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ルイス・フロイス天道記〜Historia de Japon  作者: アサシン
浅井氏の興亡
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論功行賞2

天正元年11月末 岐阜城大広間


「嫁ですか⁉︎」


 信長様は反問を嫌うとはいえ、これは人生の一大事。

反問せざるを得なかった。



「ふむ。そう申したであろう」


 幸い、信長様は機嫌でも不機嫌でもなくそう返した。



「えっと…その件は今初めて聞いたので動揺が隠せぬのですが……嫁とはどこのどなた…でしょうか?」


 俺は言葉の通り動揺をしながらしどろもどろにきく。

政略結婚と言われ、一回もあったことのない相手と結婚させられる。――不安しかない。


「そなたも知っておるものだ。……市じゃよ」



「いっ……市様っつつつ?な…な…」



「菜とはなんじゃっ?不満なのかっ?」


 信長様の機嫌が急激に悪くなる。可愛い妹を貰うことに動揺されて大変、ご立腹の様子だが……


 いきなり信長様の妹であるお市様を嫁にやると言われて動揺しないわけがあるまい。



 まず第一に主君の妹を貰うということは、織田家の縁戚になるということ。

譜代の重臣たちの立場をこえて織田家の一門衆となる訳だ。―――外国人の俺が。



 次に、俺が浅井の領地の大半も拝領するということ。

これはとりも直さず、俺がお市様の元嫁ぎ先であった浅井を攻略するのに一番働いたことを示す。

そして、浅井長政がパタニ王国に旅だってから一月ほどしかたっていないのである。


「不満などとんでももございません。どこの骨ともしれぬ南蛮人のそれがしには身に余る光栄にございます。ただ……お市様の心境を思うと…複雑な気分になります。この件に関してお市様はどのような反応を示されたのでしょうか?」



「ふむ…そこが気になるか?そんなことを気にするとはそなたも変わった男よの」


 そりゃ気にするわ。この時代の人間はそんなことも気にしないのか?

 まあ…その傾向はあるかもしれないが……信長様の神経はとりわけ図太いのではないだろうか??


「それも、市は了承済みだと申したであろう。…長政を送り出してからずっと意気消沈しておったからな。新しい夫でも見つけてやろうと言ったのよ。そしたら……」


 …


 ……


(ちょ…ま……。こいつ…夫や子どもと生き別れて意気消沈している妹に、〝次の結婚をしてそんなことはさっさと忘れろよ?〟的なことを言ったの?)


 基本的に信長様は案外優しいところのある人間だと思っていた。家族思いで家臣思いだと。

実際に妹であるお市様を可愛がっており、身重の妹に安産祈願の御守りを持っていってやったりしていたのだが…。


 この発言は……


 俺はたまに信長様のことがよくわからなくなる。信長様の言動がぶれていると感じることがあるのだ。


(その要因はおそらく……)


 おれはそのような思案をしつつ口を開く。



「そしたら?」



「しばらく考えさせてくれと、つい最近まで自室に閉じこもって考えこんでおった」


 ……まぁ、そうなるだろうな。


「で、結論はでたか?と聞いたら……兄上の意向なら再婚します…と。そして、嫁ぎ先はフロイス師の元がよいと自分から申したのじゃ。〝フロイス師と兄上には守ってもらわなくてはならない約束がありますゆえ〟…とな」




「……約束」


 おそらくは浅井家の再興に関する話だ。

俺は、信長様に直談判して浅井長政・久政親子および長政の二人の息子達の命を助けるとの確約をとりつけた。

そして、パタニ王国に追放するが、パタニ王国で活躍すればその他で浅井家を再興する手伝いをするとも約束した。

 そして、俺とお市様は命をかけてその条件を長政殿に納得させた。



「そう。こうも申しておったぞ。〝その約束を守らなければわらわは兄と夫を刺す刃となりますっ〟わっはっはっ」


 信長様はそう、呵呵大笑した。


 その呵呵大笑を聞いていると俺も次第に愉快な気分になってくる。


「くくっ…くくく…あはっ」


笑いを堪えきれず笑いが漏れる。だめ……だめだ。


「「あはははは」」


 信長様と俺の笑いが重なる。


 ここは論功行賞の場。――周りは織田家の家臣だらけ。


 その部屋に二人の笑いが響く。

家臣たちは呆然としている。


 察するに、(こいつら妹・新しい嫁が約束を守らなければ、自分たちを刺すと脅しているのに何を面白そうに笑っているのだろう?)と呆れているのだろう。



 この結婚は約束を履行するための()()


 約束を履行しなければ妻に自分と主君を殺され、おそらくその妻さえも自殺する。


 その狂気にはスリルがある。俺がプログラマーとしてひっそりと製作に関わった物が称賛され、プレイヤーから感謝されるのも好きだが、スリルも好き。


 生き死にがかかるようなスリルも生きていることを実感できる。



 信長様もそうなのかもしれない。心のどこかでスリルを求め、破滅を望むところがある。


 それが俺と信長様にこの笑いを共有させているはずだ。


 俺はお市様という人間にこれまで以上の興味を覚えた。



(くくく。さすがは信長様の妹だ。信長様が一番気にいっている家族だ)



 そして、このように刃を突きつけてくる人間を一番近くに置いておけば、退屈だけはしなさそうだとワクワクする。



「そういうことならばこの縁談…謹んでお受けいたします」



「うむ。今度、市を不幸にしたら、ただではおかぬぞ⁉︎」



「ははっー」


 俺が平伏したその時、



「お待ち下さいっつつ!!」


 誰かの声が部屋中に響きわたったのだった。


この話は、斎藤道三がその娘・帰蝶に結婚の前の最後の挨拶で短刀を渡したエピソードを元に考えました。

「信長が噂通りのうつけならばこの短刀で刺せ」「この短刀は父上を刺す刃になるやも知れませぬ」

ここでも父娘が笑いあってますが、この時代の笑いは殺伐としていて独特なのではないでしょうか?

おそらく信長様からお市様への餞別にも主人公と信長様を刺すための短刀が含まれるでしょう。

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