表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Souls gate  作者: 大野 大樹
五章 相互扶助と相殺
43/70

4.ひとと、ひと。



 ここは、「らしい」から離れたところで。「らしくない人」が集まって、新しいものを作っている‥。



「らしくない人が集まって‥かあ。それも相互扶助だねえ」

 ぼそり、と楠が呟いた。

「あら。なあに? 」

 小声で高橋が返し、首を傾げる。

「助け合い? かな。自分も誰かの役にたってる‥」

「あら、私が桂ちゃんのし傍に居るのは、桂ちゃんの役に立ちたいからでも桂ちゃんに役に立ってもらうためでもないわよ? 桂ちゃんが好きだからよ」

 高橋は、抱きしめている桂の頭に自分の頭をちょこんとのせて、

 さらっとそんな爆弾発言をした。

「! 」

 楠がぎょっとした顔になって絶句して

「! 」

 抱きしめられた桂は、真っ赤になって高橋から離れる。

 驚きすぎて、涙はもう引っ込んでいた。

「ってか! 今それをいうのは、卑怯じゃない!? 」

 楠が抗議しても、高橋はけろっとした顔をしている。

 桂はというと‥真っ赤な顔をして俯いている。

 そんなこと言われる免疫はない。しかも、‥気が付けばさっきまで抱きしめられていた。

 今更ながら、‥もう暴れまわりたいくらい動揺している。

 楠にしても、‥今まで暗黙の了解ルールで「手は出さない」「恋愛を仄めかさない」っていう感じだったはずなのに‥。

 こんなの、‥抜け駆けだ。

 今まで、こんなことしてこなかったじゃないか。

 ‥むしろ、そんな高橋の『裏切り』が、‥キツイ。

「ダメだよ。楠さん。もう、桂ちゃんは、‥駄目だよ。出遅れちゃってる楠さんには、桂ちゃんは渡さないよ? あんなに近くにいて‥私よりずっと長い時間一緒に居るのに、私を出し抜いて‥てことがないなんて、私から考えたら有り得ないわ。私は、‥悠長なことなんてしないわ。振り向いてくれるまで待ったり‥するつもりだったけど、やめるわ」

 せっかく今は無自覚な二枚目半が、恋心に自覚しても鬱陶しいし。

 今のうち‥楠さん(←無自覚な二枚目半)が私との友情ごっこしてるうちに‥。

 相互扶助なんて、‥綺麗ごといってる間に‥。



「え? 」



「楠さん。楠さんは、まるでホントにお母さんみたいに、皆に優しくって、公平で、ホントに『相互扶助』を実践できちゃってる人だと思うけど、‥私はそうじゃないわ。私だけじゃない。大概のひとには、特別がやっぱりいて、えこ贔屓だってするし、意地悪だってする。嫉妬もする。

 でもね。それも含めて、やっと相互扶助だと思うの。

 自分の役割だけじゃなく、ね。

 何が出来るかじゃなくって、何がしたいか。

 いつでも、誰かを更に高みに持ち上げるのは、そんな特別な感情よ。

 支え合って、慰め合って新しいものを作って、それを更にいいものにする。

 いいとこ見せたい。

 見返してやりたい。

楠さんには、そんな感情がある? 特別に好きな人はいる? 特別ってその人に告げる自信はある? 誰かに‥特別に思われて、それを受け止める勇気はある? 」

 何故か、

 冷めてるって言われていた時のことを思い出した。いつも、

 ‥馬鹿にしてるの? 同じか顔しかしないね。

 って。いわれてた‥。

 だって、‥特別じゃない人はどうしたらいい? あの人は特別だけど、‥貴方は私にとって特別じゃない。って言われたら、‥辛い。

 だったら‥。誰も特別じゃない方がいい‥。

 高橋は、目を逸らすことすら許してくれない気がする。真剣な、責める様な視線が楠をさっきからずっと射殺さん様な鋭さで突き刺さっている。



「それをするには、俺たちはまず自分のことを認めないといけないね~」

「梛!! 」「「梛君!! 」」

「いつまで事務所の前で立ち話してるのさ。‥高橋さん。楠の事出し抜こうって、焦ったのは分かるけど、‥ちょっと桂ちゃんには急ぎすぎ。恋愛成就どころか、友情も怪しくなっちゃうよ? 」

「相変わらず小学生らしくないコメントありがとう♡ 」

 にこ、っと高橋が梛に微笑みかける。

「でもね、私、桂ちゃんにはもっと自分に自信を持ってもらいたかったの。貴女の事好きな人がここにいるって知ってほしかったの。勿論私の事、桂ちゃんも一番好きになってくれたら嬉しいけど、‥「私なんて」「恋愛なんて」‥って桂ちゃんが思ってるのが、ホントに‥悲しかったの」

「高橋さん‥」

 桂が高橋を、おずおずと見上げる。

「お願い。桂ちゃん。約束して? 誰かみたいに、だとか、普通だとか、そんなのどうでもいい。桂ちゃんそのままで誰かを好きになって? 恋愛なんてって最初からないものにしないで? 」

 高橋の穏やかな瞳が桂を見下ろした。

「私そのもの‥」

「桂ちゃんそのもの」

「俺も桂ちゃんそのものが好きだよ。‥だけど、それは形がない想いだ。家族でも、恋人でもないよ。俺はね、桂ちゃんが、ただ好き。バナナスムージーと同じ位にね」

 にこ、と笑った梛は、‥時々本当に小学生なんだろうかって思う。

 器用で、大人っぽくって、

 ‥大人ぶってて、不器用。

「私は、桂ちゃんに恋愛の対象として見てもらいたいわ。今は無理でも、絶対そうおもってもらえるように頑張るわ」

 高橋もにこっと笑う。

 なんか、(口調はアレだけど)やたら男前な笑顔だ。

「僕は‥。だって‥」


 僕にとっての、桂ちゃんって

 ‥梛って‥

 高橋さんって、柊さんって‥

 何だろう。


 八卦表の一員。

 乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤

 全部に、意味があって、

 役割があって、

 みんながみんなを支え合って

 一つのコミュニティを構成している。

 


 特別‥。



「‥楠。めっっっちゃ、気が乱れてる‥」

 ひょこんと顔を出したのは、この中の誰よりも低身長の、子供‥。

 零れる程大きなシトリントパーズ‥宝石みたいな瞳。

 あの、尊にそっくりな‥


 天音だった。


 にっこり、表情は笑っているけど‥

 目が‥全然笑ってないし、‥冷たい。

 ‥まずい‥。

 野生の勘から逃げようとした楠の足をその場に縫い付ける様な、‥天音の氷点下の視線。そして

「頭をひやせ! 」

 言葉とほぼ同時に繰り出された、蹴りだかなんだか‥とにかく鋭く思い一撃を溝内にくらい、楠は「ぐっ‥」という声だけ発してそこに倒れ落ちた。

「柊! 楠、部屋に運んで監視しといて! 直ぐには起きないだろうけど、起きたら、連絡入れて。楠の携帯に我の電話番号‥あれ、入ってたっけ‥入れた覚えがないな‥。ちょっと貸せ、入れとくから‥。この番号に電話しろ! 」

「‥‥‥」

「絶対に、こいつを部屋から出すな。それから、柊もこいつの近くに居ろ! 」

「‥‥」


 つまり、

 ‥相互扶助だ。

 火水未済(かすいびせい)

 火が水の上にあって、意味がない。

 火と水は、‥火が水を蒸発させてしまうほど強くない限り、水は火を消す。


 水は、火を消す。

 多分、水に意思があるならば、条件反射的に、きっと。

 だから、楠は柊の傍に居るし、柊も楠の傍に居る。

 だけど、それは役目でも、愛でもなんでもない。

 名前のない関係なんて、世の中には五万とある。だのに、‥人はそれに名前がないことで、悩み、‥考える。

 その傾向は悪くないんだけど、‥楠や柊がするのはいささか、都合が悪いって話。(勿論、天音や尊がやってもきっとまずい)

 感情の爆発は、気の乱れを引き起こし、ここのバランスを乱すから。



 ‥‥。

「‥ゆく河の流れは絶えずして‥だ。楠」

 目が覚めたら、もう夕方だった。

 起き抜けの、楠の耳に聞こえたのは、いつもより若干低くなく‥『耳障りじゃない』柊の声だった。

 柊は、楠を見ているのだろうが、長い前髪のせいで柊と目が合っている感はない。

 ただ、

 枕元に、黒っぽい、痩せたかさの高い柊さん。

 ‥ちょっと、死神みたい。

 そんなことを、ふっと思ったのは、内緒だ。

「‥ん‥なに。柊さん‥方丈記? 『ゆく河の流れは絶ずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし』

 だったっけ」

「一緒。楠と。

 水である楠は、とどまらない‥形もない。だから、楠は悩まなくていい。無理に名前を付けないでいい‥」

 慰めて‥くれてるのかな、って思う。

 前と反対だ。

 暴走して‥。まあ、激怒したとかじゃないから、辺りの水が凍るとかじゃないけど‥。

 柊さんがいるから、調和されている。‥のだろうか。力の干渉を感じる。

「‥ひとところにたまることだってあるよ。そしたら、‥それは沼になる」

 ぼそ、と無駄話を続けた。

 ホントはお礼を一番に言わなくちゃいけなんだけど‥だ。

「それは、『よどみに浮かぶうたかた』だな」

 なんだか、‥こんなに柊さんと穏やかに、無駄話したこと‥そういえばなかった。

「俺も一緒だ。俺の想いも形はない。水よりずっとだ。流れも作らない、流れに沿うこともない‥火は、もっと不安定だ」

 だから、いつもどこか不安になる。

 

 恋人

 家族

 友人


 大事だって、特別だって、言ってもらう。‥言う事によって、得られる『相手の』安心感。喜び。そして、言われないことに対する、不満‥不安。

 それは分かる気もする。

 でも‥。

「それは、我も同じじゃ。‥ひとというのは、面倒くさいな」

 ゆら、と枕元に‥それこそ気配なく立った天音の声がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ