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純情ロリ姉と平凡男子の高望み過ぎる恋の話  作者: きり抹茶
第1章 優里奈ちゃんは部活を作りたい
9/13

1-8 天地がひっくり返っても貴方が可愛いです

「帰るか……」


 入学式から早くも一週間が経過し、クラス内で仲の良いグループが細胞分裂の如く形成されてきた頃。

 俺はというと、大月と行動する時間が大半を占めていた。逆を言えば大月としか行動していない。瑞垣はおろか、気の合いそうな男子達の群れに混ざることができず、美少女(男)の笑顔に癒される日々が続いていた。


 果たしてこのままで良いのだろうか。大月と親しくなれたのはこの上ない喜びではあるが、平凡男子の俺なんかにはあまりにも虫の良い話だと疑って止まない。

 他のクラスメイトに嫉妬されないだろうか。そんでもって俺に白羽の矢が立たないだろうかと最近は心配している。考え過ぎかもしれないけど。


 しかし現状として解決策は思い付かないし、特に不満も感じていないので「明日のことは明日考える」ということで放課後の教室から立ち去ろうとする。


 出入口に手を掛けたところで背後から声が聞こえた。


「あ、あの……っ!」


 今にも周囲に掻き消されそうな、細々とした声だった。

 声量が無さすぎて、一瞬俺に呼び掛けたのすら分からなかったが、声は確かに俺に向いていた。振り向いた時に目の前にいたからだ。


「あのっ……その……」


 セーラー服に身を包んだその少女は俺と同じクラスの生徒。身長は周囲の女子より頭一つ分高く、艶やかなな黒髪ロングが特徴のモデル顔負けな子。


 言わずもがな、瑞垣(みずがき)彩愛(あやめ)だった。ブラウスの裾をつまみながらもじもじしている。


「えっと……何か用……かな?」


 突然の出来事に声が上擦ってしまった。だが無理を言うな。一目惚れした子が今まで会話すらしなかったのにいきなり声を掛けてきたのだ。これどんなギャルゲー?


「ひゃぅぅ……。その、ですね……」


 一方、瑞垣は顔を真っ赤にして何かを言おうと悶えていた。

 こんな事を言っては失礼かもしれないけど――滅茶苦茶可愛い。

 容姿はクールな印象なのに人見知りで、いざ話をすれば小動物のような可愛さを感じる。


 瑞垣はとんでもない奴だ。少なくとも、俺が今まで目にしてきた中ではダントツ。

 俺は益々瑞垣の魅力に惹かれていくのだった。


北杜(ほくと)くんに聞きたいことが……あ、あるんだけど……」


 瑞垣は精一杯の力を振り絞るようにして俺に一言。

 今……俺の名前を呼んでくれたよな?

 あの瑞垣が北杜くんって……。

 北杜くん。

 北杜くん……。

 北杜くん……………。

 ほk――


 やべぇ、同じクラスとはいえ名前を覚えてもらえているとは思わなかった。まさか瑞垣も俺に興味が…………な訳無いか。


 しかし俺に聞きたいことって何だろう。今まで目も合わせられなかった相手だから思い当たる節などあるはずが無い。

 固唾を飲んで問いの続きを見守る。だが瑞垣が紡いだ言葉は俺の想像を遥かに上回っていた。


「北杜くんの……か、彼女について教えてほしいな……なんて」

「…………はぁ!?」


 思わず大声をあげてしまい、瑞垣も驚いて一歩後ずさってしまった。

 それにしても彼女ってなんだよ。俺にそんなハッピーでエキサイトしちゃうような相手は存在しないぞ。


「悪い瑞垣……。俺に彼女なんていないんだけど……」

「そ、そうだったの……!? ごめんなさい……毎朝一緒に登校してたから、てっきり恋人だと思って……」


 赤く染まった顔を更に赤くする瑞垣の言葉を聞いて俺は納得した。非常にやるせない気分になったが、瑞垣の意図を理解することはできた。


「それは俺の姉だよ」


 ため息混じりに一言。

 毎朝ドヤ顔の姉を隣にして歩くという顔を覆いたくなるよな恥ずかしさを瑞垣に見られていたとは……。なんたる不覚。これでは俺への印象が「お姉ちゃん大好きなシスコン」と思われてもおかしくないではないか。北杜颯太、此処に玉砕ス。


 ところがどっこい。瑞垣の反応は予想の百八十度裏を突き抜けていた。


「姉……ということは年上、なの?」

「あぁ。二年生だが」

「おぉ…………!」


 瑞垣は目を丸くしていた。驚きというよりも興味深そうな表情をしている。少なくともドン引きはしていないようだ。


「だが言い訳をさせてくれ。俺は姉と一緒に学校に行きたい訳じゃないからな。あいつが勝手について来るだけで、だから――」

「私にお姉さんを紹介してっ!」


 な、なにぃぃぃ!?

 本日一番の声量で答えた瑞垣に仰天する。おかしいぞ……。この流れで何故瑞垣はゆり姉に興味を持ったんだ?


「紹介するのは構わないが……。なんで俺の姉を?」

「そ、それは……。か、可愛いから……かな?」


 いや百倍千倍一兆倍無量大数倍あなたの方が可愛いと思いますが。――というのは置いといて。

 これはもしかしたらチャンスなのではないか?

 瑞垣とゆり姉を会わせるには俺の介入が不可欠。つまり必然的に瑞垣は俺とコミュニケーションを取らなければならないのだ。現在進行形で続いているこの会話を発展させれば俺も瑞垣とお近づきになれるかもしれない。あんなお子様姉に会いたい理由は定かではないが、この機会を逃すわけにはいかない……!


「取り合えず姉に会えれば良いんだよな? 多分あいつは部室にいるはずだから案内するよ」

「うん、ありがとう!」


 瑞垣は小さい声ながらも笑顔でお礼を言ってくれた。あぁ、もうこれだけで十分幸せですわ。


「さてと…………あれ」


 ひと息ついたところで気が付く。そういえば瑞垣は最初、ゆり姉を俺の彼女と勘違いしていたよな?


「今まで瑞垣は俺の姉を彼女と思っていたんだよね?」

「……うん」

「ってことは瑞垣は俺の彼女が気になったから()に紹介してもらおうと頼み込んだわけか」

「…………っ!」


 図星を指されたのか、瑞垣は目を見開いたまま黙り込んでしまった。

 結果として勘違いで済んだから良かったが、瑞垣は他人の恋人に近付こうとしてその彼氏に直談判を試みたのだ。流石に恋愛感情は無いだろうけど、カップルの仲を壊しかねない行為は強気というか少々恐ろしい。

 一つの目標を定めると周りが見えなくなるタイプなのだろうか。かく言う俺もその気はあるからあまり瑞垣を責めることはできないが。


「ごめんなさい……。北杜くんを悲しませるつもりじゃ、無かったんだけど……」

「いや、気にしてないから大丈夫だよ」


 しょんぼりと落ち込む姿も愛らしい。今は瑞垣と会話できている事が嬉しくてたまらなかった。


「じゃあ行こうか」

「うん……」


 夕日が差し込む放課後の廊下を二人並んで歩く。このリア充感溢れる一時が永遠に続けばいいのに、と事実を知らない俺は呑気に思っているのだった。

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