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Souls gate  作者: 大野 大樹
八章 新生souls gate
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2.変化

 さて、怒涛の『実際には第一線で働く方との交流会』を無事に終えた変化と言えば、

「‥まあなあ、朱雀さんの言うことも一理あるんだよなあ。そうだよなあ、前髪の長い根暗な男って目立つよなあ。怪しいよなあ。ちょっと犯罪者っぽいよなあ。でも、普通にしてたらそれはそれで目立つって、困った顔だよなあ」

 なんて柳が妙なことで悩んでいること、か。

 そんな柳に、

 ‥何を言ってるのやら。

 楠がため息をつき、

「柳の兄ちゃんが悩むことでもないと思うけど」

 梛が呆れた様な顔を向ける。

「別に、外に出なければいいんだろ? 」

 珍しく柊が、呆れた様な顔を柳に向け、心底どうでもいいという様な口調で言った。楠と梛が目を見開いて視線だけで柊を見た。

 ‥おお、しゃべったぞ‥。

 いつも通り、柳の独り言になると思っていた二人は、見開いた目のまま、視線を柳にうつした。

 さぞかし柳も驚いているだろう‥との二人の予想に反して、柳はさっき柊に向けた憮然とした表情のままだ。

 別に驚いているようには見えない。

 ‥どうした二人とも。

 こんなに『異常事態』だというのに、

「確かに‥それも一理あるわね」

 くすくす

 カフェコーナーで性懲りもなく桂を待っていた高橋が面白そうに笑い、今まで見ていたファイルを閉じた。

 こっちの話に加わる方が面白そう

 ってところだろう。こっちも通常運転で別段二人の様子に驚いているわけでもなさそうだ。楠と梛ばかりいつもと違う雰囲気に、目を落ち着きなくしばたたかせた。

 ‥しかし、柳さんは急にどうしたというのだろう。まあ‥おおかた、裏とはいえ、憧れの西遠寺の中でも華やかな人たちが言ったからだろうなあ、(憧れの西遠寺の! )あの人たちのおっしゃったことを無視することが出来ようか? いや出来ない。ってやつだろう。

 ‥単純だなあ。

 なんて思うと、ちょっとため息が出た。

 ‥いつもは、頼れる上司だのに、そういうミーハーなとこあるから‥。そう思えば通常通り‥って感じなのか。意外と柊さん順応性いいな‥。

 西遠寺フリークな柳さんらしいっちゃらしいけど、なんか‥ねえ‥。

「‥‥‥」

 ふう、

 小さくためいきをついた柊が、ちろり、と心底呆れたという視線を柳に向ける。

 あ‥この、己のこころの奥底を見られるような視線、‥嫌だよなあ~。

 俺なら、わあああとか叫んじゃうよ‥。

 梛は苦笑いした。

 ‥わざわざ止めないけど。

 面白そうだし‥。言っても、他人事だし。

 まあ、‥俺はこんな目で柊の兄ちゃんに見られるようなことはしないし‥。たぶん。

 外出しなければ済む。なんて通常通りの言い草は、まあ正論だし、にべもない柊の態度と冷たい視線に柳はちょっとひるんだものの

「‥また柊は! それじゃ駄目だってわかるだろう?! 」

 きつい口調で柊に再び挑んだ。

 そんな様子を、梛と高橋はちょっと面白そうに、楠は呆れた様な顔で眺めている。

 にっと薄く笑った柊の目は、だけど、柳をおちょくっている風でも、会話を楽しんでいるって風でもなかった。普通に‥ホントに普通に何の表情もその口調に乗せず

「‥特に不便はない。それに、自分が思う程、周りは自分のことなんてみていない」

 事務的に柳に返した。

 それにしても今日の柊は珍しくよくしゃべる。今までが『調子が良くなくて』黙ってただけで、このよく話す柊というのが、もしかしたら本来の姿なんだろうか?

 ‥と思いかけて、はっとした。

 柊は、果たして「良く話す」話せるような相手が今までいたのだろうか、と。

 ‥柊さんは、元西遠寺で、実家は彼を疎ましく思っていて、‥彼を恭二さんに養子に出した

 梛が言ってた。

 柊の兄ちゃんは、実家で監禁みたいな生活をさせられていたって。

 ‥今までの柊さんがしゃべらなさ過ぎただけで、寧ろこれ位は「よくしゃべる」とは言えない。本来の彼‥なんて、もしかしたら柊さん本人も知らないのかもしれない。

 だけど、‥柊さんなりに努力して、自分を出していこう、‥変えていこうとしている。

この頃は、「お互いの事、もっと知って行こう」って朝食の時梛が宣言して、ほんの短い時間だけど、自分のことを話したり、相手の話を聞いたりする時間をつくってるんだ。

 前髪の話。実家の話‥。僕が思うより柊さんは別に何も気にしてない様子で、寧ろまるで他人事みたいに、ぽつりぽつりと話してくれた。


 母親が、嫌っている息子が自分と同じ顔をしているのを、ひどく嫌がるから。


 ‥だから、前髪を伸ばさせて顔を隠しているんだって、柊さんは言っていた。

 ここにはもう彼の顔を嫌う彼の母親はいない。

 だけどまだ幼い頃の呪縛は今も彼を逃がしてくれないのだろうか? って思った。

「そんなに柊さんは‥色んなこと考えてないと思うけど」

 って梛は笑った。

 さっきの「特に不自由はない」って言ったのが、案外柊さんの本心かもしれない。

 彼は、彼にとって前髪は別に彼の中で乗り越えていかなければいけない課題って程では無いのかもしれない。

 なら、まあ個人の自由なわけだし、他人がどうこう言うことではないだろう。

 別に誰にも迷惑かけてるわけでもないんだし?

 そこ、らしい。

 誰かに迷惑かけている。かけかねない案件。

 柳はさっきからその理由を挙げて、柊さんに改善を要求しているのだ。

 柳は、ちょっと怒ったような顔をずいっと柊に近づけ

「裏西遠寺の関連組織として、俺たちは目だったり、誰かに目を付けられてはいけない。‥そういう自覚を持つべきだ。

 柊は「他人は自分が思う程自分のことなんて見てない」って言う‥。

 ‥成程、そういうこともあるだろう。髪の毛を三センチ切ってみたけど誰も気付かない。毎日事務所に5分早く来て花の水をやっているのは、私だけの秘密。誰も気付いていない。

 でもね、

 こっそり、誰も見ていないだろうって思って道にポイ捨てしたら、ネットで「○○先生が道にポイ捨てしてた」って書かれて、皆に知られている。

 って時代なんだ。

 何を言っているか分かる? 」

 変に演説をするような口調を交えながら、柊に答えを促した。

「‥‥‥」

 柊は、顔を逸らすことはしなかった。

 でも、別に熱心に耳を傾けている様にも見えないし、‥答える気も見られない。

 さあ? とすら答えず、柳の次の言葉を待っている。

 柳の方も聞いておいてどうだと思うが、

「人は気付いて欲しいな。見て欲しいなって思う様な事には気付かないし、‥気付いたところでスルーするけど、隠したいな、見られたくないなってことはやたらとよく見てるって話だ」

 特に柊の答えを待つ様子もなく、自分であらかじめ用意していた「答え」を話し始めた。

「‥‥‥」

 柊は、やっぱりさっきと同じ‥それどころかいつもと同じ無表情で柳をぼんやり見ている。

 いつもと違うと言えば、柊が今日は座って柳の話を聞いているということだろう。

 椅子に座ってはいない。いつも通り畳コーナーに居るわけなんだけど、今日は胡坐をかいて、ぼんやり柳を見上げる様に見ながら、話を聞いている。

「誰かの目について、「あいつはどこに住んでいるんだろうか」「よし、尾行してみてやれ」ってなったら、困るだろう? 」

 ‥なるか! 

 楠と梛は心の中で盛大に突っ込みを入れた。

 高橋は、さっきから吹き出すのを堪えているのだろう。俯いて、‥肩が心なしかプルプルしている。

「‥柳兄ちゃん。とにかく一度落ち着こうよ。そろそろ自分で何言ってるかわかんなくなってない? 」

 ふう、

 苦笑いして梛が口を挟んだ。

「まずね。柊の兄ちゃん。柳の兄ちゃんの言っているのは、いささかオーバーではあるけど、間違ってはいないよ。人は‥自分が思う程、自分に興味はないけれど、悪意や関心は容易にもたれやすい。顔の見えないネットはそんな書き込みにあふれてる。遊び半分の誹謗中傷。そんなのは日常茶飯事で、その意味を深く考えてるものはすくない。俺も、正直柊の兄ちゃんの髪型がベストだとは思えないんだけど、まあ、しょうがないんじゃないかなあって思うんだよ。

‥柳の兄ちゃん。あのね、スカウトとか、結構この辺りもいるよ? 」

 最後は、分かってる? と尋ねる様な口調と視線を柳に向けた。

「何のスカウト? 」

 柳が訝しそうに梛を見る。

「芸能人」 

 ずい、と梛が一歩柳に近づき、柳の目を覗き込み、端的に言い

「オタクにみえて「さえない」兄ちゃんなら、女の子たちにさえ遠巻きにされるだけ、‥相手にはされない。

 ‥でもちょっとこましにした兄ちゃんなら、どんなに目立たない恰好をしていようとも、女の子どころか、原石を見落とすまいと目を光らせてる芸能スカウトに見つけられるやもしれない。それがどっちの方がましか‥って話かと」

 提案をするように「提案」を理由付けでをプレゼンする。

「う‥」

 きっちりと、普通の若者らしい髪形にしろ。

 そう柊に最終的には提案したかったのであろう柳は、しかし、梛のプレゼンに‥完全に納得させられた。

 だから

「それも‥まずいな。まあ。オタクでいいや」

 さっきまでの話は何だったんだってほどあっさり、柳は柊改良案を引っ込めた。

 ‥柳さん‥

 いいんだ‥。

 

 まあ、

 何より‥

 目立っちゃいけないって考えが間違ってるんだけどね。

 柳さん的に、ここの組織とか‥秘密結社的な扱いなのかな? 求人情報にも会社年鑑にも載ってはいないが一応、普通の事務所なんですけどね‥。

 

 首をちょっと傾げる楠だった。

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