表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
湯けむり聖女、獣人に愛され癒しの温泉グルメ旅〜人間界を追放されたので獣人界を助けることにしました〜  作者: 殿水結子@「娼館の乙女」好評発売中!
兎の里の聖女祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/53

12.スイーツと狼

 湯上がりの聖女は、目の前に並べられた色とりどりのお菓子に目を奪われていた。


 ピンクと白とピスタチオ色で作った、花を模した芸術的なチョコレートのアソート。兎の形に型抜きされた、色とりどりのアイシング・クッキー。それから、白い陶器に香り立つ紅茶。


 ニナが子どもに言い聞かせるように言う。


「これがチョコレート。これがクッキーで、これが紅茶」


 フィリアはそれを口の中で繰り返してから、恐る恐るつまんで口に運ぶ。


「……うまっ」


 余りの美味しさに、思わず少女らしささえどこかへ吹っ飛んでしまう。ニナはけらけらと笑った。


 薔薇の咲き誇る庭で、ほっとするティータイムだ。


「大抵、昼食と夕食の間に、このお菓子休憩を挟むのだ」


 女王はぼりぼりとそれらを貪るように食べる。


「ああ、ほっとする……温泉より、こっちの方が好きかも」

「そうか?温泉も気持ちよかったであろう?」

「うーん」


 フィリアは何となく気づいている。


 温泉は、もっと気の知れた人と入りたい。


 お菓子も、気の知れた人と食べたい。


 ふとフィリアは思う。


(リュカは甘いもの、好きなのかな)


「そういえば、リュカ殿はどうした」


 フィリアははっと顔を上げた。


「さあ……男湯へ入ったきり、出て来ませんね」

「のんびりしやがって……護衛だと言うのに、気が抜けとる」

「リュカもお茶に誘っていいですか?」

「ああ、勿論だとも。おい、そこの兵士。リュカ殿をここに連れて参れ」


 するとちょうどそのタイミングで、王宮の奥から兎耳兵士二名に脇を挟まれたリュカがやって来た。


「姐さん、こいつのぼせてますぜ」

「おやおや。狼は暑さに弱いから、温泉を勧めるべきではなかったか」

「リュカ……大丈夫?」


 リュカは少しだるそうにアイアンチェアに腰掛けた。


「ごめん……」

「紅茶じゃなくて冷たいものがいいわね」

「牛乳を出そうか?」

「ありがとうございます」


 冷たい牛乳が運ばれて来て、リュカはそれを一気にあおった。


「リュカ、お菓子はどう?」

「んー、いいや。俺、甘いものはあまり……」


 ニナは二人の様子を興味深く眺めている。


「二人とも、お疲れだな。今日は宿でゆっくりと休むがいい」


 フィリアもリュカも、内心ほっとする。正直、この兎の里の独特のテンションは疲れる。


「部屋も、スイートに変えておいた。宿代は狼の村ではなく、女王が立て替えよう」

「あ、ありがとうございます!」

「食事も部屋まで運ばせる。明日の祭りまで部屋から出なくてもいいいぞ」




 至れり尽くせりの宿で、ようやく二人は羽を伸ばした。


「あー、疲れた!」


 フィリアは1.5倍になったベッドに身を投げ出す。リュカも別室のベッドで横になった。


「……部屋がふたつあるのね」


 ようやくひとりきりになれた。天井には小さなクリスタルのシャンデリア。凝った唐草模様の壁紙は、眺めて飽きる事がない。


 この宿のスイートは中央にリビングがあり、二つの寝室を繋いでいた。


 ベッドサイドテーブルの引き出しを開けると、何やら覚書が入っている。


「へー。事前に魚か肉かをお伝えください……だって。メニューが選べるのね」


 フィリアはそれらがどんな料理かまるで想像がつかない。


「そうだ、リュカに聞こうっと」


 フィリアはリュカの寝室にノックしてから入る。


「……リュカ?」


 ベッドの上には、眠った白狼のリュカがいる。フィリアは目を輝かせた。


「えへへ。またもふもふしよ」


 今日は温泉に入ったので、狼の毛並みも更に柔らかくふわふわになって格別だ。彼が寝ているのをいいことに、思い切りその毛に顔をうずめる。


 と。


 すー……すー……


 フィリアは狼の腹に乗っかったまま、眠ってしまった。旅の疲れが出たのだ。


 ふと、リュカが目を開ける。


 そこには腹に頭を乗せ、眠りこける聖女がひとり。


 リュカは仰向けに体勢を変えると、獣人の姿に戻った。


 フィリアの頬と髪の感触が、腹に直接伝わって来る。


 リュカは黙って聖女の頭を撫でた。


「……お疲れ様、フィリア」


 温泉で洗った、ふわふわの髪の毛。何とも言えないいい香りが漂って来る。


 すると。


「んー……」


 奇妙な感触にフィリアが目を覚まし、はっと目を見開いた。


「……リュカ!いつの間に目覚めたの!?」


 聖女は真っ赤になっている。それを眺め、リュカはにやりと笑う。


「結構前から」

「うそ!」

「フィリアの髪もふわふわ」

「からかわないでよ!」

「いつもやられてるから、お返しだ」

「もう……」


 フィリアは立ち上がると、半べそで顔を覆った。リュカは彼女の慌てた様子を眺め、嬉しそうに笑う。


「意地悪なリュカ……何だか、いつものリュカじゃないみたい」


 リュカはフィリアに真っ直ぐな視線を向けると、少し改まったように言う。


「本当の俺は、こっちかもしれないよ」

「本当の、俺?」

「その……狼かもしれないよ」

「?」


 フィリアはきょとんとし、リュカは彼女の持て余したような反応にむしろ赤くなった。


「やだ、きっとまだのぼせてるんだわ。もっと寝ていた方がいいと思う。睡眠の邪魔をしてごめんね、リュカ」


 フィリアはそう言うと、何やら気を使ってそそくさと部屋を出て行く。


 静まった部屋に、顔を赤くしたリュカだけが取り残された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これは恥ずかしいwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ