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【6/23コミックス②巻発売!】二度目の初恋がこじれた魔女は、ときめくと放電します  作者: 西根羽南


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待たせて悪かった

「ディアナ嬢、ここで何をしているのですか?」


 トビアスの一言で、ディアナは自身の失態に気付いた。

 ここは侯爵邸で、夜会の最中だ。

 ドレスを着た普通の淑女は、庭の木に顔を突っ込んで魔道具を品定めなんてしない。

 つまり、不審者だと思われているのだ。


 とはいえ、腐ってもレーメル。

 侯爵邸の様子からして魔道具には理解がありそうだし、何とかまともな不審者だと伝えなくては。


「ローク製の最新型の照明魔道具を拝見していました。普段レーメル製ばかり見ているので大変興味深いです。特にこの光源が二つあるところが素晴らしく、魔鉱石の加工が――」

「――あ、あの。魔道具については、結構です」


 慌てた様子で話を止める様子を見るに、どうやら若干引いているらしい。

 ディアナの周囲は魔道具関係者ばかりだったので、加減がいまいちわからない。

 何をしているのか尋ねられたとはいえ、一般貴族の男性に振る話題ではなかった。


 何にしても、もっと貴族的なお話をしなければいけない。

 ……貴族的なお話って、何だろう。

 魔道具に浸りきっていたディアナには、結構な難関だ。


 とりあえず、淑女は庭に座り込まない気がしてきた。

 勢いよく立ち上がってドレスについた葉を叩き落とそうとすると、立ち眩んで足元がふらついてしまう。

 ふらりと傾いだところにトビアスの手が伸び、肩を支えられた。


「すみません、失礼致しました」

 礼を言って離れようとするが、トビアスがディアナの腕を掴んだせいで動けない。



「手を放していただけませんか?」

「ようやく二人きりになれましたね」

「はい?」

 よくわからないまま腕を引っ張るが、トビアスは笑顔のまま手を放さない。


「はじめてお会いした瞬間から、その美しい薄紫色の髪が忘れられません」

「ああ。レーメルの一族は、カラフルな髪色が多いのです。兄の紅の髪も印象的ですよね」

 確かに、一般貴族からするとディアナの髪色は珍しいだろう。

 そう思って説明しながら腕を引っ張るが、やはり放してくれない。


「そうやって私を焦らしているのですか? 酷い人ですね」

「焦らし……?」

「もう少しご一緒してもよろしいですか?」

 謎の言葉にトビアスを見ると、やはり笑顔でこちらを見つめている。


 これは、あれか。

 もしかして、言い寄られているというやつだろうか。

 ララのおかげで上がった女子力の効果、恐るべしである。

 だが、結果がこれではあまり嬉しくない。


 トビアスは侯爵令息ではあるが、ディアナからすれば兄の仕事先の御子息で、魔道具屋敷の住人というだけだ。

 魔道具の案内をしてくれるというのならともかく、この様子では一緒にいるとよろしくないことになりそうだ。



 さて、どうしたものか。

 腕を振り払うなり、ひっぱたくなりすれば、逃げられる気もするが、侯爵令息にそれはまずいだろう。

 かといって、このままではさらにまずい気がする。

 ここは穏便かつ確実な逃げ道が必要だ。


「私、人を待っていますので」

 先程挨拶したので、ロヴィーが一緒にいることは知っているだろう。

 暗にもうすぐロヴィーが来るとほのめかしたつもりだったのだが、やはり腕を掴む力は緩まない。


「『レーメルの奇才』殿は、離れの魔道具を確認しに行ったので、暫くは戻りませんよ」

 離れというからにはそれなりの距離なのだろうが、それにしたって失礼な話だ。

「兄の腕は一流です。そんなに時間はかかりません」

 ロヴィーの腕を過小評価されたことに少し怒りを見せると、トビアスは目を丸くし、次いで笑った。


「そういう意味ではありませんよ。あなたとの時間は確保したということです」

「……兄をわざと連れ出したのですか?」

 自身の眉間に皺が寄るのがわかる。

 無言で笑みを返すトビアスを見て、更に眉間の皺が深まった。

 すぐに腕を振り払おうとするが、今度は反対の手も押さえられてしまう。


「放してください」

 完全に身動きを封じられてしまい、さすがに怖くなってきた。

 だがそれを悟られるのも癪なので、精一杯トビアスを睨みつける。

「そんなに怖がらなくても。少しお話をしたいだけですよ」



「――嫌がる女性の手を掴んで放さないなんて、紳士の行動じゃないな」


 突然の第三者の声に驚いて視線を動かすと、そこには黒髪の美少年が立っていた。

「君には関係ないでしょう。何の用ですか」


 トビアスが少年に向き直ったせいで、腕を掴まれているディアナは引っ張られて危うく転びそうになる。

 ここで転んだらドレスは汚れ、ララのお説教待ったなしだ。

 ディアナは腹筋と背筋を総動員して、どうにか転倒を回避する。


「待ち合わせだよ。彼女と。――待たせたね」

 若草色の瞳と目が合うと、ディアナに向けてウィンクをしてきた。


 よく見てみれば、さっき女性を侍らせていた美少年ではないか。

 知人でもないし、もちろん待ち合わせなどしていないが、これはもしかして助けようとしているのだろうか。


「ま、待ちくたびれました」

 ディアナの必死な様子に気付いているのかいないのか、少年は口元を綻ばせている。

「座り込んで魔道具を見るほどだからね。……待たせて悪かった」

 まるで本当に待ち合わせをした親しい間柄かのように、優しく微笑む。

 その笑顔に、ディアナの鼓動が跳ねた。


 ――恐ろしい。


 こうやって女性達を侍らせているのか。

 領地にはいなかったタイプだ。

 王都って、恐ろしい。


 ディアナが感心しつつ恐れている間に、少年はトビアスの手を外し、ディアナを背に庇う形になっていた。


「それで。彼女に何の話があるんだ?」

 少年が尋ねると、トビアスは忌々しそうにひと睨みし、やがて屋敷の中に戻って行った。

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