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純情ロリ姉と平凡男子の高望み過ぎる恋の話  作者: きり抹茶
第2章 優里奈ちゃんは同盟を結びたい
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2-1 それならパシリでも構いません

 恋愛研究部――部長:二年C組 北杜(ほくと)優里奈(ゆりな)

 活動内容:外部若しくは部員の恋愛を主軸とした悩みの解決・相談の引受。引受後は恋愛成就の為の情報提供を実施し、持続的かつ円滑な学校生活を享受できる支援を総合的に行う。



「こんな感じかしらね……」


 放課後の部室。一枚の書類――部活動開設申請用紙と睨めっこしながら呟くのは部長を務める俺の姉。


「良いと思うわ。流石ゆりっちだね。こういう真面目な文章を考えるのは一番上手だよ」


 隣でベタ褒めしているのは忍野(おしの)先輩だ。両手を合わせながら気品ある笑顔を浮かべている。


「凄いです先輩! 小さくて可愛いのに大人っぽい文章まで書けるなんて……益々好きになっちゃいます!」


 俺の隣では瑞垣(みずがき)が興奮気味な口調でゆり姉を讃えていた。一部、愛の告白も混ざってはいるが。


「ゆり(ねえ)は無駄に成績優秀だからな。()()に」

「あら(そう)くん、それは嫉妬かしら? 私に勉強では勝てないもんね〜」

「ぐっ……」


 事実、ゆり姉は頭が良い。特に堅苦しい文書を作るのは得意なので、委員長や生徒会等の役職によく抜擢(ばってき)されるのだそうだ。


「じゃあ書類は帰りに私が出しておくから。早速今日の活動に入りましょ」


 パンっと手を叩き、晴れやかな顔のゆり姉が声を上げる。


「私をより魅力的にさせる服が欲しいわ。ということで、貴方達にはその服を選んできてもらいます」

「…………はい?」


 どんだけ身勝手な提案を押し付けるんだよ俺の姉は。こんなお姫様みたいなワガママを誰が受け入れるか――


「面白そうだね〜。ファッションの事なら私に任せなさい」

「優里奈ちゃん先輩の服を私が……ぐへへ、それなんてご褒美……」


 ああもう駄目だ。まともな部員は俺しか居ないらしい。早く何とかしないと……。


「大体、ゆり姉の服を選ぶのと部活動は全く関係無いだろ。勝手に私情を持ち込むなよ」

「いいえ、関係あるわ。これは私が鰍沢(かじかざわ)くんにアタックする為の前準備なんだし。それに、颯くんにもメリットはあるのよ?」

「俺に? 何がメリットなんだよ」

「それは秘密。いいから私の指示に従ってみなさい」


 先程から偉そうな態度で話すゆり姉が気に食わないが、彼女なりに計画は建ててあるらしい。

 素直に首を縦に振るのは弟として屈辱的であったが、ゆり姉は嘘すら付けない程に分かりやすい性格。服を買うだけで俺に何かしらの報酬があるのなら従ってやっても構わないと思った。

 我ながら現金なヤツだと思うが、ゆり姉と同じ血を引いている以上仕方の無い事かもしれない。


「日程はどうするんだ? 今から行くとかは無しだぞ」

「ふっふーん。颯くんノッてきたねぇ。日にちは来週の土曜日でお願いできるかしら。場所は柿田川(かきたがわ)モールね」

「やけに細かい指定をするんだな」

「欲しいブランドのネックレスがあるの。その日限定でしかも数量も限定だからね」


 まさかゆり姉の口からブランドという言葉が聞けるとは思わなかった。ブランコじゃなくて、ブランド。

 しかしお洒落に無頓着だったゆり姉も恋する乙女のパワーでここまで進歩できるのか。俺も負けてはいられないな。


「ではそのネックレスは私が責任を持って確保させていただきますね! もし人波が押し寄せて優里奈ちゃん先輩に危害が加わったら大変ですから」

「だから優里奈ちゃん先輩って呼び方はやめなさいって! それに私は行かないから。別件で用事があるし」


 ゆり姉は両手を腰に当てながら言い切った。


「珍しいな。普段のお前なら家でドラマを見てだらだら過ごす休日が当たり前なのに……。用って何なんだ?」

「あら、レディーに細かい質問は禁句よ。颯・く・んっ」


 うぜぇ。弟に向けてウインクをするな。気持ち悪いから。


「ということは弟くんと彩愛ちゃんの三人でお出かけだね。ふふ、楽しみだわ」


 うっとり笑顔の忍野先輩。そうだった。ゆり姉が居ないのは俺にとって好都合じゃないか。

 美人の二人と出掛けるなんて……夢のような話だ。


「そういえば私優里奈ちゃん先輩の連絡先まだ知らないんですけど! 忍野先輩も知らないですし……当日集まる時困りませんか?」


 瑞垣はここぞとばかりに声を張り上げる。なるほど。連絡先交換とは……名案じゃないか。


「それもそうね……。貴方には教えたくないけど……」


 瑞垣の熱視線に怯えつつあるゆり姉。仮にも部長なのだから、もう少し威厳を持ってほしい。

 一方、笑顔で部員の掛け合いを見守る忍野先輩は最も合理的とも言える折衷案を提示した。


「皆LI〇Eはやってるかな。グループトークで連絡し合えば楽じゃない?」

「それです先輩! 早速グループを作りましょう!」


 すっかり乗り気になった瑞垣が先導する形で俺達はL〇NEの情報を交換することになった。

 それぞれスマホを取り出し、不規則にスマホを振る。こうすることでお互いに友だち登録ができるのだ。


 中学時代の友人数名とゆり姉というみすぼらしいラインナップだった俺のスマホ画面に新たな名前が二つ加わった。赤く点滅するnewマークを見るのも久方ぶりだ。


 思えばあの日、後ろ姿だけで一目惚れした女子――瑞垣彩愛。彼女の名前が今、俺の手元に映し出されている。間接的ではあるが連絡先を交換することができた。これからはメッセージを送れるし通話だってできちゃう。こんなにも嬉しい出来事があるのだろうか。


「おおお! これが優里奈ちゃん先輩のアカウント……! 愛でたい……名前を見るだけで興奮してしまう……」

「き、気持ち悪いわね。身の危険を感じるんだけど……」


 当の本人、瑞垣は俺への興味なんて一ミリも無いようだが。どうやら愛情は全てゆり姉に極振りしてるらしい。


 それでも瑞垣を一目見れば胸の鼓動は途端に速くなる。勝手に意識して思い上がってしまっている自分がいる。

 たかが一緒の部活になれただけで。たかが連絡先を交換しただけで。関係は何一つ変わっていないというのに俺は見えない何かを期待していた。



 詰まる所、来週の土曜日が楽しみで仕方なかったのだ。

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