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Souls gate  作者: 大野 大樹
五章 相互扶助と相殺
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9.大丈夫。

「さて‥。じゃあそろそろ、会議の時間だな。今日はどこ? 」

 恭二が掛け時計を見て、身体を伸ばした。

 伊吹がスマホを確認して、場所を告げる。

「じゃあ。楠さん。また」

「ええ」

 恭二は楠の方をちらりと一瞥して、軽く会釈した。

 楠も微かに微笑んで会釈を返す。

 二人が出て行ったのを確認し、ふうーと長めに息を吐きだすと、楠も身体を伸ばした。

 一度立ち上がって腰も伸ばし、もう一度今度は短く息を吐いた。

 ‥ちょっと緊張したな。やっぱり、‥こんなアットホームな会社とは言え、上司だしな。

 椅子に座り直しながらそんなことも考える。

 ‥アットホーム、は違うか。

 事務所は確かに、『家族みたい』だ。でも、会社全体を見れば、他の部署もあって普通の会社と変わらない。

 だけど、今日ここが『裏西遠寺』とだという事を、改めて思い知らされた。

 『TAKAMAGAHARA』という会社のかたちをとった、裏の『西遠寺』そして、僕らはそこの『能力者』を発掘する・スカウトする仕事をしている。

 スカウトして、そして、西遠寺によって能力者になるための訓練を受けて、裏西遠寺として西遠寺を支える。

 裏西遠寺は、西遠寺にとってなくてはならないものだけど、西遠寺は裏を‥軽視している。

 だから、柊さんは表の西遠寺(実家)から裏の西遠寺(恭二さんの家)に養子に出された。

 恭二さんも伊吹さんも、元々は表の西遠寺の人間だ。

 恭二さんは、謎の『当主育成プログラム』だっけ‥かも受けたって言ってた。

 だけど、今では裏の幹部だ。

 裏西遠寺自体は、別に恭二さんたちがつくったわけではない。元々あった。

 だけど、こうやって組織化したのは、恭二さんたちだ。

 わざわざ、表から軽視されてる裏に『表の西遠寺』なのに来たのは‥何故なんだろう。

 なんだか、西遠寺自体知らないから「意外」とも「成程ねえ」とも何とも思わないけど、「‥なんか複雑そう」って感じはする。

 表西遠寺と裏西遠寺の総てを束ねるリーダーである『当主』

 ‥旧家のトップであり、西遠寺を仕切る当主‥かあ。

 なんか‥凄そう。

‥あの顔で冷笑されたら、結構立ち直れない。

‥悪夢にうなされるレベルの笑顔

恭二を恐れさせる反面、普段は『自分の容姿容貌すべてを徹底的に管理して、一切に妥協がない』。『人心掌握術にも長けている』接客のプロ。人を惚れさせず、惹きつけ、記憶に残らない。

‥なんだその、人間離れした感じ。

ってか、忍者かなんかか?

‥確かに、柊さんのイメージじゃないな。絶対そんな器用なこと出来そうにないし、それ以前に柊さんの顔は、誰から見ても華やかだし、色気も‥半端ない。正直直視すると多分老若男女問わず照れる。『記憶に残らない』から、最も遠くにありそう。それに、声も、艶があり過ぎる。あんなのまともに聞いてたら、緊張するし、相談どころじゃない。

‥でも、あの時、枕元で聞いた柊さんの声は凄く「普通」だった。なんだ、普通の声も出せるんじゃないか。じゃあ何でださないんだ? って思ったくらい‥。

‥多分、僕が「普通の声」だと思った声の方が、彼にとっては、「意識して出した声」で、彼は体調が悪い僕に気を遣ってくれたのだろう。‥多分。僕が、あの声が苦手だって気が付いていたら、‥だけど。

 実際は、なんてことはない。あの「普通の声」がやっぱり普通で、いつも、楠の反応を楽しんであの声をわざわざ出している。そんなことは、楠は知らない。

「あんなに恵まれた容姿でも、冷遇されてきたりとかする‥。それって、普通の家庭じゃ‥まず考えられない理由からなんだろうなあ」

 今まで、少なからず恵まれた容姿を羨ましく思ってきたこともあるし、‥出来るなら、「恐れられない目つき」で生まれて来たかったなって思ったけど、‥恵まれた容姿だからって、総ての人に好意的に受け入れられるわけじゃない‥ってわけかあ。

 人間関係ってのは、複雑だよなあ。

 じゃあ‥能力は? 能力があれば、人は無条件に受け入れられるのだろうか? 能力が全てってところはよくある。ITビジネスみたいに、相手の顔が見えない職種ってのは‥(いや、全く見えないわけではないが)あるわけだし。

 でも、桂ちゃんはきっと誰より能力があるけど、そのコミュニケーション能力の低さから、ずっと目立たず生きて来た。彼女は、能力を持っているが、それをアピールしたり、誰かと高めあったり形にしたり、そういう能力は多分低い。‥梛に至っては、発揮する前に‥その能力ゆえ、親に恐れられ、‥疎まれた。

 育ち、性格‥。

 人を構成し、取り巻く環境。

 誰かにとっては好ましいことでも、誰かにとっては、許せない位気に入らない。‥そういうことって、少なくない。僕みたいに、「明らかに」ってことなら、納得は行くんだけど、‥嫉妬とかそういった感情意外に、「普通なら好ましい」と思われるものが、自分の親しい‥近しい人に疎まれるってどんな気持ちなんだろう。何にも悪いことしてないのに、優れ過ぎているがゆえに、疎まれる。‥同じ境遇にはなり様がないが、‥何となく理解できる気がする。

 梛の母親の場合だったら、恐れとかかな。どんどん自分が置いて行かれるって思い?

 桂ちゃんは、桂ちゃんが家族を遮断? してる。

 それは、でも僕も一緒‥? かな。僕の場合、見た目が怖いから、両親が生理的に受け付けられなかったのかもしれないけど。

 柊さんは‥持て余された。

 きっと、‥どうしようもなかっただろうけど、‥でも、向き合うべきだった。それを怠ったって、知りもしない僕が言うのはどうだと思うが、‥多分今まで聞いてきた話から推測するに、怠って来たんだろう。それを、責める資格はないんだけど。

 だけど、「仕方がなかった」って肩を持つ気にはなれない。

 それこそ、‥西遠寺に相談すれば、多少なりとも手はあったんじゃないだろうか? だけど、‥身内の恥だから、それもしてこなかった。そして、裏西遠寺に居るとわかると、あっさり養子に出した。‥捨てた。

 彼らにとって、だいじなことって何なんだろう。

 見た目? 能力? 

 ‥使い道? 

 だいじなのは、その存在‥魂そのものだって、胸を張って言って欲しい。僕も、‥言われたかった。

 面と向かって、

「怖い」

 って言われたことは無い。

 だけど、

「大切だ。大丈夫だ」

 と言われたこともない。母さんも、父さんも、兄弟も。

 僕がいることが、皆をギスギスさせている原因だって‥分かってた。

 だけど、認めたくなかった。

 その代わり、空気を読むことを覚えて、なるべく恐怖感を与えないように、目を見られないように‥

 そんな風に努力して来た。

「わかって欲しい。認めて欲しい。‥僕を愛して欲しい」

 って言ってはこなかった。無駄だって思っていたから。

 でも、今僕ら家族に対してそう言ってこない梛や柊さんがもどかしい。

 自分のことよりずっと、もどかしい。

 


 彼らの家族が言わなくても、僕らは伝えらえる。

僕らだからこそ、どんな言葉を欲しているかわかるから。

 同じ境遇にいる僕らだからこそ‥。

 それは、傷の舐めあいかもしれない。でも‥

 僕らにはそれが必要なんだ。

 僕らはそれを‥確かめ合う必要があるし、それを‥何より欲している。

彼らが、言わないなら言わせればいい。

 言われたいって、‥思わせなければいけない。

「大切だ。大丈夫だ」

 って。

「大好きだ」

 って。

‥おせっかいは、僕の真骨頂じゃない? 梛も言ってたじゃないか。「懲りないお人よし」って。

 やっぱり、梛はすごいな。

 甘いココアを買って事務所に帰った。柊さんには甘いコーヒー牛乳。この時間は、まだ桂ちゃんは帰っていないから。

 帰って来て僕からココアを受け取った梛は、新しいプログラムを見せてくれた。

 Souls gateじゃない奴。

「新しい言語を勉強してるんだ」

 って。

「凄いな! 梛。やっぱり、梛は賢いね! 」

 って、自然に言葉が出て来た。‥その声が、いつもの僕の声より若干機嫌よさげで、‥ちょっと自分でも驚いた。

 褒めようって思った気持ちが前面に出ちゃったんだろう。

 そんな僕に、梛は心底嫌そうな顔を一瞬して、

「‥なんだよ。気持ち悪いな。楠壊れたのか?! 」

 訝しがしそうな視線を向けて来た。

「いいや? 壊れてないけど? 」

 その視線にちょっとくじけそうになったけど、にこっと笑う。

 そしたら、今度は

「大丈夫なのか? まだ、身体の調子悪いのか?! 一昨日はびっくりしたんだからな? 急に倒れて、天音ちゃんが事務所に駆け込んできたし」

 って、梛には「らしく」ない心配した様な顔をされてしまった。

 だけど、‥すぐに

「柊さんは天音ちゃんにぺこぺこって感じで無言で指示に従って、楠を部屋に運んでさ。‥あんな柊のにいちゃん見たことなかった。あんまり焦り過ぎて、楠をちょっと階段に、がんってぶつけてたけど‥楠起きなかったのがちょっとおもしろかったけど」

 その時の光景を思い出したらしく、くすくすと笑った。

 ‥いや、それは全然面白くない。

 だけど、‥我慢我慢。

 そうか。柊さん天音ちゃんにぺこぺこ‥よっぽど、天音ちゃんが怖かったんだろう。この前こっぴどく叱られてたからね‥。柊さんの名誉の為言わないけど。

「ふうん。楠さんにお礼言っておかないとね。‥でも、僕は大丈夫だし。その‥梛も大丈夫だよ? 」

 と、僕はここで伝えるべくワード、「大丈夫」をいれるのに成功した!

 よし!

 で、梛を見ると‥

「は? 」

 めっちゃ、不審な顔をしている。

 眉間のしわなんて、もう『鉛筆挟まりそう』なレベルだ。

「急になんだ? 俺が大丈夫なこと位、わかっている! 寧ろ、本当に大丈夫か?! 楠」

 おや、違った。このタイミングじゃなかったか。

「う~ん。『心配してくれてありがとう』優しい梛が、僕は大好きだよ」

 くじけず次の「伝えようワード」だ。

 ‥おや、また失敗か。梛の顔が紙みたいになってる。真っ白で、‥カサカサ?

「‥やっぱり、今日一日寝てろ‥。‥でも、まあ、‥アリガトウ」

「どういたしまして。‥梛も僕の事、好き? 」

「‥やっぱり、寝ててくれ~!! 柊の兄ちゃん~! 楠部屋に放り込んじゃって?! 」

 定位置「畳スペース」で寝転んでいた柊さんが顔だけで振り向いて、梛に首を傾げながら立ち上がる。

 ゆらって感じで僕の傍に来たから、僕はにこっと笑う。

「柊さんも好きだよ」

「うん‥」

 柊さんの表情は変わらなかった。

っていうか、分からなかった。相変わらず、前髪で顔が隠れたまんま。

でも、驚いたでも、嫌そうでもなさそう。

ただ、「うん」それだけって感じの顔。

伝わったならいいんだけど。

そんな僕らを眺めている梛の顔の方が寧ろ凄いことになっていた。

ポカ~ン。

 もう、ぽか~んって顔。

 大きな目が、こぼれそうになってる。顎とか外れそうになってるし、‥梛のってか、人間のこんな顔見たの初めてかも。

「‥‥‥‥」「もういい‥俺は、何も考えないことにする。楠も、‥あれこれ考えない方がいい。どうせ、楠のことだから、あれこれ考えたんだろうけど、寧ろ、‥やめた方がいい。考えないでも、大丈夫だからさ‥」

 なんかいろいろ諦めたらしい梛は、ココアを持って、冷蔵庫前休憩スペースに向かう。

 パソコン操作をしながらコーヒーを飲まない。これは、原則なんだけど、梛はもっと徹底していて、飲食は総て、休憩スペースでしかしない。

 大丈夫かな、心なしかふらふらしてるけど‥。

 僕が首を傾げてると、

 梛が振り向いて僕をきっと睨むと、

「‥あと、近づくな!! 」

 ‥断言した。

 柊さんは、うん、相変わらず何事にも動じず、僕の手からコーヒーを受け取ると畳スペースに戻り、ぷしっってプルタブを起こした。



 ‥伝えるのって、難しいですね。


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