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Souls gate  作者: 大野 大樹
一章 救済
7/70

7.未知なるものに対する恐れがない世界で

付け加えることにしました。

前後してしまってすみません。

 裏西遠寺のスカウトは気を遣う。

 能力がある人をスカウトする。それは、大前提だが、能力があろうが、裏西遠寺に入ってくれるかはもちろんながら別問題なわけで、その気がない者にまで「裏西遠寺」の存在を明かすわけにはいかない。「ちょっと考えさせてください」が通用しないのが裏西遠寺のスカウトなのだ。


 人材は欲しい。でも。守秘義務は第一。

 何故って裏西遠寺は、社会から隠された存在だから。

 興味本位で近づくだけの者を『ふるい』にかけて、かけて‥やっと裏西遠寺の名前を出す。

 その時には、もうその者はまあ、社会から隔離されている。

 それを望む者、その覚悟がある者しか要らない。

 陰陽師は、危険と隣り合わせの仕事だ。


 それを、西遠寺の使命と当たり前のようにやる職業意識というか、ちょっと洗脳? 西遠寺崇拝っていうのは、確かにあって、そしてそんな人間以外西遠寺は要らない。

 柳が特殊だといったのはそういう事情からだ。

 その理由は、柳はスカウトされてきたわけではないから。ただそれに尽きる。

 そして、それ位には彼に信用があって、その位には彼は行動を監視されていて、実は人質も取られている。だけど、それは柳だって知っていることだ。(実はね)

 彼は、表の世界をただの情報収集源としか認識していない。

 彼は、もう表舞台の人間じゃないんだ。いや、彼も、また、だ。

 そもそも、陰陽師だってそう、社会の表舞台にいる職業でもない。ないはずだ。

 陰陽師は、(あやかし)の便利屋だ。

 人は、原因の分からない、もしくは原因が分かったとしても、何とも出来ないことを、妖のせいと思う傾向がある。今は、「妖怪のせい」などという新しい風潮も出てきているが、現在のそれ、と平安時代のそれ、は全く性質が違う、と思う。

 現在には、未知なるものに対する恐れがない。ない、と言い切って間違いは無い。恐れ、そして敬う「不可侵の領域」として神や妖の世界を敬い、祠を創って崇め、祈り、時に権力の象徴として討伐する。

 恐れ、だけど興味本位で覗き、また、「大丈夫だよ、私は理解しているよ」と完全なる上から目線。そんな現在とは、そもそも根本的に違うんだ。

じゃあ、陰陽師が「妖とは、本来そんな舐めてかかっていいもんではない」って啓発をする働きをすると? 

 否、そんな必要はない。

 別に、現在の文明が妖に対する恐怖に打ち勝ったならば、陰陽師は廃業すればいい。

 だけど

 どんなに情報が広がろうが、どんなに夜が明るかろうが、人がいる限り

 妖はなくならない。

 スイッチを消したって、見ないふりしたって、誰かを身代わりにしたって、どうにもならないリアルの恐ろしさそのものが、第一の「妖」だ。

 『祟り神』や幽霊・生霊といったのもこのカテゴリーだろう。

 そして

 人が自然の恩恵を享受して生きている限り、自然に対する脅威はなくならない。

 自然災害は、人智で不可避な現象だって知らない者はいないだろう。

 これに対する恐れやなんかが、第二の妖。

 神や妖としてポピュラーなのはむしろこっちの方だろう。

 水神・雷神、そして妖怪。

 そのどちらも。

 人との繋がりが多様化して、持っている物が増えた今、むしろその恐れは大きくなったように思える。

 裏切られることに対する恐れ、持っている者を失うことに対する恐れ、今までの生活が変化することに対する恐れ。

 人々のこころから、『恐れ』という感情が消えることはない。

 わざわざ他人に「この世は怖いんだよ」と言われるまでもない。

 人間の世から、恐れという妖が消えることはない。

 消えたのは、むしろ「陰陽師」という職業の方かもしれない。

 自然に対する恐れは、土木工事を行い発生時に備え、また発生を予測する技術の発展により対処する。

 人に対する恐れは、ネットを駆使して、相手を蹴散らし、逆にネットを警戒して対策を練ったりするだろう。

 普段なら、それを非現実的なものに頼ることは、まあないわけなんだ。

 それでいえば、陰陽師もそれの一つだよね?

 でもそれも、普段なら、だ。

 弱れば人は何かに頼らずにいられなくなる。そして、日本には古からそういった傾向が、普通にあった。

 占いやら、まじない、祈祷。お祓い。神頼み。

 科学だ進歩だと語る一方で、そういったことを信じる。そういうことに抵抗がない民族だともいえる。

 そして、権力や資産を多く持つものほど、その傾向があるように思える。多く持っているからこそ、疑心暗鬼になる傾向が強いということも一つとしてあろう。

 誰かに恨まれているんじゃない? 呪われてるのかも。

 じゃあ、呪いを解くほかない。でも、誰が呪っているんだ? そもそも、呪いってどうやったら解けるんだ? 専門家に任せるほかなかろう。 

 そして、そんなクライアントの気持ちによりそい、そしてどんな手段を使っても解決する。それが裏西遠寺の仕事なのだ。

 それが科学的な方法やネットを使った方法になることが多いのは実情だが、実はそれ以外だってある。だけど、どんな『呪い』であれ、『解呪』は、原因を取り除くことが基本。

 原因(『呪い』)の特定をする必要がある。

 それがどんな『呪い』なのか。

 たとえば、妬み、嫉み、中傷。それらの複合体。

 時に、情報操作だって西遠寺は厭わない。

 少ないが、恋愛問題っていうこともある。

 恋愛も、時代と共に変化した。恋愛感情自体は、慕っているが想いの届かない相手を想い、生霊となっていた古の時とそう変わらないのだが、ネットや行動範囲の拡大から、そういえば‥の「心当たり」が広範囲に及んで特定しにくいどころか、もしかしたら特定できないかもしれない。

 相手は自分を見聞きで知っているが、自分は相手を知らない。そんなこと、昔からあったが、現在では更にその傾向が強くなっているだろう。

 だから

 裏西遠寺は、時に探偵まがいの能力を求められる。相手が要人であれば、それは国家的なスパイレベルになるかもしれない。

 『呪い』の特定、『呪い』の正体、『解呪』

 仕事は多く、そして、すべてが一人で出来るものでもない。(できなくもなかろうが、人には向き不向きもあるし、効率が良くない)

 これらが、裏西遠寺が組織化され、そして常に求人募集状態である理由である。

 裏西遠寺が、社会的に存在を抹消される理由は、クライアントの守秘義務という当たり前の理由であり、別に法律ギリギリのことをやっているから、ということが理由なわけではない。

 悪しからず。

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