重臣会議1
永禄12年4月9日本能寺客間
本能寺の客間に織田家の重臣たちがあつまっている。
足利義昭を15代征夷大将軍に据えたが、三好党などが義昭の首を狙って暴れていたために二条城の建設が急ピッチで行わう必要があった。だから、織田家が総力を挙げて城造りをするために京都に重臣たちが勢ぞろいしているわけだ。
今日の重臣会議では、あと3日で完成予定の二条城完成の式典に関することや、今後の方針や、人事などが話し合われる筈だ。そして、俺もみんなに紹介される。
♠️
「これより評定を行う。」
「「「ははー。」」」
「まず、先日出会った宣教師を客分として招くことにしたので紹介する。フロイス師」
信長様は俺を呼んだ。
廊下に控えていた俺は客間へと入る。
「このものは、ここよりはるかに遠い南蛮よりまいられた宣教師じゃ。その勇気と情熱と知識を称え軍師として師事することとする。ここに、このものを軍師として仇や疎かにせぬと誓った御免状もある。皆も左様心得て、異人とか新参者として決して侮ることなく敬意を持って接するように」信長様は御免状を掲げ皆にそう厳命した。
「はぁ…」不承不承というか、大変不服そうな声を家臣の中で一番上座に座る初老の男性があげた。
織田家の筆頭家老・林秀貞であろう。
「ん?新五郎、なんぞ不満でもあるのか?」
信長様は怒った風ではなくニュートラルに聞いた。この反応を予想していたのかもしれない。
(新五郎…)この初老の家老はやはり林秀貞殿である。
「は。では、申しますが…。なんの実績のない新人、しかもどこの馬の骨ともわからぬ異人をいきなり師とあおげと申されましても…。」秀貞殿は困惑したように言った。
(馬の骨…。)
この言葉には棘があるように感じられる。まぁ…先代から仕えている織田家の筆頭家老としては、俺のようななんの功績もなく、しかも異国の人間をいきなり師と仰ぐことなどあり得ない。ということか?
「ふむ。儂がなんの考えもなくそんなことを言うと思っておるのか…。まあ良い。儂自ら面接を行なった結果、このルイス・フロイス師は確かな見識をお持ちじゃと思うたから師事することにしたのじゃ。フロイス師。この前の話を皆に」
「は」おれは今朝方の話しを皆にした。鉄砲と火薬、銃弾の改良と国産化の話である。
♠️
「「おおー」」
客間に感嘆したような声が響きわたる。おれの話に驚き、感心したようだ。
「わかったか。これからは鉄砲の時代じゃ。他国より優れた鉄砲をより多く所持したものが勝ちなのじゃ。その改良法を知り、運用法を知るものを師として厚遇し、教えをこうて何が悪いのじゃ?」
「は、はぁ…」秀貞殿は、まだ不満顔である。
「これだけ申してもまだわからぬか…。そなたも頭が硬いの…まあ、そなたたち古くからの重臣をないがしろにするつもりはない。儂の後継の後見役もそちに頼もうと思っておるしな。これからも思うところがあれば遠慮なく申すが良い」
「は。もったいなきお言葉。ありがたきしあわせにございます」そう言って秀貞殿は平伏した。平伏した状態では顔色も腹のうちはわからない。なんとなく、信長様と秀貞殿の間に溝のようなものがあると感じる。危うい感じだ。
「うむ。儂は古きものも新しきものも平等に重用する。古かろうが新しかろうが成果が出れば良いのじゃ。成果をだすものは異人だろうがどこの馬の骨だろうが敬意を持ってその功に報いる。皆、励め。」
「「ははー。」」皆、平伏。やはり皆の顔色や腹のうちも読めない。
この後、二条城完成の公的な祝宴の応接役として明智光秀が任じられた。
そして、徳川家康や浅井長政など同盟者として協力してくれた親しい大名家を招いて個人的にひらく祝宴の応接役としては丹羽長秀殿が任じられた。
公的な祝宴は儀礼を重んじるが、その次の日に予定されている個人的な祝宴は新しいことがしたいようで丹波殿の相談役としてこの俺が任じられたのだった。
(俺、宴会の幹事の相談役ですか…)
さしずめ、この役目で新参者の俺に織田家の軍師たるべき見識を示せということだろう。
接待の相談役で??さて、どうしよう。
林秀貞殿は、史実では晩年異心を抱いたとして追放されることになります。それは、昔、弟の信行が反乱を起こした時、信行側についたことを指すと言われてますが…。この物語ではどうなることやら。
✴︎浅井氏を親しい同盟者として宴会に呼ぶ場面で浅井長政に斜線の入った誤字報告を頂きました。ありがとうございます。しかしながら、どこが誤字なのかわかりませぬ。浅井を招待するのはするだろうなって考えているのですが…。
まぁ、織田と浅井の間がこのころからぎくしゃくしていて親しいかどうかは怪しいですし、招待しても高確率で来ないのでしょうけど。この世界線では来ます。