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変で愛おしい日常

【第一話】変で愛おしい日常


『放課後、校舎裏に来てください』

そんな手紙を片手に

私は非日常が日常的になる感覚に飽き飽きしながら指定された場所へと向かう。

季節はもうすっかり春であり、心地の良い風が体を透き通っていく感覚を楽しみながら歩く。そしてもう何度目かも分からない覚悟を決め、ついに目的地へと到着した。

目的地にはぽつんと一人佇んだ男の子。確か名前は馬場俊介君だっけ。バスケ部のレギュラーで運動神経も良く、おまけに容姿も優れているから女子からは結構人気があるらしいね。まあ多少運動神経と容姿が優れてるからなんだって話だけど。

その場でしばらく経った後、ようやく相手が口を開いた。

「ベルちゃん!、僕と付き合ってください」

勇気をふり絞って告白の言葉を吐き出したのは素直でうれしい。でもね。

「ごめんなさい」

そう言って私はショックでうずくまる彼を後ろにその場から去って行く。

私の名前はベル・シャーロット・マーフィー。今年の春から近くの市立高校に通い始めた高校一年生だ。

「えーまた告白断ったの?、馬場君結構いい人だったのに」

彼女の名前は文。入学してまもない頃、人見知りな私に声をかけてくれた唯一の友人だ。今は一緒に帰路についている。

「まああんまり会ったことない人だったしね。お付き合いするにはちょっと...ね?」

「えーでも馬場君イケメンだし人望厚いし、絶対幸せにしてくれるって」

「馬場さんが私に告白したのだってどうせ容姿が9割9分9厘でしょ。そんな付き合い長続きはしないって」

「そういうもんなのかあ」

「あーもう困っちゃうよ」

「まあベルちゃんはお目目もぱっちりしていて顔もかわいいしすらっととしていてあと私にはない綺麗な金髪をもっているからね。男の子がベルちゃんを見て一目ぼれしちゃうのもしょうがないよ」

「はは」

両親がアイルランド系の人のためか遺伝で金髪だし、自分でいうのもなんだが容姿は整っているので昔から異性には好かれる。ちなみに私の容姿を褒めた文も綺麗な黒髪に整っている容姿をしているし、何より胸部に私にない大きな膨らみを持っている。正直うらやましい。

「あーなんで...」

「どうしたの?」

「いや...なんでもない」

「そうだ、最近ここに新しいケーキ屋さんできたんだけど、ちょっと寄っていかない?」

「ごめん、私ちょっと用事あるんだ。また休日にでも誘ってよ」

「おっけー」

そうして私は文との帰路の分かれ道にさよならを言い、小走りで家へ向かう。

小走りを続け、マンションの階段を駆け上がり3XX番号室に着くと玄関の鍵を開け、勢いよくあける。

「ただいま!」

誰もいない部屋の中で私の声だけが反響する。今日お母さんは出かけているため家にはいない。

私は背負っていたバッグを自分の部屋へ投げ捨て、割りばしと紙コップを手に取り、家を飛び出す。


家のインターホンが鳴る。

4時少し前を指している時計を見ながら

「そうか、もうそんな時間なんだ」

と独り言を呟き、

「はーい!」

と玄関先の人物にも聞こえるように声を張り上げると

「隼兄さーーーーーーーん!!!」

といつものごとく賑やかなのが玄関を開け、小走りで入ってきた。



玄関を開け、小走りで前に進んでいくと見慣れた景色が広がっていた。大量の参考書が保管されている本棚にアイドルのような衣装を来た女の子の絵が何枚も張られている壁、確かVtuberとか言っていたかな。机の上で乱雑に本が広げられている中、もくもくと読書をしていた隼兄さんはこちらに目を向けて

「いらっしゃい」と笑顔で出迎えてくれた。


「こんにちはー!、お邪魔してます!」

「いつもお邪魔してるような気がするけどね」

「まあまあ気にしないの!、というかまた参考書読んでたの?、そんなことだからボッチで彼女もいないんじゃないの!」

「いいや、これは断じて参考書ではないね」

「え?、まさかついに...」

「これは友人から譲り受けた『ラノベ』なるもので決して参考書のような堅苦しいものではない。人々に妄想という名の娯楽を提供してくれるまさに『リア充』となるためのキーアイテムなのだよ」

まさかの想定外。おにいさんが世間知らずなことは知っていたけど、ここまでとは。

「うわあ、もっと酷いなあ」

「え?」

「だって一人で妄想に入り浸って殻にこもるってまさしく周囲との関係を持てずにしょうがなく一人用の娯楽に勤しむボッチの所業じゃん。参考書の方が役に立つ分前よりもっと酷くなってるよ」

「うわあぐうの音も出ない」

「ざーこざーこ!」

「あーーーーーーーーーーー聞こえないいいいい」

隼兄さんが両手で両耳を塞いじゃった。一人で机の下に隠れ始めて、避難訓練でもしているのかな?。

「あー金髪の嬢ちゃんが僕の事ちょすってきたあああ」

これは私がお兄さんをからかった時に定期的に出る方言だ。ちなみにちょするとはからかうという意味である。

さて、ここからが本番だ。

「お兄さんお兄さん!」

「今度は何?」

「王様ゲームやろ!」

そうして私は持ってきた割りばしと紙コップを前に出す。

「王様ゲームは前にやったじゃないか...」

「それに二人しかいないし」

「いいじゃんいいじゃん!、二人の方が王様になれる回数増えて楽しいよ」

「いーーや!、絶対に嫌!」

「もしかして3歳も年下の女の子の頼み事も聞いてくれないんですかあ?」

「いーやこの際プライドなんか捨ててやるね!

君の望みは叶わない!」

ふむ、流石に無理か。ではこれはどうだろう。

「お兄さん...フランの言うこと...聞いてくれないの」

上目遣いに少し目に涙を含ませてから静かに問いかける。そうするとお兄さんは面白いほど動揺して頭を悩ませるようになった。

「……………」

「やります...」

計 画 通 り


如月隼18歳、幼少期からドジっ子だった僕は周りの支えられながらなんとか生きてこられ、そして今年の2月、多大な努力の結果なんとか第一志望の大学に合格し、東京に上京して今に至る。

突然だが今、人生最大の危機に直面している。

上目遣いプラス涙目という女の卑怯な手段にまんまと引っかかり、このドS金髪お嬢様の王様ゲームに参加することになってしまった。知らない人のために、どれだけこの王様ゲームがやばいか概要を説明すると、まず前回の王様ゲームでは彼女に一日黒いサングラスに特攻服を着て生活するようにと命じられた。そのせいで、その日は2回も職質に会ったし大学内では誰も僕に近寄らずに遠くでひそひそと話されているのを遠目に本当の意味で一人で昼食を食べるはめとなった。今度はどんな命令を下すつもりなのだろうか。どうせインテリヤクザの恰好をして一日過ごせとか、一日執事として仕えろなどの無理難題な命令をするに決まっている。とりあえず今はいかに彼女を刺激しないようにしつつ王様を独占できるかを考えなければ。


「じゃあ早速始めていくよー」

「おー」

『王様だーれだ!』

「えーっと王様は赤い印がついてるから」

よっし!私だ!。まずは幸先よしと。

「命令はー?」

「うーん、そうだなあ、じゃあ冷蔵庫にあるお茶を取ってもらおうか」

「はーい」

重要なのはあくまでどれだけこちらの被害を減らせるか。相手を刺激しないように軽い命令でなくてはならない。

「お茶持ってきたよー」

「ありがとう」

さて、次が肝心だ。運的にはフランに回ってもおかしくないが、今年の運を使い切ってでも王様の立場を死守しなくてはならない。

「じゃあ次やっていこう!」

『王様だーれだ!』

王様は赤い印赤い印赤い……あっ

「やったー次は私が王様だね!」

終わった…

やるならせめて半日にしてくれよ?

「じゃあ、命令は...腕立て伏せ50回ね!」

あえ?意外と軽い...これならいける!

10分後…

「49!...50!」

「お兄さん体力なさすぎでしょー」

「仕方ないだろ...運動は...嫌いなんだ」

「せめて毎日一時間ぐらいは運動しないとだめだよねー」

「そういうベルは運動できるのかよ」

「もっちろん!、もしかしたらわんちゃんお兄さんより力あるかも?」

「小娘よ...大学生の力をなめるなよ」

「じゃあどんどん次やってこー!」

『王様だーれだ!』

「よっし!僕だ」

王様ゲームを始める前に決めた、軽い命令をし続けてヘイトを買わないという作戦はここで中止する。大学生の力を舐めた報復命令といこうではないか

「こほん!、では王様の命令は...腕立て伏せ50回!」

「えーそれさっき私がしたやつじゃん!もしかして隼兄さん私にあんな命令されて怒っちゃっている?」

「怒りやない、これだけははっきりとしてる」

「ふーん、まあ私だったらこれぐらい余裕だけどね」

そういって彼女は床で腕立て伏せの体勢に入ると私とは違い、らくらくと腕立て伏せをこなしていく。

「え?おま...」

「ふうー流石に50回は少し疲れるかな」

「ちょっと待って!、なんでそんなに簡単にできちゃうの?」

「そりゃあ毎日家で筋トレしてるし、腕立て伏せ50回ぐらいどうってことないよ」

これは想定外すぎる。都会の子はみんな家でゲームばっかり遊ぶから元気がないと思っていたがまさかこんな子がいるとは

「で、大学生の力が...なんだって?」

「ぐぬぬぬ覚えてろよ」

「よーしじゃあ次で最後にしようか!」

よっし!、ついにここまでできた。途中いろいろあったがここを乗り切ればこの勝負、僕の勝利だ。

確率はフィフティーフィフティー。お願い神様、今だけは僕の味方でいて。

『王様だーれだ!』

「やったー!王様だー!」

終わった...

「じゃあ命令は...」

ごくり…

「私に肩たたきされること!」

「え?」

「そんなのでいいの?、というかそれだったら僕が王様みたいな感じになっちゃうけど」

「いいのいいの!、ほらじっとしてて!」

予想外な展開に驚きつつもベルに身を預ける。意外と肩を叩く力は強い。あーこれ結構気持ちいな。

「隼兄さんね、最近結構疲れてそうだったよ?

隼兄さんは多分、努力家で毎日たくさん勉強してて頑張っているんだよね。でもたまに頑張りすぎて疲れちゃうの。だからたまには私が癒してあげるよ」

「あっありがとう...」

そうか...ベルはいつも僕のことをからかっているけど本当は優しい子なんだな。

「ふう、どう?、疲れ取れた?」

「ああ、大分取れたよ」

「ふふ、今回は手加減してあげたけど次からは容赦なく行くからね?」

「あー次からは疲れたフリしてようかな」

「もーそんなこと言わない!、まだ大学生なんだから元気でいる!」

「分かった分かった」

それから僕たちはトランプにゲームと何気ない娯楽の時間を共に過ごしていき、6時半になるころにベルは手を振りながら帰っていった。



「あー楽しかった」

と呟き湯舟に浸かっていく。

今日隼兄さんとは王様ゲームにトランプ、あとはシューティングゲームなんかもやったなあ。

今まで遊びを共にする友達がいなかった私にとって、何気ない遊びを一緒にしてくれる隼兄さんは実の兄のようなものだ。照れくさいことだが正直に言うとお兄さんとの日常が生きがいなのかもしれない。

「はは」

20分程経過後、私は湯舟から起き上がり、自室で宿題、復習を済まして時計の短針が11時少し前を指すころに布団を被る。そうしてまた来るであろう明日に小さく微笑み、眠りにつくのだった。

                   第一話 完

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