閑話 夏・憧れのお洒落キャンパスライフ
尊と同じ年で、彰彦の従兄弟であるイケメンの「夏」がこの春から通い始めたのは、関西にある公立の名門大学だ。
憧れの大学だったし、合格したことには毎日感動と感謝の気持ちでいっぱいだ。
だが、彼だってついこないだまで高校生をしていた少年だ。
都会にだって憧れるし、お洒落なキャンパスライフとやらも見てみたい。(自分には向いていないというのは重々承知しているので、見たいだけ)
そして、丁度、彼の数少ない友人である尊が今春から通い始めたのが、丁度いいことに、私立。しかも都会の人気大学なのだ。
「いつでも遊びに来てね」
という社交辞令っぽい誘い文句に一も二もなく飛びついたのは、仕方がないことだろう。‥でも、ちょっと図々しいかな、とは思ったのだが‥。
だって、4月に入学して、まだ5月だ。大学生活に慣れてなくて、まだ一人暮らしの勝手も分かっていない友人の新居(っていっていいのかは分からんが)にお邪魔するのはどうだろうか。‥いや、分かっているんだよ。分かってはいるんだけど‥。
好奇心が先に立った。
すまん、尊ちゃん!
まあ、尊ちゃんには「社交辞令」だとかは存在しないんだろうけどね。
多分、あんまり何も考えずに
「来たければ、来たら? 無理強いはしないけど」
って感じなんだろう。
私立と公立は違う。
今まで、私立の中高一貫高校に通っていた夏は、直ぐにそれを実感した。
実感したが、だけど、割にあっさり慣れた。
高校と大学は全然違うから。違うだろうっていう「意識」が出来てるから。
違うといえば、同じ大学でも、私立と公立では全然違うんだろう。だが、‥どれ程だろうか。私立の大学生活ってどんな? それが気になって気になって仕方なくなった。
自分の大学に勿論不満はない。ただ単純に興味本位ってだけなんだけど。
学力うんぬんより、それは‥(多分きっと)校風が全然違う。私立と公立ってだけでも、違うんだろうけど、やっぱり人気私立っていったら、そりゃあ違う(はずだ)。
やたら、お洒落で、ドラマの様な日常が繰り広げられているに違いない。(仮定)
(どんなイメージだ)
そんな思いが‥多分にあったんだ。
「ん~。ドラマの様な日常がどんなのか分からないけど、案内するね」
苦笑いで肩をすくめながらも、尊は構内を案内してくれた。
その第一印象は‥。
まず‥広い! そして、建物がお洒落‥。
夏は一瞬足が止まってしまい、振り向いて首を傾げる尊に慌てて追いついた。
ゴールデンウィークだといっても、学生はいる。(きっと、通常よりは少ないのだろうが)図書館も開いているようだ。
‥もう、歩いている人の恰好がそもそも違うっ!
こんなお洒落な服装した人たち、自分たちの周りにはいない。こんな服着て学校に行こうものなら、浮いて仕方がない。‥だけど、別にみすぼらしい恰好してるってわけではないよ。ただ、‥違うってことは言える。
そんなことを思いながら、だけど、きょろきょろするのも恥ずかしいから、目でちらっと追うぐらい。
今日の夏君は無難なTシャツと薄手のジャケット、それに綿パンです。
それだけでも、イケメンってのは恰好が付くから恐ろしい。
これには(童顔コンプレックスの)尊は「リア充が! 滅びろ! 」チッと心の中で毒吐いて舌打ちなんだけど‥。(悔しいから口には出さない)
そんな気持ち、おくびにも出さず
「本当は、校内やなんかも見てもらいたかったんだけどね~」
尊は微笑んで歩を進めた。
残念なことに、授業はないから講義室は開いていないし、食堂も開いてはいない。
だけど、建物内に入り、閉まった扉越しに中の様子を尊はちらりと見せた。
「購買は開いてるから後で行こうね」
尊が微笑んだ。
親友の気遣いに、夏も自然に笑顔になる。
そうして二人で微笑みあっていたら、一年間ちっとも会っていなかったこともなかったかのようにも思えた。
ほのぼの。そう、まさにほのぼのしていたんだ。
と、
「あ。大和! ‥横の人は? 」
「大和」の呼びかけは弾んだ声で、「横の人」って言った声は明らかにトーンダウンした「わかりやすく」不機嫌な顔した男が、夏を見ている。
「親友」
にこ、っと尊が応えると、「ふうん」とちょっと疑わしそうな男。‥何を疑う? 親友、悪いか?
‥てか、親友ってうれしいな、おい。
夏は、少々コミュ障だから、友達と呼べる人も少ないんだ。‥イケメンだけど。
「あ。みこっちゃん! ‥横の人は? 」
「親友」
と、そういう男が続々量産されていき、
結構な人数の男が、夏を疑わしい目で見ていく。
流石に、悪意の視線に酔いそう‥。
そんな夏に気付いてか気付かないでか、尊は誰にも変わることないニコニコ笑顔&愛想のいい口調で淡々とテンプレな(←もう、本当にそんな感じ)セリフを返していく。
‥なんだこりゃあ。
「‥尊ちゃん、モテルね(男に)」
ぼそっと呟いた夏の声がちょっと病んでいたのも、仕方が無いだろう。
「超かわいいオレの人気は、性別を超えるぜ~。女の子にもモテモテだよ」
‥尊ちゃんには伝わってなかったみたいだけど。
‥てか、校風だとかそんなのとは別に、こういう雰囲気、僕には無理です。
夏は心の中でこっそりため息をついた。
やっぱり、憧れだけで充分でした☆
夏が心の中に閉じこもってる間も、
「みこっちゃん! 今日もかわいいわね~! 」
お洒落で可愛い女の子がすれ違って行ったり、
「ありがと~! 」
それに尊が笑顔で応えたり。
‥おい、尊ちゃん、女の子に対するテンション、確実にさっきの男どもに対するもんより、に高いぞ。‥まあそりゃあ仕方ないことだろうが。
はあ、
夏はため息をつき、肩をすくめた。
「モテてるというより、愛玩動物だな」
はは、と空笑いの後に出た言葉は、
‥けっして羨ましさからでたわけではない。‥寧ろ‥
「うるせえ」
そう言った尊の顔は、しかしながら、ちょっとも笑っていなかった。
‥自分で可愛いって言ってるくせに、僕に言われるのは相変わらず嫌なんだな‥。
人に言われるのが‥というより、「親しい人に言われるのが」だろう。
‥上辺だけの付き合いでもないでしょ? って想いだろう。
確かに、上辺と違って、尊の「中身」は「可愛い」なんてもんじゃない。
決断力もあるし、男っぽいし、優磨ちゃんにほぼ病的な程執心してるし、これは夏は見たことはないが、喧嘩だって強いらしいし(天音談)力もめちゃ強いらしい(彰彦談)。
だけど、そんな風には絶対に見えないあの見た目。
一年たった今も尊の美少女っぷりは健在なんだ。
因みに、男である尊がこんなに美少女なのは、天音のせいだ。天音は分霊である尊を、「成長する」天音にした。当時は生きていた天音が、自分と同じように成長する様に「成長設計」をしたからだ。しかしながら、現在の天音の状態は、ぶっちゃけ「死んでいる」。だから、リアル幽霊な天音は成長しない。
‥尊は、(自分で自分のことを幽霊と言っているが)幽霊ではない。一度も肉体を持ったことがないからだ。(楠も間違ってるんだけど、‥幽霊と分霊の違いは、臣霊と幽霊との違いより難しいから仕方ないともいえる)
因みに、分霊の尊と現在幽霊である天音の肉体の代わりになる器は、西遠寺の秘術である「鏡の秘術」だ。西遠寺 彰彦が、当時「天音を映した」と思われていた「天音そっくり(当時)」な姿が実は彰彦自身の幼少期の姿で、後にそのことがわかり、イケメンの彰彦を見ながら「将来この顔が自分のモノになる!! 」と調子に乗った尊がウザかったらしい天音によって、「天音の顔」に替えられたという経緯がある。
だから、つまり、大学生になった現在も美少女顔なのは、天音のせいなのだ。天音は彼女の母親にそっくりで、彼女の母親は40歳台であるにも関わらず、童顔だ。
だけどこの顔、周りには好評だ。
「みこっちゃんのちょっとSで小悪魔な微笑みが、美しいっっ♡♡」
って校内でもすんごい人気らしい。(優磨談)
‥完全に男扱いじゃないよね。
だけど、そういうのってホントに珍しい。(夏の大学に至っては、絶対に考えられない。気のいい奴らもいるけど、そんな浮ついたノリの奴らはいない‥)
そういうの、って「大学構内でも「有名な」一個人がいる、ってことだ。
だって、校内には何千という生徒がいるんだ。学生だって、毎日学校に来てるわけでも、同じ授業を受けてるわけでもない。高校時代とは何もかも違うんだ。ヘタしたら同じ大学に通っていても、会ったことがない学生が殆どってのが、全然普通な感じ。尊の通う様な、学部が多い大学は特に、だ。それに、授業以外は研究室に籠りっきりって学生も結構いるしね。研究室に属してない学生(1年やなんかは、ゼミを選択していないから、自分の研究室って呼べるものがないんだ。だけど、サークルの先輩やなんかのつてで、研究室に出入りしてる学生もいるんだけどね)でも、授業の宿題で論文やなんかが出るから、図書館に籠ってたりする。
だけど、そんな中でも尊は目立つんだ。そんな状況でも、皆が尊を知っているんだ。(殆どの生徒は、話したこともないわけなんだけどね。)
それがどんなに凄いことか、‥ちょっと想像できないレベルだ。
学部が違えば、必須科目も違う。受講する授業が違う。
だから、会う確率はもっと減る。会うといったら、一般教養と呼ばれる、どの学部でも選択できる授業位。
「こんなマンモス校だのに、こんだけ有名ってちょっと凄いよね‥尊ちゃん」
夏のつぶやきに、尊がふふと笑う。
まあ、でも確かに‥尊は目立つ。華やかな容姿、それにオーラが半端ない。
すれ違えば、つい振り返ってガン見してしまう。
あの目に、まず惹かれる。
大きな、‥珍しいシトリントパーズの美しい目に。
つい、見つめてしまう。‥気が付かないうちに。
そして目があえば尊は、相手に、ふふん、といつもの「ちょっとSで小悪魔な微笑み」を返す。それでさらに相手は「キュ~ン♡♡」だ。(古い言い方だけど)
‥悪女か。
そうそう、話したことがないから、尊のこと、ホントに女の子だって思ってる人も多いみたいだよ?
‥大丈夫かいね?
でも、「喧嘩がすんごい強いらしい」から、まあ、平気なんだろう。
神だし。
「こんな、俗っぽい神様とかって‥。神社参りする気なくなりそう‥」
「ん? 神社は、お願いしに行くところじゃないぞ? 誓約しに行くところだぞ? 言うだろ? 「天は自ら助くる者を助く」って」
「(その誓約を聞くのがこんな俗っぽい奴‥)そうね‥」
色々と考えどころ、突っ込みどころ満載な夏だった。




