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Souls gate  作者: 大野 大樹
八章 新生souls gate
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4.柳。高橋を観察する。

「どう? 新しい「souls gate」は? 」

 柳は梛を振り向いた。

 梛は、珍しく頬を高揚させてにこやかな笑顔を浮かべている。さっきの「今度は一緒に」という言葉に歓喜している様だ。

「ホントに俺も行っていいの? 」

 柳の質問には答えず、いつもより明るい口調で確認をしてきた。目がきっらきらしている。

 珍しく、「子供らしい」梛にほっこりした柳が、笑顔でそれに頷くと、

「専門的な話は俺には分からないからね。梛が来てくれると助かる‥というか、来てくれないと困るっていうか‥」

 と苦笑いした。


 ‥認められて嬉しい‥に、大人も子供もないな。梛は、子供らしく喜んでるっていうより、自分の仕事を認められて喜んでるんだ。

 梛は、立派に社会人なんだ。

 ‥子ども扱いは彼に失礼だな。

 俺たちが‥いや、「俺が」彼に子供でいて欲しいのかもしれない。

 彼が子供らしくいることで、俺は彼に嫉妬しなくて済むから‥。

 ‥俺って、大人なのに‥心が狭いな。


 柳は、つい自嘲気味な微笑を浮かべてしまう。

 『大人げない』

 この頃、自分の事をそう思うことが多い。‥拗ねていることが多い。

 自分だって、管理職として、全体を管理している。無くてはならない存在だ。だけど、‥梛のように、専門的な知識は何もない。

 せめて自分の力で出来ることを‥と、天音に師事して特訓したり、‥出来る限りの事はしている。だけど、天音に遠く及ぶはずもないどころか、‥能力では、楠や柊にかなわない。

 いつも、何処か焦燥感がある。そんなこと普通の会社だったら思いもしないだろう。管理職、責任重大なポジションじゃないか。自分の仕事を責任もってしっかりする。それが一番大事だ。というか‥それが全てだ。

 だけど‥

 ここは、違う。

 というか、‥自分が嫌だ。ここは、違うから、何の専門分野も持たない自分が、酷く心細い。周りが皆羨ましく見える。

 役割分担だって分かってるのに‥。全部を知っていないと‥不安になる。

 コーヒーに手を伸ばすと、

「うんうん。プロモーション映像でも作ろうか? CMばりの」

 高橋が「ここは売り込みどころだね! 」って言いながら、梛に向けて機嫌のいい顔をしているのが視界の隅に入った。

 ‥そういえば、いたなこいつ。

 柳が、高橋を見る。

 何も、初めて見たわけではない。でも、‥そういえば、話したことはない。(作画課は、事務所で仕事をすることが少ない。人とのかかわりが苦手って人種の集まりって感じの課なんだ)

 勿論、見かけたことくらいは、ある。(食堂は一度は顔を出さないといけないしね)

 高橋は、今日も相変わらず、男なんだか女なんだか分からない恰好をしている。

 というか、‥男に見られたいのか女に見られたいのか分からない。

 テーラードジャケットと白いカットソーと、ジャケットとは素材の違うスラックス‥男物なんだけど、華奢な高橋が着たら、女物のパンツスーツにも見える。ジャケットの色もキャメル? コーヒー? どっちなんだか、自分には分からないけど、オッサンには着られない色味を、お洒落に着こなしている。

 ‥そもそも、自分が普段選ぶ色ではない。カジュアルっぽいスーツで「遊ぶ」って年でもない。役職に就くまでは、多少お洒落にも関心があったけど、今は「いかに悪目立ちしないか」と「清潔さ」を第一に考えた、無難な色を選んでしまう。

 柳は不躾にならない様に心がけながら、ざっと高橋のファッションチェックをした。

 すると、自然と、梛と笑顔で話す横顔が目にいった。

 ‥特段、男前ってわけじゃない。

 華奢‥というか痩せすぎだし、肌つるつるで色白で、一見したら「化粧してるの? 」って風に見える様な、オネエ顔だし、背も‥小柄だ。(だいぶ小さい160そこそこって感じ)だけど、童顔ってわけではないから、少年っぽさ‥とかはない。あれだ。年齢不詳で、老け顔の女子‥「30歳になっても40歳になってもあんたかわんないわね~」って友達に言われるタイプ。‥丁度その感じ。不細工ではないんだけど、若々しさや可愛らしさ、華やかさはないよねって感じ。

 ‥おばさんっぽいんじゃないんだよな~。でも、「おっさん」は、彼とは対極にある。近いのは、「オネエ顔」にコンプレックスを持っていて、女子らしく振舞うことに抵抗があるけど‥でも、女を捨てる気はない‥って感じの女子。(←分かる様な分からない様な)

 体つきは‥よく見ると骨ばってて、女らしくはない。‥なのに、男らしさは皆無。がっしりしてるアスリート女子の方がよっぽど男らしい。

 高橋は、ガリで筋肉ないから。

「あ。こんにちは~☆ 梛君と新バージョンのグラフィックの最終確認に来たんですよ☆ 」

 柳に見られていることに気付いた(柳は気が付じゃれない様に見ていたつもりだったが、普通にバレていた)高橋は、柳に対して(今更なんだけど)にこやかな笑顔で、よそいきの声を出した。

 高橋は、柳とはそう認識がない。

 顔を嫌という程合わせてきて、親しい職場仲間と化してきた楠や梛とは違う。

 高橋にとって、柳は「そう親しくない」上司だ。

 事実、柳は‥役職があっても無くても変わらない会社に置いてだけど‥企画制作部の部長だ。つまり、「偉いさん」なのだ。だから、企画制作部の下にある作画課の課長である高橋からしたら、上司に当たる。

 まあ、そんなことこの会社はそう気にしていないんだけど。

「‥あ、はい」

 自分に向けられた高橋の明るい笑顔と元気な声に面食らい、つい柳は苦笑いを浮かべてしまった。

 そういえば、ここには「元気で溌溂、明るい社員」というのは‥いない。

「こんにちは‥」


 ‥そういえば‥

 高橋君‥かあ。

 高橋君には、「柳」のグラフィックの件で、すごく我が儘言ったな‥。

 といっても‥

 直接会って話したわけではない。一方的に希望を出しただけだ。

 希望を全部箇条書きにして、高橋がいない時に机に置いていったんだ。

 ‥だって、‥恥ずかしいじゃないか。


「そうそう。‥元々の「souls gate」と全然違うものって感じなのかな? 」

 にこっと人のいい笑顔を浮かべると、柳は高橋に砕けた口調で話しかけた。

 高橋程じゃないけど、柳の外向きの対応は、すこぶる愛想がいい。社会人の嗜みとして、営業スマイルも板についている。

 だけど、柳が事務所内で「ごく身内」に見せる極プライベートな対応でさえ、人見知りの集まりである「システム管理課」の中においては、超がつくほど社交的だ。(そもそも、システム管理課の課長が楠だしね)

 ‥楠さんが自分を密かに「リア充」って呼んでるのも知っている。(それが悪口で無いことも勿論)梛が自分を評価してくれてる唯一の部分がそこで、楠さんは「柳さんは、リア充だから僕とは違う」って言って、開き直ってるからって理由で、未だに(あんなに懐いてるというのに)梛に何処か馬鹿にされてる。それは、梛がいつだったか、自分で言っていた。

「(楠さんのこと)親しいから、気安く呼び捨てしてるのかって? 違うよ。楠が精神的に俺よりガキだから「兄ちゃん」って呼ぶ気になれないだけ」

 って。それで‥その時、何故楠さんが大人じゃないのか‥っていう理由として梛が上げた理由がアレだったんだ。

「大人だったら、愛想笑いの一つ取得するべきでしょ。個性とかじゃなくって、社会人としては、必須マナーでしょう? それを「柳さんは自分とは違うから」って開き直って、目の前にいるお手本を見ようとしない‥とか、大人としてどうか‥って思うよ」

 ‥って、白けた様な‥「やれやれ」って顔で‥でも、どこか年上の貫禄って風に見える、優し気な顔で言ってた。

 楠さんに「大人らしさ」求める梛本人は、相変わらず子供らしくない。安定の「コ●ンな子供」だね。中身、高校生とかなのかな?

 因みに、柊は、(柳の存在を)気にしている風はなくって(いる、と存在を認識されているかすら怪しい)、引き籠り属性の桂からは、尊敬の目で見られている。

 そんな社会人な柳に、高橋も社会人らしく、人のいい笑顔を浮かべて頷く。

「そうですね~。映像は、だいぶ変わってると思いますよ☆ 今までは、Takamagaharaから出なかったんですが、今回は場所も随分広がるから景色もだいぶ変わりますしね~。

 戦闘シーンに華がないなって思ってたから、服装も変えてみたりしましたよ☆ 今回は尊ちゃんも入ったし、ビジュアル的にテンションがあがる出来になってます☆ 」

 なんて、これは普通にご機嫌なテンションだ。

 仕事大好きな高橋は、仕事の話になると生き生きとした表情を見せる。それは、今までのような外向きな表情ではなく、自然な表情だった。

「ああ‥、尊ちゃんね」

 さっきまで「高橋の猫かぶり気持ちわりぃな~」って思っていた楠も、ようやくほっとした表情になって、軽く頷く。

 因みに、尊というのは、天音の弟(あれ、妹だっけ? あの「幽霊の子」だよね? じゃあ、妹か? )で大学生の子らしい。

 souls catchで発見の報告があって、柊たちと確認しに行った子だ。見た瞬間、幽霊だって気付いた。‥天音と同じ顔だって気付いたのは、だけど暫くしてからだった。

 柳さんに「使えそうか」と聞かれた時、「使えない」って言ったのは、‥咄嗟の判断だった。何故か(まさに何故か)、「そうっとしておいた方がいい」って思ったんだ。‥今でもあの時の判断は‥咄嗟の行動にもかかわらず、グッドジョブだったって思う。

 なのに、だ。

 ‥なぜ自分から関わってくるかな。って思う。

 だって、幽霊なんだろ? 絶対、あんまり表に出て来たくないって思うじゃない?

 ‥ってかそもそもなんで幽霊が大学に通ったりしてるわけ?

 まあ確かに‥幽霊には見えない訳なんだけど‥。

 ‥いったいどういう存在なんだろ。


 ああそうだ。幽霊と神だった。そりゃ、「年何歳位だろ」とか、「なんでそんな行動取ってるんだろ」とかいう詮索、無意味だわ。天音ちゃんは、そもそも「おっさん」が本性だった‥。尊ちゃんも、本性はあんな感じなのかな? 


 いや‥そもそも、僕たちの常識は「彼ら」にとっては常識じゃないのだろう‥。

「どうしたの? 具合悪くなった? 」

 桂が心配そうに楠を覗き込む。

「え? 」

 楠が桂を見る。

 ‥ああ、‥思ってた以上に自分の世界に入っていた‥。

 にへら、っと中途半端に微笑んで、誤魔化した。


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