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Souls gate  作者: 大野 大樹
五章 相互扶助と相殺
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8.共に歩む

 ‥僕は今まで何を恐れていたのだろう。

 色々聞くのは、‥おせっかいで、そういうのはしない方がいいって思ってた。話したいことは、聞くけど、立ち入っちゃいけないって。

 それは、でも、今でも間違ってはいないって思ってる。普通なら‥。

 だけど、柊さんの場合は多分‥『聞くのは、おせっかい』じゃなかった。

 寧ろ、僕が聞かない事の方が‥冷たかったんじゃないだろうか。 

 僕たちの関係は、‥僕が柊さんを連れて来た地点で、僕に『委ねられて』いたんだ。

 彼は、僕が思うよりずっと、‥僕に依存していた‥んじゃないかな。

 ちょうど、幼い子供が母親を慕う気持ちと同じだ。(オカンって比喩は間違いではなかったってことだろう)

 だから、あの時‥いっぱいいっぱいになって‥限界になって‥僕を『頼った』。他の誰でもなく、僕を。

 あの時の僕は‥誠実だっただろうか。僕の『対応』は合っていただろうか?

 ‥残念ながらそうは全く思えない。柳さんが来てくれて‥なんとか終結したに過ぎない。

 そりゃあ、柊さんは反省しただろう。だけど‥僕は、あの時「柊さんの問題そのもの」に‥向き合えていない。

 ‥柊さんの話を聞こう。

 ゆっくり、‥柊さんが話してもいいって思うことから聞いて行こう。

 柊さんは案外隠していないのかもしれない。‥だって、梛もなにか知っているようだし。

 だけど、‥話すきっかけがなかったんだろう。話す言葉が分からなかったんだろう。

 「今日、ヤなことがあった」じゃなくって、「今までこんな状況にあって、嫌だった」って、‥何かのきっかけがないと話すことないし‥もしかしたら、どう嫌だったかって‥分からなかったのかも。

 だから、同じ様な梛の話を聞いて「そういえば、自分もそうかも」「そういうことだったのかも」って思ったってことじゃないかな‥。

 漠然とした「嫌だった気がする」って感情が「こういうのが嫌だった」に変わるってのは、‥状況を変えるきっかけにきっとなり得る。

 こういうのが嫌だったから、こうしたい。これからは、こういうことに気をつけたい。‥こういうことで困っているから、助けて欲しい。

 そう考えるきっかけになり得る。

 僕が、今まで柊さんと向き合ってきたのは、柊さんの感情だけだ。

 漠然とした不安に寄り添ってきただけだ。

 梛も不安を抱えていたけど、彼は‥もっと自分に対して冷静だった。

 こういうのが不満だった。両親‥特に母親の気持ち、その結果、彼らが取った行動。そういうものを、きちんと冷静に判断し、その上で自分がどう思ったか、どうすべきであるか‥そんなことを自分の言葉で話してくれた。僕に対して、問題の共有という形での支援を求めてくれた。

 ただ、知って欲しい。聞いて欲しい。‥傍にいて欲しい。

 だけど、‥柊さんは違う。彼はもっと不器用で、もっと、自分に関心が無くって。そして、もっと‥色んなことに傷心していた。‥自分の苦しみと向き合えない程に。

 だから、「寂しい」「苦しい」って‥僕はその柊さんの悲しみやイラつきに寄り添うだけしか‥してこなかった。

「どう苦しいの? どうしたいの? ‥何が柊さんを苦しめてるの? 何があったの? 」

 って、聞いてこなかった。

 僕は、『遠慮』や『配慮』という言葉で片付けて、‥今まで周りに無頓着過ぎた。‥臆病すぎた。

 どうなんだろ。‥ただ、面倒だって思ってたんじゃないだろうか。ぶっちゃけ、僕には関係ないって感じだったんじゃないだろうか。そして、そのことを認めたくなかっただけなんじゃないだろうか。

 チューターの子たちのことにしたって、そうだ。

 柳さんと受け持ちの子との方が、ずっと距離が近い気がする。

 時々、衝突したりしてたし、柳さんに助言を求められたこともあるけど‥それ程、柳さんは『真面目に』『誠実に』彼らと向き合っていた。

 ‥桂ちゃんは、僕と一緒。どこか、距離を置いてるかな。



「ああ、ごめんね。

楠君に面倒を押し付けよう‥とかそういうのじゃないんだ。あくまで、友人として今まで通り接してあげてくれたらいいんだ。

君は、あれだ。ちょっと責任感が強すぎるね。

友人は、‥君が世話をして、『幸せにしないといけない』って対象じゃないよ。

共に歩んで、‥一緒に幸せになる関係なんだよ。

君は‥、‥君も幸せになっていいんだよ? 幸せになるのを、恐れないでいいんだよ? 」

 黙り込んでしまった楠を見て、恭二が謝った。きっと、自分に気を遣って答えに困っているって思われたんだろう。

 でも、そんなんじゃないから、楠は首をふって否定した。

「柊の‥親になった時から、なんだか、同じ様な歳の若者も含めて、自分の息子みたいに思えて来てね。‥無理してるの‥生きづらそうにしてるの見たら、心配になったんだ。

自分でも、こんなふうに思うなんて思ってなかった。

‥今初めて、和彦の怒りが‥もっともだって分かったって言うか‥理解できた気がするというか‥」

 恭二は、ちょっと困った様な笑顔を浮かべた。

 その時の恭二の顔は、今までの

 飄々としていたり

 伊吹相手に軽口叩いていたり

 従兄妹が怖いと青くなったり

 そんな彼とは違っていた。

 でも、‥『こうすべき』だとかそんな気追った顔でもなく、ただ、照れくさそうな、ちょっと居心地が悪そうな顔をしていた。

 恭二は前を向いたままだ。さっきから、伊吹の方を向いてはいない。‥多分、照れくさいんだろう。耳が微かに赤くなっているのが見える。多分、顔も真っ赤なのは容易に想像できる。

 伊吹はすこし驚いたような表情を一瞬向け、そして、穏やかに微笑んだ。

 友人の成長を喜ぶ、微笑ましい様な表情を浮かべ、伊吹は恭二をしばらく眺め、そしてそっと視線を前に戻した。

 そんな、伊吹の視線を横で感じながら、楠は

 ‥こういうのが、心遣いって言うんだろう。

 って思った。

 そうしようって思ったんじゃなくって、恐らくは、よく知っているからこそ、自然と生まれた距離感なのだろう。

 こういうのは、家族の距離感とは違う‥気がする。

 あえていうなら‥同性の親友‥かなあ。幼馴染とか。

 遠慮ない関係だけど、尊重しているって感じかな。‥ただの友人っていうのとも、まして恋人っていうのとも違う、ああ‥これ、まさに‥親しい親戚って感じかな?

 利害関係が同じ方向に向いていて、その一点は一番抑えるんだけど、それだけじゃなくって、相手のことも尊重してる。

 『普通の』一族って、別に『利害関係』が前提にないけど、特別な一族ともなると、そういうのがあってもおかしくないイメージ。で、皆がそれを一番に大事に思ってて、もしくは、潜在意識としてそれが大事って感じなのかな。‥少なくとも、この二人からはそういうのが感じられる。

 この二人の場合のそれは『西遠寺』だろう。

 そして、柊さんも元々西遠寺だった。ああ。それは今もか。

 ‥柊さんも、そういうのあるのかな? 

 ‥多分だけど、‥ない気がする。

 そういうの、家族から教わる‥自然に教わってきたっていう生活環境じゃなかったんじゃないかなあ。

 僕なら、普通に嫌いになってしまっていそう。

「まあ、‥親だなんてわざわざ言う気もないけどな。‥たか‥柊には‥関係のない話だしな」

「‥言ってあげてください。‥喜ぶと思います。そして‥いつか、ほんのちょっとでも柊さんのこと「子供として」大事に思ってあげてくれたら‥いいなって思います。親子に‥なれたらいいなって思います」

 言葉だけのことだけど、‥柊さんにはそれが必要な気がする。彼はその『存在』以上に、その言葉に飢えている。『家族』って言葉に。

 だから、僕を母親の代わりに甘えてきたり、‥ちょっと「大人ぶって」梛の父親ぶったり、(それに僕を巻き込んでみたり)

 家族は血じゃない。

 思いだ。

 厳密に言えば、‥養育の義務だとか、教育を受けさせる義務だとか、そういうのも含めての家族って言う概念があると思うから、ただ一緒に居て精神的に支えるだけってのは、‥家族としては不十分なのだろう。

 梛の事「自分の子供」って思ったこともないし、親代わりとして、梛を保護しているわけでもない。あえていうなら、‥年の離れた弟‥かなあ。じゃあ柊さんは、‥年の近い兄弟って感じ‥かな?

 そういう『関係』はよくわかんないけど、僕や梛やは柊さんは家族だ。そして、それは、柳さんや桂ちゃんも同じだ。

 家族だからどうしなければいけない、とか‥何か家族の為にしなくてはいけないってことでもない‥とは思う。

 でも、‥僕はあえていうなら、‥柊さんと梛の朝ご飯を柊さんと梛の為に作ろう。

 おにぎりだけだけどね。

 あ、寒い朝は味噌汁位つけるよ!


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