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Souls gate  作者: 大野 大樹
六章 楠は、兄貴なスーパーチューターを目指し、梛は普通の子供への道を模索する。
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8.分からないなら仕方が無いし、‥他人の性的趣味嗜好には正直関心ないんです。

 伊吹が当主から聞かれたことは、(伊吹の予想に反して)

 伊吹と和彦の息子・彰彦との接点もしくは関係

 が主で、天音のことについては

「天音ちゃんとは、どんな接点があったの? 」

 ってことを、主に彰彦がらみで聞かれた程度だった。

 和彦が紙コップに入った緑茶を飲みながら、首を傾げている。

 和彦がここに訪ねて来たのは、‥昨日の今日だった。

 女子社員が当主の美貌に固まった後、慌ててお茶を出すと言ったのだが、和彦は笑顔でそれを断り、「時間も勿体ないから、ここで買っていきましょう」と和彦はさっさと自販機で紙コップに入ったお茶を購入したのだ。(和彦の笑顔を見て、目がハートになった女子社員何人かが数分にわたって動作停止したのは言うまでもない)

 自身も紙コップに入ったコーヒーを飲んで、喉を潤すと、一度息を吐いて気持ちを落ち着けさせる。

 勿論伊吹も馬鹿じゃない。聞かれていないことを、話すような迂闊なことはしない。

 聞かれたことを、簡潔に、それ以上の情報を絶対に漏洩させない。

 そのことだけに気をつけた。

「彰彦さんとは、彰彦さんから天音ちゃんのことで連絡があって以来の交友です。え? はい、私は天音ちゃんの主治医でしたから」

「ああ、天音ちゃんは‥そういえば彰彦の従兄妹だね」

「ええ。それで話を聞きたいと」

 気をつけながら話しているので、常より緊張した。

 ‥もとより、西遠寺本家の当主とプライベートで話しているんだ。緊張しないわけがない。

 (相手は「親戚同士の世間話だから硬くならないでね」なんて言ったが、‥無理な話だ)

 だけど、誰かに聞かれるのもなんだから、と、今日は裏西遠寺の寮、「Takamagahara」の中庭の東屋を利用している。

 「Takamagahara」の寮メンバーは超インドア派ばかりなので、この東屋はおろか、中庭を利用している者もあまりいない。しかも、今は就業時間だ。中庭には、二人を除いて誰もいなかった。

 ただ、護衛も兼ねているんだろう。この前会った朱雀がぽつんと中庭の端に立っているのが、何となく見えた。

「話? 病状とか? 」

 和彦の問いに、彰彦はでも、首をちょっと傾げた。

 従兄妹の主治医に従兄妹の病状を聞く。

 これは、全くもって何の不思議もない。暫く交流がなかった従妹が入院していたと聞いて驚いて連絡をしてきたってことだろう。そういうことは、まああるだろう。

 ただ不思議なのは、彰彦が天音の様子を聞いてきたのが、天音の死後だったということ‥位だろうか。

 だからといって、誰彼となしに患者の情報を話すことは、伊吹だってしない。

 たとえ、相手が天音ちゃんの従妹であると同時に、親戚で、しかも、西遠寺本家当主の息子であろうとも、だ。

 身元がしっかりしているのと、個人情報を流出してよいということは違う。

 そうだ‥病状を聞かれたんだとしたら、そんなことを考えただろう。だけど‥あの時はそんな感じじゃなかった。思えば、彰彦の口から、天音の病状のことが出たことは一度もなかった。

 それどころじゃなかったから。

 そう、あの時、僕には彰彦君と接触する必要性があったのだ。それも、早急に。

 そして、それを切望していたのは、他でもない‥天音ちゃんだった。

 ‥あの時そういえば‥いたな‥今の今まで忘れていたが、そっくりな‥弟‥。

 いや、分霊っていってたっけか。

 ああ、あの子が『当主の息子の友人』だったのか。

 ‥あの時は、寧ろまだ知り合ってないって感じだったから、交流を持ったのは、あの後‥なのかな?

 そんなことを考えながら、しかし和彦に対しては

「そうだったのかも‥しれないです。でも、よくわからないのです。丁度、あの時天音ちゃんも彰彦さんに会いたいと言ってましたから‥だけど、連絡があったのは彰彦君の方からだったので少し驚いたことを覚えています」

 とだけ伝えた。

 嘘は、言っていない。

 伊吹は、「彰彦から連絡があったのは、天音の死後」ということはわざわざ言わなかった。

 わざわざ話を、複雑にする必要はない。

 それに、本当に分からないのだ。自分の憶測を言っても仕方が無い。

 ただ、はっきりと言えることは、彰彦の用事が病状を聞くことじゃなかったといことだけ。

 そして、彰彦は天音が「いる」ことを知っていた。天音は既に死んでいたのに「天音の魂」が「いる」ことを当たり前の様に知っていたし、「天音の魂」と彼女の弟と当たり前の様に接していた。

 彼にとって、それは少しも変なことじゃ無かった‥ようだった。

 だけど、そのことが世間一般の常識からみて普通では無いことは当たり前の様に理解していて、僕に天音ちゃんの話しをするのを‥躊躇していた。だから、僕が天音ちゃんの弟の話をしたことで、ほっとした様子になったんだ。そして、事情説明もそこそこに、「そちらに行かせてもらっても構いませんか? 」って言った。

 僕も、それに頷いた。

 天音ちゃんが彰彦君がこっちに来ることを切望していたからだ。

 親戚だから、でも、親しい関係とかでもなく、‥そういうレベルじゃなく、切迫した感じがしたからだ。

 あの時は、彰彦君も含めて本当にわけのわからないことばかりだった。

 天音ちゃんのことが一番わからなかったのは言うまでもない。

 だって、天音ちゃんは僕の受け持ちの子で‥確かにあの時、病気で‥亡くなった。

 その‥亡くなる直前に訪ねて来たのが、彼女の弟だった。

「双子マジック」

 って言ってた。

 双子の危機に駆けつけた、と。

 彼女が彼に‥何かした後‥彼は倒れて

「彼を匿ってくれ」

 と

「私が死んだ後も、彼を匿って欲しい」

 と。

 よくわからなかったし、今でもよくわからない。

 よくわからないから、‥今思えばよくわからなかったのに‥、天音の言うとおりにしたんだ。‥多分、流されたのだろう‥。

「全く何も分からなかったんです。ただ、そこに行く必要が自分にはあると」

「彰彦は、そこに来て‥何をしたのですか? 」

 和彦さんの透き通った瞳が伊吹の目を穏やかに見つめている。

 射抜かれているとか、‥そんな強い視線ではなかったのに、その視線を逸らすことはできなかったし、その視線に見られながら嘘を言うことも‥出来なかった。出来るわけがなかった。

 だから、本当のことを

 出来るだけ、余計なことを話さないようにだけ注意して

 少しだけ話そうと‥

 でも、余計な言葉をそぎ取ると残った言葉は

「わかりません」

 だけだった。

 そうだ。

 僕には分からなかったんだ。何も。

 天音ちゃんが「彰彦、ちょっと」と余裕のない様子で彰彦君を(当時天音ちゃんと弟を匿っていた)僕の自宅マンションに引っ張って行って、扉を閉めて、その後一瞬、室内に彼女とあの時は意識がなかった弟と、彰彦の三人になった。

 その間、本の数分‥いや、一分程だったかも。

 何かあったとしたら、あの間だけだろう。

 特に物音はしなかったような気がする。否、外にいた僕たち‥あの時彰彦君は誰かを連れて来ていたんだ‥に聞こえるような大きな物音はしなかった。

 そのまま、数分‥の様に感じた‥の後、天音ちゃんが再び扉を開けた時には、それまでぐったりとしていた弟が目を覚ましていた‥。

 ‥ほら、やっぱり意味が分からない。

 だけど、和彦さんはほっとした顔をした。

「‥本当に、分からなかったのですか? 」

 と、僕の瞳をじっと覗き込んだ。

 探られても、

「わかりませんでした」

 分からなかったものは、分からない。

 僕は、きっぱりと断言した。



 和彦にとってそれで十分だった。

 伊吹に天音の正体が神だとバレていようとも、伊吹が女子高生な幽霊と同棲していようともどうでもよかった。

 伊吹に、彰彦の能力がバレていなかったら‥今現在、彰彦が鏡の秘術をつかえるということがバレていなかったらそれでよかった。(元々は持っていそうだと西遠寺本家にはバレていたし、その件で恭二に随分調べられた。だけど、調べられた結果、『無いらしい』と判断された。その時は、彰彦曰く「天音ちゃんに記憶ごと封印されていた」らしかった)今は、どうやら、封印されていた力が戻っているらしいのだが、あれ以降調べられていないので分からないだろうし、今後調べられるようなことはしない。彰彦を、二度と‥あんな‥目には合わせはしない。そう和彦は心に固く誓っていた。

 バレて、西遠寺本家に『能力申請の詐称』を疑われるのも嫌だったが、それ以上に、西遠寺本家および裏西遠寺に彰彦が当主候補としてや能力者としてスカウトされるのは余計に嫌だった。

 彰彦は、自分とは違う。

 能力はどうであれ、メンタルが‥普通の子供だ。それは、自分が一番分かっている。

 訓練すれば‥なんてどうでもいい。

 関わらせたくない。

 我儘だと言われようが、これだけは嫌だ。

 中学の時の彼の様に、‥死んだ目で毎日を送って欲しくはない。

 訓練は厳しいものだって理解しているし、家の利益の為ってことも理解は出来る。だけど‥どうしても、嫌なんだ。

 自分の息子を只の‥不器用なだけの息子のままで居させてやりたいんだ。

 その我が儘だけは‥どうしても通したいんだ。



「それならいいんだ」

 ふ、と和彦が微笑んだ。

「え? 」

 伊吹は、急に軽くなった『威圧』に驚いて、きょとんとした。

 和彦は、ただ微笑んでいる。

「だって、分からないなら仕方が無いじゃないか。彰彦が関わっていることだから、知りたいと思ったけど、‥分からないなら仕方が無い。そうだろう? 」

「‥ええ」

 ‥ああ、これ、拒否権なしだ。いや、選択権か。『yes』一択の「質問」だ。

「そうです。僕は分からなかったんです」

「うん。そうだね。わからなかったら仕方が無いよね。まあ、‥うちの彰彦が迷惑を掛けて‥申し訳なかった。あんな年になって、情けない限りです」

 と、悪そうに頭を深く下げて詫びる姿は、ただの「父親」そのもので、伊吹は焦った。

 うわあああああ、当主様に頭を下げられてしまったあああ

 って奴だ。

「いえ、そんな‥」

 謝られている伊吹が、冷や汗半端なく焦っている光景は、‥でも、まあ‥仕方が無いだろう。

 朱雀もぎょっとした顔になってこっちを見ている。

 伊吹はもう顔面蒼白だ。

 わあああああ、頭を上げてくれええええ!

 って奴だ。

 しかしながら、それでもどうにか

「あと、僕と天音ちゃんは一緒に住んでないです! 僕は勤め先である病院の近くのマンションに住んでますし! 天音ちゃんに貸しているのは、『Talkamagahara』にある僕の研究室の仮眠室ですし! 僕がそっちに泊まることなんてないし、泊まったことも全然ないですし! 」

 とだけ言った。弁明って奴だ。

 だけど、和彦は頭をあげてぽかん、と伊吹を見て

「え? ああ。そうなんだね」

 って言っただけだった。

 ‥わあ、全然興味なさそう‥。

「いや、女性とのお付き合いも含めた個人のプライベートのことは、私が関わるべきことじゃないから、それは‥」

 本当に興味関心、欠片もありません。という顔で和彦が微妙に微笑んだ。

 ‥貴方にほんのちょっとも関心も聞く気もないのは‥分かるけど、僕は是非、聞いて欲しいんですっっ!!

 ‥若干でも、性的趣味嗜好(ロリコン疑惑)を誤解されてるかもってのが嫌な、僕の精神衛生をも慮ってください~!!



 ‥当主、(伊吹いびり)楽しそうだな。

 護衛の為、どうにか姿が見えて、必要時には駆け付けられる位置だが、会話は聞こえないような絶妙な位置で控えていた朱雀は、半眼になってその光景を眺めているのだった。

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