葉加瀬羽風の研究レポート①
藍野ロジー。
わたしが好きになった女だ。
まあわたしも女なんだが……今は自由の時代だからね。何を好きになったっていい。
ちなみにわたしは葉加瀬羽風という。超天才科学者であり発明家の美女だ。いわば、葉加瀬博士というわけなのだよ。なんとも滑稽だろう。わたしは嫌いじゃない。
ああそんなことより、藍野ロジーについて記そう。わたしは家のことがまるでできないので、ロジーを家政婦として雇っている。洗い物をしているあの尻を見てみろ。あれは最高傑作だ。
――じゃなくって、違う。わたしはそんなことを記録していくわけではない。もっと重要な、わたしの生涯をかけた記録を残すために行動をはじめたのだ。
ロジーを家政婦として雇って、早一ヶ月。わたしは、はじめの一歩を踏み出すことにした。
「ロジー。君のことが好きだ。君はわたしのことが好きかい?」
「…………」
「……わたしに対して、なんの感情もないか?」
再度質問を変えて問いかけてみた。しかし、ロジーは無表情のまま答えるのだ。
「……そうですね。しかしながら、そもそも感情というのがわかりません。――なぜなら、わたしはアンドロイドですから」
「…………」
「好き、嫌いの感情がプログラミングされていないので、そういった質問に答えることができません。好き、嫌いに関連することといえば、わたしは犬が好きで、カラスが嫌いです。プログラムにそう記されています」
「うん……それはわたしがやったからね……」
やはりダメだった。時期尚早だったかもしれない。
まだまだプログラムに学習させていかないと、自立的に感情を生み出すことは困難なのかもしれない。もしくは永遠に感情は生み出さないのかも…………。
いや、何を弱気になるか。これはわたしが決めた生涯の研究テーマだ。
藍野ロジーに感情を持たせる。
なんとしてでも成功させてみせよう。だってわたしは天才博士なのだから。
そして、感情を持たせた次には――。
わたしは――葉加瀬羽風は、藍野ロジーに好かれたい。