10.『似た』人
伊吹さんから聞いたのだが、恭二さんは何やら和彦さんを怒らせたことがあるらしい。
って言って、喧嘩になった‥とかじゃない。
恭二さんが和彦さんの息子さんに対して何か‥怒らせるようなことをしたらしい。
喧嘩になる以前の問題で、‥和彦さんの怒りに恭二さんが‥怖気づいてる‥らしい。
だから、そこら辺のことに触れないようにね、と伊吹さんから先に言われた。
‥怒らせるって、子供か。
っていうか。
今日もここに来てないのは、もしかしてそれが理由か?
‥怖いって‥。全く、‥気まづいの間違えだろ?
っていうか‥。
‥和彦さんの息子さんって、確か‥天音ちゃんの弟さんの友達で、高校生くらいの人だっけ(楠が和彦の話を聞いて勝手に思っただけなのだが、既に楠の頭での中で勝手に決定事項となっている)
その息子さんと恭二さんの間で何があったんだろう‥。‥なんか、やばいな‥。(楠の中に生まれる疑惑)
‥そもそも、和彦さんって怒るのかな?? あの優し気な顔‥怒ってもきっと怖くないぞ。僕みたいに目つきが悪かったら怖いだろうけど。‥よく言われたしね。
‥‥美人に睨まれたら怖い的な感じかな?
‥いろいろと気になること満載だ。
「明日になったら三人とも京都に帰るから」
と、今日は、最後の交流会も兼ねてスカウト班全員と伊吹さん、柳さんと和彦さんたち京都組三人の計9人でお食事会をしている。
といって、もちろん外食じゃない。社内食堂貸し切りだ。昼食時は皆の迷惑になるから、昼食後に行うことにした。
ぶっちゃけ、『お食事会』要素はゼロだ。場所と言い、メニューといい、ただの昼食と‥初めから言えばよかったな。勿論アルコールもなしだ。昼間っから、社内でアルコールとか、無いだろう。
‥うちのメンバーは、‥いろいろと普通じゃなくって、外食なんてきっと出来ない位目立つ。
僕は目つきが悪いし、柊さんは前髪が長い一見根暗のオタクだし、梛は‥こんな時間本来ならここに居ちゃいけない小学生だし(昨日と今日は仮病でお休み)
目立つっていったら、普段はお屋敷の中では隠密スキルで目立たないご当主様も、都会の中に居たら美形すぎて(やっぱり)目立つし、(着物だし)朱雀さんは一見イマドキの若者だけど、目つきとか只ものじゃない感満載だし、蘇芳さんも‥どっちかというと経済やくざって感じのヤな雰囲気あるし。‥伊吹さんは若干ひょろっとした、街のお医者さんって感じで‥そう言えばこの中で唯一普通。
そう、別に柳さんも桂ちゃんも普通なんだ。
ただ、‥それが集団となったら
「なんだ、このバラバラな集団。‥何の集まりだ?? 」
って絶対目についちゃうだろう。年もばらつきがあるし。
‥絶対、外食とかこのメンバーでしたくない。
飲み会とか‥集まったら、店員さんに嫌がられそう。用事もないのに(警戒されて)ちょくちょく覗きに来られそう。
「ご注文はありませんか~? 」
って頻繁に来られそう。
で、昨日は出会わなかった、柊と『柊とタイプが似ている気がする(満場一致)な朱雀』が初対面となった。
「‥‥」
何となく予想はついたが、今、無言な二人の間には何とも言えない不穏な空気が漂っている。
二人とも、野生の勘的なもので、相性の良し悪しを瞬時に感じ、その感覚に従い行動する直情型だ。二人の間を流れる微妙な殺気‥にも似た緊張感漂う空気から察するに、二人の相性は(二人が二人とも)良くないと直感で(本能かもしれない)判断したらしい。
先に口を開いたのは朱雀だった。
辛うじて口の端をちょっと上げて精一杯の作り笑いを浮かべると
「柊さん‥って言いましたっけ。初対面の者に対してのその態度は‥社会人としてどうかと思うな。それと‥ええと、目が悪くなるから、前髪は切った方がいいと思うよ。なによりも、初対面の人の印象も良くない」
先輩としてのアドバイスをした。
※ 因みに、初対面の人に対する態度はお互い様である。
彼にとっては、最大限の歩み寄る努力なのだろう。しかし、柊はしれっと目線も合わせない。
歳は‥多分同じくらいだと思う。
伊吹によると朱雀は25歳らしいから、柊と同じ年だ。
ただ、まだ10台といってもいい位若く見える彼を、柊が年下と侮っているのかもしれない。
会った瞬間は殺気すら感じる一触即発モードだったものの、観察し終わったのか今は警戒も溶け(多分)、敬意こそ示していないが、あからさまに嫌な態度をとっているわけでも、悪態ついてるわけでもない。
それは‥ちょっと成長したのかも‥しれない。
前なら確実に、初対面の印象だけで、あからさまに悪意のこもった視線を相手に向け、
「楠、こいつ嫌いだ」
って楠に、ぼそっと『報告』が入ってた。
その後、一切目も合わせない。
以前の柊に、観察機関やら歩み寄りという言葉はなかった。
‥それはそうと‥。それにしても‥だ。
‥巽と離の相性は‥そう悪くないと思うから‥これは、多分『似た者嫌悪』(なんだそりゃ、完全に造語なんだけど‥そういうの‥わかるよね? )なんだろう。性質じゃなくて性格の問題だな。
楠は、ふう、とため息をついた。
ハラハラしているのは、楠と心配性の桂ばかりで、その他の‥周りはというと、似た二人の反応に興味津々って感じだ。
それどころか、‥完全に面白がっている。
否、伊吹や和彦、そして本人である朱雀は昨日ここに居なかったから、二人が似ていると蘇芳が言ったことは知らない。
さて、今柊がスルーしている先ほどの朱雀の発言についてなのだが。
全くもって朱雀が言っていることに間違いはない。
しかし
「そもそも、‥容姿で誰かの印象に残るというのは‥あまり褒められたことではない」
には、楠的にちょっと思うところがあった。
確かに前髪で目を隠した陰気な男は‥印象に残るかもしれない。
だけど、
柊さんについては‥。
「でも‥まあ‥。その顔を出すことの方が隠していることよりも、印象に残る可能性がありますよね。柊さんについては‥僕は一概にそうですねとはいいかねます」
楠がちょっと言い淀んだ。
聡い蘇芳さんは、柊さんの顔に、隠したい傷か何かがあるように思ったんだろう。
「おい、ちょっと、朱雀、まて! 」
朱雀さんが柊さんの前髪に伸ばした手を引き留めようとした。
が、
蘇芳さんが朱雀さんの手を払うより、朱雀さんが伸ばした手が柊さんの前髪を払う方が早かった。
「! 」
「! 」
「‥‥‥」
朱雀さんと目が合ったのは、
やたら不機嫌な超男前‥僕らもそう見ることがない柊さんの顔だった。
「‥(こいつ、まんま西遠寺の顔してる‥)」
一目でそう思った。
気のせいやら、「ちょっと西遠寺の顔してるよね」ってレベルじゃない感じ。
確実に、表の西遠寺の顔。
朱雀と蘇芳が息を呑むのが分かった。
伊吹が心配そうに飛んで来て、
柳と楠が柊を自分たちの背中に隠した。
「‥朱雀さん。これは‥ちょっと」
楠が、眉間にしわを寄せ、朱雀に批判的な視線を向ける。
「え、ちょっと待って。裏に入ったらしい‥西遠寺の縁者って‥柊さん? 」
朱雀の目が見開かれる。
驚いたのは、柳も一緒だった。
楠は最近恭二に聞いたからもう驚かないが、‥驚く気持ちは分かる。自分も聞いた時は驚いた。今いるところは裏寄りだのに、実は表の西遠寺。複雑だなってのは、思った。が‥実は所詮そんなくらいだ。
‥そもそも、西遠寺の家って言われてもそう「どんな家」かは分からないんだけど。いや、‥仕事とか役割とか‥当主の仕事内容とか‥裏と表の関係だとか‥聞いたけど、なんか実感ないっていうか‥。
‥ただの、金持ちの名家なだけじゃないってのは、辛うじて分かった。
って程度。
逆に、柳は西遠寺フリークだから、‥もう、驚いたのと同時に羨ましいやら、憎らしいやら‥感情が複雑だ。
‥楠さんじゃなくって、柊さんだったのか‥。
運営に熱心だから、楠さんだと思ってた。‥『力』も強いし。じゃあ、楠さんって何者なんだろう。
「え! そんなに驚くレベル‥? 確かに柊の兄ちゃんの顔は半端なく男前だし、久し振りに見るけど。‥あ、でもご当主様の顔って柊の兄ちゃんにちょっと似てますね! 」
「「「‥‥」」」
‥暗黙の了解で皆が黙ってること、言っちゃう。
「そうですか? 私は彼の様に男前じゃないですよ? 」
にっこり微笑む和彦に梛が
「いえ、感じが‥似てる気がします」
って微笑み返した。
‥うん。親戚だしね。西遠寺ってわりと同じような顔してるしね。
‥因みに、柊さんの顔、はっきり見たの、初めてかも。‥当主と似てるというより、‥彰彦君にそっくりだな。彰彦君をちょっと若くして、ちょっと‥暗くした感じ? 目の色とかそっくりだったな。
黙って苦笑いしながら、伊吹はそんなことを考えていた。
柊が不機嫌そうに前髪を下ろす。
「ええと‥あの。その‥スミマセンデシタ‥」
神妙に頭を下げる朱雀と、
いい笑顔で、朱雀の肩をぽんと叩き
「朱雀。三ヶ月減俸」
‥魔の宣告をさらっとする和彦。
ちょっと親近感がわいた楠と柳(中間管理職組)だった。




