四国制覇って何それ?美味しいの??
天正2年1月3日 宇佐山城
「四国征伐に待ったをかけようとしていることについても話さなければなりませんか?」
明智殿が焦ったように言う。
「ええ。織田家は丹羽殿と滝川殿が四国征伐の準備を始めていますし、それがしも南蛮式の船を制作中です。それから、攻める相手である三好家は、我々の長年の宿敵です。信長様の御子息のうちの誰かが総大将を務めるべきではないか?との意見まであります。その流れに逆らって四国統一を長宗我部に一任するよう密かに働きかけるとは…いったいどういったご了見なのか?しかとお聞かせ願いたい」
「それは…」
「それは?」
「2つの観点から、織田軍が四国征伐を積極的に行うことに反対だからです」
「ほほう。その2つの観点というのを伺っても?」
「1つ目は、四国は海に隔てられてられており、その海の制海権を織田軍が握れていないこと。制海権を握らないと補給が滞り、苦戦を免れられますまい」
「なるほど。2つ目は?」
「2つ目は織田家が敵に囲まれていることです。四国の三好だけでなく、毛利、上杉、武田を同時に相手することは容易ではありますまい」
「制海権、補給の問題。それから、同時に複数の敵を相手にするべきではないということですか?」
「その通りです」
「ふむ。……。補給をないがしろにする武将が多い中で制海権のことや包囲網のことを考えられるとは…さすがの戦略眼ですね。それらを解決するために家臣の縁故をたどって外交で解決しようというのもさすがです。しかしながら…」
「はい?」
「長宗我部に四国統一を任すことが、織田家にとっても長宗我部家にとっても長期的に見ると不利益になると申したらどうします?」
……。
「はぁ?!」
十兵衛殿は(何言ってるの、こいつ。馬鹿なんじゃないの?そんなわけないだろ?)と考えてそうな顔で俺を見た。
「まぁ、短期・中期的に見ると十兵衛殿がおっしゃってることはもっともなのですけどね。それを解決する策が無いことは無いのですよ。長期的な目で見た時に問題となるのは…まず長宗我部家の視点から考えてみますか」
「伺いましょう」
「十兵衛殿は、海があるから織田家が三好征伐に苦しむとおっしゃられましたね?」
「はい」
「長宗我部家が単独で三好らを征伐して四国統一を成し遂げたとしましょう。そこから先、長宗我部家はどうするのですか?四国が海に隔てられている以上、我々以上に長宗我部家が困るのでは無いですか??そこから先の展望がないと、長宗我部家単独で四国征伐に費やした人命や兵糧が無駄になってしまいますが。長宗我部家の四国統一から先の展望を十兵衛殿はご存知ですか?」
「さあ?それがしは長宗我部家の悲願と織田家の現状における問題を解決するための方法が合致すると考えただけで。そのあと長宗我部家がどうするかなど全く考えておりません。長宗我部家としては領土が広くなって良いのではありませんか??」
……さあ?って。無責任なのではないか?
三日天下の明智光秀殿は短期あるいは中期的な戦略を立てることには傑出しているが、長期的な展望をたてるのは苦手なのかもしれない。
まぁ、中国地方の覇者である毛利、九州一の大大名である大友、関東の北条、越後の上杉、甲斐の武田など明智光秀以外の確固たる戦国大名達も領土の拡大や室町幕府の復権から先の展望をもってるとは思えないのだが。
おそらく、長宗我部にも四国制覇から先の展望はなかろう。
「領土が広くなって良いってのはその通りかもしれませんが、領土を拡大することを利益に繋げつづけるのは限界があります。また、拡大した領土を維持するのも大変です。長宗我部にその力がありますかね?長宗我部の家中や領民の生活を豊かにしたいならば、領土を拡大するより、魚や柑橘類の缶詰めでも作って当家に売ったほうが良いと私は考えるんですけどね。まぁいいでしょう。肝心なのは我らが仕えている織田家の問題の方です」
「缶詰めの話も興味深いですが…。織田家の問題からお聞きしましょうか」
「織田家の当面の目標は天下布武です。武っていうのは争いを止めるという意味かと思いますが…天下を平定する、戦国の世を終わらせるととることもできるかと」
「ええ」
「問題は、目標を戦国の世を終わらせるとした場合…敵対している毛利、上杉、武田、北条などを討ってしまえば天下布武が完成することです。九州の大友、四国の長宗我部、中部の徳川、東北地方の諸大名達はすでに味方に引き入れていますからね。九州は大友に四国は長宗我部に任せればよいと考えることも確かにできます。しかし、織田家もそこから先、どうするかを考えなければなりません」
「天下布武の先ですか?」
「ええ。戦国時代を終わらせてこの日の本を統一した先の展望を持たなければなりません。四国と同様にこの国全体が海に囲まれているわけですが…。織田家は海から逃げて天下布武から先の展望を描けると思いますか?」
「天下布武から先の展望…。海…。……。外国との付き合い…ですか?」
「その通りです。今の世の中は大航海時代と申しまして、南蛮の国々が競って世界攻略に勤しんでいます。織田家は天下布武を成し遂げたら、南蛮の国々からこの日の本を守ることを考えなければなりません。効果的なのは相手の軍事拠点を叩くことでしょう。攻撃は最大の防御というわけです」
「その展望と四国征伐に関連があるというわけですか?……。海から逃げるな…か?……。えーと…もしかして軍事演習?」
(お)
俺は感心した。これだけの話でそこに気づくか。もっとまどろっこしい説明をしないといけないと覚悟していたが…。十兵衛殿こと明智光秀殿はやはり頭脳明晰だ。智が明るく秀が光っているという名前の通り。
他の者達は、話についていけずに呆然としている。
「その通りです。そう考えれば、四国征伐にも九州征伐にも織田家が関わらなければなりますまい?海を超えて兵站を築く貴重な体験の機会です。目と鼻の先にある四国や九州を攻めるのに兵站を築けないと逃げるなど、今後の展望を考えたならお話にもなりませぬ。失笑ものですね」
「失笑とは…酷いですね」
十兵衛殿は怒ったような顔をした。
「怒った顔をされますな。この作戦に失敗すると一番、割を食うのはそれがしなのですよ?」
「と、言いますと?……。兵站…。渡海作戦…船。…なるほど。全部、瑠偉殿の仕事ですな」
「その通りです。船を作るのも、各戦線への兵站を築き、補給するのも、それがしが請け負った仕事ですからね。その上、苦戦している他の戦線に援軍に行くのもそれがしの仕事です。恐らくは死ぬほど忙しいでしょうね。その上、責任重大。失敗したら腹を切らねばならないかもしれません。その時は笑ってくれても構いませんよ。あはは…」
「むう…笑いごとではありますまい。しかし、その仕事を成し遂げることができれば功績もまた大きいというわけですか?だからその仕事を率先して引き受けたのでしょうに」
「ええ。まあ。天下布武とその先の視点から引き受けた仕事ではありますね。十兵衛殿もその視点からやるような大きな仕事を引き受ける気はございませんか?」
「そんな仕事がございますのか?あるなら、伺いましょう」
十兵衛殿は、半信半疑な感じで聞いた。
「ええ。顔がひろい十兵衛殿にしか、頼めない仕事です」
長宗我部家との外交の仕事を潰すことは十兵衛殿の面目を潰すことと同義。そのかわりに十兵衛殿の面目を立てる方策を提案しよう。




