とりあえず話をきこう。傾聴って大事
天正2年1月3日 宇佐山城
十兵衛殿、内蔵介殿、和泉守(私称)殿は顔を青ざめさせて俯いている。
空気が重い。
朝倉殿の髑髏の杯の話はそんなに怖かったかな?効果は抜群だ。
…。
……。
………。
「ええっとー…」
重い沈黙を振り払うように口を開いたのは和泉守(私称)こと那波直治殿だ。
「はい。なんでしょう?」
「それがしがこの家に士官変えすることで、明智様に迷惑がかかるというのは誠でしょうか…?」
「私はそう確信しています」
「…。…。はぁ。…なるほど」
和泉守(私称)殿は不承不承ながらもうなずく。
「それを聞いて、和泉守殿はどうされます?」
「それは…内蔵介殿が稲葉家より明智家の方が重用して下さると熱心にすすめてくれたから士官先をこちらにしようとしていただけで…。明智様に迷惑がかかるなら無理に士官変えするとは…」
和泉守(私称)殿の歯切れはとても悪い。稲葉殿の娘婿の扱いは相当ひどいと見える。士官変えしたいのはやまやまなのだろうというのが和泉守(私称)殿の態度から、はっきりとわかるのである。
「ははぁ…。内蔵介殿も和泉守殿も稲葉一鉄殿の娘婿ということは聞き及んでおりますが…一鉄殿の娘婿の扱いはよほど酷いらしいですな」
「「それは、もう!!」」
声を揃えて即答する一鉄殿の娘婿の2人。
「どんな酷い目にあったのかお聞きしても?十兵衛殿の所へ士官変えするのを辞退していただくのは簡単ですが、それでは根本的な解決にならないでしょう。根本的な解決のために詳しい話をお聞かせ願えませんか?」
ここで、士官変えを辞めさせて良かったね。では、俺がここまで来た甲斐がない。皆無である。
この人らの信用を得るためには、この人達の不満を解消するために精一杯尽力する必要があるだろう。
そうして、2人の話を聞くことになったのだが…。
聞かされたのは長々とした愚痴。
要約すると…
他の家臣より働いているのに働きが少ないと貶される。
働いても働いても恩賞が他の家臣たちより少ない。
失態があると、他の家臣の前で口汚く叱責される。
まぁ、端的に言えば…パワハラだね。昔の人はそういうのに気を使わなかったのかもしれないが…。身内だからといって他の家臣の見せしめにされるのはたまったものじゃないだろう。
頑固一徹の語源のような人物なら、「そうすることで本人の成長につながるのだ。恥は買ってでもしろ」とか言うのかもしれないが…。
そして、この件に信長様が絡むと、事態はよりややこしくなるはずである。
パワハラの上塗り。信長様の仲裁は決してうまくはないのだ。最終的には蹴る、殴るだもんなぁ。
「なるほど、それは辛かったですね」
「「で、しょう?」」
「その状態でなくなれば、和泉守殿は稲葉殿に仕え続けられそうですか?」
「ええ。一鉄様が悔い改めてくださるならば…。そんな方法がありますかね…?」
「えーと…」
俺は考える。
こういうときは…関わるみんなが得をする方法を考えるのが1番だ。和泉守(私称)殿、一鉄殿、十兵衛殿、そして…できれば俺も(?)。
損など誰もしたくないし、恥をかかされるのも誰しも耐え難いものだが、得は誰でもしたいのだ。みんなが得をする方法をとれたら1番いい。
「あ」
「なにか思いつきましたか?」
十兵衛殿がたずねる。
(いや、お前も考えろ?)
そんな考えが一瞬よぎったが、まぁいい。
「こういうのはどうでしょう?」
そして、俺は考えをまとめつつ稲葉一鉄殿に持っていく提案をみんなに話たのだった。
…。
「「そんな方法が!!」」
「その手だとそれがし達だけでなく、瑠偉殿も得をしますな!」
十兵衛殿が感心したように言った。
「ははは…結果的にはそうなりますかな?」
俺は少し目を逸らす。別に悪どいことをするわけでもないので、目を逸らす必要もないのだが…。なんとなく?
「そういうことなら、この件は瑠偉殿に万事お任せいたします」
十兵衛殿は納得した顔で俺にこの件を託したのだった。
「全力を尽くします」
俺がそういうと、皆んな安心した感じになった。
これで話は終わったかのような雰囲気だが…。
「では、この件に関しましては、その話をそれがしが一鉄殿にしに行くということで…。まだ、四国攻めの話もしないとですけどね」
「「あ」」
和泉守(私称)殿の顔は安堵したままであるが、十兵衛殿と内蔵介殿の顔はふたたび青ざめるのだった。
宇佐山城での話あいは、もうちょっとだけつづくんじゃ。




