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【6/23コミックス②巻発売!】二度目の初恋がこじれた魔女は、ときめくと放電します  作者: 西根羽南


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好きだったから

「……次は、どこですか」

「ディアナ様、そろそろ作業を終えた方がよろしいのでは」

 最初から案内してくれている役人の一人が、そう言ってやんわりと止めようとする。

 だが、ディアナは首を振った。


「ですが、顔色が良くありません。もう作業は十分です。せめて少し休憩を入れてください」

「大丈夫ですから、案内してください」

 役人は困った様子でディアナに手を差し出す。

 どうやら、傍目にもふらつきが酷いらしい。

 役人の手を取ってゆっくりと移動をするが、おかげで自身のふらつき具合がよくわかった。


 体調に変化があればすぐにやめるようロヴィーには言われたが、もう少しだけ試したい。

 結構な数の魔道具に魔力を込めて回ったので、次の機会があるとしてもしばらく先になってしまう。

 それに、指輪が外れる可能性があるのだから、このくらいのふらつきは何でもなかった。


 長い回廊の入り口にやって来ると、役人が渋い表情で図面をディアナに手渡す。

 どうやら、回廊の左右にそれぞれ三十の照明用魔道具が設置されているようだ。

 数は多いが容量はそれほど大きくないので、何とかいけるだろう。

 目を閉じて集中し、三十の光の玉を作り、それを飛ばす。

 美しい光の尾を見ていると、急に視界が揺れ、回廊の柱にぶつかるようにして体を支えた。


 ……さすがに、そろそろ限界か。

 自分の手を見てみれば、小刻みに震えている。

 なのに指輪はびくともしないのだから、笑ってしまいそうだ。



「ディアナ様、もうこれ以上は……」

「――ディアナ!」


 役人の声を遮るように、何度も聞いた声が耳に届く。

 見なくたって、誰だかわかる。

 答え合わせのようにディアナの前に現れた顔は何故か焦っていて、若草色の瞳も揺れている。


「……こんにちは」

「何がこんにちは、だ。こんな顔色で何をやっている」


 口調こそ怒っているが、柱にもたれるディアナを支える手は優しい。

 そう、昔からユリウスは優しい。

 だから好きだった。

 ……それを伝えたいだけなのに。


「魔力の遠隔補給よ。見たことあるでしょう?」

「そうじゃない。何でこんなにふらついてまで、一気に作業をするんだ」

「……必要があるから、よ」

 そう言ってユリウスの手から離れると、深く息を吐く。

 今魔力を補給したのは回廊の右半分の魔道具なので、残りは左半分の三十個だ。


「ディアナ、やめろ」

 ユリウスの声が聞こえる。

 そう言えば、何故ここに姿を現したのだろう。


 ローク伯爵家関係の仕事で王城に来たところで、話を聞いたのだろうか。

 ディアナはゾロゾロ野次馬を引き連れていたので、噂になったのかもしれない。

 何にしても、会えただけでも嬉しい。

 もう少しでそれすらもかなわなくなるのだから、しっかりと心に刻もう。


 目を閉じて集中すると、あっという間に光の玉が形作られる。

 だが、この時点でくらりと目が回りそうになった。

 気合を入れて目を開けると、指を差し出して光の玉を放つ。

 それと同時にごっそりと何かが失われ、一瞬視界が暗転した。



「――ディアナ!」


 ユリウスの声で正気に戻ると、抱きかかえられるようにして支えられている。

 本来ならときめき大爆発な案件だが、今は目が回ってそれどころではない。

 震える手で指輪に触れるが、無情にも微動だにすることはない。


「……もう一回」

 力の入らない手でユリウスを押しのけて作業をしようとすると、頭上で舌打ちが聞こえた。

「――この馬鹿! いいから行くぞ!」


 怒鳴り声と共に、ディアナの視界が一気に上昇する。

 抱き上げられたのだとわかるが、急に揺らされたせいで余計に目が回ってしまい、何も言えずに目を閉じることしかできない。


「作業は中止。不足があるならロークに連絡を入れてくれ」

「は、はい。ユリウス様」

 やりとりは聞こえるが、どこか遠くの方で話しているようだ。


 体に伝わる振動で、ディアナを抱えたまま歩いているというのはわかる。

 重い瞼を開けて見ると、若草色の瞳には怒りすら滲んでいた。

 結局、ディアナの勝手で皆に迷惑をかけてしまったし、ユリウスに更に嫌われたのだとわかり、唇をかみしめた。



 馬車に乗ったユリウスは、抱えていたディアナをそっと椅子におろす。

 だが目が回るせいで体が傾いでしまい、それを支えるためにユリウスが隣に座った。


 これだって本来なら大爆発しかねない事態だが、ユリウスにとってはただの救助活動で後始末。

 ディアナのことは嫌っているのだから、ときめきようもなかった。

 ユリウスの肩にもたれるような形で姿勢が安定すると、小さなため息が降ってきた。


「自分でもわかっているだろう? あれだけ魔力補給をしたら、倒れるに決まっている。……死んだらどうするんだ」


 静かな声ではあるが、怒っているのが伝わってくる。

 ユリウスに安全に気持ちを伝えたかっただけなのに、指輪は外れないし、迷惑をかけるし、最後まで嫌われるとは。


 切なくなって俯くと、男除指輪(ときめきリング)が目に入った。

 震える手で指輪に触れてみるが、やはりまったく外れる気配はない。

 情けないし悲しくなってきて、ディアナの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


「ディアナ? どうした? 何故、泣いているんだ?」

「ゆ、指輪、外れなかっ……。魔力、減らした、のに……」

 涙のせいで視界が揺らぎ、上手く喋ることができない。


「指輪? 指輪を外したいのか?」

 涙をこぼしながらディアナがうなずくと、ユリウスが左手の指輪にそっと触れた。

 その瞬間、ピリリと少しの静電気が走ったかと思うと指輪にひびが入り、二つに割れて床に落ちた。



「……外れ、た」

「何だ? 何が起きた?」

 床を見ようと体を動かしたユリウスに、ぎゅっとしがみつく。


 やっと、指輪が外れた。

 やっと、伝えることができる。

 ディアナは零れる涙を拭うこともなく、ユリウスを見上げた。


「十年前、『可愛くない』って言われてショックだったの。私、ユリウスのこと――好きだったから」


 ……言えた。

 たった一言を、ようやく伝えられた。

 安心した途端に体中の力が抜け、ディアナの視界は暗転した。

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ハーパーコリンズ・ジャパン 西根羽南 ゆやゆりな 千家ゆう

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― 新着の感想 ―
[良い点] や っ と 外 れ た!! しかも劇的に外れて感動のイチャイチャ、とはならず、呆気なさ過ぎる程あっさり。そしてユリウスくんに心配かけた上に気絶……。ときめきより切なさ大爆発ですね。 や…
[一言] やっと指輪が外れて思いが伝えられました。 本人以外にはそれどころじゃないといわれそうですが気にしな~い。
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