無礼討ちされるのは嫌なので法的防衛力を極振りします2
信長様による最終面接です。
永禄12年4月8日 二条城建設現場仮屋
俺たち宣教師と信長様の謁見は二条城の建設現場に建てられた仮屋において行われた。
宣教師の代表は、イタリア人宣教師グネッキ・ソルディ・オルガンティーノ師。のちに適応主義と呼ばれることになる当時としては珍しく原理主義にとらわれず、自分たちを現地の風習にあわせるような布教を行った人物である。
まあ、この人も俺の目から見たらかなり偏見を持っており、原理主義的なのだが…他に比べればマシな部類だと言っておこう。
それは、俺が入れ替わる前の本来のルイス・フロイスも同様であった。
とにかく、俺たちは西洋の椅子やテーブル、地球儀や帽子、マントや時計などを献上した。
献上品の中には黒人奴隷もあった。
この時信長様が地球儀を見て、地球が丸いという話に興味を持ち理解を示した話は有名である。
これらの献上品のうち、時計は信長様が受け取るのを遠慮した。「こんな精巧なものをもらっても壊れたら修理できない」と可愛いことを言って…。
そのかわりに…。通訳を務めていた俺に興味を持った(風を装った)
そして…俺を世界をしるものとして相談役もしくは軍師的な立場の賓客として側に置きたいと申し入れた。
俺を家臣にくれたら宣教師たちの望み通りのもの―京都に住む許可状と京都における布教許可状を朝廷に頼んでやると確約したのだった。
こうして、俺は正式に織田信長様に仕えることになった。
いや、この後茶室に呼ばれることになるので正式にはまだ、採用されていないのだが…
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軍師―軍司令官の賓客や相談役もしくは師匠として同等の立場で意見や策を述べる者。本当の意味での軍師は歴史上まれな存在であろう。
項羽に亜父と呼ばれた范増や劉備に三顧の礼を持って迎えられた諸葛亮あたりは軍師と呼べるだろうか?
俺がそのような存在に並ぶなどおこがましいことなのかもしれない。だが、ただの家臣に成り下がっては本能寺の変を防げない。俺が軍師として遇されることは必要なことなのである。
これから茶室での最終面接が行われる。軍師として認められるのか、ただの家臣に成り下がるのか…ここが第一の運命の分かれ目だ。
〈二条城建設現場特設茶室〉
ヴァリアーノ師らは帰り、俺だけが茶室に呼ばれた。織田信長は茶の湯を好んでおり、仮屋にも茶室をしつらえている。カフェインによる覚醒作用が好きなのだろう。
とにかく、今は織田信長と俺の2人きりである。
シャシャシャカシャカと茶筅の音が響きわたる。
そして、コトンと茶碗が俺の前に置かれる。
俺が飲むのを躊躇っていると…
「どうした?飲め。」
と信長様笑いかけた。
「いや、無作法なもので…」
「好きに飲むがよい」
俺は、まず姿勢を正す。
「では…。頂戴いたします」
そう言ってホストである信長様に一礼する。
「うむ」
茶碗は右手でとって左手のひらで持つだったはずだが、信長様が所有している茶碗は城一つの価値がありそう。万が一にも落とせない。ゆえに両手で捧げ持つ。
うろ覚えだが、たしか…茶碗は二手半まわし、…茶は三口半で飲むのが作法であったはず。その一口目だ。
「結構なお手前で」
また、一礼。
ふむ…抹茶は苦いとのイメージがあるが…立て方が絶妙なのか、にがさがあまり気にならない。温度も絶妙だ。これが最終面接だとわかっているためか緊張してガチガチになった心身にすっと染み込むような絶妙な温かさである。
思えば、抹茶の濃さも薄め。今の俺にはこれしかないという絶妙な温度と暖かさ、濃さなのである。
三口半で飲みきったあとには、俺の緊張感はだいぶ和らいでいた。
そして、飲み口を親指と人差し指で拭う。
拭った指は懐紙で拭う。
茶碗は最初に回したのと逆回しに二手半回して置く。
「ふむ、落ち着いたようだな…。それに、お主、作法をしらぬといいながら、だいたい知っておるではないか。…まあ良い。…儂とお前は夢の中であった。アマテラスオオミカミを名乗るものの紹介で」
「はい」
作法はうろ覚えだったが…〝だいたい知っておるではないか〟と言われるということは…部分的に怪しいところはあるが、だいたいあっていたということか……。
(良かった)
「お前を軍師として迎えよ。そして、お前の言うことを聞かないと儂はいずれ破滅することになると申しておったが…」
こう聞かれたので、俺は信長様の晩年が急峻な改革に反発した家臣たちに謀反を起こされて殺されることになると説明した。
「ふむ、儂のやり方は家臣の反発を招くのか…」
信長様の顔はショックで沈んでいる感じ。
「ご自分が生きている間に全てのことを片付けようとして焦られたようですね。これだけうまい茶を入れることのできる信長様が…」
「ふむ、焦りか…いつまでも周りの意見に耳を傾け、家臣に配慮することを忘れるな、と…よかろう。お前を俺の側に置いてやろう。…どう遇してやろうか?何ができる?お前は何者だ?」
これに対する答えは長くなる。
まず、ポルトガルの貴族出身で宣教師として高度な教育をうけたルイス・フロイスとしては、ポルトガル語、ラテン語、中国語、サンスクリット語、日本語を話せ、読み書きも出来る。いろんな国を巡っているから世界の情勢も詳しい。西洋の兵器や戦法、建築や芸術に明るく、ヨーロッパの貴族や貿易商や船乗りたち、キリシタン大名にも顔が効く。
それから、アマテラスオオミカミの使いの俺としては…実は2柱の神が俺に憑いている。
〝知識と技術の神オモイカネ〟と〝香取神道流の祖神フツヌシノオオカミ〟である。
オモイカネは地球ができてから俺が死んだ時代までのありとあらゆる知識と技術を持つ。
フツヌシノオオカミは香取神道流の祖神であり、日本の剣術、薙刀術、棒術、手裏剣術、柔術、築城術、兵法、陰陽術などがまさに神レベルの軍神。
最後に現代人としての俺。学校を大学まででて、プログラミング一本で大手のチーフプログラマーとなった。
この時代で使えるのは、歴史知識、進んだ科学の知識、あとは、プログラミングを組む論理的思考能力やバグをみつけて潰す根気、企画書や仕様書からどのようなプログラムを組んだらよりゲームを面白くプレイできるようになるか考えるという応用力、他職種とのチームプレイで培ったコミュニケーションスキルくらいだろうか?
…俺の身の上話をしていたら日が暮れてしまった。
「ふむ、お主は未来から来て、アマテラスオオミカミの力でルイス・フロイスと入れ替わったのか。それで、西洋とこの国の知識と技術、人脈を合わせもち、未来の知識まであり…神の加護もあると…。で元の録はいかほどじゃ?」
え?録?…年収か…。
「少々お待ちを…未来と今では貨幣が違うので現在の価値に換算いたします」
「うむ。」
俺の年収は1000万円。残業代を含めればもっとあるが…これをこの時代の価値に換算すると…。
確か一文が50円だったな。
そして、千文が一貫。
10000000÷50÷1000=200(貫)
200貫か…。石高制はまだ、導入されてないが検地が導入されて貫高制から石高制に移行した際は一貫が2石〜10石と地域によってばらつきがあったんだよな…。つまり石高にして、400石〜2000石。信長様の所領は中部地方で商業も農業も盛んであり、一貫が2石ってことはあるまい。年収1000万が400石は悲しすぎる。
1000石はあると考えたい…。
「年200貫ですね」
「ふむ、なら、倍の400貫やろう。働き次第では加増もする。軍師として迎えるし、そなたの意見は決して仇や疎かにしないと公言もしよう」
あ、給料が倍になった!
「ありがとうございます!恐れながら…あと、もう一つだけ織田様に頼みたいことが…」
「なんじゃ?」
信長様は怪訝な顔をする。その顔も威圧感があってなかなか怖い。
顔は俳優で例えるなら緒◯直人に似ている気がするのだが。
「…軍師として俺の意見を尊重するとともに、俺を殴ったり無礼討ちには決してしないというアマテラス様との口約束を文にして残して欲しいのです。」
「よかろう」
「ありがとうございます」
これで、俺の織田家中での軍師としての地位が確定した。そして年収2000万円、ゲットだぜ。
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