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湯けむり聖女、獣人に愛され癒しの温泉グルメ旅〜人間界を追放されたので獣人界を助けることにしました〜  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
兎の里の聖女祭

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19.結界師のエド

 エドだけがアドルフに連れられ、王宮の地下に通される。


 よもやという思いが頭の中を駆け巡り、エドはこの場から逃げ出したいと思う。


 しかし、背後を複数の兵士がついて来ていることに気づき、観念した。


 鉄製の重い扉。


 それを兵士四人がかりで開けると、思いのほか頭上に「それ」はあった。


 聖女の遺体。


 アドルフが言った。


「これが、千年前の聖女セシリアだ」


 エドは青い顔で哀れな聖女を見上げる。


 十字に磔にされ、胸を剣で貫かれ、目を開いたままこちらを見下ろす金髪の少女がそこにいた。


 エドは口を押さえる。


 セシリアは、フィリアそっくりだった。


 結界の依代となった聖女の遺体は腐ることがない。


 肌艶の生き生きとした物言わぬ口と、何も見えていない瞳を、彼女は少しだけ開けている。


 エドは吐こうとする寸前で、ぐっとこらえた。


(見ろ、見るんだ)


 彼は自分に言い聞かせた。


(僕の妹はこうなる。捕まったら、こうなるんだ)


 密かに童話を読んであげた末妹。字を眺めることだけが、娯楽だった妹。


 それが、捕まればこのような無残な姿で生贄とされるのだ。


(僕は血の繋がった妹を、自分の手で、こんな目に遭わせたくはない)


「……それでだね」


 アドルフの声に、エドは我に返った。


「君はボドリエ一族で一番魔力が強いそうだな」


 エドは、ある予感に胸を押さえた。


 まさか。


「ご両親は、君に結界師をして欲しいそうだ。新たな聖女の遺体が来たら、結界魔法を注ぎ込む。やれるか?」


 エドは目を見開く。


 彼はすぐにこう思った。


(チャンスだ)


 彼は即答する。


「……やれます」

「そうか。それは心強い」

「……どのようにやればいいのでしょうか?」

「その辺りを、宮廷学者から習おう。私にも難しい理論はよく分からないのだが、結界を作るには聖女と聖人の力が合わさらないといけないらしい」

「聖女と、聖人……」


 呟きながら、エドは思った。


 なんてひどく呪われた家なのだろう。


(こんな馬鹿げた風習は、この代で終わりにすべきなんだ)


 結界師に選ばれたのは幸いだった。


 自分がその魔術の習得に手間取れば時間稼ぎが出来る。


 もしフィリアが生きていたら、自分次第で妹を生き永らえさせることも出来るかもしれない。


(絶対にフィリアを生かす。そして──ボドリエ家を変えよう。悲劇の一族を、二度と生み出さないために)


 エドは再び聖女セシリアの遺体を見上げた。


 遺体は今、微かに笑ったかのように見えた。




 その頃兵舎では、ボドリエ家の兄弟姉妹が集められていた。


 幽閉されていたフィリアの顔を知っている者は、親族だけに限られる。


 彼らは聖女捜索隊に加えられ、フィリアを探し出すことになった。


「くっそ……めんどくせーな」


 シャルルが忌々し気に呟く。


「フィリアがさくっと殺されときゃ良かったんだ」


 すると、それを聞いた姉妹らがひそひそと囁き合う。


「男は呑気でいいわね……」

「何で男の遺体じゃだめなのかしら」

「シャルルがさくっと逝きなさいよ」


 ボドリエ家は、静かにその結束を失いつつあった。


 フィリアを虐げることで結束していたその脆い鎖が、彼女を失ったことで綻んで来たのだ。


 フィリアの次はエミリー。


 その次は、自分達に聖女のお役目が降りかかるかもしれない。


 女だけに課された残酷なババ抜きを、彼女たちは不条理と捉えていた。


 ふとセリーヌが呟く。


「こんなことして何になるって言うのよ。私、捜索隊なんか抜け出して、ダントンを去ろうかしら」


 姉妹らは顔を見合わせる。


「外には獣人がいると聞いたわ。彼らの街に溶け込めないかしらね」

「お姉様、気を確かに。獣人の街なんかに入ったら食い殺されるわよ」

「あら。ダントンにいたって生贄にされるかもしれないのよ。我々の娘だって、分かったもんじゃないわよ。こっちで死んでもあっちで死んでも、どっちみち同じじゃないの」


 一理あって、姉妹らは揃って塞ぎ込んだ。


 しかしその願いも虚しく、捜索隊はそれから数日後に彼女らを伴い、獅子の里を目指すことになるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] エドにしても、もしフォリアが捕まったら自分が犠牲になってフィリアを逃すほどの覚悟はあるんですかね。 そうでなければ単に男で代わりにならなくて済むからの余裕に見えてしまいます。
[一言] 千年も磔のまま……! 酷い……!(ブワッ)
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