1.楠は、兄貴なスーパーチューターを目指す
これまで、いろいろ考えて、‥何を‥何から逃げて来たのか‥。
って、考えるまでもない。
『那須』君‥否、大川 奈水流のことだ。
一言で言うと、普通の現在っぽい子で、
心に闇なんか抱えて無くって、
現状に不満も不安も抱えていない。
絶対に、誰の助けも要らないタイプ。まして、僕の助けなんているはずもない。
強い人。家族関係にも問題が無くて、成績にも問題がない。いじめ問題もない。容姿にも恵まれていて、将来に何の憂いも感じられないような、恵まれた子。
‥強い人は、苦手だ。
我ながら、最低だなあって思う。
だけど、‥僕の助けが要らない上に、僕が関わることが彼女の迷惑になるなら、わざわざ関わらない方がいい‥って思うんだけど、‥
柳さんは
「分からないからって放り出しちゃ駄目でしょ」
っていう。
「怖いから、あの子には関わりたくない、っていう風に聞こえたよ」
とも。
‥本当に手厳しい。
でも、どうやって関わって行けばいいんだろう。
僕が、那須君のチューターである以上、『彼』に関わり、彼の内面に触れていかなければいけないのだ。そして、彼の闇を‥暴いて、付け入って、裏西遠寺にスカウトしなければいけない。‥適性があればの話だけど。
‥やっぱり、『実際』に会うべきじゃなかった。
大川 奈水流の姿が浮かぶ。
‥可愛い普通の高校生。
僕には無縁な所謂『リア充』って感じの子。
「‥気持ちが分かり様がない」
でも、‥柊さんの事だってある。
どんなに、容姿に恵まれてても、家族に冷遇されたり疎まれたりすることもある。
人それぞれに事情がある。
そして、僕みたいに家族と勝手に距離を置いている者だって、居る。
人ってのは、他人が思う以上に複雑なんだ。
他人になりたい変身願望‥かあ。
大川 奈水流は、男の子になりたかったんだろうか?
性別と身体が一致していないってことなんだろうか?
それとも、‥ゲームの中だけ、別の人格を楽しんでいるだけなのだろうか。
『そんなことくらい』をその子の『闇』って呼ぶには至らない気もするけど‥、悩みの大きさなんて本人以外には分からないだろう。
‥それこそ、決めつけは良くない。
僕は、彼女のチューターなんだから。
きっと、『アズマ』だって、とっつきやすいタイプじゃなかっただろう。
自分できっと何でも出来るだろう。きっと、やろうとするだろう。
だけど、出来ると‥したいは違う。
人に頼るのが嫌いなタイプでも、‥頼り方が分からないだけだったかもしれないし、『リアル』じゃないなら、頼りたいって‥人って、リアルとバーチャルが必ずしもイコールじゃない。
アズマも、そんなタイプだって、前に柳さんから聞いた。
アズマ‥水沢徹君は科学部の部長で、頼れる優等生。
皆が彼を誉めるし、彼を頼りにする。彼に出来ないことは無いって思ってる。
水沢徹君も、出来るから、しないといけないって思うから、する。だけど、心の中ではいっぱいいっぱいで、それを誰にも打ち明けることが出来ないから、ひとりで頑張っている。
柳さんは
「水沢君は、所謂努力家の秀才タイプ。だけど、周りははじめっから何でも出来る天才タイプだって思ってる」
って言ってた。
災悪だ。
きっと、彼は辛かっただろう。
‥責任感が強いものが、陥りやすいことだって聞く。
もしかしたら、奈水流も『自分のイメージ』や『自分の役目』を守る為に必死に頑張っていて、その‥息抜きがゲーム『souls gate』なのかもしれない。
まず、あの子のことを知らないといけない。
そして、僕に出来ることがあるならば、精一杯しよう。
「なあ、楠。‥前も言ったが、‥楠は、‥あれこれ考えない方がいい。
何か考えてるんだろうなあって分かるのが‥怖い。寧ろ、‥やめた方がいい」
はあ、とため息をついた梛が横の席に着いた。
梛は、呆れた様な顔をしているが、心配してくれているんだろう。
梛も、見かけとは全然違う。
見かけは、話し方とかも‥冷たい感じだけど、本当はすっごく心配性で優しい。
「なあ、梛。梛からみて、那須君はどんなタイプ? 」
それに、昔からずっとこれは変わらないんだけど、‥子ども扱いされるのを嫌がる。
だから、時々、「こんなこと聞いても仕方ないかな? 分からないかな? 」って思うことでも相談してみる。
「頼ってるよ」って意思表示の一環なんだけど、‥実際に期待もしている。梛の意見は参考になる。‥時々、びっくりするほど的確だしね。
「那須君? 」
「うん。僕には、あの時会ったみたいに‥何の悩みもなさそうな恵まれた子しか見えなくてさ。‥先入観を持っては駄目だね。それ以上に彼女のこと見ることが出来なくてさ」
「ああ、それを悩んでいたのか。
‥そうだな‥。那須君は‥人のこと、気にしすぎるとこがあるよね? 例えば、翔である僕が嫌な思いしないかって慮ったりさ」
「‥どんな時そんなこと思ったの? 」
「あの事があった後はじめて会った俺の顔を見た瞬間「嬉しそうに」明らかに「ほっとした」顔した。それって、‥もう俺が那須君のワールドに入ってこないかもって思ったってことじゃない? って思ったんだけど‥」
『あのことがあった』‥っていうのは、『翔』である梛にチューターがついていないと、アズマたちが気付いた時のことだ。
あのときは、ちょっと驚いた。
「なるほど‥そうかもしれないね」
「俺もその気持ちわかる。嫌われちゃったんじゃないかなって‥」
‥他人の気持ちを慮る。
その時の、不安な気持ち。
彼女は、少なくとも自分に自信があるタイプじゃないってことなのかな‥?
傲慢で、人の気持ちに気付けないってタイプじゃないってことなのかな?
彼女にも、‥表面には表れていない、不安や不満‥そういう気持ちがある。
そして、それは、もしかしたら、彼女自身も気付いていない‥自覚していないのかもしれない。
それは、彼女とこれから話して、一緒の時間を過ごして探していかなければいけない事なのだろう。




