が経っているから引退して廃車になるらしくて…。子供の頃によく乗った思い出の車両なんだけど…」と言う。

斗南華は「そうなんだ…」

菅原涼太は「次に帰ったときはたぶん全部新しいのに置き換わって、もっと快適な路線になっているんだろうな…」と言った。

その言葉とは裏腹に菅原涼太は悲しそうな目をしていた。

斗南華はそれを感じ取っていた。


とりあえず、斗南華は菅原涼太のアパートで同棲する事になった。

斗南華は一旦自分のアパートへ荷物をまとめるために帰る。


5.結ばれる二人と不穏な気配。


ある日のことだった。

斗南華は魔法界の魔法通信を傍受した。

その放送によると、魔法界の機密を漏らしたとして志摩玲司が担当を外されたという内容だった。

新しい諜報担当は世栄(よさかえ)玲奈で十握遥の娘だという話だった。

世栄姓なのは、父親について行ったからとの情報も入った。

斗南華は魔法界から持ってきた古い魔法界の家系図索引で世栄を探した。

直系では無いモノの案の定、王家の血筋だった。

斗南華は「魔法界も本気で私を疑っているわね…」と呟いた。


斗南華は日記に

「私は一般界のために尽くす。この命が続く限り」

そう書き記した。


斗南華は菅原涼太の部屋に引っ越してから、主婦として生きることにした。


菅原涼太が帰ってきて言う。「そういえば、まだ正式な婚姻届を出してなかったし、一緒に行こうか?」

斗南華は「えぇ…」と答えて身支度をした。

市役所に婚姻届を出して、晴れて結ばれた二人となった。

菅原涼太は言う。「結婚式の日取りどうする?」

斗南華は「菅原涼太にまかせるよ?」と言う。

菅原涼太は「華の両親とか呼ばなくてもいいの?」

斗南華は「私の両親は一般界への偏見がひどいから呼ばないわ」と言った。

菅原涼太は「華がそれでいいなら、それでいいけど…」と言った。


菅原涼太と斗南華は首都で結婚式をする決断をした。

しかし、菅原涼太と斗南華は結婚はしているが別姓を名乗ることを決断した。


結婚式には色々な人が参加した。


斗南華は結婚することを魔法界には言わなかった。

なので、魔法界からは誰も参加しなかった。


東花海にも招待状を送ったらしいが、案の定というかやっぱり東花海は来なかった。

斗南華は気がつく。

招いては居ないはずの人が一人居て、その上でその一人は魔法が使える人材だということに。

雰囲気を壊さないために斗南華は敢えては口には出さなかった。

しかし、その女性は近づいてきて言う。「おめでとう、斗南華さん」

斗南華は「ありがとう…、ところであなたは誰?」と言う。

「僕はね?世栄玲奈って言います。以後お見知りおきを」

そう言うと、世栄玲奈はその場を立ち去った。


世栄玲奈は「王族の血を受けた僕の約束を反故にするなんて、斗南華は反逆罪にも等しい」と会場の裏でコオロギをぐしゃぐしゃになるまで踏みつけた。



二次会や三次会も終わり。

菅原涼太は疲れ切った様子だった。

斗南華は言う。「疲れているときに悪いけど、私は一般界で生きていくつもりだけど…。もしかしたら、魔法界から干渉が入るかもしれないわ…。だから、涼太さんも日々の生活を気をつけて…。」

菅原涼太は「分かった…。ありがとう気をつける」と言った。


家に着くと、斗南華は菅原涼太に回復魔法を掛けて、そのまま寝かし付けた。

斗南華は日記を開いて、ペンを走らせた。


世栄玲奈が遂に接触してきた。

十握遥に似ていてなんか苦手だ。

私が好きになれないタイプの人間だ…。


斗南華は日記を閉じた。

そしてペンのキャップを閉めて溜め息を吐いた。


斗南華はそのまま布団に入って目を閉じた。


次の朝だった。

菅原涼太の方が起きるのが早かった。

珍しいことだった。


斗南華は目をこすりながら、階段を降りる。

菅原涼太は言う。「おはよ、華」

斗南華は「涼太、おはよ…」と答える。

菅原涼太は「華が僕より、遅く起きるのは珍しいね」と言った。

斗南華は「あぁ、昨日は色々あって疲れてたので…」と答えた。

菅原涼太が慣れないなりに作ってくれたのだろう。

見た目は悪いが朝食が用意されていた。


二人は朝食を食べてから、街へと出て電車に乗って風光明媚な場所へと写真を撮りに行く。


斗南華は古いカメラを使って写真を撮った。

菅原涼太は「このカメラが好きなんだね…」と言った。

そして、写真を撮る斗南華を自分のデジタルカメラで1枚撮る菅原涼太だった。

斗南華は言う。「撮ったでしょ~」

菅原涼太は笑顔で「もちろん撮ったよ、君が可愛いからね?」と言った。


近くのご飯屋さんで二人はお昼を食べて、帰りの電車に乗った。


斗南華は「たまにはこういう日も良いよね」と言う。

菅原涼太は「いいでしょ?今度は他の良い場所に連れて行ってあげるから」と言った。


斗南華は日記を開いて、


菅原涼太が良い場所へと連れて行ってくれた。

とても景色が良かった。

写真を沢山撮ってしまった。

フイルムを2本も使ってしまった…。

なので現像代が心配である。


日記を閉じて、斗南華は布団に入った。


斗南華は早起きして、菅原涼太の為に朝食を作った。


しばらくすると、菅原涼太は降りてきて言う。「おはよ…華…」

斗南華は「涼太、おはよ。今日は私が作ったよ」と言った。

菅原涼太は目を輝かせて「おいしいそうだ」と言った。

菅原涼太は「いただきます」と言って一気にかき込む。

菅原涼太は食べ終わってから、「やっぱり華の作ったご飯はおいしいな」と言う。

斗南華は「ありがとう…」と言い菅原涼太の頬にキスをした。

そして、「早く出ないと遅刻するよ?行ってらっしゃい」と斗南華は言う。

菅原涼太は「ありがとう、行ってきます」と言って家を出た。


斗南華は昼に世栄玲奈に呼び出されていたので、昼まで家の掃除などをした。


昼に家を出る時、斗南華は施錠をしっかりしてから、待ち合わせの喫茶店、楓へと向かった。


世栄玲奈は既に待っていた。

世栄玲奈は「今日は時間通りだね?」と言う。

斗南華は「それでなんの用?」と言う。

世栄玲奈は「魔法界の王様がキミに勲章を授与したいから、僕と一緒に魔法界へと一時帰国しないか?って話があってね…。キミならどう思う?」と言う。

斗南華は「私は魔法界には、何があっても帰らないわ。疲れるから…」と言った。

世栄玲奈は言う。「配慮は最大限にするよ?」

斗南華は「私はこっちでの生活があるし…。勲章を貰うよりもこっちで平穏に暮らしたいわ…」と言って席を立つ。

世栄玲奈は言う。「まだ、話が終わってないんだけど!?」

斗南華はそれを無視して、二人分の飲み物代を払って喫茶店の楓を後にした。


そして、斗南華は尾行されないようにすごく遠回りで家へと帰った。


世栄玲奈は喫茶楓を後にして、道にあった空き缶を勢いよく蹴っ飛ばしてコンクリートの壁を破壊した。

破壊した壁の上に座って、世栄玲奈はタバコに火を付ける。

タバコの煙を吸い込んで気を落ち着かせる。

そして本音を漏らすように言う。「なんで、僕がこんな仕事をしなきゃならないのよ…。あー割に合わない…本当は今頃、王位継承レースに出ていたはずなのに…」


菅原涼太が家に帰ってきた。

斗南華は「お帰りなさい」と言って出迎えた。

菅原涼太は「ただいま」と答えた。


斗南華は菅原涼太に言う。

「この前に私たちの結婚式に来ていた、魔法界の人間。あんな粗暴な性格であんな言葉遣いじゃ王位継承レースから外されるのも納得だわ…。こっちに諜報員として出すっていうのも、なかなかの荒治療だけど…」

菅原涼太は「この前の人に会ったんだ…。というかあの人、諜報員だったんだ…」と驚いた様子だった。

菅原涼太は言う。「あの人、感情の起伏が激しそうだよね…。結婚式の日。あの話しかけられた後トイレから帰るときに会場の裏で小言を言いながらコオロギを何度も踏みつけてるシーンを見てしまって…」

斗南華は「トラウマだったよね…。癒やしてあげるよ…」と言って菅原涼太を抱きしめた。



斗南華は寝る前に日記を付ける。


あの粗暴な性格に3回の特権。

厄介すぎる人間を送ってきた魔法界(苦笑)

どうにも私を巻き込まずに自爆してくれれば良いけど…。


その頃、魔法界では現国王が死去して、残されたモノによる王位継承レース。

すなわち、骨肉の争いが始まろうしていた。


魔法界では魔法界の発展に影響を与えたとして、世栄家が王位の継承を主張。

現王家である図南家はそれを拒否。

図南家が拒否した事に賛同する図南系列の斗南家。

国王が不在のまま1週間が過ぎようとしていた。

この異常事態は一般界の方にも伝わってきた。


華の生家の斗南家からは斗南家の出世レースに加勢するようにと、斗南華に「帰国しないか?」と甘い話を持ちかける親戚も居たが、一般界の生活に満足していた斗南華はこれを拒否。

予期せぬ出世の話に世栄玲奈は諜報なんぞすっぽかして帰国して、世栄家の王位継承レースに加勢する世栄玲奈。


しかし、世栄家は自身の汚職問題で次第に王位継承レースから外れて図南家か斗南家へと世論は動いていった。

そして、死んだ国王の遺書が見つかり次の王家は斗南家となった。

遺書が見つかるという予期せぬ事から、王家になった斗南家。


そして、一般界に帰化しているとはいえ魔法界の現王家の血筋の直系の斗南華は、否応でも魔法界との繋がりを疑われる。

菅原涼太は「気にしない」とも言ったし、今まで通りに接してくれたが…。

一般界の一般住民はそうはいかなかった…。


世栄玲奈は失意のまま、一般界へと足を踏み入れた。

国と為と思ってしたことが、汚職として全部裏目に出たのだ。

世栄玲奈はため息を吐いた。

世栄玲奈は一般界での行きつけの煙草屋へ行った。

店主は「久しぶりだな…」と言う。

世栄玲奈は「色々あって、なかなか来られなくて…いつものください」と言った。

店主は「顔が暗いけど、何かあった?」と言うが世栄玲奈は答えずにお金を払い、いつもの煙草を受け取って、そのまま店を後にした。


6.没落貴族と斗南華。


斗南華は世栄玲奈に呼ばれた。

最初、斗南華はすっぽかす予定だったが…。

夫である菅原涼太に説得されて行くことにした。


世栄玲奈は喫茶店の櫟で待っていた。

世栄玲奈は言う。「僕がキミを呼び出した理由。分かる?」

斗南華は見当がつかなかったので「私にはさっぱり…」と答える。

世栄玲奈は言う。「王家の直系がここにいるのはまずいんじゃない?」

斗南華は「私はここで帰化してるわ。直系なんて関係ない」とイラだち気味に言う。

世栄玲奈は「僕は出世レースでキミの家系に負けた…だから、またこうしてキミの監視役になっている訳だけど…」と言う。

斗南華は「それはそれは残念でしたね?まぁ、あいにく私も斗南姓を名乗っては居るが、あっちの家族とは疎遠なので…」と答えた。

世栄玲奈は言う。「国に帰れば、キミはきっと直系として王位継承が出来るはずだよ」

斗南華は「運が良ければでしょ?そんな賭けのような話には乗りたくないわ」と言って席を立った。

世栄玲奈は言う。

「あんたの父親は今、魔法界で国王なんだぞ…」

斗南華は「そういうことは魔法を使って直接脳内に語りかけないと、いつかきっと痛い目を見るわよ」と言ってそのまま立ち去った。



その頃、魔法界では斗南家と図南家は長らく王家に仕えていて王家とほぼ同じ立場まで上り詰めた世栄家の排除を進めていた。

没落して財産はどんどん減っていき、そこに目を付けたのが勲章を沢山持っている魔法界の軍人だった。

王家と血縁関係になるならこの機会を逃すまいとして、何人もの軍人の男性が世栄家の女性に群がった。

軍部の政治介入を嫌った斗南家は世栄家の排除をより強めようとするが、今まで世栄家に稼がして貰っていた国民や過去の世栄家を知っている国民からかなりの反発を招き、斗南家は共存政策へと舵を切った。

この影響で魔法界の政治は王家以外にも軍部の息がかかるようになり、この頃から一般界への強硬な発言や政策が目立つようになってきた。


軍とがっちり繋がった世栄家はクーデターを画策する。

だが、魔法界の軍内部にも斗南家や図南家に忠誠を誓う上級将校も多かった。

世栄家は命運を掛けてクーデターを実施する。

しかし、その動きを察知していた斗南家と図南家は親南派の将校から、世栄家の動向を聞き出していたので、クーデターは未遂に終わった。


さらにこの一件で世栄家は王宮追放をされた上に、多くの人物が投獄されて魔法界の歴史の教科書から「今まで王家に尽くした世栄家」の表記が消えて、その代わりに「王家に寄生して強大な力を持ち誤った判断をして王家を存続の危機に陥れた賊軍」として、教科書に載ることになった。


世栄玲奈も、このクーデターの内訳を魔法通信で聞いていた。


これを機に世栄玲奈は一般界へと亡命申請をした。

その際に諜報員だったことも明かした。


一般界は一旦は取り調べなどのために世栄玲奈を収監した。


その時だった、魔法界から圧力が掛かった。


世栄の人間の処遇は一般界に口出されるモノでは無いと。

その上で収監して取り調べをするくらいなら、こちらに身柄を引き渡して欲しいとも、連絡が来た。


しかし、亡命の申請をされた以上は世栄玲奈を魔法界へと引き渡すわけには行かなかった。

その事の重大さや、魔法界の内情をよく知っている秘密警察の幹部の働きかけもあって、世栄玲奈は魔法界に引き渡す訳にはいかないっていう事になった。


斗南華は斗南姓だけど、今の絶対王政には反対の立場を表明して魔法界向けの一般界のプロパガンダを流すラジオの原稿を作る仕事をしていた。

その流れもあって魔法界出身者ながら世栄玲奈と会うことが許された。


世栄玲奈は疲れ切った表情でこう言った。「まさか、僕がこんな事になるなんて思わなかったよ…」

斗南華は「家が潰れるなんて、災難だったわね…」

斗南華は続けて「かつてあなたが私を連れ戻そうとした魔法界がどんなところか分かったでしょ…」と言った。

世栄玲奈は「あぁ…、今になって思うよ…。僕はバカだった」と言った。

斗南華は「えぇ、本当に魔法界はとんでもないところなのよ…」

世栄玲奈は「こうなってしまった以上は、もう僕はどうなってもいいよ…」と投げやりなこと言った。

斗南華は「希望を捨てたら、そこで終わりだわ。だから諦めずに待っていて。私も尽力するから」と言う。

世栄玲奈は「あぁ、期待しないで待っておくよ」と言った。

斗南華はせっかく人が協力すると言っているのになんなのよ、あの態度と思ったが敢えては言わなかった。


斗南華の尽力もあり、世栄玲奈はやっと外に出ることが許された。


二人は握手を交わして、そのまま街の方へと歩いて行った。

世栄玲奈は言う。「まさか、本当に出してくれるとは思わなかったよ…」

斗南華は「私も、一回だけバレて入れられた事があるのよね?」と言う。

斗南華は続けて「でも、私は既にその時から魔法界に嫌気が差していたのよ…。だから、洗いざらい話をしたら、すぐ解放されて今の旦那さんと結婚して、それなりに毎日が幸せよ」と言った。

世栄玲奈も生い立ちを話すことにした。「僕は魔法界に居るときは、ずっと男の教育を受けてきたんだ…。世栄家が男性にあまり恵まれなかったのは知っていると思うけど…、それで僕は女の子だったんだけど…。ずっと男として生きるように言われたんだ…。だけど、その反動でイライラもした…。そしたら、いつの間にか怒りをコントロール出来ない自分になっていた…。だから、一般界のコオロギを踏み潰したり、空き缶に魔力を込めて蹴っ飛ばしたりして、一般界の塀を壊したりしてしまったけど…。今になって反省している…。今さら遅いけど…。僕はいつもそうなんだ…」

斗南華は背伸びして、不意に世栄玲奈の頭を撫でた。

「辛かったね…」と言って。

世栄玲奈は「これから、華さんの事を頼ってもいいですか?」と言う。

斗南華は「いつでも頼っていいよ」と言った。


7.エピローグ


斗南華は家に帰ってきた。

菅原涼太「おかえり、こっち手伝って」と言った。

斗南華は「ごめんごめん…。ちょっと、お仕事以外の人助けをしていたら遅くなっちゃった」と言った。

斗南華は赤ん坊のおしめを替えた。

菅原涼太は「この子も誰か人のことを助けて、一躍有名になって欲しいな?」と言う。

斗南華は「そんな、この子が望んでるかは別でしょ?」と言った。

菅原涼太は言う。「うれしそうだけど、なんかいいことあったの?」

斗南華は「世栄玲奈が私のことを頼ってくれるって」と言う。

菅原涼太は「えぇ、あの世栄玲奈が…」と困惑した様子だった。

斗南華は「あの子だって色々あって改心したのよ?だから、そろそろ涼太も玲奈のことを受け入れる時じゃ無い?」と言った。

斗南華は続けて「口調や表情はぶっきらぼうだけど、玲奈はいい子よ?」と言う。

菅原涼太は言う。「それは分かるけど…」

斗南華は「だから、そろそろ私と玲奈が話していても受けて入れてね?」と言った。

その時、やかんの笛が鳴りお湯が沸いたの知らせた。

斗南華は哺乳瓶にお湯を入れて粉ミルクを溶かした。

そして、人肌に温度を下げてから赤ん坊にミルクを与えた。

斗南華は赤ん坊に対して言う。「いい子ですね~。いつかは涼太や私みたいに困った子を助けるヒーローになって欲しいな…」

その赤ん坊の名前は菅原涼華(りょうか)

後に一般界最年少で女性大統領になる人物だった。

このことをまだこの二人は知らない。

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