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Souls gate  作者: 大野 大樹
一章 救済
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8.普通の魂

「異能者だってわかってどうなるの? 西遠寺的に。異能者が総て陰陽師に向いているわけじゃないんでしょ? 」

 俺が、ここにきて間がない時、『仕事』に行く楠にこんなことを聞いたことがあった。

 あの頃は、まだ異能者かもしれない、って情報提供があった人を柊の兄ちゃんやら楠が見に行っていた。それを、楠は『仕事』と呼んでいたんだ。

「さあねえ。でもそもそも、異能者じゃないと西遠寺の陰陽師にはなれないでしょう」

 楠が相変わらず線にしか見えない目でこっちを見た。

 目、瞑ってるのかな? 

 そんな疑問を持つのをやめたのは、だけど結構最近。

 それまでは、彼の目ばかり気になって、隙さえあれば見ていたものだ。まあ、それだけ暇だったんだ。俺は、ずっと何かを考えていないとダメなタイプだからね。分からないことを分からないまま放っておくことも、無理。

 だから見てたわけなんだけど、結局今でもわからない。だけど、今はもう気にならなくなった。やっぱり、人間慣れるし、飽きる。

 今は、『Souls gate』の企画と改良があって、いい暇つぶしになっているから、どうでもいいに変わったってのが正しいかも。

 だけど、楠に隙が無いのも確かなんだ。動きにも無駄がないし。何か音がしたら、瞬時でそっちを向いてる、武士みたいだね。‥命でも狙われてたのかな。

 ここら辺は、結構いつもだらだらしてて、隙だらけな柊さんと違うところだね。

「だけど、まあ、どういうのが陰陽師に向いてる魂なんだかわかんだけどね。だから「普通じゃない」魂‥異能者を見分けることまでが僕たちの仕事」

 楠が笑った。

 聞いたことは、大概教えてくれる。

 嫌な顔されたともない。

 物知りだし、大層いい大人な楠の事は、実は気に入っている。だけど、最初に「楠」って呼び捨てしてしまって以来、何となく『兄ちゃん』と呼び直す機会を失ってしまった。

 どうも、素直になれないね。

 そもそも、人が良さ気なあの笑顔がいけない。‥何となく何を言っても許さるような気にさせられる。最初にあの笑顔を向けられた時、「け、偽善者が。それに、俺のこと子ども扱いしてるのか、舐めるなよ」って条件反射で反発心が芽生えた。

 で「楠」。

 大人げないのは、どっちだって話だ。(実際に子供なんだけど)

 それでも楠は、そんなことで俺に対する態度を変えたりなんてしない。

 誰に対しても、嫌な態度を取ったりなんてしない。それどころか、親切だ。本当にささやかだから、当人以外気が付かないんじゃないかって位の事しか、楠はしない。

 こんなことがあった。ここにきて、もっと間がない時、だけど時々なんか寂しくて仕方なくなって、でも誰にも言いたくなかった時、気が付いたら楠が横に座っててくれてた。それがすごく安心したことを今でも覚えている。それからでも、俺がいて欲しいって思うとき、いつも楠は俺の傍にただ座っててくれた。

 心が読めるのか? 

 って思ったことがあるけど、どうやらそうではないらしい。(だったら、もっとうまく人間社会を渡ってそうな気もする)

 多分、何となくこうした方がいいって思うから‥だろう。って俺も、これに対する確信もなく、何となくそう思うってだけのことなんだけど。

 柊の兄ちゃんのこと、何となくだけど、一番理解しているのも楠だ。(多分)

 楠はいい奴だ。

 だけど、俺たちが楠のことについて知っていることは、あまりない。楠は、自分から何かを話すことも、自分の家族のことや自分のことを語ることもない。

「わからないんだ。家族のこと‥そりゃ名前だとかは分かるよ? だけど、それだけ。何考えてるかとか、僕のことどう思ってるか、そんなことはわからない。それどころか自分のこともわからないよ」

 と明るい口調で言って、「別に嫌な思い出があるわけではない」アピールをしていた。だけどたぶん、別にいい思い出もないんだろう。



「普通の魂‥」

 と、口に出して呟いた。

 最近のことではない。だけど、記憶力もいい俺は、あったことを忘れることは、まあ、ない。俺が「どうでもいい」と判断して、頭から消し去った、もしくはそれ以前に頭の端にも残らない事ならともかく、未消化なまま頭に何となく残り続ける言葉というのは、実は割によくある。そんな言葉が、何かのきっかけで出て来る。

 ワード検索みたいなのが脳内で絶えず行われてるって感じだと思ってもらえればいい。

「ん? 何? 」

 さっきまで俺に背を向けて、パソコンを操作していた楠が、椅子ごと振り向いて、あの時と変わらない笑顔を俺に向ける。

「俺の魂も普通じゃない? 」

「うん。普通じゃない。梛は‥ごめんね‥何のっていうのはわかんないんだけど、普通よりずっと力が強いって分かる。知識も考えも感情も普段は、特に逆らうことなく体に入れてしまう。だけど、時々キャパがオーバーして反乱する」

 びっくりした。

 そういえば、こういう話をしたことはなかった。

「力が強い? 」

 ‥楠は、そういうふうに他人のことを見ていたんだ‥。そういう風に、楠には他人が見えていたんだ。

「柊さんで言うところの、違和感が強い。だけど、梛は嫌な感じじゃないらしい。‥変な分け方だよね。嫌だとか嫌じゃないとか。まあ、火と相性がいいか悪いかって話なんだけどね」

 楠は、俺に背を向けて再びパソコンに向きかえりながら続けた。

「うん? 」

 突然始まった、ついていけない「自論」に、俺は慌てて楠の横に座って聞く体制を取った。

「梛は‥火でも水でもない‥何だろう、そういった動きがあるものじゃないんだよね。もっと、どっしりとした‥」

 凄いスピードで打たれていく文字列は、しかしながら、楠が今話していることと関係がないことのようだ。

 楠は俺のことを、天才だっていうけど、小難しい話をしながら、別なことをできるっていうのも十分器用だと思う。

「僕は、普通じゃない魂って、そういう特別な魂のことだと思っている」

「特別な魂‥」

 楠の手が止まり、印刷を選択する。

「そして、そういう魂は、自分の為すべきこと、自分の性質を自分で定めることが普通より困難だとも思っている」

 そして、部屋の入り口付近に置かれたレーザープリンターに出力した原稿を取りに行く。

 その間も、楠は話すのを止めなかった。

 突如、入り口の自動ドアが開いた。

「だけど、間違わなければ、それはどのようにでも使える力だともね。そして、俺は西遠寺はそれが社会的に有効活用できる場だと思っている」

 さっきまで楠の座っていたパソコンの前の椅子に座りながら、さっき入って来た男が、俺に話しかけた。

「柳の兄ちゃん‥」

 そして、少し腰を屈めて俺の顔を覗き込む。

「梛。西遠寺に入らないか? お前なら、それが出来ると思う。‥若いから伸びしろがあるし。柔軟な発想、頭の回転の良さ。度胸。そして世の中の弱さ、恐ろしさを知っているお前なら‥」

「‥買いかぶりすぎだよ。俺にそんな力はない。俺に出来るのは、『Souls gate』を完成させることだけだ」

 俺は、柳の兄ちゃんの顔から目を背けて言った。

 まだ、人と目を合わせて話すのは苦手だ。

「そっか。だけど、頭の片隅に位置いておいて? 」

 ふふ、と柳の兄ちゃんが微笑む。

「楠は? そういえば楠は、ならないの? 陰陽師」

「僕に、その素質は無いからね。因みに、柊さんにも。僕らは、いわば変人集団『TAKAMAGAHARA』の色物部隊の一員だ」

 椅子を奪われて、所在なさげに立っていた楠が、俺の後ろに立って言った。

「うん? 」

 色物‥。

 まあ。確かに、そうかも。

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