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Souls gate  作者: 大野 大樹
四章 神様参戦する。
33/70

5.邪眼

「ふうん、楠がねえ」

 休憩室。

データーベースの部屋で天音に会った梛が、「お茶でも飲みませんか? 」と誘ったのだ。

因みに、データベースルームは勿論の事ながら水分の持ち込み禁止。

 データベースルームでの飲食なんてもってのほかです!

 なので、自販機の置いてある休憩室で話をしている。

 食堂ではなく、ちょっとしたミーティングに使われる部屋で、自販機と6人掛けの大きな机がおいてある部屋で、建物内に一階と二階にひとつづつある。

 仕事関係のミーティングに使うのは主に一階にある分で、二階は職員の憩いの場的なもので、何故かゲーム機と大型テレビも置いてある。使用時には使用中の札をかければ、貸し切りの状態にすることも出来る。

 だが、公共のスペースなので長時間の利用は、先に申請しておくのが決まりだ。

 ‥今日は、ちょっと他の人には聞かせたくない話になるかもしれないな。

 梛は一応「使用中」の札を入り口に出しておいた。



「そうなんだ」

 紙コップで天音は緑茶、梛はミルクティーを呑んでいる。

  梛は、甘いミルクティ、それもホットを好んでよく飲んだ。

「俺とか柊さんは何ともなかったんだけどね‥あと、奈水流ちゃんも」

「なつる? 誰? 」

 天音がコテンと首を傾げる。

「新しいレアの子。『那須君』っていう『震』の卦の子なんだけど、実際は女の子なんだ」

 梛が頷いて、説明する。

 天音はちょっと考えるような顔を一瞬して

「ふうん? 実際にも会ったことあるんだね。見に行ったの? 特別ランクが高かったのかな? 」

 もう一度首をコテンと傾けた。

 わざわざ楠たちが見に行ったってことは、「西遠寺がマークした」ってこと、それは多分、ランクだかが高いってことだろう。しかも、それだけでなく楠が何らかの接触を持ったという事は、「持たなければならない理由がその子にあった」ってことか?

 何にせよ、そうしなければならない理由が彼女にあったんだろう。

 女の子らしいが、楠たちだから、「ちょっとナンパした」とかは絶対ないと言い切れるところが悲しい。‥ない、奴らには、そういったことは、絶対ない。

「そおう。高いの! 俺の自慢のブロックが効かない程ね」

 やっぱり‥そこら辺か。

 しかも、興味を持ったって感じじゃない。

 ‥ブロックがかかっていない状態だから、気をつけて。って、警告‥だけじゃないわな‥

「そりゃ凄い。で、楠はその子に何て? 」

 まあ、警告と、それに加えて対策は必須だろう。

 まさか、二十四時間守りますとは言わないだろうが。

「ブロックの改良が出来るまでの間、会社の方であなたを保護させてもらいますって、GPS渡してた」

「‥ストーカーっぽいな。その子‥女の子なら嫌がっただろうて」

 天音がドン引きした様な顔をする。

 梛が頷く。

「そりゃあ、もう。でも、‥それについては納得してくれたみたい。楠が名刺まで出してたし」

 ふんふん。

 天音も頷く。

 誠実で真面目でオカンな楠なら、誠心誠意説得するだろう。

 だって危ないし。

 そこで、梛がぷっと思い出し笑いをする。

「でも、その(あと)。彼女は普通の子じゃない反応したんだ」

 くくく、と笑う梛に天音は首を傾げる。

「普通の子じゃない? 」

 未だくくくと笑いながら梛が頷く。

「柊の兄ちゃんにならまだしも、楠に対しても、私には貴方たちの色仕掛けは効かないって言って‥」

「へ? 楠がその子を口説いたのか? 」

 天音は一瞬唖然とした顔をしてから、きゅっと眉をひそめた。

 楠を非難して明らかに、不快な顔をする天音に、梛は首を振って否定した。

「まさか! そんなこと楠がすると思う? 」

「いや、‥思わんが、‥だが、奴も男だからな‥」

 その梛の迫力にちょっと怯みながら、天音がそれでも「可能性」を口にした。

 お子様な梛には分からないだろうが、楠も男なんだ、そんなこともあるかもしれない。‥オカンのように見ている楠のそういう面を認めるのは、だけど梛には嫌だろうな。とも思い直し、すぐ自分の言ったことを反省した。

「そういう感じでは、絶対になかった。‥あの場合、あれは‥奈水流って人が‥おかしかった」

 当時を思い出したのか、梛が苦笑いをしながら言った。

 ‥どんなだ? 呆れる程か??

「はあ‥‥? 」

 ‥まあ、その現場を見ていないから分からないけど‥

 天音は二三度首を捻った。

 ‥とにかく、楠が色目を使ったのではないのは、‥間違いがないということが言いたいのかな? 

「楠が‥高校生に色目とか、‥ないわ‥」

「ああ、高校生だったのね」

 ‥自意識過剰タイプだったと。

 ‥いや、自己防衛かな。そりゃ、急に男に話しかけられたら自己防衛をするわな。

 納得。

 大いに納得した天音は

「自己防衛だろ。普通じゃないか? 」

 梛にそう説明したのだが、梛に納得した様子はなかった。

 ‥絶対そんな感じじゃないって顔だ。

 ‥どんな感じだったんだろ、その奈水流って子。

「まあ、‥でも、あの言い方は‥とにかく‥変だったんだよなあ。あの場にいたら、きっと天音ちゃんも首を傾げたと思うよ。だから、「面白そう」って俺は思ったんだけど、楠さんは完璧苦手意識持っただろうね。そんな感じはした。ブロックの件は、さっさと片づけたいって感じだった。出来たらさっさと連絡してたし」

 苦笑いしていた梛は、楠の態度を思い出したのか、最後はちょっと笑ってしまっていた。

「ほう。ブロックの改良はもうできたんじゃな」

 天音は感心して梛を見た。

 ‥流石天才小学生。やる時は、やる。

「しないでか。直ぐ取り掛からせられたよ。もう、出来るまで楠が見張ってるの」

 天音の感心した顔を見て、梛は得意そうな顔になる。

 こういうところは、年相応の子供って感じがする。

 ‥それにしても‥

「楠が苦手って珍しいな」

 あの、楠が、だ。

「ねえ。俺も思った。楠って外面はいいのにね」

 梛も大いに同意する。

 ‥外面がいい、ってのは、まあ、言わないでおいてやって欲しい。‥外面だけじゃなくて、奴は十分always(いつも)いい奴だと思うんだけどね‥。まあ、そんなこと梛も分かっているだろう。親しさからの軽口だ。

「しかし‥ブロックが効かない、ねえ。そんだけ強い子がいたとは‥」

 ‥よく今まで西遠寺に目を付けられることもなく過ごしてきたな‥。

 感心していた天音は、

「あ、でも、もう一人いたよ? 尊ちゃんって幽霊」

 続いて聞こえてきた梛の言葉に一瞬凍った。

「幽霊? 尊?」

 ゆっくり梛を見る。梛が大きく一つ頷く。

「誰が幽霊って? 」

「ん? ああ、楠」

 ‥楠には、尊が幽霊って分かったんだ。

 ‥しかも、やっぱりあの時楠は尊を見ていたんだ。‥ああ、全くややこしいな。偶然ってわけはないわな。見に行ったんだよな。わざわざ。‥ってことは、通報でもあったのかな、souls catchって奴か?

 ったく、忌々しい。

「楠が幽霊だって言って、柊の兄ちゃんも「何となく普通とは違う」って」

 思わず天音は黙って考え込んでしまっていたのだが、梛はそれについては特に気にしていないようだった。

 幽霊な尊について語り続けている。

 よっぽど印象に残っていたのだろう。

 まあ、そりゃなあ。幽霊なんて普通いないわなあ(しかも、人間として暮らしてる幽霊なんて更にいないだろう)

「(楠はともかく柊まで‥)ふうん。なんか、怪しい行動してたの? 」

「いいや? 普通の可愛い子だったよ。しかも、一緒にいた子もレアだった」

「そりゃ、珍しいね‥」

 ‥あれ、優磨もレアだったか‥。

 そういえば、しみじみとは‥見てないな。

 まあ、坤の卦が強いなとは思ったんだよな。

 そうか、レアだったか。

「その後、彼らに接触は? 」

「レベルが特別高かったのは、尊って子だったんだ。で、楠は「あの子は幽霊」っていって「スカウトには向いてない」「人間じゃないから」ってきっぱり言って‥で、そのまま。もう一人の子は、そうレベルが高くなかったってことかな。それっきり話は聞かないな」

 ‥助かった。

 楠には後で礼でも言っておこう。

 ‥尊のことは正直放って置いて欲しいからな。

 今後も継続して放って置いていただきたい。

「‥そりゃそうと、話が脱線した。今は、楠の話してたんだよな」

 だから、天音は話を変えることにした。

 ‥ちょっと我の様子がおかしいってバレなかったかな?

「ああそうそう」

 だけど、梛は何も言わずに尊の話を打ち切りにしてくれた。

 ‥ちょっと、察してくれたのかもしれない。

「あ、ミルクティー無くなった。どうしようかな、もう一杯飲もうかな」

 梛がいつの間にか、空になったカップを見る。

 結構話していたので、喉が渇いたのだろう。

 しかも、甘いものって、別に喉を潤さないよね。

「やめとけ、寝れなくなるってオカンに叱られるぞ。喉が渇いたならお茶にしておけ」

「はいはい。楠オカンはうるさいからな。‥あの目は効かないけど」

 ふふ、と笑う梛は、どこか嬉しそうだ。

 つられて笑顔になった天音が小さく頷き、しかし、ちょっと考える顔になる。

 あの目

 さっき梛に聞いた、楠の催眠っぽい目の話だ。

「楠の‥あの目ね。‥邪眼なのかもしれないな」

 ぼそり、と天音が口にする。

 ‥楠が「水の卦」だって知ってるから、「血液を瞬間的に凍らせてるんだよ」って事実を知らせてもいいんだろうけど‥ちょっとまずい気もする。

 無いだろうけど、怖がらせてしまってもおかしくない。

 そもそも、『たかが人間』にそれ程のことはまあ出来ないだろう。

 ‥梛には、楠が人間じゃないって‥知らせたくはない。知らせる必要がないなら‥知らせない方がいい。

「邪眼? 」

 怪訝そうな目で梛が天音を見る。

 ‥何それ物騒な‥。

「うん。evil eyeっていってね、呪いの目‥っていえばいいかな、悪意を持って睨み付けることによって、対象者に呪いをかけるって目‥。だけど、呪いまでも行かなくても、対象者の意志に関係なく、対象者に影響を及ぼすってのは、邪眼って言えないでもないんじゃないかな」

 考えながら、天音がぽつりと言うと

「‥楠は、悪いことをしようなんて思ってないよ」

 明らかに、梛からピリピリとした感情が伝わってくる。

「明らかに意図して使えば、悪いこと‥だと思うけど。催眠‥威嚇かな。まあ、いい傾向じゃないから今度楠には注意しておく」

 梛が楠を庇う気持ちは分かるが、‥いい傾向ではないのは確かだ。

 それが、悪用しているものではないにしても、‥意図して使っている以上、アウトだ。

 しかし、‥魔王みたいな目つきで、邪眼か‥。

 ‥全く。

「‥天音ちゃんって、楠の保護者みたいだね。楠も時々相談したりしてるし、‥敬語だし」

 あれこれ考えながらため息をついていた天音を、梛がどこか困った様な戸惑ったような‥なんともいえない様な顔で見た。

 ‥まあ、どう見ても我の方が年下だしな。

 天音は苦笑いして‥誤魔化した。

「はは、我が偉そうな口調だから、つい敬語になってしまうのかねえ。つられるんじゃないか? 」

 一応言い訳もしておく。

「そういうもんかな」

 ‥うむ。誤魔化されてない。

 ‥思いっきり不審な顔をしておる。

「そういうもんじゃろ? 」

 ‥駄目押しじゃ。

 秘儀・押し切れ戦法。

「‥天音ちゃんと楠が結婚したら、絶対楠、尻にしかれるんだろうなあ‥」

 ‥おいぃ!

 気色悪いこと考えないで!!

「ない。絶対に、そういうことは、ない」

 子供の他愛もない戯言じゃが‥。我の尊厳と、神経の為に‥

 きっぱりと否定させてもらうぞ!!

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