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ルイス・フロイス天道記〜Historia de Japon  作者: アサシン
領地経営から始める戦国攻略
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新年会2

天正2年1月1日 フロイス屋敷


 俺は織田家の新年会が終わってから自分の屋敷に戻った。こっちでもこれから新年会がある。


 大分酔っているからこれ以上、酒は勘弁してもらいたいのだが…。


「ただいま。…鷹狩りで鴨をいっぱいとってきた。鴨ちゃんこ鍋にでもして、みんなで食べよう」



「おかえりなさいませ。新年会の準備は整っておりますけど…だいぶ酔っておられるようですねっ。なにもこうたて続けに新年会をやらなくても…明日になさってはいかがです?」


 市殿が心配そうに提案してくれた。



「ありがとう。でも大丈夫。お酒を飲まなくてもいい秘策もあるし」


「そうなんですか??」



「うん。お酒の代わりの飲み物を用意してあります。子供達も飲めるやつ。市殿はお酒が良い??」



「ほほ。お酒も飲めなくはありませぬが…わらわもお酒以外でっ」



 婚姻の三三九度の儀式の時の市殿の飲みっぷりも見事だったものな。宗麟殿との酒宴の時も結構飲んでたし。



♠️

「新年あけましておめでとう。今年もよろしく。乾杯」


 鴨肉や鴨のつくねがふんだんに入った鍋や新年らしい酒肴を前にしておれが乾杯の音頭をとった。


「「「おめでとうございます」」」


 俺の隣には市殿。


 そして前の方の席には俺の義娘たる茶々、初が座り、三女の江は、乳母が抱いている。


 その後ろには俺の家臣達や侍女達も参列している。


 次女の初は、はじめから結構懐いてくれているが…長女の茶々とは市殿との結婚以来、一言も口をきいていない。こちらが話かけても恨みがこもった目で睨みつけられた挙句にそっぽをむかれる。


 まぁ、気持ちは分かるけど…現代人としては連れ子とも仲良くしたいのだけどなぁ。


 こんな時、戦国時代の人間はどうするだろう?放置??


「申し訳ないけど織田家中の新年会にも行ってきたところなので、最初の一杯以外は俺は酒以外のものをいただきたい。俺が今日飲むのはもっぱらこれじゃ」


 俺は、南蛮渡来のワインの瓶を掲げる。


 その瓶はコルクで栓もしてある。だが、中に入っているのはワインではない。



「なんですか?それはっ」


 俺が奉行職に抜擢した千代が尋ねる。



「ジンジャーエール…いや…生姜を発酵させて作った炭酸水じゃ。酒を飲めない者、酒癖に自信がないものもこれなら大丈夫なはず。そういう者達は申し出るが良い。これも長期間おいておいたら酒になってしまうから、まずは味見をしないとな。作ってから1日半しかたっておらぬし、大丈夫とは思うが…」


 そう言って俺は瓶の栓をポン、プシュと抜く。


 


 この飲み物の作り方としては、生姜をすりおろして水につけておき砂糖などの糖質を適量加えて室温で放置しておく。生姜に潜んでいる酵母が水の中で糖質を分解発酵してアルコールと二酸化炭素を出す。それを密閉して置いておけばジンジャーエールができるって寸法だ。


 知識と技術の神・オモイカネ様は作ってから3日はアルコール分も極めて微量だし子供に飲ませても大丈夫とおっしゃっていた。



 瓶の中身の液体は湯呑みにトプトプとつぐ。


 すると。シュワシュワと淡い黄金色の液体が湯呑みを満たした。



 ジンジャーエールを作ったからといってなんの役に立つんだ?という人もいるだろう。



(俺が飲みたかったんだよ)



 そしておれは湯呑みに口をつけて液体を少量、口の中に含む。


 うん。シュワシュワする。アルコール臭やアルコールの苦味は全然感じない。これなら子供が飲んでも問題あるまい。冬の井戸水につけてあったから、よく冷えている。辛口のジンジャーエールだ。



 子供が飲む分には、もっと甘味を足した方が飲みやすいか?



 俺は、砂糖の代用品として作らせておいたメープルシュガーを湯呑みに付け足した。


 メープルシュガーをつけたすと格段に飲みやすくなるな。



(うん。うまい)



 メープルシュガーはカエデの樹液からとれる。メープルシュガーの糖度も普通の砂糖とほぼ遜色がない。北海道でビートを作って砂糖を量産できるようになるまで代用品としてこれを宗麟殿に売ろうかな??


 そんなことを考えながら、今度は、市殿の湯呑みにジンジャーエールをついでメープルシュガーも付け足して混ぜる。



「ありがとうございますっ」


 市殿は見慣れぬ淡い黄金色の液体でシュワシュワと泡を出す飲み物を、興味深げに眺めた。


 そして、覚悟を決めたようにエイッて感じでぐいっと飲む。


(炭酸を初めてで、いきなりそんなに飲むと…」



「くっ…ふ」


 ゲップが出る。


「んっ。…このシュワシュワした飲み物、胸のあたりが重たくなる感じで少し苦しくなりますが…不思議な感じの飲み物ですね。慣れるとやみつきになりそうといいますか」



「うん。子供達にも飲ませて良い?江はまだ無理そうだけど」



「ええ。茶々、初。こちらに湯呑みを持ってきて」



「「はい」」



 初は楽しそうに。茶々は渋々という感じで返事をして湯呑みを持ってこっちに来た。


 茶々のやつ、こっちに来ても俺に対してそっぽを向いてやがる。



「殿が甘い飲み物を下さるそうですよっ。ほら、湯呑みを出して」


 初は何が貰えるんだろう?と期待に満ちた目でこちらを見ながら湯呑みを差し出す。茶々も湯呑みを差し出してこちらを見ているが、その目はなんというか…敵意に満ちている。



 まぁ、何はともあれ、俺は茶々・初の順にジンジャーエールをついでいってやる。そして仕上げにメープルシュガーを付け足して混ぜる。



「さぁ、飲んでみなさい。あんまりいっぺんに飲むと苦しくなりますから、ゆっくり少しずつね」


 市殿が娘達に優しく声をかけた。



 初は結構グイッといく。


 そして


「げっふぅー」


 盛大にゲップをして笑い転げた。


「あははっ。なにこれっ?甘いっ。シュワシュワするー。げってなるっ。おもしろーい」



 茶々のほうはというと


 おずおずとためらいがちに湯呑みに口をつける。


 そして少量をこくんと飲んで


「くふっ」


 遠慮がちにゲップをする


 それから


「おいしい」


 と小さくつぶやく。



「どうだ?うまいだろ??」


 俺はその光景を微笑ましく見守ってから、優しく言った。



「うん」


「うんっ!!」


 茶々は思わず頷いたといった感じで返事をしてから、(あ、しまった)という顔をした。


 一生、口をきかないつもりだったのに思わず俺と口をきいてしまったというところか?



 初は無邪気に元気よく頷いた。



 俺と市殿は茶々と初の反応を見て、顔を見合わせて微笑みあう。



「しかし、どうやったら水があんなにシュワシュワと泡を出すようになるのですっ??」


 市殿が興味深げに質問した。



「あのシュワシュワは炭酸っていう物質で、酵母っていう目に見えない小さな生き物が水の中で仕事をした結果できるものです。酵母は他に、酒の元となるアルコールっていう物質もだすのだけど。この飲み物の中には、まだアルコールはそんなに出来てないからあと一日くらいなら子供が飲んでも大丈夫。それ以上放っておくと酒になって、その後で酢になるんだけどね。酵母っていうのは酒や酢をつくる元になるってこと」


「へー、この中にそんな小さな生き物がいて、仕事をしているんですねっ。すごい。ねぇ、茶々、初?」



「嘘じゃ!」

茶々が反発したように声を張り上げた。



「嘘とはなんだ?」


 俺は静かに聞く。



「目に見えぬものが水の中で仕事をしているなど、どうやって分かるのじゃ?」



「それを見た人がいるんだよ。レーウェンフックって人が顕微鏡っていう器具を作ってね。その器具、いずれ作ろうと考えていたのだけど…この際だから国友村の職人に作ってもらうか。酵母も見せてやるよ。実物をみたら俺を嘘つき呼ばわりしたことを謝ってくれよ?」


 俺は怒っている感じでは全然なく、苦笑した感じでそう言った。


 悪いが、俺が茶々の父親や祖父や兄弟を追放したことと、検証されている科学やそれを説明している俺を嘘呼ばわりすることは話が別だ。そんなことをしていると、見識の狭い娘に育ってしまう。そこは、見過ごせないな。


 長政殿達のことは、茶々が俺の話をちゃんと聞いてくれるようになってから話そう。



 それはさておき、俺は抗生剤をつくるために顕微鏡はもともと作る気でいた。今がその好機だろう。抗生剤をつくる算段ももうついているし。



「いいじゃろう」 


 茶々は偉そうに頷く。


 ま、口をきくようになってくれただけでも関係は少しだけ前進したかな?



「よし、約束な」



「うん」


 茶々はしぶしぶといった感じでうなずいた。



「あのっ…それは…わらわもみたいですっ」


「わたしもー」


 市殿と初が興味深々で話に加わる。


 好奇心旺盛な母娘(おやこ)だ。



「みんなで見よう」


「はいっ」



 これで、家族の絆も少しは深まるかな?


 織田の血筋は好奇心旺盛な傾向にあるようだ。


 織田の血筋とうまくやっていく鍵はその好奇心をみたすことにあるのではないだろうか?


 では、明智光秀を説得する鍵はどこにあるのだろう?


 明智殿との付き合いもそろそろ長い。俺は、これまでのことを思い返して、改めて明智殿の攻略法を編み出そうと決心したのだった。


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