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Souls gate  作者: 大野 大樹
六章 楠は、兄貴なスーパーチューターを目指し、梛は普通の子供への道を模索する。
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4.楠。値踏みされる。

 気の強そうなイマドキの兄ちゃん、「朱雀」

 と、

 インテリで冷静そうな兄ちゃん、「蘇芳」

 を連れて来た麗人、和彦さん、を見て僕と柳さんは完全に固まっていた。

 穏やかで控えめな和彦の、微笑んでいるだけで二人のインパクトを完全に凌駕する圧倒的なカリスマ‥!

 丁寧で優美な所作。優しく、信頼できる対応。穏やかで整った美貌。

 ‥仏様っていうのがいるなら、きっとこういう感じなんだろうって思う神々しさ。

 でも、神とかいう、絶対的なカリスマやら力の結晶ってのとは違う。

 安らぎやら心のふるさと的な‥そういう穏やかで優しい感情をその人に感じた。

 話すその声もいい。

 柊さんみたいに、ぞくっと来るような声じゃない。(色気のある声って言うらしい)

 柳さんみたいに、如何にもやり手っていう自信満々な声でもない。

 丁度伊吹さんみたいに、安心する耳通りのいい声‥それのもっと、究極って感じ‥。

 黒髪・黒目の典型的な日本人の特徴であるはずのものが、傷やらシミ一つない綺麗な肌に映えて、「エキゾチックな麗人」に見える。でも、全然嫌味じゃない。「けっ、イケメンが! ナルってるんじゃねえよ」とかも思わない。(イケメンでも柊は表情がどんよりし過ぎて「ナルってる」様には見えないらしい。‥楠の「ナルってる」基準は微妙だ)

 男だとか女だとか、そういう性別を超えた何かを彼には感じさせられる。

 とにかく、

 ただ、

 大好きだこの人‥っ!

 そんな気持ちになる。

 一目で魅了される美貌とは‥違う。

 容姿でいえば、‥年齢的なものもあるし、パーツとかについても、柊さんの方がよっぽど美しい。

 柊さんは、一度見たら忘れない様な‥インパクトある美貌だけど‥

 西遠寺のご当主「和彦」さんは、綺麗なんだけど‥そう、頭に残るって感じではない。

 ‥ああ、そうか、これこでそが当主の顔なんだろう。

 元々持っている()である顔に加えて、「目立たない」所作。「目立たない」口調。「目立たない」(それでいて、けっしてへりくだらない)表情。対峙した相手を安心さうせる教養と、それをひけらかさない態度(それでいて、やっぱり自分を低くは見せない)。

 それらが、総て超一流って感じがする。

 信頼感半端ない。

 寧ろ、この人に任せておけば総て大丈夫って安心感が凄い。

 さすが、政府高官専門陰陽師集団 西遠寺の窓口‥西遠寺の当主は‥違う。

「(和彦さんを前に固まるのも無理はないですが)楠さん、桂さん。自己紹介をしてください」

 そう諫めた伊吹も

 初めてがっつり対峙した西遠寺の当主に少し当惑していた。

 ‥顔だけだったら、彰彦君とそっくりなのに‥やっぱり当主は別格だったな。存在感とか雰囲気とかがまるで違う。

 ちょっと、逃げ出したくなる。

「あ! すみません! 」

 楠と柳がもう、土下座でもしそうな勢いで謝った。

「あの、‥私‥楠ともうします...『Souls gate』企画制作部課長です」

 例の名刺を差し出しながら、会釈しようとしたが、緊張のあまり90度に近いお辞儀になってしまった。名刺を差し出した手も、震えてしまっている。

 ‥~う~! 恥ずかしいっ‥!

 因みに、『Souls gate』企画制作部の「システム開発管理課」課長だ。企画制作部には他にも、「プログラム部」や、「モニタリング管理室」やらが細かくあるわけだから、本来なら楠は自己紹介として「『Souls gate』企画制作部「システム開発管理」課長」というべきなのだ。

 だが、自分が発案・監修しているとはいえ、「システム開発管理課長」と名乗るのは恥ずかしかった。(だって全然プログラムとか組めないわけだし‥)データは管理してはいるが。(これでも一応はコンピュータ関連の学部だ)

 だが、実際にプログラムを開発している梛は、若すぎるどころか幼すぎるし、桂はコミュニケーション能力に問題がある。そして、柊は問題外だ‥っていうので、消去法的に楠が課長になっているのに過ぎない。

 ‥梛が就職して問題ない年齢になったら是非変わってもらいたいものだ。

 そんなことを自己評価がやたらに低い楠は思っているわけだが、他のメンバーは、楠しか代表はできないと思っている。

 これから先、この課にメンバーが増えようともそれは変わらないだろう。



「私は、柳と申します。『Souls gate』企画制作部の部長です」

 そう。柳さんは、企画制作部の部長であって、本来なら、「システム開発管理課」の所属ではない。だけど、楠・柊と共にオープニングスタッフだから何となく今も同じ事務所に籍を置いている。

 柳が事務所にいることが少ないのはそのせいである。

 いつも自信満々で、頼れるリーダー柳。だが、その柳は今、一応微笑を浮かべているが、その顔は常と違って完全に引きつっている。

 会釈して、名刺を差し出す動作も、ロボットか? という程動きが硬い。

 何よりも、目線が‥何処見てるか分からない。

 ぐるぐるって言ったらいいのか‥完全に視線が泳いでいる。

 そんな二人を

 朱雀と蘇芳は

 おお、‥寧ろ、流されてないのが‥流石だな。

 と冷静に観察していた。

 ‥普通なら、すっと当主に懐に入られて終わりだのにな。この二人は、当主を『認識している』。

 見れば二人とも随分と若い。これっ位の若者なら、当主の雰囲気に流され、鏡の秘術により、『誰かに会った』認識もあんまりないまま、気が付いたら対面が終わってた、なんてパターンが多い。

 もっとも、そういうタイプは西遠寺にはそう来れない。古参の顧客は自分たちの聖域であり特別な場所である西遠寺にそう滅多に新しい者を連れて来たりはしない。その者が西遠寺の機嫌を損ねて、それこそ自分まで出入り禁止になっては叶わないからだ。

 和彦は穏やかに微笑み、二人の名刺を受け取ると

 まだ背中を見せている(※お辞儀の角度が深すぎて顔すら見えていない)楠を見た。

「よろしくお願いします」

 ‥ああ、この人が隆行君の『保護者』か‥。

 穏やかに微笑みながら、和彦は観察していた。

 自分に対する視線を感じて楠が恐る恐る顔を挙げると、和彦と目が合って、また固まる。隣では、柳がまだ固まっている。

 楠は和彦に視線を合わせられて、自然に目をあけた。

「‥‥」

 きょとんと和彦を見つめる楠に、ふっと、和彦が笑みを深くする。


 

 ‥目の色素がかなり薄い。能力が高い程目の色素が低い傾向にあるから‥見た感じだと、能力者の資格は十分。

 能力云々は、私には分からないけれども‥。

 隣の、朱雀と蘇芳がさっきから楠君に興味を示してるところを見ると、‥素質充分ってとこか。でも、人間不信気味なのかな、‥さっきから警戒感が半端ない。

(※緊張して固まっている楠だが、自分では気付かない間も常に周りを警戒していた。長年にわたる自己防衛の為の威嚇は、もはや無意識レベルとなっている様だ)

 だけど、冷静に与えられた情報を即座に解析して、整理しているって感じだな。

 さっき伊吹君と会話しているのを見ていたけど、頭の回転も良さそうだ。

 隆行君を保護した‥何か考えがあってのことなのかな? それとも、報告書にある通り、慈悲の心故かな。

 ‥慈悲ねえ。

 一体どういった人物なんだろう。

 柳君は、あくまで見た目で判断しただけでは‥能力は‥そうない様だ。

 西遠寺の狂信的信仰者ってプロフィールにはあるけど‥。信者って‥。これも、大概よく分からないな。‥



「僕たちのことも紹介してくださいよ。ご当主」

 くいっと、和彦の羽織の袖をつまみ、にやり、と挑発的な視線を楠に向けたのは、朱雀だ。

 伊吹がぎょっとなって朱雀を見た。

 ひいぃ‥! 高そうな着物が、しわになるだろうが‥!

 高校生くらいに見えるが、確か25歳くらいだった気がする。

 目がキッラキラしてるから若く見えるんだろう。

 ‥ホントに25歳か? 間違ってんじゃないか?

 伊吹は事前に渡されたプロフィールをこっそり見直した。

 ‥若いというか‥、『青い』って感じ‥。高校生って感じが、ホントぴったりくる。学生っぽいけど、大学生とは違うって感じ‥。

 髪型も、美容院でこまめにカットしているらしく、いつも決まっている。

 今の髪型は、「2ブロック」だとか言っていた。「襟足は刈り上げにならない位に短くがポイント! 」なんてわけのわからないことを言っていた。

 少し硬めの髪の毛は、ハネすら全部管理されており、彼の髪型が崩れたのを他のメンバーが見たことは無い程であるらしい。そんなお洒落な彼の今日の服装のコンセプトは、「今日は、ビジカジ! 」らしい。

 俗世から『切り離された』西遠寺の中でも、異端者が集まる裏西遠寺において、彼の様なタイプは珍しい。

 きっちりとしなければいけないところでは、きっちりとした恰好をしなければいけない。

 っていう位の認識しかない。

 後は、辛うじて「似合うか似合わないか」「見かけで人に与える影響云々」っていう「社会人の常識」。

 和彦は、結構切りっぱなしだ。

 癖のないサラサラのストレートは長くならないように切ればさえ、それで決まったし、和彦の綺麗な顔に似合っていた。それは、息子の彰彦にも言えた。

 蘇芳は「美容師さんにお任せししています」と、いつもビジカジっぽい(一応若いから、美容師さんが気を遣ってカジュアルっぽさもとりいれてくれた)髪型をしている。

 朱雀が

「その‥美容師ホントに蘇芳にとってベストかな‥」

 と言ってくるが、そんなのスルーだ。

 朱雀は、楠を頭からつま先まで眺めた後、ニカっと愛想のいい笑顔を浮かべ

「楠さんの髪の色いいですね! チョコレート色。それ、染めてないんですよね? 自毛なんですよね? 。ショートマッシュも似合ってますね~。いいっすね~髪がかたくないって! 」

 楠の前に立った。

 急にぐいぐい来られてびっくりした楠が苦笑する。

 ‥ショートマッシュっていうんだろうか? 自分の髪型は。いつも、美容師に任せっきりだから、よくわからない。

 楠も蘇芳同様『お任せ』派である。

「目の色も、ヘーゼル‥シトリンかな。いい色だし。‥楠さん‥結構力あるでしょ? 」

 朱雀が自分の名前を呼んだ後急に重くなった空気に楠は、身構える。

「え? 」

 さっきと同様に笑っているのに、纏っている空気がまるで違う。

 包み隠さない、あからさまな威嚇‥そんな感じの攻撃的な雰囲気が彼から伝わってくる。

 ‥あ、この感覚‥

 『機嫌が良くない』柊さんと同じような感じだ。

 明確な理由があって怒っているんじゃなくって、『機嫌が良くない』時の柊。

 楠と柳が警戒の姿勢を取る。

「え? どうしました? 」

 くすくすと朱雀が『面白そうに』笑った。

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