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湯けむり聖女、獣人に愛され癒しの温泉グルメ旅〜人間界を追放されたので獣人界を助けることにしました〜  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
獅子の里でアウトドア

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22.星空の湯

 獅子王のことは好きになれそうにないが、この獅子の湯は好きになれそうだ。


 真っ暗になるまで待って、満天の星空の下、フィリアは全ての衣服を脱ぎ捨てた。


 リュカはそこから少し離れた焚火の前で待っている。


 フィリアがゆっくり肩まで温泉に浸かったのを合図に、リュカがユカタとタオルを持ってこちらへやって来た。


「ユカタ、ここに置いておくから」

「ありがとう、リュカ」


 リュカが立ち去ろうとすると、フィリアが呼び止めた。


「そばにいて。一緒に星を見ましょうよ」


 リュカは緊張の面持ちで、そうっと温泉の隣にしゃがむ。


「……きれいね」


 暗闇の中、湯の動く音と、星の瞬きが連動しているようだ。


「温泉って案外、掘って入る方が楽しいみたい」


 フィリアの呟きに、リュカも頷いた。


「大自然の中、汗水垂らして掘った温泉に入る。きっと、自分で掴んだ感じが、満足感を高めるんだろう」


 フィリアはしばらく押し黙ってから、うめくように言った。


「私、自分の力で何かを得たことがないの」

「……」

「リュカも、ニナも、良くしてくれたわ。でもそれは、私が掴んだものではない」

「……」

「それを、この頃ちょっと寂しく思うの」

「……そんなことないよ。フィリアは、俺の心を掴んだ」


 狼の優しさに、フィリアはより悲しくなってうつむいた。


「ありがとう。でも、そうは言っても、あなたは聖女を押しつけられただけだと思う」


 星空の下、冷えた空気が二人の間に流れた。


「神官にさえ選ばれなければ、きっとあなたは別の狼獣人の女の子を好きになっていたはずなの」

「……どうしたんだよ、急に」

「分からない。でも、シリウスのハーレムを見たら、何だかそんな気がして」

「……」

「ちょっと、悲しくなったの」


 リュカは少し苛立たし気に息を吸い込むと、吐きながら言った。


「そんなこと言われたら、俺も悲しくなる」

「……ごめんなさい」

「理屈は分かるよ。でも、今は俺はフィリアが好きで、フィリアもその……俺が好きなんだろ?」

「うん」

「それでいいじゃないか、別に」

「うん……」

「聖女を押しつけられたなんて思ったこと、一度もないから」

「本当?」

「物心ついてから聖女との関係を教えられて、どんな女の子なのかむしろ楽しみにしてたぐらいだ」

「ふーん……」


 何やら、今は何を言っても彼女の凍った心を溶かせないらしい。獅子王も余計なものを見せてくれたものだ、とリュカは内心腹を立てる。


「そろそろ上がるわ。離れて、リュカ」


 フィリアが静かに告げ、リュカはテントの方へ後退した。月明かりの中、フィリアの肢体がぼんやり青白く光って見えるのを、彼は様々な思いを抱えながら見つめる。




 ユカタを羽織りながら戻って来たフィリアは、テントの中に入って少し身構えた。


 狭いテントの中には、マットが二枚敷かれている。


 フィリアは急に背中に定規が入るような緊張を覚えた。


「ああ、フィリア。お帰り──」


 フィリアは彼に構わず、くっつけてあったマットを最大幅まで引き離す。


 リュカはそれを目の当たりにし、少し頬を固くした。


「……体が暖かい内に寝たいわ」


 そう棒読み気味に呟くと、フィリアはリュカのマットに背を向けるようにして、自分のマットの上にごろんと横たわった。


 少し、間があって。


「……フィリア」


 ふと、リュカがうめくように言う。


「そっちへ行ってもいい?」


 フィリアはどきりとして、こわごわ体を丸める。


「……それって、どういう……」

「嫌ならやめておくよ」


 フィリアは急に、心臓がどくどくと動き出すのを感じていた。


 正直なところ、リュカがこんな風に動き出すのを、フィリアの心は無意識にいつも待っているようなのだ。


 いきなり肩を抱かれた時も、手を差し出された時も、驚きはしたもののどこか彼にはあらがい難い魅力があった。


 フィリアは、全ての経験が浅い頭で考える。


(多分私、基本的にはリュカに触れられたいんだわ)


 経験が浅いからこそ、導き出せた答えだとも言える。


「うーん……」


 フィリアはリュカの手前、一度は抵抗する素振りを見せた。けれど、やはり結局はこう答えてしまう。


「……いいよ」


 リュカは無遠慮にマットをフィリアの方に寄せると、ごろんと寝転がった。


 フィリアはどきどきしながら、彼に背を向け身を固くしている。


「フィリア」


 恋し声が囁く。


「こっち向いて」


 思わぬ要求に、フィリアは体がマットから浮き上がるかと思った。


「なっ……何で?」

「君の顔が見たい」

「だから、何で……」

「好きだから」


 フィリアはくらくらしながら、降参するように寝返りを打った。


 リュカの金色の瞳が、暗がりの中微かに光っている。


 その瞳は、真剣だった。


 フィリアはその瞳に吸い寄せられながら、彼の顔を眺める。


 彼と見つめ合いながら眠りに落ちるのは、思いのほか心地よい。


「リュカ」


 眠りに落ちる寸前、フィリアはその名を呼んだ。


「ん?」

「……癒される」

「そうか。よかった」


 テントの中、幸福な囁きが漏れる。


 フィリアは目を閉じて少し笑うと、あっと言う間に夢の世界へ落ちて行くのだった。

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[一言] アオハルかよ( ˘ω˘ )
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