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純情ロリ姉と平凡男子の高望み過ぎる恋の話  作者: きり抹茶
第1章 優里奈ちゃんは部活を作りたい
10/13

1-9 清純派美少女の本性が分かりません

 高校生活を満喫するという当初の目標は早くも達成されようとしていた。

 最終ラウンドである『彼女を作る』にはまだまだ程遠い道のりだが、俺の隣――いや、少々()()には今、素晴らしい顔立ちの美少女が歩いている。相手は人見知りだから雑談も出来ずに奇妙な沈黙が続いているが、行動を共にしているだけで俺は嬉しい。


 ところで、瑞垣は何故俺の前を歩いているのだろう。ゆり姉の居場所は知らないはずなのにウキウキした表情で我先に進んでいる。


「なあ……まさかこれから行く場所知ってるのか?」

「え…………ひょえ!?」


 瑞垣はまるで鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしている。まさか――


「し、知らないよ? うん、私ぜーんぜん、知らない」


 知ってるのかよ。

 あからさまな態度で嘘をつく所はゆり姉と同じだな。でもゆり姉と違ってイライラする感情は沸いてこない。寧ろ可愛げがあると思う。これが恋の力というヤツなのだろうか……。


「じゃあこの先はどうする? 階段を上る? それとも下る?」

「下る! そして右に曲がって真っ直ぐ進んで…………あっ」


 正解。よくできましたね。

 俺の超低レベルな誘導尋問にまんまと引っ掛かった瑞垣は顔を真っ赤にして固まっている。あらやだ可愛い。見た目のプロポーションが完璧なだけに、そのギャップがたまらないな。


「理由は聞かないから気にしなくていいぞ。さっさと行こうぜ」

「うん………」


 それからの瑞垣は終始顔を俯けていた。きっと相当恥ずかしかったのだろうと思う。



 ◆



「失礼しま…………えっ」


 恋愛研究部の部室という名の第二講義室に入ると驚きの光景が広がっていた。


 部屋のド真ん中でゆり姉が倒れていた。大の字になって倒れていた。制服が汚れそう。クリーニング代が結構かかるからやめてほしいな。

 また、背中を床と仲良く擦り合わせているヤツの傍らには忍野先輩が立ち膝をついて見守っていた。なんだこれ。


「吉野さん! 貴方がいなかったら誰がチ〇ルチョコのコーヒーヌガー味を買ってくれるのよ!」


 大袈裟な身振り手振りを混じえながら忍野先輩が力説する。知らんがな。チョコくらい自分で買ってこいや。


「ミルク味だけじゃ私の愛のミルクは満たされ…………あら、弟くんこんにちは~」


 忍野先輩は俺と目が合った途端、スイッチが切り替わったかのように穏やかな表情に戻った。演技中……だったのだろうか。


「ん、なになに……。おっと颯くん! いよいよ入部する気になった? それともお姉ちゃんに会いたくなって悶える気持ちを抑えながら来てくれたの? もう、そんな意地張らなくてもいいのに。家ではいつも欲求を爆発させてラブラブ――」

「いい加減黙れ。口を閉じろ。そして二度と開けるな」


 むくりと顔だけこちらに向けたゆり姉が早口で妄言を吐いていく。先輩等、第三者がいる場で嘘八百を連ねるのはやめてほしい。しかもよりによって瑞垣がいる目の前で……。


「ねえ北杜くん……。まさか貴方お姉さんと……」


 隣を見れば瑞垣が死んだ魚のような目をしていた。ほらみろ、早速誤解してるじゃないか。


「ち、違うんだ。あいつはただ俺をからかってるだけで……。決してやましい関係なんかじゃないぞ?」

「本当……?」

「ああ、本当だ」

「そう。…………なら良かった」


 瑞垣の漆黒に染まった瞳に光が戻り、口元も柔らかく緩んだ。


 もしかしてこれは――俺が近親者とピーするような変態ではなかったことに安堵しているのか? ということは瑞垣は俺に興味があって……? いやいや有り得ん。そんな都合の良い話を妄想すると後で悲しくなるからやめておこう。


「で、ゆり姉は何してたんだよ。地べたに寝たら制服が汚れるだろうが」

「それはね……鰍沢(かじかざわ)くんと付き合った時の()()()()()()()をしていたのよ」


 埃で白くなったスカートを手で(はた)きながら答えるゆり姉。きっとシミュレーションと言いたかったのだろう。本人は気付いていないようだが、俺も敢えて指摘しないでおく。これぞ面倒事を引き起こさない弟の(かがみ)


「ドラマの真似をすれば女子力が上がるんじゃないかってゆりっちが提案したのよね……ふふ」


 口元を手で抑えながら忍野先輩が補足する。どうやら笑いを堪えているようだ。きっと考えている内容は俺と同じだな。


 しかしながら少女漫画脳(ゆり姉)のお遊びに付き添ってくれる先輩も大変だと思う。いつも姉が迷惑をかけて申し訳ありません。


「か、可愛い……」


 一方、俺のすぐ隣では小声で何かを呟く瑞垣がいた。彼女の視線はある一点――ゆり姉にロックオンしている。そうだった。早く紹介してあげないと。


「ゆり姉、この子瑞垣彩愛って言うんだけど、お前に会いたかったらしいぞ」

「私に? でもその子は颯くんが見惚れてたおん――」

「だあああああ」


 目にも留まらぬ速さでゆり姉の前に移動。慌ててその口を塞ぐ。


「まぐぐんごぼ(何すんのよ)」

「余計な事を喋るな。いいな?」


 瑞垣に聞こえないように小声で警告する。


「むごご……ぶっはぁ。……良いじゃない別に。私だって好きな人が誰だか教えているんだし」

「だからって本人の目の前で暴露しようとするなよ」

「あれ、まだ告白してなかったの?」

「してねぇわ!」


 一年以上片想いをしている奴に言われたくない。


「それなら仕方ないわね。じゃあ話は合わせておくから。颯くんも頑張ってね」

「おぅ、助かる」


 意外にもゆり姉は素直に従ってくれたので、俺は早々と元いた位置に戻る。


「どうかしたの、北杜くん?」

「なんでもないよ。気にしないで……」


 目を丸くして首を傾げる瑞垣が可愛い。わざとらしくない自然な素振りが良いんだよな。


「おっほん! えーと、瑞垣さん? 私は北杜優里奈。こう見えて二年生なのよ。貴方よりも()()だからね。つまり先輩ってわけ」


 一方、ゆり姉はわざとらしい咳払いをしながら自己紹介。なお、後半は語気を強めながら年上アピールをしていた。後にナメられないように威厳を見せておこうという意図が丸見えである。


「はい、先輩…………よろしくお願いします」

「うむ、分かればいいのよ」


 そうやって偉そうに(無い)胸を張るから子供っぽく見えるんだけどな。


「その……私、ずっと先輩に会いたかったんです。入学式の朝の時からずっと……見ていました」


 瑞垣はうっとりした表情で俺の姉に告げた。

 しかし瑞垣の態度は先程からおかしい気がする。仮にゆり姉が憧れの対象になったとしたら、普通は尊敬の眼差しで見るだろう。だが今の瑞垣はまるで小動物を可愛がるような目をしている。まあ、ゆり姉の図体(ずうたい)からすれば、あながち間違ってないだろうけど。


「あら、光栄ね。早くも私の魅力に気付いてくれたってことかな?」

「はい、その通りです! それで……先輩にお願いがあるんですけど……」

「なにかしら? 可愛い後輩の為なら何でも言う事聞いちゃうわよ」


 おだてられ、すっかり上機嫌なゆり姉。本当に単純な奴だ。()()()言う事聞くだなんて軽々しく言ってはいけないというのに。


 とはいえ相手は清純派美少女の瑞垣。大したお願いではないだろうと思われたのだが、彼女の発言によって場の空気は一変することになる。そして、俺が瑞垣に抱いていたイメージも全て塗り替えられたのだ。


「では……先輩のカラダ……触らせてくれませんか?」

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