表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湯けむり聖女、獣人に愛され癒しの温泉グルメ旅〜人間界を追放されたので獣人界を助けることにしました〜  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
獅子の里でアウトドア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/53

26.矢を射られた白狼

 獅子王は舌打ちする。


(迂闊だった。兵力を獅子の里のみに差し向けるなんて効率の悪いことを、人間がするはずはない)


 それに気づくと、彼は再び群の中へと舞い戻った。


「全員集合せよ。話がある」


 シリウスは集まって来た獅子たちにこう告げた。


「手分けして、それぞれ猪獣人の町と猫獣人の港に行こう。そこに向かった兵士を食い殺すのだ」


 獅子たちは頷き合った。


 聖女がどちらかに辿り着く前に、人間兵士を追い払わねばならない。




 一方、狼と聖女は、森を猛スピードで走り行く。


 フィリアは振り落とされないよう必死にリュカにしがみつく。木々の間を縫うように走り抜け、そこを突破すると、一瞬、吹きつける風に飛ばされるかと思った。


 ──見えた。


 山の上に、堅牢だが古びた城塞都市がある。


 走りながらリュカが呟いた。


「猪獣人の城塞都市バシリクだ」

「……猪獣人って、最初に食堂にいた獣人よね?」

「そうだ。あれは俺たちにとって余りいい獣人族とは言えないのだが……背に腹はかえられない」

「そうなの?」

「猪族は聖女協定に入っていないんだ。だが今は非常事態だ、助けを求めよう。彼らだって獣人のはしくれ。無碍にはしないと思いたい。それに平地で長距離の場合、狼は人馬に追いつかれてしまう。更に遠い猫獣人の街へ向かうのは危険だ」


 リュカは姿勢を低くし、バシリクへ向かい山道を駆け上る。


 曲がりくねったなだらかな坂道を息も絶え絶えに走り抜け、ようやく目指した城塞が目の前に迫って来たかのように思えた、その時。


「隊列進め!」


 どこかから叫び声がし、フィリアとリュカはハッと息を呑んだ。


 山を一斉に駆け上がって来る人馬が複数。


 リュカは周囲を見渡し、歯ぎしりをする。


「しまった。人間に山の周囲を囲まれていた……俺たちがここに上がって来ると予想して、隠れて包囲していたんだ!」


 フィリアは震えた。


 万事休す。


「リュカ……」

「気を確かに持て、フィリア」

「私達、ここで死ぬの?」


 リュカは押し黙る。


 二人の間に不穏な空気が漂った。


 馬は大挙して森で目立つ白い狼目がけて走り込んで来る。


 二人は城壁に追い詰められた。


 リュカは壁に背を向け、人間に対しグルグルと唸ってみたが、相手の足取りが緩まることはない。


「……フィリア」


 狼は前だけを見つめ、聖女に言った。


「また会おう」


 フィリアは目に涙をためる。


「……どこで?」

「分からない。いつか、どこかで」

「リュカ……!」


 リュカは彼女を振り返らず白狼の姿のまま地を蹴ると、騎馬兵に向かって上空から降り落ちて牙をむく。


 兵士の喉笛に噛みついた瞬間。


 周りの兵士らは狼に向かって弓を構えた。


 フィリアは叫んだ。


「やめて!」


 刹那。


 矢が四方八方から、リュカの体を貫いた。


 血しぶきが宙を舞い、地面を赤々と濡らす。


 重苦しい音が地面に落ちる。


 フィリアは地に横たわり赤く染まった白狼を見て、慟哭する。


「いやあああああ、リュカ!リュカ!」


 フィリアが駆け込んで白狼に追いすがると、一斉に人馬がそれを取り囲んだ。


 フィリアはまだ温かいリュカの体を抱き締めた。


 血の匂いがする──


「おや、やはりここにいらっしゃったのですね聖女様」


 フィリアは光を失った瞳を上げる。


 そこに立っているのは、見知らぬ兵士。


「申し遅れました。私は兵士長のアドルフと申す」


 言いながら、アドルフは何のためらいもなく剣を抜いた。


 そして即座にそれを横に構え、聖女の首をびゅんと跳ねる。


 手ごたえがあった。


 ──はずだった。


「……ん?」


 しかし目の前の聖女は未だアドルフを仰ぎ、睨みつけたまま微動だにしない。


 ふとアドルフは我に返り、声にならない声を上げる。


 落ちたのは、聖女の首ではなかった。


 ──己の腕。


「……ぐあっ!?」


 何が起こったのか、アドルフ自身分からなかった。


 混乱する頭で考え、一番恐れていたことが起こったのだと理解するまでに、数秒。


 聖女は冷静にリュカの体から矢を抜くと、ふわりと青白い光をまとった。


 それから白狼の体を、ゆったりと撫でさする。


 狼の傷口が瞬時に癒える。


 その聖女の能力を目の当たりにした兵士が次々矢を彼女に射るが、矢は全て聖女の手前で燃え尽きて落ちた。


 彼女の体の周囲を、煌めく光が霞のごとく取り囲み始めている。


 アドルフは目を見開いた。


「馬鹿な。こんな短期間で……!」


 フィリアは目の前の兵士を、刺すように見上げる。


 その聖女──最強。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うおおおおおお!!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ