6.一目惚れですかね。
柊さんは、目が覚めて初めて見た親的なものを‥親のように慕っている。
大人なんだけど、純粋で不幸だった人‥。
監禁されてきたんだ‥きっと、世の中の事をあまり知らないのだろう。
それまで笑顔もろくに向けられずに、放っておかれて生きて来たんだろう‥。
柊さんを良く知らない朱雀の、勝手な予想。
「一目惚れですかね」
笑い上戸で、楠さん以外にろくに何にも関心を持ってない‥って感じの「朱雀に似た」感じの‥直情タイプ‥だっけ? そもそも、それが分かる程喋ったことはないな。‥笑い転げてた記憶しかない。
朱雀と似てるって言ってみたが、確かに朱雀は現場では直情型って感じの動きしてるように見えてるけど‥あれは、実はそうじゃない。朱雀は判断能力が特別高いから、とっさの判断が即座にできる。感情のままに行動している様に見せているが、行動につなげる様にわざと感情を表に出しているところも、往々にして‥ある。
単純な人間って思われる方が、何かとやりやすいからね。
実際の朱雀は、‥思慮深い‥っていうか、根暗かって思う位考え事ばかりしている。それを、リーダーとして他に見せない様に暮らしているのだ。‥まあだけど流石に、付き合いが長い蘇芳にはそれが分かって来たわけなんだけどね。
でも‥柊さんは見かけ同様‥単純なひとって感じがした。‥何となくだけど。
だから‥直感的に一目見た時から楠さんのこと気に入ったのかなあって‥何となく。
そういうのって何って言うかというと
一目惚れ、
じゃない?
「は? 蘇芳ってそういうアホなこという奴だったっけ? ‥そういう不純な話してるんじゃないだろう!? 柊さんは、初めて親切にしてくれた楠さんを親の様に慕っているって話だろうが」
軽蔑する様な視線を朱雀が蘇芳に向ける。
蘇芳が、眉を寄せて呆れた‥というような顔をする。
「柊さんが純粋って‥そんな風には‥見えなかったけど‥?? 監禁っていっても、寝所に時々女の子連れ込むこともあったみたいだし(←言い方に語弊がある)」
はあ、と大袈裟なため息をつく。
「女の子を連れ込む‥」
朱雀の顔がかっと赤くなる。
朱雀は蘇芳と違って、こういう話に免疫がない。
蘇芳は‥そんな遊んでるってタイプでもないけど、別に潔癖症ってわけでもない。結構明け透けにそういう話をする。そういう話が好きなのか? っていわれるとそうではなくって、寧ろ、そういう話と他の話に垣根がないんだ。「今日は晴かな」と同じカテゴリーにそういう話を入れちゃってるような「話題の整理整頓能力に問題がある(朱雀談)」タイプなんだ。
あと、ちょっと慎みとか、上品さに欠ける(朱雀談)。本人が下品ってわけじゃないんだけど‥。
「きっと、男女の同衾を、「繁殖の手段」位にしか考えられない様な、情緒にかける男。だから、ああも、明け透けで‥品やら慎みがない」(朱雀談)ってタイプ。
‥興味が無いどころか、関心がなさ過ぎて、包み隠すって努力を怠ってるんじゃないかな??
‥まあ、回りくどいのは‥周りに人がいる場合だったら訂正させるけど、周りに誰もいるわけじゃない今ならいいか‥って朱雀はため息ついて‥諦めることにした。
「母親も特には止めてなかったみたいだし。‥気分転換に位の感覚しかなかったんじゃない? 」
「‥その可能性もある。が、‥そうではなくって‥楠さんが特別聖人君主で、誰にでも好かれる体質だってことも‥ある」
‥寝所に女の子が入って行ったっていって、「そういうこと」してる‥とは限らない。
お話してたってこともあるだろ。
男女が一緒の部屋にいるからって「そういうこと」してるって考えは安直じゃないか?
だって、柊さんは‥愛情に飢えてるんだ。母親的な愛情を‥自分の世話をしてくれる親切な女の子に求めてもおかしくはない。母親に「そういうこと」はしないだろ?
「ないだろ。まあ、事実としてそういうことが何度かあったらしいよ? 」
「ふうん‥」
なんだ‥監禁されても健気に‥とかじゃないじゃん。
普通~に、使えるもん(←無駄にいい顔)使って美味しいこともしてるじゃん。それどころか、あの顔つかえばそれこそ、より取り見取りじゃん。女の子とっかえひっかえじゃん。タラシじゃん。女タラシじゃん。なんか不潔~。
なんか、純粋で可哀そうな柊さん像壊れて来ちゃった。‥なんかもういいや~って感じ~。
途端に、朱雀の顔から興味やら同情やら‥って感情が抜け落ちた。
朱雀は、あれで、わりと潔癖なところがあるんだ。
そんな柊さんは、楠さんに懐いている。
それをどんな感情っていうかって。そりゃ、親愛の情で、尊敬の念。
今まですさんだ生活して来た柊さんには、楠さんがきっと眩しく見えたんだろう。
掃き溜めに鶴‥はちょっと意味が違うけど、きっとすさんだ柊さんの心に、楠さんの存在はそれ程稀有な‥美しい存在に見えただろう。
だから、さっき蘇芳が言った「一目惚れ」ってのはおかしい。
「‥そんな女タラシが楠さんみたいな普通~の、ちょっと目つき悪い感じでイケメンでもない普通~の男! って感じの青年に一目惚れはしないだろう? そりゃ、やっぱり親切にされて心に刺さったって方があり得るでしょう? 」
朱雀が、呆れ顔で蘇芳を見る。
「そもそも‥親切にされる? 見ず知らずの目つきの悪い男に、そう親切にされる程親しくされる? 接触を許す? ‥あやしい‥って逃げるよ? ましてや、今までずっと人と接してこなかった柊さんだ。人に対する警戒心は普通の人よりずっと強かったと思うよ? だから、そう、普通の人に接触を許さなかった‥って思うけどなあ。そうならなかったってことは、ファーストコンタクトでなんか感じるもんはあったんだと思うよ? 」
※ 実際は、「柊さんが怪しすぎて、誰も近くに寄らなかった」が正しい。だが、そんなこと蘇芳も朱雀も知らない。
ファーストコンタクトでなんか感じるもんと言えば、アレ。一目惚れ!
一目見て、びびっで
親切にされて‥「好きになってしまった‥」
だ。
少女漫画の定番だね!
性交については、情緒もなんもないくせに、出会いにだけは、やたらロマンを求める。
蘇芳の情緒ってのは、「恋愛に至るまでのアレコレ」であって、恋愛に至った後については、もうどうでもいいって感じらしい。純愛は素晴らしいけど、愛欲はどうもね~ってタイプなんだろう。‥質が悪いよね。
「ええ~?? 」
びびって来なくても、砂漠で水を差し出されたら、つい受け取っちゃうよ? で、一口口にしたら、すーって体と心に沁み込むよね。
ああ、‥救われた~。
それは、恋じゃなくて、‥親愛だよ?
朱雀は、恋愛も性交も‥どっちに対しても奥手で、初心。
きっと自分の事だって、それこそ少女漫画の激鈍ヒロイン程、鈍いに違いない。
出会って、即、恋に落ちる‥なんて発想は、彼にはない。
彼は、アレ「純愛は他人事だし、愛欲に至ったらもう別世界の話」ってタイプ。
そんな‥恋愛音痴の中に置いて、唯一、普通に妻帯して、子供がいる40代の和彦。
「‥どっちでもいい。別に柊さんが楠さんにリスペクトだろうがloveだろうが‥柊さんの事は寧ろ、分析しないでおこう」
ため息で、話を中断させるのだった。
‥今時の子供って、なんなの、情緒的に問題ある子ばっかりなの? たまたま西遠寺に来る‥特殊な子たちだからこうなの??




