表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湯けむり聖女、獣人に愛され癒しの温泉グルメ旅〜人間界を追放されたので獣人界を助けることにしました〜  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
最後の闘い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/53

46.憎しみの連鎖を絶とう

 老いた王は血まみれの顔面で叫んだ。


「黙れ!空っぽの聖女の分際で……!」


 しん、と部屋の中が静まり返る。


「私がこの国を守るのに、どれだけ苦労して来たと思っているんだ!」


 その場にいる王以外の全員がそれを聞いて目をすがめる。


 運が悪ければ誰もが〝空っぽの聖女〟になり得たボドリエ家の女たち。


 運が悪ければ誰もが細菌の犠牲になり得た猪獣人たち。


 運が悪ければ結界の依代として犠牲になっていたフィリア。


 運が悪ければ愛する恋人や妹を失うところだったリュカとエド。


 皆の心は、この時一致した。


「王族が獣人族とうまく付き合い、あの奇妙な因習を守らなければ、誰も不幸にならなかったのでは?」


 フィリアの発言に、オデロンの顔が歪む。


「奇妙な方法で世界の分断を図っていたのは、陛下。あなたの方ではないですか」


 オデロンはぎりぎりと歯ぎしりをすると、こう吐き捨てた。


「ああ、ならば王を殺すがいい。それで世界が平和になるのならな!」

「……」


 フィリアは王を一瞥すると、踵を返して、腕を斬られたエレンの元に歩いて行く。


 彼に手をかざすと、その腕は元通りにひっついた。


「フィ、フィリア……」


 震えながらエレンは自身の腕を見つめる。それから、彼はフィリアを見上げた。


「なぜ、治してくれるんだ?」


 聖女は答える。


「私、あなたを憎くて攻撃したんじゃないの」


 猪獣人たちが、どこかしんみりと聖女を見つめる。


「憎しみを止めるために、攻撃したの。あなたが誰かを傷つければ傷つけるほど、世界は憎しみに歪んで理性を失ってしまうから」


 オデロンはじっと聖女の背中を見つめている。


「でも幸いなことに、この世界には聖女の癒しの力がある。争いの後に、その傷を修復出来るの」


 ボドリエ家の女たちは聖女の言わんとすることが分かって、皆一様にうつむいた。


「分断に攻撃、世の中はいろんな不幸が渦巻いているけれど──でも、最後に癒したり修復したりすることが、この世界には大事なことなんじゃないかしら。その役割を与えられているのが、本来のボドリエ一族なのよ。決して人間界に結界を張るために生きて来たんじゃないわ。私も……ご先祖様も、そして王族も」


 エドが歩いて行って、ボドリエ姉妹の縄をほどく。姉妹らは部屋に散らばると、先程のかまいたちで負傷した猪獣人たちを癒し始めた。


 フィリアは歩いて行って、オデロンの顔面の傷を癒した。老王は静かに癒しの力を受け入れる。


「陛下。陛下の仕事は、ここに結界を張ることですか?」

「……」

「少し、今後の獣人と共に生きる世界のことを考えて下さい。多少時間がかかっても構いません。私はあなたを一定期間、お守りすることを誓います」

「……」


 ボドリエ屋敷は静寂を取り戻した。


 姉妹は地下へ降り、しばらくすると家長のオウルとアントワーヌを伴って戻って来た。


 オウルはフィリアを見つけると叫んだ。


「フィリア!お前はどの面下げて……!」


 フィリアは泰然と家長を見返す。


「お父様」

「なっ……何だ」

「結界は、もういりません。その代わり、お父様の力が必要なの」


 オウルは青ざめた。


「なっ……まさか、私に結界の依代をやれ、と……!?」


 その言葉に、フィリアを含めた姉妹全員が怪訝な顔をした。


 エドがぽつりと暴露する。


「空っぽの聖女がどうとか言ってましたけど、父上。実は男でもボドリエの血筋であれば結界の依代になることは可能……なんですよね?」


 姉妹全員の目が怒りに吊り上がった。


「んなっ、何ですって!?」

「ば、馬鹿な!エド、やめろ!」

「僕も、結界師の研究をするまでは知りませんでした。癒しの力を持つ人間なら、誰しも結界の依代になれることを」


 姉妹はオウルに詰め寄った。


「じゃあ今まで、女だけが犠牲を強いられていたの?」

「信じられない!我々を騙してたのね!」

「お、落ち着いてくれ……」

「これが落ち着いていられますか!女だけが女であることに怯えて……馬っ鹿みたい!」

「殴っていい?あとで癒せばいいでしょ?」

「待て!たとえ傷が癒されても、心の痛みまでは……」

「うっさいわ!」

「ねえみんな。お父様だって必死だったのよ。許してあげて?」

「お母様まで共犯だったの!?許せない!」


 娘に囲まれて頭をばちばち叩かれ、オウルとアントワーヌは半泣きになっている。


 フィリアは遠巻きにそれを眺めて呟いた。


「違うわ、お父様。みんなを癒すのに、協力して欲しいだけなのに……」


 労うように、背後のリュカがぽんと彼女の肩を叩いた。


「……終わったみたいだな」

「……ええ」

「もうこれで、犠牲になる聖女はいなくなったんだ」

「……」


 フィリアの腰に吊るされた巾着に、みっちりと詰まった遺灰が、重くぶら下がっている。


「……セシリアに、お墓を造ってあげたいわね」

「ああ。でも、それはちょっと後回しだ」

「……」


 ふわり、とリュカが狼の姿に戻り、遠吠えを上げる。


〝人間の王を発見〟


〝獣人首長らは直ちにボドリエ屋敷に集結せよ〟

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 娘たちが両親をばちばち叩いてるあたりのやりとりがが特に好きです。 [一言] 46話の更新ありがとうございました。 世の中の指導者ってほんと分断あおりがちですよね…(ため息)
[一言] 緊急サミットですね( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ