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Souls gate  作者: 大野 大樹
三章 絶対に交わらない線
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4.変身願望と、梛・初めてのアバター

 結局、今食べた方が美味しいね、と言ってエクレアは食べてしまうことにした。

 夏にエクレアの扱いを悩んではいけない。

 (チョコレートが溶けるからね)

 柳さんには、また大学に行ったときにでも買ってくるね。と楠が梛に言った。

 ‥楠は、ケーキ屋さんに入れるタイプなんだ。

 へえ、意外‥と思ってたら、コンビニで買って来てた。

「ん? 何、このエクレア」

「‥梛からの差し入れ‥」

 と、何とも訳の分からない会話が近い将来成されることになるんだけど、それはまあ、別の話。



「あれ、‥男なんだ。奈水流ちゃんのアバター」

 は梛の言葉。楠は、勿論奈水流のアバターが「那須」で、男だってことは知っている。

 今、梛と楠はレア用『Souls gate』を開いている。

 梛は、一般のプレーヤーとして参加する、と『Souls gate』の専用端末からIDナンバーとアバターを入手して来ていた。

 小学校で「持ってないから欲しい。でも、仕方が分からない」と言ったら、親切な同級生が我も我もと教えてくれた。‥と若干嬉しそうに梛が言った。

「なんだよ~! 意外だなぁ! 輪太りんたは秀才だから、ゲームとかしないんだな? 」

 と、掴みどころのない秀才が見せた隙‥というか、意外な一面に皆は人間っぽい梛を見たんだろう。やたら嬉しそうだったらしい。(と、それも「まったく」とか悪態つきながらも、嬉しそうだった。そういう梛をみたら、嬉しくなるね)

 因みに、輪太は、梛の本名だ。

「ここに端末があるんだ。ここに手を置いてだな‥」

 説明をしてくる同級生に「恥ずかしいから一人でこっそりやるよ‥」ともじもじした顔で言った、らしい。もじもじする梛は想像できないが、彼なりにもじもじしたんだろう。‥見てみたい。

「だって、レア出たら‥結構出る確率高いじゃん。そうなったとき、騒然としそうじゃん」

 それは‥するな。絶対。

 それに、リアルは明かさないってタイプは結構いるから、すんなり理解してくれたらしい。

「俺らは、お前のアバターがショボショボでも笑わないぜ」

 と、何でだかイイ笑顔で理解してくれたらしい。

 ‥ショボショボ確定なのね。彼らの中では。

 まあ、梛は細くてちっこいしね。

「で、どうだった? 」

「うん? これ」

 と、梛が見せてくれたアバターは、一目見てわかった。つまり、やっぱりレアだったんだ。

 そう、人型をしていたのだ。

 ‥そうだよな。梛、そこそこレベル高いもんな。

 『少男』らしい、幼い少年の様な外見。

 目がぱっちりして、八重歯を見せて笑うちょっとワンコっぽい可愛い少年をみて、梛は「なんか、くだらない」と拗ねた様な顔をして、毒をはいていた。「もっと、渋い感じの方がいい」だけど「でも、女みたいな楠よりましだからまし。イイ」とも。

 ほっとけ!

 黄色い意思の強そうな目が印象的な少年だ。

 ‥アンバーの普段の梛の目によく似ているな。

 今の梛の目は、さっきお出かけから帰って来たままだから、カラーコンタクトが入っていて黒だ。

 桂と楠はまるで保護者みたいに、拗ねた顔をしてアバターを見る梛を微笑ましい表情で見た。

 名前の「翔」は、ちょっと風っぽいなと思った。

(まあ、運営の方もそこらへんはあんまり考えていないんだろう)



 そう。

 『梛』

 じゃないんだ。

 チューターとして専用IDでログインした場合、梛の名前は『梛』になる。その場合のアバターはデザイナーがそれ、として用意してくれるようだ。

 「運営の人間」と一目でわかるように、一般のプレーヤーとは明らかに違うデザインで、だ。

 だけど、梛は今回一般のプレーヤーとしてログインする。

 だから、一般のプレーヤーと同様に名前が割り当てられる。

 一般のプレーヤーのアバターの名前は、実は、その卦ごとの最高位プレーヤー以外は特別に決まっていなくって、適当に割り振られているに過ぎないんだ。(レア以外は、プレーヤーが自分で名前を付けられるしね)

 レベルが高い場合はその名前が漢字になるという見ただけで分かる違いがある。

 因みにここらは、西遠寺的に分かりやすくするための分類で、分類の基準やなんかは一般には公表されていない。

「まあ、実際とアバターは違うわな」

 梛が、アバターを動かしてみながら言った。

「奈水流ちゃんも違うみたいだし」

「そうなんだ。「那須」君って名前の男の子でね。性別が違うことを彼女は公表しないみたいだね。ゲーム内では、ホント普通の男子高生って感じだよ。厨二の」

 ふふ、と楠が笑う。

 それで言うと、この前実際に会った時の印象とは違ったな、とも思った。

 あの時の彼女は、完全に女子だった。

「結構、性別が違う子はいるし、その事について、公表する子と、公表しない子がいる。‥レアの子は、あんまり他人と打ち解けるような子は少ないし、ちょっと変わった子が多いから、公表しない子の方が実は圧倒的に多い。個人情報って感じなのかな」

 因みに、アズマは自分の性別がアバターとは違うことを公表している。

 ホントに、いろいろなタイプがいる。

 純粋に別人になって楽しんでいるタイプだっているだろうし、

 結構、何でもいいやってタイプもいるかもしれない。(いや、そういうタイプは、このゲームはしないな)

 個人情報をちょっとでも、出したくないタイプが‥でも多いのかな?

「まあ、そうでしょう。リアルはリアル、ゲームはゲームでしょう」

 うんうん。と納得した様な顔で梛が言う。

「皆器用だよねえ‥。てか、それ程病んでるってことかな、社会が」

 一方の楠はちょっと心配そうだ。

 ふ、と梛がそんな楠をみて、シニカルな笑みを浮かべる。

「そういう難しい話でもないと思うよ」

「そう? 」

 楠は、不満げに、ちょっと眉を寄せる。

「そうした方が、楽しい、って位の話じゃない? 」

 梛は、今度は力強くにっと笑って、楠の肩をちょっと強めに叩く。「心配ないって」って言いながら。

「そういうもんかねえ」

 楠は、それでも、何度か首を傾げながら、叩かれた肩をちょっとさする。

 ‥この頃、梛は体力がついて来て、‥叩かれたら普通に痛い。‥体力がつくのはいいことだけど。

「変身願望って奴だよ」

 わかんないけど、多分。そう。

 全員じゃないだろうけど、そういう子って多いんじゃない?

 ってあくまで推測だけど。と、梛が付け加える。

 ‥おお、なんか梛も同じことをいうと、なんかありそうな感じが増すな! 

「梛にもあるの? 変身願望」

 楠が首を傾げ聞くと

「ないな。それで、リアルが変わるわけじゃなし」

 梛は即座に否定した。

 考える余地もなし、って感じ。

 その間およそ0.2秒くらい。

 即答って奴だ。

 ‥そういうもんなんだ‥。

「でも、別に僕もないかも‥」



「あらあ、つまんないこと言わないで~? 転生なんてお話みたいなことは出来ないけど、生き直すような気分を味わえるわよお? リアルは実際には変わらないんだけど、何か自分を変えるきっかけみたいなものにはなるかもしれない。明日への希望って大事だわよ~」

 くすくすという笑いと共に、若い女(?)の声が聞こえた。

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