3.柳、壮大な夢を語る。
随分ご無沙汰しております。すみませんでした。
七章を割り込み投稿しておりますので、こちらも読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
「そりゃそうと。柳さんここに何か用事があったんじゃないの? 」
楠が首を傾げた。
この頃何だかだ言って忙しい柳が、用もなくここに来たとは思えない。
柊の髪型どうにかした方がいい。
が、用事‥ってのは‥ないだろう。
朱雀さんの話があって、今柊の髪型を見たらつい思い出した‥ってことだろう。
「うん、西遠寺のご当主を通して、第二回裏・裏裏交流のお誘いが来た」
途端、柳の顔がふわっと明るくなる。
相変わらずの、西遠寺フリークである。
それにしても‥
なんだ、その裏・裏裏交流。
楠は苦笑いした。
『実際には第一線で働く方との交流会』
裏西遠寺の現場で働く方々を裏で支える、スカウトside‥裏の裏と、スカウトsideから見れば「表」である、裏の表‥現場サイド。裏の裏sideと裏の表sideとの交流。
で、裏・裏裏交流? 。
裏表交流じゃないわな。‥確かに、裏と裏裏の交流だわな。
正確には、裏表・裏裏交流だな。
‥ややこしい。
「いつ? 」
梛がきゅっと顔だけを柳に向けて聞いた。
「いつっていう連絡はまだ。近いうちにしましょうね~。こっちはそれを前向きに検討していますよ~っていうご連絡だった」
柳はご機嫌に‥それこそ歌でも歌いだしそうなテンションで答えた。
‥本当に好きなんだな~って思う。
流石好き過ぎて家出までするだけある。
‥あの時、っていうか‥あの後、どうなったんだろ。何とな~く立ち消えたよね、あのニュース。「見つかりました」「家に帰りました」って感じであっさり。で、コメンテーターが「夏は開放的だから家出する子供が出ますね」「家出は行けませんよね」「いや、子供はそんなことしたいもんなんですって。逆にそれ位の方が元気があっていい」「いやいや、アンタの子供の頃とは違いますよ。昨今は物騒だから家出は危険です」って話に「すり替えた」。
‥そりゃ、家出はダメだろ。
で、その家出少年が調べてたってことで、「家出に関係あるのかも‥」って一時騒がれた‥謎のサイト「西遠寺」はどうなったんだ?
でも、そのwordにメディアが触れることはなくって、皆も別に普通に忘れて行って‥。
僕もね。でも、ここ‥西遠寺にきてもそんなこと思い出しさえしなかった。‥この前柳さんがあの発言をするまでね。(あれ、柳さんがあの発言したんだっけ? 忘れちゃったな)
巷には新しいニュースが溢れてて、新しいニュースが出てきたら、前のニュースの事‥みんな忘れてしまう。それが悲しい‥忘れられるのが悲しい、そして危険だって話もね、よく聞く。
それほど、巷にはニュースが溢れている。
それを上手く利用して‥西遠寺は消したかったんだよ。多少無理矢理か‥って手だったけど。
今になったら、そりゃ普通に納得できる。
表に出て来る必要が無いものは、‥表に無理矢理出て来る必要なんてない。ましてや、出される必要なんて‥どこにもない。
暗いところでひっそりと暮らしている。誰にも気付かれない様にひっそりと。
時々、親しい人がたずねてくる。‥それが西遠寺の全て。
だけど、‥見つけて欲しい人には見つけて欲しい。
じゃあ、特別な電気をつけよう。
見つけて欲しい人にだけ‥わかる様な。
そして、臆病な僕らはそれをれをマジックミラーの向こうで待ってる。
その電気は、「souls gate」。
僕らは、マジックミラーの向こうで電気に集まってくる「誰か」を見て、‥見極める。
「今までは、霊能力っていうのかよくわからんけど、「能力がある人」を集めて来たけど、‥それではいけない。
現状、我々スカウトsideは現場の事を良く知らないから、どういう人を集めるのが正しいのか‥っていうことを知るために現場の事を知る必要はある‥
今まで、お互いに閉鎖的過ぎて、連携を取らなさ過ぎた。
スカウトsideと現場sideの交流を盛んにする‥っていうのがこれからの裏西遠寺の現場をよりよくしていき、能力者を発掘育成していくうえで、一番大事だと思うんだ」
なんて、‥ガラにもなく熱く語っている。
‥相変わらず、ウザイ。普段は普通の若者なのに、西遠寺の事になったら‥熱い。ウザイ。
梛がため息をつく。
小学生が「呆れた」って顔でため息をつく。
これが日常茶飯事。別に誰も眉をしかめたりなんかしない。
そして、その小学生に「楠ぃ」って呼び捨てにされる。
これも、楠の日常茶飯事。
でも、知ってる。
ちっちゃい「い」、これが親愛の印。
「楠」じゃなくって「楠ぃ」さらに舐められてる感ドドンとアップ! だけど、‥親愛の証。
「楠‥。コーヒー飲みたい‥」
座ってる楠の頭のてっぺん‥つむじ辺りをぼ~と見ながら、楠にわざと艶のある声を出してくる男・柊。
楠が、びくって肩を震わせて「ひ! 」って声を出す。‥思わず。だ。
楠は、柊のこの艶のある超バリトンが苦手なんだ。腰がぞぞっとするらしい。
それを見て、柊がにやり、と笑う。
そして、それを見て、梛がけけとわらい、桂が「全く」って感じで愛のある苦笑いをする。
柊の「楠‥」っていう、名前を呼んだ後の、変な間。
これは、柊の親愛の証だ。
間の時に、必ず、優しい顔になる。‥蕩ける様な笑顔を見せる(見えてるのは口元だけだけど、きっと優しい目になっているんだろうって想像が安易につく)
お母さんが好きで仕方ないって‥幼子みたいな顔になる。
楠に向き合って声を掛けないから、その顔を楠は見たことが無い。‥すっごく鈍いから、微妙な「含み」にも気付いていない。
楠は、‥自分に向けられた好意に‥ホントに鈍感だ。
結局、楠が全員分のコーヒーを用意することになったのを、桂が苦笑いして、手伝ってくれた。
自分のマグカップを棚から出している柊に、柳が「ああそうそう」と声を掛ける。
「朱雀さんが、今度は柊さんとちゃんと話したいって言ってたよ」
「? 」
柊が、きょとんとした顔をする。
「何の話をしたいのかは知らないけど。‥まずは親睦を図りましょ、って言ってた」
「親睦ねえ」
って言ったのは、梛。
梛の分は桂が先にココアを入れてくれた。
どうせ、俺にゃ関係ないんでしょ
って、‥口には出さないけど、思ってる。
「あと、「souls gate」の件で、梛とも話したいとも言ってたな」
‥寧ろ、そっちの方が意味があるな。
聞いた瞬間、楠はつい思ったんだけど、普通に、柳も思っている。
‥大人より、子供と話す方が意味があるっていう不思議。
異能っていうのが「普通」にある世界なら、でも、まあそれくらい驚くようなことでもないかもしれないね。
「能力者って、‥表に出てこない人間の方が圧倒的に多いし、‥気が付かない人だっている。それに‥生きづらくって、苦しんでる人だっているだろう。
その人たちの居場所の一つとして、裏西遠寺の能力者っていう選択肢があるってことを知ってもらえたら‥いや、知ったら最後、どっぷり関わるしかなくなるんだけどね‥
まあ‥兎も角だ。
うちの‥「Takamagahara」の役割は、今は‥多分発掘だけだ。発掘して、‥社会人として‥西遠寺の末端を担う‥西遠寺関係者として‥足りない「社会的常識」を彼らに学んでもらっている‥に過ぎない。‥能力云々の前に何より、人間性と社会性が大切だからね。クライアントと接するにも、‥探偵として何らかの情報を探る‥にしてもね」
「成程、それが柳さんの理想とするところだったのか‥」
楠が、感心した様な顔で言ったのを見て‥
柳が言葉に詰まる。
で、苦笑いしながら
「まあ、‥めくらめっぽう‥異能者を集めてるって感じは否めないよね。‥それでその中から使える原石だけを‥って言いながら‥まあ‥、穴だらけの網ですくってかかった魚だけを養殖してる感が否めないよね。‥今の状態。
‥そうだよね。‥将来的には、魚が‥養殖されてもいいって魚が増える様に‥養殖所の質の向上を図っていかないといけないね」
肩をすくめる。
その、要改良の生け簀がTakamagaharaであり、穴だらけの網が、隣の事務所‥スカウト班と、‥まあ、うち、プログラム班だ。
異能者を集める、明かりであり、餌である「souls gate」。そして、その中からホントに使える異能者を選び救い上げる、スカウト班。
残念ながら、今までは、これが十分だとはいえなかった。
柳は、「souls gate」を、(魚を集める餌だけじゃなく)スカウト班の教育‥そして、魚を育てる餌にしていきたいって考えている。
「souls gate」で育ったスタッフが、「souls gate」で新人を発掘し、「souls gate」で新人が育つ‥。なんて素晴らしいんだろう。
スタッフと新人。根底にあるものが同じだから、それは可能だって思っている。
根底にあるもの‥裏西遠寺だ。
サッカーの選手をスカウトするのに、サッカーを見たこともない一般人をスカウトするわけないし、サッカーを知らないスカウトマンがスカウトに行くわけがない。彼らの間にある共通項はただシンプルに「サッカー」。
先生と生徒が同じ教科書を見ればいい。
先生が見るのが「教育指導書」で生徒が見るのが「テストに出る問題集」である必要はない。




