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純情ロリ姉と平凡男子の高望み過ぎる恋の話  作者: きり抹茶
第1章 優里奈ちゃんは部活を作りたい
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1-1 何故かお子様姉がついてきます

「お財布持った? 家の鍵も持った? 他に忘れ物はしていないわよね?」

「お前は俺のオカンか」


 入学式の朝。着慣れない制服を身に纏い、出掛ける直前の仕度をしているとゆり(ねえ)が声を掛けてきた。上下桃色のパジャマを着ており、よく似合ってらっしゃる。

 しかし今日から俺は高校生になるというのに過保護な親のような世話焼きを実姉から受けるのは心地良く思わない。というか身支度くらい自分でできるし。


「うーん。お母さんじゃないけど(そう)くんの保護者だから一応母性を見せておこうと思ってね」

「いらんお世話だ。しかもゆり姉は俺の保護者じゃないし」


 寧ろゆり姉の保護者が俺といっても過言では無い。両親が海外に飛び立っていて家にいない以上、守るべき立場なのは明らかに俺なのだ。


「別にいいじゃん。私をお母さんだと思って甘えてみてよ」

「うわぁ、おままごとでもキツいっす」


 仮に俺の姉が背が高いモデル体型の美人だったら喜んで尻尾を振るが、こんなお子様な姉さん(笑)には死んでも甘えたくないぞ。


「なんでなの! ほらほらぁ、聖母ユリナ様にひれ伏しなさーい」

「あの、もう時間無いんで出掛けてもいいっすか、ユリナ様?」

「ふふ、それなら仕方ないわね。ではそこで四十秒待ってなさい。私が仕度してくるから」


 もうどこからつっこめば良いか分からないので返事はしないでおく。だがゆり姉は今仕度をすると言ったよな……?


「ゆり姉、ちょっと!」


 ドタバタと部屋を出て行くゆり姉を呼び止めようとしたが時は既に遅し。彼女の姿は見えなくなっていた。


「あの馬鹿姉、ついてくる気かよ……」


 入学式は午前中で終わるが、始業式は午後から始まる。つまりゆり姉はまだ休んでていい時間なのだ。それなのにあいつは……余計な世話ばっかしやがるな。



 数分後。



「じゃじゃーん! どう、私の華麗な制服姿は」


 セーラー服に着替えたゆり姉が現れた。どう、と言われても一年間見てきた姿なので特にコメントすることはない。強いて言えば体型と似合わないね、といったところだろうか。


「ゆり姉、リボン忘れてるぞ。胸の」

「うわぁ本当だ! ……ってそんな残念そうな目で私の胸を見ないでよ!」

「いや……可哀想だなと思って」

「むぅ、私だっていつかボインなお姉さんになるんだからねっ!」


 捨て台詞と共に部屋を飛び出したゆり姉を見て思う。他人の心配をする前にまず自分の心配をしろ、と。そして貴方に巨乳は似合わない。



 ◆



 四月らしい暖かな空気が街を流れ、天気は快晴。桜は半分程散ってしまったけれど今日は最高の入学式日和だと思う。隣をひょこひょこと付いてくる小学生(高校生)を除けば。


 結局俺はゆり姉と一緒に登校する羽目になった。恐らくこんな日常が明日からも続いていくのだろう。考えるだけで頭が痛くなる。


「むふふ、これからは学校でも毎日会えるね。お姉ちゃんは嬉しいよ」

「あぁ、俺は人生最大の過ちを犯したのかもしれないぜ……」


 高校受験の際、俺は自分の成績に見合う『私立姫華(ひめはな)高校』を第一志望校として選んだ。学校別の偏差値は平均よりも高く、校風も良好。おまけに自宅からの距離も近いため文句の付けようがない。だが唯一の懸念点があるとすれば姫華高校には既にゆり姉が居るという事だった。


 しかし当時の俺は「学年も違うし一緒でも問題無いだろう」と楽観視しており、特に何も考えずに願書を提出していた。そしていざ合格してしまったらこの有様だ。四六時中ゆり姉に付きまとわれる毎日が訪れる。もはや逃げ場はどこにもない。まさに四面楚歌だ。


「あーあ、ゆり姉がもっと馬鹿だったらこんな事にはならなかったのに」

「もう、またそうやって言い訳をするの? 本当は私と同じ学校に通いたかったんでしょ?」

「んな訳ねーだろ。俺は卒業後の進路とか色々考えて姫高を選んだだけだ」


 成績のレベルがゆり姉と同列な事が悔やまれる。家事以外に関しては何をさせても不器用なゆり姉だが、勉強だけは無駄にできるんだよなぁ。しかも俺は弟だから姉より先に高校を選ぶ事はできない。くそぅ、これが年下の宿命というヤツなのか……。


「でもどんな理由をつけても私は嬉しいからね。ふふ、昼間も颯くんと一緒だなんて……」

「うっせ。俺は彼女を作って高校生活を満喫するつもりなんで。ゆり姉が入る余地はありませーん」

「あら、颯くんに彼女なんてまだ早いんじゃないのー? このスーパービューティーなお姉さんの私ですら彼氏がいないというのに」

「……ゆり姉にだけは言われたくないな」


 得意気になって平たい胸を張るゆり姉を正論で制す。



 適当なホラばかり吹いている我が姉だが、彼女は高校に入学してからずっと片想いをしている。相手は一つ年上で爽やか系のイケメンらしい。しかしイケメンの中でもトップクラスに君臨する超絶格好良いイケメンらしく、彼の周りには常に美女が取り巻いているのだとか。


 ゆり姉はまるで少女漫画の主人公の如く彼に一年間片想いを続けている訳だが、声を掛けた事は一度も無いという。当然だが相手からいきなり話し掛けられるベタなドラマ的展開も無いので、ゆり姉の恋は恐らく一方通行で終焉を迎えるものと思われる。


 意気地無し――というより理想が高過ぎるのだ。高校選びと一緒で、自分のレベルに合った人を探すべきだと思う。ゆり姉の場合だと……取り敢えず背が低い男子を狙ったら良いんじゃないかな。


「私だって頑張ってるのよ! 今に見てなさい…………ってあれ」


 とことこと前へ駆け出し、道端に落ちていた何かを拾うゆり姉。


「こらこら、お外の物はばっちぃから触っちゃ駄目ですよ」

「私はやんちゃな幼稚園児かっ!」


 ゆり姉、ナイスツッコミ! この手のフリには即座に答えてくれる辺り、日頃から相当気にしているのだろうな。


「それで、何を拾ったんだよ。金か?」

「いや、これなんだけど……」


 言いながら見せてくれたのはオレンジ色のシュシュだった。きっと誰かの落し物だろう。持ち主に届けてあげたいが、手掛かりは無いし見つけるのは難しいよな……。


「うーん、誰のか分からないしそのままにした方が良いんじゃないか? 落とした人が気付いて戻ってくるかもしれないし」

「違うわ颯くん……! これは一世一代のチャンスなのよ!」

「は?」


 俺は至極真っ当な事を言ったつもりなのに何ドヤ顔で否定してるのこの人。


「名探偵ユリナ的に持ち主は私達と同じ生徒だと思うのよね……」


 顎に手を当てながらその場に立ち尽くすゆり姉。また面倒臭そうな遊びが始まったな。


「目立つ位置にあったこのシュシュは恐らく落として間もないと推測するわ。そして今の時間帯でこの道路を通る人は姫高の新入生がほとんど。つまり――」

「つまり…………?」

「これは颯くんがリア充になる為の片道切符なのよ!」

「ちょっと何言ってるか分からない」


 最後まで聞いて損した。取り敢えずシュシュは道端に戻させておこう。


「なんで分からないのよ! いい? もし持ち主の女の子に颯くんがこれを届けたら相手は喜ぶでしょ? それが運命の出会いになるかもしれないじゃない!」

「あぁ、落としたハンカチを拾って始まる恋的なヤツか」

「そうそう、それ!」

「ばーか。んなもん現実で起こるかっての」


 これだから脳内メルヘンチックの乙女は困る。少女漫画の世界ほど三次元は甘くないのだ。


「もう、颯くんったら夢が無いわね」

「だって有り得ないもん」

「でも可能性はゼロじゃないでしょ? ――ということでこれは颯くんに託すね!」


 ゆり姉はそう言って手元のシュシュを強引に俺の胸元へ押し付けてきた。やれやれ、この調子だと俺は素直に受け取らざるを得ないだろうな。


「仕方ない。一応探してみるけど、見つからなかったらゆり姉に返すからな?」

「え、私はいらないわよ。それに、最後に触った人が処分するって決まりでしょ?」

「押し付けがましい小学生かよ」


 昔よくいたよな。物を片付ける時に「俺最後に触ってないから知らなーい」とか言う奴。そしてお互いに押し付けあった挙句、先生に怒られるのだ。


「……颯くんが付けたら似合うかもしれないよ?」

「アホか。女装なんて俺の趣味じゃねぇよ」

「ふふ、照れてるのー? もう可愛いなぁ颯くんは」

「…………うっせ」


 妹だったら無理矢理にでも黙らせてやろうと思うのに。

 はぁ……なんで俺はゆり姉より一年遅く生まれてしまったのだろうか……。


「ま、冗談はさておき、早く学校へ行きましょ? 遅刻しちゃうといけないからね」

「ゆり姉が言えたセリフじゃないけどな」


 思わず溜息が(こぼ)れる。


 身勝手な姉と共に歩く通学路。道のりはまだ長く続きそうだ。



 ◆



 俺達が歩いている道路は人通りがまばらだったが、高校へ近付くにつれて新入生と思わしき生徒で賑やかになっていた。


 そんな中――


「ねぇ(そう)くん。暇だから昨今の動物虐待の傾向と対策について語り合いましょ?」

「やだ」


 使い込んでくすんだ色をしているスクールバッグを肩に掛け、周囲から浮いた存在のゆり(ねえ)がひっきりなしに俺に構ってくる。実に鬱陶しい。


「虐待する人って心に余裕が無い人だと思うのよね。取り締まりを強めるのも大切だけど、追い詰められている人へのケアも大事だと思うの」

「おい勝手に話を進めるな。許可した覚えは無いぞ」


 何故朝っぱらから姉と動物虐待について考えなくてはいけないのか。どうせならもっと入学式に相応しいテーマがいいのだが。


 しかしそれからもゆり姉はピッチングマシンの如く次々と俺に話題を投げつけてきた。もう相槌を打つのも億劫になってきたので目も合わせずに無視している。それでもゆり姉は構わず喋り続けている。……少し可哀想に見えてきたな。



「おぉ……」


 ふと前方のコンビニから一人の女の子が出てきた。ゆり姉と同じセーラー服を着ているので姫高の新入生と思われる。

 それから彼女は俺達より数メートル前を歩き始めたのだが、俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。



 何故ならその子は――とても美しかったからだ。

ゆりなちゃんが教えるしぞーか豆知識

②静岡の発音

今まで気付かなかったけど、多くの静岡県民は静岡を「しずおか」じゃなくて「しぞーか」って言ってるらしいわ。

その方が言いやすいし、いちいち「ず」を発音するのは面倒臭いのよね。

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