6.お互いの仕事
さっき、蘇芳さんは多分無意識に朱雀さんに『干渉』した。
干渉しようなんて思わないで‥。
否、干渉なんて知らないで。
ただ、あれが最良だから取った策。
僕らにとっては唯一で、彼らにとっては
『解決策』の一つに過ぎない行為。
あれが、現場レベル。
解決策‥手数の一つとして、あの行動を取った。
咄嗟の判断と、
正しい方法。
能力者としての朱雀さんと蘇芳さんはあれだけでは、ない。
霊能力云々。
僕には正直分からないレベルだ。
‥尊ちゃんも幽霊で、「幽霊なんていない」とは絶対いわないけど、だ。
「僕たちは‥根本的なことが足りてない‥ってことですね」
楠が小さなため息をつき、
「そういうこと‥だね」
柳が頷いた。
隣で、和彦氏がちょっとほっとした顔をしたのが見えて‥
‥ちょっと、恥ずかしかった。
「え? 霊でも根本的なものは変わらなくない? 多分、霊だってタイプがあるよ。寧ろ、霊だからこそ、その影響が顕著なんじゃない? 」
朱雀がコテンと首を傾げて、楠を見た。
唇をきゅっと突き出して、不満そうな顔をする。
女子みたいなその仕草に天音ちゃんを思い出す。
‥今時の子特有の癖なのかな??
そういえば、天音ちゃんも‥男だったな。
いや、天音ちゃん自身は女なんだけど、天音ちゃんのもともとが‥。‥なんか混乱して来た。
つまり、天音ちゃんの本性は‥何て名前か知らないけど、目つきの悪いちょっとガタイのいい男神だって話。あの姿は、つまり、天音ちゃんの「人間バージョン」ってこと、‥なのかな??
と、そんなことを一瞬思っている間に、
目の前のイマドキ男子は、今度は
にっこにこした満点スマイルで
「多分そうだと思うよ? 一度試してみたらどうかな?? 」
と、さりげなく勧誘してくる。
直情型は直情型だけど、この人は柊さんと違って、大概機嫌がいいな。
‥自分の力をコントロールできてて、イライラしないからだろうか?
「試す‥ですか」
楠は苦笑する。
‥ホントに、この人は‥。
ふふ
楠に微笑み返して、
その穏やかな微笑みのまま
「まあ、分かるってことは、有利だとは思うけど‥実戦に出て結果が出るとは‥僕は正直わからない。
何ていっても、この仕事は実戦経験に基づいた判断力やら、現場の勘やら‥咄嗟な判断が最も重要な現場だからね。流石にそういうのは、今日明日ではね。
でもね。別に一人で全部やる必要も僕はないと思う。二人で出来るなら、二人でやればいいと思う。慣れるまで、誰かについていてもらったってそれは構わない」
だけど、さっきまでの楽しそうな口調とは違う、真面目な口調で朱雀が言った。
イマドキの
お洒落な若者の外見で、
だけど、一端の『仕事人』って口調。
‥正直、叶わない
って思う。
この人の‥『この人たち』の本気に‥僕たちは応えられているだろうか?
スカウトっていう、この人たちを支えなければいけない‥その窓口に立てているのだろうか?
‥正直、自信がない。
そんな‥何とも言えない情けない気持ちにさせられた。
ふふ、
と、蘇芳が微笑む。
後輩を見守る、懐の深い先輩みたいな微笑みだった。
「私たちは、そういうのを現場の空気で判断して来た。
でも、‥そうですね。
性質で分かるなら、新人さんも参加してもらいやすいですね。
この仕事は、‥新人さんに実戦経験を積んでもらいにくい仕事ですからね」
フォローしてくれてるんだって、
そして
アドバイスを受けてるんだって、
‥分かった。
ちょっと情けなくって、恥ずかしくって、‥嬉しかった。
この人たちのすること、言う事を全部覚えておかないとって
思った。
「分かるって言えば‥さっき、朱雀さんは、楠の何を確かめようとしたんですか? 」
この場の、何となくまとまりかけた雰囲気を「ちょっとすみません」という断りでもって、乱したのは、
他でもない、普通だったら一番常識人であり、西遠寺至上主義な柳だった。
「え? 」
朱雀が首を傾げる。
楠も、すこし驚いた顔で柳を見た。
‥珍しい。
って思った。
柳は、こくりと一度頷くと
「さっき、楠に『手を合わせて』って‥」
朱雀だけを真っ直ぐ見て言った。
え? って顔を一瞬した朱雀が「ああ、あれね」と小さく何度か頷く。
「ああ。ちょっとしたテスト? っていうのかな‥。
僕が力をちょっと送って、それをどう受けるかって」
そう言った朱雀は、だけどちょっとばつが悪そうな顔をした。
楠の方が『直感ではなく』『判定』出来ると気付いて、ちょっと恥ずかしくなったのだ。
柳は真剣な顔で、小さく頷いて‥ちょっと覚悟を決めるみたいに間を置くと
「それ‥俺にもしてもらえませんか? 力は確実に楠の方があるんですが、俺の方が訓練してる※んです」
※ 柳は、天音ちゃんの訓練を受けているのだ。
さっきより、更に真剣な顔で朱雀を見た。
「訓練? 何の? ってか、誰に?? ‥君たちホントに、わけわかんないね。
まあいいや。
じゃあ。手を出して? 」
朱雀が苦笑する。
柳はその光景を見ながら、ゴクリ、と息を呑んだ。
多分、それは周りの者も一緒だったんだろう。振り返って確認はしなかったが、気配で分かった。
‥おお、干渉じゃ‥ない。
これは、『攻撃』だ。
震対巽だ。
動系同士の対決。
これは、完全にパワー勝負だな。
多分‥、
パワーなら‥そりゃあ‥
朱雀の方が上だろう。
「ったあ‥!! 」
‥え?
楠たちは目を疑った。
チリっと
青い火花みたいなのが二人の合わせた手から見えた。
‥静電気??
で、その影響を受けたのは、だけど、一人だったらしい。相殺じゃない‥
その一人、はそこで手を抑えて蹲っている。
おお、‥二人分の増大されたパワーが、かかって来たって感じか?
「まさか‥僕の力を『利用』した? 」
よっぽど痛かったのだろう。蹲ったままの朱雀さんがちょっと青ざめた顔で
柳さんを見上げて言った。
声が、ちょっと震えているのは、恐れてるわけでも、怒ってるわけでもない。
驚いてるのだろう。
利用?
「あたり、でしょ? 」
楠が首を傾げている間に、ちょっと復活したらしい朱雀さんがよろよろ立ち上がり、そして、妙に嬉しそうに‥ちょっと興奮した様な視線を柳に向けた。
柳が頷く。
「ええ。俺は力が弱いから、師匠に頼んで、教えてもらったんです。
周りからの力の取り込み方。
元来、人は食べたものから、見たものから力を得ている。
それの‥応用でしょうか」
ぱっと、朱雀の顔が明るくなる。「やっぱり! 」って妙に嬉しそうだ。
負けたって感覚では無いらしい。
ただ、自分の考えが当たって嬉しいのと、考えなかったことが起こって嬉しいって感覚。
なんか、うきうきした顔になってる。
楠はというと、さっきの柳の言葉を自分の脳内で反芻しながら
食べたものが力になるのと同じ要領で、人の気‥パワーを自分の中に取り込む‥。
天音ちゃん、相変わらずめちゃくちゃだな。
万物を生み出す、‥『天』か。
‥ちょっと頭痛がしていた。
「誰彼となく、奪いませんよ? 朱雀さんが力を流してこられたから、それを吸収して、俺の力に変えて、返しただけです」
柳さんは、あんな凄いことしでかしたっていうのに、
けっこう、ケロッとしている。
それどころか、ああなることは、想定内とでもいいたげな感じ。
‥そうか、あれは『かけ』に出たわけではなく、自信があったってことか。
ぶつけ合って、絶対に負けない、自信。
「はあ~。ほんっと、アンタたちのとこって面白いな!! 分かった。逆にスカウトして、こっちで教育なんてする必要はない!
お互いに、お互いの仕事で、裏の‥いや、西遠寺の為に頑張ろうな! 」
はは、と朗らかに朱雀が笑った。
隣を見ると蘇芳も微笑んでいた。
‥今日見た中で一番うれしそうだな。
って思った。




