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Souls gate  作者: 大野 大樹
五章 相互扶助と相殺
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6.親戚

「同じ西遠寺でも、裏と表は全然違いますからね。特に、表は裏を区別していますね。所詮よそ者の寄せ集めって、低く見てる風潮も‥一部にはありますね」

 伊吹に表西遠寺のはなしを聞いたのは、だけど、何となく、だった。

 ‥そういえば、伊吹さんも恭二さんも‥もともと柊さんも表の西遠寺の人だったな。

 と、珍しく並んで仕事をしている恭二と伊吹を見て思い出したのだ。

「そして、裏は裏で「表は何もしないで威張ってるだけ」って思ってる‥。まあ、そういう区別をしている奴は、表でも裏でも‥何にも知らない奴‥所謂『下っ端』って奴らですね」

 ‥おお、この顎髭の『チョイ悪親父』‥恭二さんの声聞いたの初めてかも。

 思ったより、よく通る声だ。

 チョイ悪な見かけだから、声がハスキーだとか、そんなイメージ勝手に持ってたけど、そんな感じじゃ全然ない。さわやかアナウンサーかって感じの、聞き取りやすい美声だ。びっくりだ。

 っていっても、別に今も「はなしを聞いているだけ」で、恭二と楠が会話をしたわけではない。

 恭二と楠は、会ったことも数える程しかない。

 恭二は人見知りする方でもないが、誰にでも愛想がいいわけでもない。人と話すより、研究をしている方が性に合っているという、どちらかというと楠たち寄りの人間だ。

 だけど、楠たちみたいに「あからさまに避けてます」「苦手オーラだしてます」って感じじゃない。もっと、スマートな感じなんだ。

 だけど、実際には、あんまり人と話してないっていうね?

 上層部と話すことの多い柳も、恭二と話すことは少ないって、聞いたことがある。

 この間、報告会議に一緒に出た時に「そういえば、恭二さんとはあまり話さないね」って言っていたのだ。

 柳さんは、物怖じしない性格だし、誰に対しても態度を変えたり、先入観でもって誰かを区別したりしない。だから、彼が話すことがないというのは‥「話す必要がない」からだろう。

 質問も要望も伊吹に話せば足りるから、わざわざ伊吹の上司である恭二と話をする必要がない、ただそれだけのことだ。

「下っ端‥ですか」

 楠が恭二の言葉を反芻する。

「ええ。何にも知らないって言うことは‥知らされてないってことです。その人の役割によって、知らされる情報がきっちり決まっています。大事なことについては、特にです。だから、重要な人物程知り得る情報が多いですね」

「表と裏の違いすらも‥共通の情報じゃないんですね」

「ええ。総ての情報を把握しているのは、当主一人で、当主が総てを管理しています。仕事の依頼を請け、裏の介入が必要であるか否かを判断するのも、当主です。裏の介入が必要ではないと当主に判断された依頼については、裏にその情報の一切が回ってくることはありません。

西遠寺の当主は、同時に裏の当主でもあります。

仕事を請けるのは、当主のみで、裏が独自に仕事を請けることはありません」

「‥大変ですねぇ‥」

 ‥一人で、とか‥とてもじゃないけど考えられない。

「そうですね」

 全く感情のこもってない声が返って来た。

 ‥あれ。さっきまで割と饒舌に話してた気がしたけど‥なにか気に障る様なこと言っただろうか? 

 ふふ、と伊吹が笑う

「西遠寺のご当主は、恭二さんの従兄弟さんかなんかなんですよ。‥でも、全然似てないんです。顔もですけど、雰囲気とかもね。恭二さんは彼が少し苦手なんですよ」

「ああ‥成程‥」

 ‥そういうのは、‥あるよね。どうも気の合わない親戚。

「成程‥でもないんですよ。恭二さん、ご当主を怒らせちゃって、‥それがよっぽど怖かったらしくって、一方的に逃げ回ってるんですよ。ねえ? 」

「‥逃げられてない。絶対逃げ切れるもんでもない‥」

 だけど、今のところ自分は『消されていない』だから、‥見逃されているんだろう。

「伊吹、この間、当主のご子息と会ってただろ? ‥その‥どうだった? 」

「え? ああ。もう大丈夫だったようですよ。以前‥彼が高校生くらいの頃でしょうかね‥に新年の挨拶で見かけた時は、‥心配しましたが。この間会った時には、元気そうにしてましたよ」

「そうか‥」

 恭二がほ、と安堵のため息をついた。

「彼の名前は相変わらずあの後は、当主候補には上がってないの? 」

「そうですね。当主が反対してるから‥っていうのは大きいですかね」

「身内可愛さに職権乱用もいいところじゃないか。‥西遠寺に当主特権なんて存在しなかったはずだが‥? 」

「ありませんね。どうにか上手くやったんじゃないですか? まあ、当主になりたい次世代なんて五万と居ますから、別に彰彦君じゃなきゃってわけでもないでしょうしね」

「当主になりたい‥子供を当主にしたいって考える人間は多いってことですね」

 途中からよくわからなくなっていった話に、楠は、あたかも「聞いていませんよ」という姿勢をとった。

 勿論、聞いてるんだけど。

 ってか、つい聞き入っちゃうんだけど。

「一度でも、西遠寺の当主育成プログラムをうけたら‥そんな考えは、頭から消えるとはおもうけど‥。まあ、殆どの者は自分の立場とか、精神とかを守る為『なんか恐ろしい夢を見た』って思うようになるみたいだけど‥勿論他言をするのも厳禁ですしね」

 ‥なにそれ、怖い。

 顔が引きつったのは、何も楠だけじゃなかった。

「まあ、私は無事だったほうです。‥和彦だけじゃないですか? あのプログラム受けて、本当に何ともなかったのって‥。まあ、‥生活に支障をきたす人こそはいない‥(とは思う)んですけど、何人かは精神にちょっと異常をきたしますね‥」

「和彦さんって‥たしか当主の名前ですよね? 」

 伊吹が苦笑いして、恭二に尋ねると

「そう。そして、彰彦君の父親です」

 恭二が頷く。

「和彦は、彰彦君が一時期精神的にちょっと‥あれになったのは、私の脳波実験のせいだって思ってるみたいだけど‥。俺が思うに、絶対この教育を受けたからだ、‥決して、私のせいではない。

なのに、和彦は自分が大丈夫だったからって、あの教育の異様さに気付かないんだから恐ろしい‥」

 脳波実験?

 何それ。それも大概、おっかないワードですね。

 それを無関係って言い張っちゃうって、怖い。‥西遠寺の人ってみんなちょっとおかしいのかな??

 いや、伊吹さんは普通だ。(と思いたい)

 楠がそんなことを考えてる間に

「いや、絶対あのプログラムのせいだ。

容姿は端麗にして、生活は清廉潔白。プロフィール等の一切のプライベートを西遠寺に管理される。

柔軟な想像力と独創性と鋭い観察力・どんな時でも冷静さを失わない度胸と根性と緊張感でもって業務を遂行し続け、更には西遠寺の為にすべてを投げ打つ責任感を常に要求される。

 そんなえげつないものにする為の、プログラムが普通の訳がない」

 恭二の中で、何かの理論が勝手に終結されようとしていた。

 ‥聞けば聞く程、西遠寺ヤバい。

「想像はつきませんが‥」

 ほら、伊吹さんも‥同じ西遠寺のはずだのにドン引きしてる。

 しかし‥ほんとうに、なんなんだろう。

 情報管理位は、普通に想像はつく。

 なんだ、その「柔軟な想像力と独創性と鋭い観察力・どんな時でも冷静さを失わない度胸と根性と緊張感でもって業務を遂行し続け、更には西遠寺の為にすべてを投げ打つ責任感」

 ‥どうやって養うんだ? それ?

 聞きたいような、聞きたくない様な‥。

 恭二さんの、にやりって顔がやけに怖かった、伊吹と楠だった。

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