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突然の訪問者

【第二話】突然の訪問者


私ことベル・シャーロット・マーフィーはいつものごとく学校で退屈な授業を受け流した後、小走りで帰宅していた。そして自宅の3XX番号室の前へ着いた今、視界内にある不審な男が映っているのに気が付いた。

黒いサングラスに刈り上げられた髪、着ているスーツは真っ黒で鋭い眼光が更に威圧感を増大させている。

これは...もしかしなくても893なのではないだろうか。しかもこちらをウロウロしているということはこの近辺に用事があるということで間違いない。

一体誰を訪ねるつもりなの?もしかして私?

いや、私は別に893とは関わりがないし取り立てだと仮定しても借金なんて1銭も抱えてないからありえない。もしかしてママ?。いやあのママに限ってそんな失態するはずがないはず…。

そんな私の心配通りにはならずに893の人は私の眼前を通り過ぎていく。

あーよかったー。死ぬかと思ったよー。

そんな私の安堵は束の間。893は隼兄さんの部屋の前で立ち止まったのだ。

え?、まってまってまってまってなんで隼兄さんの部屋の前で止まってるの?

え?隼兄さんもしかしてヤクザの人と関わりあるとか?。いやそんなことはない、よりによってあの隼兄さんがヤクザと手を組むなんてことは絶対にないはず。

ということはやっぱり借金の取り立て?まあ隼兄さん頭はいいけど結構抜けているところあるからもしかしたら悪い大人達にまんまと騙されて借金に法外な利息をつけられて返せなくなっているかもしれない。

え?、どうする?。ここで893の人を呼び止めて隼兄さんを助けるか?。いや、でももし目をつけられたら何されるか分からない。家族に迷惑をかけてしまうかも。どうする私。

助ける?

助けない?

そんな私の葛藤の最中、893の人は

「よし、ここの部屋か」と言わんばかりに携帯で確認を済ませ、人差し指をインターホンのボタンに近づけた。

動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け

どうして動かないの私の体。ねえ!、動いてよ!。

絶望のチャイム音が鳴る。

ああ隼兄さん...今までありがとうね。


...そんな私の絶望を裏切るかのように893の人は陽気な声を張り上げてこう言った。

「おーい!、隼ー!、遊びに来たぞー!!!」

え?



さて、どうしたものか。机との向かい合わせには状況が理解できていない893もどきが一人。そして目の前には顔を真っ赤にしながら大粒の涙を流し抱きついているお嬢様が一名。

「……」

「……」

「……」

「うわ、マジかよお前。こんないたいけな女の子泣かせるとか最低だな」

「第一声がそれかよ」

「私...隼兄さんが...ほんとに怖い借金の取り立てにあってると思って...心配したんだからね...」

「あははは...ごめんね、心配かけちゃって」

「まあ隼も謝ってることだし許してやってくれや」

「お前は黙ってろ」

そしてしばらく沈黙が続いた後,

「で...それで...この人は誰?...」

とベルはまるで親の敵でも睨むかのように893もどきに視線を向けた。

「おいおいそんなに睨まないでくれよ、俺は江戸時代に代々徳川家に仕えてきた由緒正しき武士の家系、明智一族の末柄だぞ」

「お前の先祖普通に農民だしあと苗字違うだろ」

「ベルちゃんには騙せるかもしれないだろ」

「893さんは胡散臭いから信じれない」

「しょぼーん」

「じゃあ僕が代わりに説明してやる。

こいつの名前は柳澤秀星。893みたいな恰好をしているが決して893なんかではない。そして僕と同じ故郷から一緒に上京してきた、数少ない友人の一人だ。」

「どうもー柳澤秀星でーす!」

「うわあ...隼兄さんはこんな人とお友達なの?」

「こんな人とは失礼な...俺は隼とは高校一年生の頃から競争に競争を重ねて己を磨きあったライバル的ポジションだったのだぞ」

「隼兄さんは本当にこの人のライバルだったの?」

「そんな覚えはないな」

「そんなー酷いじゃないか友よ!!。共に競い合ったあの日々を忘れてしまったのか?。徒競走で一人だけスタート位置で転んでしまいビリになってしまった時や、現代文教師に鬼のように詰められた時、センター試験でマークミスによる大失点を犯し、泣きながら帰路を辿ったあの時も...」

「おい馬鹿やめろ」

「えーなんですかそれ?、詳しく聞かせてください!」

さっきまで涙目だったベルが急に活気を取り戻していつもの目に戻る。

「あーもう言わんこっちゃない」

「よーしこの柳澤秀星が隼君との思い出を詳しく聞かせて進ぜよう!」

「あー...もう早く終わらせてくれ」


それは高校一年生の春のことだった。中学内でトップの成績を維持し続け、無事に地元で一番良い高校に受かった俺は高校でも頭角を表してやると意気込んでいた。

そして待ちに待った、入学してから間もない頃に行われる実力試験。この試験の科目は国語、数学、英語の3教科で満点は100。そして、各教科の順位、また総合の順位が明らかとなる。ここで俺は各教科一位の座を独占することによってこの学校でのKINGの座を確実のものとする...はずだった。


「おーい、席に座れ、先週に行った実力試験を返却していくぞ」

「うわーマジかよ」

「どうしよう、俺数学ワンちゃん0点かもしれない」

「大丈夫だって、みんなどうせ低いから」

ふっふっふ。この実力試験、俺は事前にこの試験が到来することを予測し春休みから入念に計画を立てて勉強を遂行してきた。いやあ...毎日6時間も勉強するのは大変だったなあ。しかしそんな苦労も今日全て報われる。各教科最高のパフォーマンスを発揮できた俺に死角などない!!

「はい次!、36番柳澤秀星」

ちなみに先に言っておくとこの実力試験の難易度は鬼畜だ。総合の平均点はおそらく3割もいかないだろうし5割取れたら万々歳、7割を超える者なんて片手で数える程度しかいないだろう。俺も取れて8割弱といったところか。

そうして俺は返却された答案用紙と順位表を眺めていく。

まずは国語。ふむ、83点で学年1位か。もう少し取りたいところではあったがまずは一勝

次に英語。91点か。2位が79点だから余裕を持って学年一位だな。

そして最後に数学。数学は他の科目に比べて本当に難しかった。おそらく大半は一桁台だろうし50点以上を取るなんて神の所業に等しい。


68点。まあ俺は神以上だから50点以上なんて造作もないんだけどな。どうせ数学も学年一位だ…


学年...2位?。どういうことだ?。誰かカンニングでもしたのか?

「あーそういえばさ、如月隼ってやつが数学で96点取ったらしいよ」

「えーマジで?、あの鬼畜テストで満点近く取るとか頭おかしいだろ」

如月隼...如月隼...あそこで本読んでるあいつか

如月隼の席に向かって足を進めていく。

「お前が如月隼だな」

「え?...うん、そうだよ」

「数学で96点を取ったというのは本当なのか」

「え?、あーうん、数学は少し得意でね」

「ちょっともし良かったら答案用紙を見せてくれないか?」

「あっ全然いいよー」

とあっさりと渡された答案用紙をじっくりと見ていく。

模範解答と照らし合わせて見るもカンニングをした形跡は一切見られず、あれだけの難題が白鳥の踊りのごとく綺麗に解かれていた。おまけにわずか4点の失点、これは最後の最後の計算ミスによる減点だ。

「お前...計算ミスさえしてなければ満点取れてるなんてすげえな...」

「ははは、計算ミスはついうっかりやっちゃうんだよね」

「...」


完敗だ。


「俺の名前は柳澤秀星、今回の数学の実力試験においてお前の96点を遥か下をいく68点を取ってしまった。だが如月隼、次は絶対にお前を玉座から引きずり降ろしてやる、楽しみにしてろよ」

「え?...まあ、頑張ってね」

……


それから数週間が過ぎたある日のこと。

「はぁ、次は現代文の授業かあ...あの人の授業は息が詰まるんだよなあ」

うちの現代文の教師は厳しい教師の中でも特に厳しく、授業中の私語や居眠り、内職は厳しく取り締まり、それを守らない生徒や、授業のやる気のない生徒には容赦なく退室命令を出す、いわば鬼教師だ。

今日は授業で取り上げる物語を生徒が読み上げることとなっている。もしも内職やお喋りをしていたり、集中してなくて指定された部分を読み上げることができなかったら容赦なく退室命令を出されてしまうだろう。今日はより一層集中して聞かないとな。


「はい、皆さんこんにちは現代文の授業を始めます。では今回は予告通り今学期扱う物語を皆さんに読み上げさせてもらいます。では冒頭1行目から4行目までを出席番号1番麻生君」

前の授業でほとんどの生徒が、退室命令を出されている現場を目の当たりにしたからだろうか。私語や居眠りはほとんどなく、みんな順調に読み上げていった。


「はい、では次の文章を...如月君」

「あ、はい!、えっと...」

如月の番が回ってきた。数学では驚異的な能力を発揮したが他教科はどうなのだろうか。

「えと...えと...」

如月の口が動かない。尋常じゃなく流れている汗と震えている手先から緊張していることが分かる。

どうした如月?。ここで言わないと退室命令が下されてしまうぞ。

「あっあっあっ…」

「おい如月、早く読み上げろ」

静まり返る教室。如月は緊張と恐怖でまともに唇を動かせていない。

友達のいない如月に張りつめた空気の中救いの手を差し伸べようとする者は誰一人としていなかった。


「お前さっきまで授業聞いてなかっただろ。だからどこを読むのか分からないんだな。

もういい。如月、教室から出ていけ」

退室命令を出された如月の目から涙が溢れる。しばらく沈黙しながら席に座った後、すみませんと小風にかきけされそうな声を絞りだして静かに教室から去ってしまった。


...正直失望した。いくらあの鬼教師が怖いといっても何にも言葉が出ずにガキみたいに涙流して教室を出るのは情けなさすぎる。小学生でも見ているようかだったよ。本当に腹が立つ。


あいつは俺のライバルなんかじゃない。ただ数学だけできるガキに過ぎない。

現代文の事件からそう結論づけた俺は、それ以来如月とは距離をおくようになった。

                   第二話 完


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