人鏡矮渦<ジンキョウアイカ>
人の心とは、互いの地獄を映し合う鏡であり、消化しきれぬ程に、矮小な器から漏れ出る呪いを、人は悪意とよんだ。そして、世界に満ちる呪いは、人の業によって、濃さを増していくばかりである。
多くの人の心は矮小であり、それでも大きなものを欲している。何かを成すためとは言ったとして、その器に見合わぬ信念は、ただ腐り行くだけ。腐食したそれを、器に押し止めることも出来ず、呪いを散らすのは、どれだけ滑稽な事だろう。
矮小な支配者は、目を開けば地獄を映し、口を開けば呪いを吐き出す。なんとも救えない話だ。満ち満ちる悪意の中で、心はそれを映している、正に地獄を映し合い、苦痛の連鎖を是としている訳だ。それを地獄と言わずになんと言うのか。
まるで渦のように、確かに底に向かっている。確かに心は鏡であるのだ、世界に呪いが満ちていれば、どうしてもそれを映してしまう。映したそれを誰かが映す。何か出来ることがあるとするならば、鏡を割ってしまうこと。割れた鏡は鏡に非ず。
相対、相多い、ああいたい。どうして悪意を映すのか。映したものに、映されて、憎悪を奮って、呪いを拡散。理解なんてしたくはないし、割れた鏡は鏡に非ず、今や人を映せない。ただただ滑稽、神真似を笑う傍観者。
ある人は、差異を見出だし侮蔑を振るう。それは、差異を受け入れるだけの器がないと語っている。そして、それを映した者達によって、新たなる差異が生じるのだ。差異は侮蔑を生み、悪意は侮蔑を膿んでいた。頭の出来が宜しくない、とんだ笑い話だ。
ある人は、侮蔑を見出だし正義を振るう。それは、侮蔑を切り捨てるだけの器がないと語っている。そして、それを映した者達によって、新たなる正義が生じるのだ。正義は侮蔑を殴り、正義は正義を殴る。視力が悪いらしいが、色眼鏡では意味がない。
ある人は、正義を見いだし悪意を振るう。それは、この世の中の現実に抗う器がないと語っている。そして、それを映した者達とは、一体誰の事だったのだろう。渦のように落ち堕ちていく、そんな世界を笑っている。いっそのこと、皆朽ちてしまえば良い。
相対、相多い、ああいたい。どうして悪意を映すのか。映したものに、映されて、憎悪を奮って、呪いを拡散。理解なんてしたくはないけれど、割れた鏡であったのだとしても、鏡であった事は違いない。映した地獄は変わらない。
相も変わらず、人の心は地獄を映し合う鏡である。苦しんで、苦しめて、それでもこの渦から逃れない。螺旋の先に何があるかは知らないが、これ以上は理解しなくとも良さそうだ。更なる地獄は、先を生きる人の為にあるのだから。