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Souls gate  作者: 大野 大樹
六章 楠は、兄貴なスーパーチューターを目指し、梛は普通の子供への道を模索する。
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2.楠は、兄貴なスーパーチューターの道を模索している。

「教え子との関係に悩む先生みたい‥」

 考えあぐねていると、動きが止まる。

 あんまり集中し過ぎて普段は気配に聡い楠も、柳が後ろにったたことすら気付かなかった。

 ここは、休憩スペースだ。ちょっとコーヒーを買いに来たのに、気付けば結構な時間(自販機を前に)固まっていた。

 柳は、呆れた様な表情を浮かべて楠を見た。

 独り言を言った覚えもないから、さっきの梛とのやり取りを‥もしかしたらそれ以前に、梛と柊相手に暴走していたところも見られていたかもしれない。

 楠は余りの恥ずかしさに赤面して、悶絶したくなる。

 ‥柳さんは、気配なく時々僕らの様子を見てたりするからなあ。

 だけど、ここで動揺する様子まで見られたくない。

「え? 」

 ふう、と息を吐きだして、楠が柳を振り返る。

 なるべく平静を装うことも忘れない。

 くす、と柳が微かに微笑む。

 ‥見透かされてるって感じが嫌だ。



「チューターを楠さんはどう考えてる? 」

「どうって‥。アドバイサーでカウンセラーで、のちのちスカウトするための‥」

 ‥ちょっと言い淀んでしまった。

 どう考えてるって‥どう‥だろう?

「楠の‥あれってちょっと、先生みたい」

「ああ‥先生」

 ‥まあ、間違いじゃない。

 責任もってっていう意味では、先生って感じ‥かも?

 こくり、と楠が頷くと、柳がちょっと首を傾げた。

「俺は先生と生徒って感じじゃなくって、ただの先輩っていう立場で接してる」

 先輩。

 うん、先生よりちょっと、距離を近くに‥って感じかな?

 でも、‥そうは変わらない気が‥?

「変わるよ。先生は‥一緒に楽しまないよ」

「一緒に楽しむ? 」

「例えば、文化祭をして、生徒は運営も含めて作っていく側だけど、先生は、危ないことしてないか監視したりする側じゃない? 」

「うん」

「一緒に楽しんだりもするけど‥立場は本来は違うよね? 」

「うん‥まあ」

 だって、‥そうじゃない?

 僕らは『運営』側なわけだし。

「運営って言ってるんだったら、いいんだけど、一プレーヤーとしてログインしてるなら、それらしくしなきゃ」

「それらしく‥」

 楠が、不満そうに眉を寄せる。

「それとも、子供となんて遊んでられない? 」

 くすっと、

 ちょっと意地悪っぽい笑いを柳が浮かべる。

「そんなことは言ってない」

 むっとした顔を楠が微かに

 ほんの一瞬だけ浮かべる。

 ‥でも、‥ちょっと図星だったかも。

 そんな気もした。

 そういう、自分の見たくない‥認めたくない気持ちを誰かに指摘されるのは‥どうも‥ね。

 そんな楠を見た柳が

 ふ、

 と笑う。

「‥ん~。楠さんは‥真面目過ぎるのかなあ」

 わざとらしく小さくためいきをつきながら柳は、ちらりと楠を見た。

 考えた振りをしたが

 ここからが、本番だ。

 柳は、楠に対して常日頃思ってきたことを今言おうと思った。

「え? 」

 ちょっと様子が変わった柳に、楠は、緊張した面立ちになる。

「真面目‥違うな‥。ストイックに禁欲主義を貫いてる‥そんな感じがする‥」

 慎重に言葉を選びながら、柳が楠に改めて視線を合わせる。

「‥なにそれ」

 真剣な柳の視線を受けて、楠が一瞬息を呑む。

 表情もだが、‥さっきの言葉もだ。

 ストイックに禁欲主義って

 なんか、‥普通では絶対聞かないセリフ。

 そんなセリフが、自分に向けて発せられてるっていう、不思議。

「例えばさ‥、このケーキ美味しいよって人に自信をもって勧めようと思ったら、そのケーキを自分で食べてみなきゃいけないわけじゃない? だけど‥楠はそれをしないよね? 結果、「誰かが美味しいって言ってたよ」ってなる。で、絶対、「美味しいって誰かが言ってたよ。一緒に食べよう? 」ってならない。

 楠は自分の幸福について‥シビア過ぎない? 」

 え、さあ。

 そんなこと‥急に言われても‥どうだろう。

 『自分の幸福について‥シビア過ぎない? 』

 それは‥よくわからないけど、確かに‥自分のことなんてどうでもいいかも。

 自己犠牲とかじゃなく‥、けっこう普通に、どうでもいいかも。

 禁欲主義っていうのとは違う。だって、我慢してるんじゃなくって、どうでもいいんだもの。

「‥‥‥」

 ‥それって、自分の幸福についてシビアとは、違うんじゃない? 価値観の違いじゃん。

 僕は、まあ、皆と楽しんだりするのは苦手だ。

 暗いのは認める。ただ、それだけだ。別に自己犠牲とかっていうのじゃない。

 人と合わせるのが‥苦手なんだ。

「‥感覚の共有って大事だよ」

 黙ってたら、柳のため息が聞こえた。

「感覚の共有‥」

 ああ、‥だから、リア充は苦手だ‥。



「‥なんか、うちのスカウトたちが迷走している気がする‥。なんか‥方向を間違ってるって‥気がする」

 さっきから二人のやり取りを眺めていた恭二が、ふうとため息をつく。

 くす、と微かに微笑んだのは、伊吹だ。

 会議帰りだろう。

「間違ってますか? 彼らなりに試行錯誤。いいことじゃないですか」

「‥真面目なんだろうけど‥なんか、とにかくそういうことじゃなくって‥」

 普段はしめないネクタイを緩めながら、恭二が眉間にしわを寄せる。

 まあ、‥伊吹にも彼の言いたいことは分かる。

「‥現場で実際に活躍‥働いてる人に一度会わせてみたらどうですか? カリスマを実際に見たら、なにか思うことがあるかもしれないですよ? 」

 現場を知らないんだ。

 ここでどんな理論をしようとも、‥下手したらどんどん迷走していくこともあるだろう。

「現場? ‥誰? 」

 びくっと、肩の跳ね上がった恭二の顔色が分かりやすい程悪くなる。

 くすくすと伊吹が意地の悪い笑顔を浮かべる。

「貴方の親戚の和彦さん。それこそ、分かりやすくミスターカリスマじゃないですか」

「‥和彦に私が連絡するの? 」

 恭二の顔はもう悪いを通り越してそれこそ紙みたいに真っ白だ。心なしか、水気すら失われている様に見える。

「ええ」

 反対に伊吹は、完全に『面白そう』だ。

 にこ、と『いい笑顔』を恭二に向けた。


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