表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/38

デートという試み

 羽風(はかぜ)とロジーは大型モールへと足を運んでいた。

 日曜日というのがあってか、家族連れや友たち同士で楽しむ学生たちなど、多くの人で溢れている。


「ロジーとこうやってお出かけするのは初めてだなぁ」


 家にいるときのラフな格好とは違い、オシャレな服装で身を包んだ羽風はうれしそうに笑う。

 ロジーも、羽風指定の外出仕様のワンピースを着ていた。もちろん、胸元のLEDライトが見えないようになっている。


「そうですね。博士とお出かけは初めてです。博士とは家の中でしか過ごしませんから」


 ロジーは当たり障りのない相槌を打つ。


「ああ。基本わたしはインドア派だからな。だが、たまには二人でこうやってデートするのも悪くないだろう」


 ロジーはその言葉を聞いて首を傾げた。


「デートですか?」

「うん。そう、デートだよ」


 羽風は、なんの衒いもなくそう微笑みかけた。


「デートとは親密な男女が愛情を確かめ合う、または深めるためにするものではないのですか?」


 ロジーの中では、『デート』の意味はそう定義されている。羽風が今の状況を『デート』と呼ぶには、少々違和感があった。


「そんなことないさ。好きな人とお出かけでききりゃ、それはデートさ。それにね、わたしはロジーと愛情を深めていきたいとも思ってるよ」


 羽風のストレートな物言いに、ロジーは特に照れることもなく、「そうですか」と淡白に返した。羽風は少しもどかしい気持ちになる。


「あ、そうそう。今日はこれを渡そうとも思っていてね」


 羽風はそう言うと、ロジーに一台のスマホを渡した。


「博士、これは……?」

()()()だよ。連絡先はわたしとエリカの分が入ってる」


 ロジーは連絡帳を確認する――確かに、二人分の連絡先が入っていた。


「しかし博士。なぜこのようなものを?」


 ロジーはただ疑問に思った。

 ロジーには通信機能もついていて、こんなものがなくても、直接羽風のスマートフォンのチャットに連絡を入れることもできる――ロジー自身にはすでに、スマートフォンとしての機能以上のものを兼ね備えているのだ。


「エリカが、お前と連絡先を交換したいと申し出てな」


 羽風はクスリと笑った。


「ロジー自身はスマホ以上の物だが……それをエリカに話すわけにはいかないだろう? だから、人間である設定を守るためにも、ロジーにもスマホを持たせようと思ってな。気に入ってくれたかい?」


 ロジーはスマホを見つめる。


「ええ。ですが、こんな高価なもの……」


 スマホだって安くない。

 それに、月々お金がかかる。

 アンドロイドであるロジーにも、それが大変なことは理解できる。


 羽風はまったく気にすることなく、大きく笑った。


「おいおい。わたしは天才科学者であり、発明家だぞ。お金の心配などいらない」

「ですが……」


 羽風はロジーの言葉を遮るように、ロジーの肩を抱き引き寄せると、ズボンのポケットから自分のスマホを取り出し、すかさずパシャリ、と写真を撮った。


 スマートフォンの画面には、楽しそうな笑顔の羽風と、無表情のロジーが写っていた。


「……博士?」

「写真の使い方はわかるか? 今みたいにやるんだ」


 ロジーは、もうこれは素直に受け取るほかないと思った。


「……使用方法はひと通り理解しています。ありがとうございます、博士。大切にします」


 羽風は満足そうに笑った。「家に着いたら、エリカにもメッセージ入れてやれよ」と、ロジーの頭をぽんぽんと優しく撫でた。


 それから、「んじゃ、デートらしく最初は映画でも観るかなー」と言いながら、また歩き出す。


「…………」


 ロジーはそっと自分の頭に触れた。

 撫でられた感触が、まだほんのり残っている。


「ロジーは何か観たいのはあるか……って何してるんだ?」


 羽風が振り向けば、ロジーはボーッと頭を抱えている。

 ロジーはすぐに手を下ろして、首を横に振った。


「なんでもありません。わたしは特に観たいと思うものがありませんので、博士に従います。もしくは、現在上映中で博士の好むものをピックアップいたしますので、その際はお声がけください」


 羽風は「ロジーが観たいものが聞きたかったのに〜」と唇を尖らせた。しかしすぐに明るい顔に戻り、羽風はロジーの手を取る。


 羽風の右手と、ロジーの左手が絡み合う。


「……博士?」

「デートだからね、手を繋いでいこう」


 羽風のその笑顔に、ロジーは釘付けになった。


「……はい。かしこまりました」


 ロジーもそっと手を握り返す。握る指先から、羽風の熱が伝わってきた。


 ――普段は命令に従うことに、何も感じないのに。


 映画館に向かいながら、ロジーは羽風の横顔をちらりと見た。


 ――今日は、胸の奥のほうが、なんだか熱い。


 ロジーは、自身にセルフチェックをかける。異常は見つからない。

 だが確かに、胸の奥が熱くて、ドキドキしているような感覚があるのだ。


 ――点検機能自体に不備が……?


 そう思ったロジーは、今晩にでも、羽風に修理を依頼しようと決めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ