一人反省会
天正2年1月2日 宇佐山城
「あーあ」
明智殿との話し合いが終わった後、俺は明智殿の小性に案内された客間で落ち込んでいた。
さっきの話合い、微塵も上手くいった気がしない。
なんでだ??そもそも説得って何?
(オモイカネ様)
〔なんじゃ?〕
(さっきの話し合い、上手くいった感じが全くしないんですけど…なんでだと思います?)
…。
……。
………。
知恵と知識と技術の神オモイカネ様はしばし、考えるように沈黙した。
〔なぜ、それを儂に聞く。儂は一応、神なのだぞ?人間の機微などわかると思うか?そなたは儂をなんじゃと思っておるのじゃ?〕
えーと…
(グー◯ル先生?)
…。
〔な、なんじゃと!?もう一度言ってみい〕
(いや…なんでもありません)
〔今度、儂をグー◯ル先生と呼んだら一生口を聞いてやらんからな。全く。〕
聞こえていたのなら、聞き返すなし。
〔まぁインターネットで検索できるレベルでいいなら、検索してやろうではないか〕
(ありがとうございます。では、〝人を説得する方法〟で検索よろしくお願いします)
あまりにさっきの説得がうまくいった感がなさすぎて根本的なことから調べてみたくなった。
〔うむ。しばしまて〕
って、オモイカネ様、検索機能があるじゃねえか。やっぱりグー◯ル先生…。ゴホンっ。
♠️
〔検索結果によるとだな…なになに…〝説得とは言動によって他者の理念や行動に変容をもたらすこと〟だそうじゃ〕
(なるほど。で、その他者の理念を変えるためにはどうすれば良いのです?)
〔説得の二大原則は、〝信用〟と〝理念や行動の変容によって得られる圧倒的なメリットや利益〟だそうじゃ〕
ふむふむ。〝信用〟と〝メリットや利益〟ってか。
…。
(ん?)
ってことは…。俺の説得がさっき上手くいかなかったのは、十兵衛殿の俺に対する〝信用〟か十兵衛殿に与える〝メリットや利益〟かのどっちかが決定的に欠けてたって…ことか?
俺は、さっきのやりとりを思いかえす。
俺はさっき十兵衛殿に金ヶ崎で受けた恩を返しに来たって伝えたよな?
それは、俺の本音であったはずだ。嘘ではない。
そして、このままだと天下が定った時に十兵衛殿は処断されかねないと忠告もしたよな?
俺の説得に応じることで今回の出来事による処断を免れるっていうのは、十兵衛殿にとって〝圧倒的なメリットや利益〟ではないのか?
メリットだよな??俺はちゃんと十兵衛殿に〝メリットや利益〟を明確に提示した。
(じゃあ、何がいけなかったんだ?)
〔ふむ。この検索結果に従うならば〝メリットや利益〟を提示して説得できなかったのなら、足りなかったのは〝信用〟ではないか?〕
オモイカネ様はそんなことを言いやがった。
(がーん…)
それを聞いて、俺はますます落ち込んだ。
(え、何?俺ってそんなに信用ないの??この世界に来てからというもの、この国を発展させるためにいろんな所をずっと駆けずり回ってるのに?ってか信用って何?どうやったら得られるの??)
〔〝説得って何?〟の次は〝信用って何?〟って疑問に行き着くのか、お主は…。めんどくさい奴。そんなことをしなくても、人を強制的に従わせることのできる神通力を持った女神像があるじゃろう。もともとそなたは今回、最後の手段として、その女神像の神通力を使うつもりじゃったじゃろうが。なぜ使わなかった?〕
…。
「ハァー」
俺はため息をつく。
(神って奴らはこれだから)
〔うん?〕
(神通力って使うと負けな気がしませんか?神通力を使って強制的に従わせても、根本的な問題は何も解決しないと思いますし。むしろ問題がややこしくなる気すらするんですけどね。だから、それは最終手段であってなるべく使いたくないわけです。そんなんだから、一万回繰り返しても事態がなにも変わらないんですよ。人間はトライアンドエラーで失敗しながらも前に進む生き物なんです。だからこそ、さっきは何がいけなかったんだろうって反省してるんです。わかります?)
〔そういうものか。ふーん〕
(ふーんって…。まぁいいです。説得と信用に関する話に戻りましょう)
ん?待てよ…。
神通力を使っても、根本的な問題の解決にはならない?むしろ、ややこしくなる?
何かがわかりかけてきた感じがする。俺が十兵衛殿に信用されていない理由が。
何で説得しに来た相手に殺気を向けられなければならなかったのかということも。
…。
これまでのことを思い返してみる。
俺が神通力に頼っているのは天照教の信者を獲得することのみ。それによる成果は、浅井・朝倉の攻略とその過程を他の大名に見せつけることで味方と敵の両方をいっきに増やしたことくらいか?
まぁ、細かいことを言えば倭寇の頭領であった林道乾殿を説得して味方につけたり、戦場で矢弾を味方に当たらないようにしてたり、式神をつかって周囲の情報を集めていたりもしているわけだが。
十兵衛殿は、俺のその力に怯えているのではなかろうか?その怯えが俺に殺気をむけるということに繋がったのではないか?
殺気を向けられて、十兵衛殿と話すのが億劫になった俺も悪かったけど。
(そういえば、〝言いがかり〟って言っていたな)
俺が同僚に言いがかりをつけて、同僚を潰そうとしているとでも?
俺は、そんなことをしたことがこれまでの人生で一度もないのだが…。
そんなことをする奴だと思われているならば、普通にショック。
まぁ、相手の方から雇ってくれと頼みに来たのを無理に引き抜いたと捉え違いをしていた俺も悪かったけども…。
それだけのことで殺気を向けられるというのはやはり、信頼関係ができてなさすぎるといえるか?
(どうしたものかな?)
俺は、その糸口を探るためにオモイカネ様に説得や信用に関するレクチャーを続けてもらうのだった。




