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Souls gate  作者: 大野 大樹
三章 絶対に交わらない線
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2-1.保護 ――恋愛的要素ゼロの出会いーー

「あの子たちだね」

 こそ、と梛が小声で言った。

 楠が無言で頷く。

 全国チェーンのコーヒーショップで、楠が注文したのは、無糖のコーヒー、見かけによらず甘党な柊は甘いカフェオレ、梛はクリームがのったアイスコーヒーだ。

 片手にコーヒーの紙カップを持ち、ウインドショッピングに来た兄弟風。

 別に目立ったイケメンでもない、目立った動きをするでもない彼らは、勿論の事ながら周りに溶け込んで、目立つことはなかった。

 そんな楠がぼんやりと見張っているのは、二人の女子だ。

 ショートカットの女子とふわふわのちょっとウエーブした髪の長い女子。

 同じ年の彼女たちは、幼馴染で、違う高校に通い始めた今も、休日には一緒に出掛ける位仲良しだった。

 色白で、日に透かせると栗色に見える柔らかい髪、茶色の大きな目、小さい顔‥。髪の長い方は、目立って容姿が整った少女だった。名前は()水流(つる)。幼馴染であるショートカットの女子とは、家が近所で気が付けば毎日一緒に遊んでいた。

 奈水流には兄がいたが、4歳年上の兄は「妹と遊んでもつまらない」と妹を置いて遊びに行った。そんな兄が唯一奈水流と一緒に遊んでくれたのがテレビゲームだった。だから、(当時)お兄ちゃん子だった奈水流がゲームに特別な感情を抱くのも自然のことだった。

 そして、ゲームは次第に「兄と共通の遊び」から「奈水流のお気に入りの遊び」に変わっていった。

 奈水流が気に入って遊んだのは、小学生のころからRPGだった。

 それも単純な子供向けの物より、ストーリー性のあるちょっと複雑なもの。

 音楽も地味で、絵もポップじゃない奈水流の押しゲームは、他の同級生たちに受け入れられることはなかった。

 基本的に、奈水流はぼっちでプレーするのを好んだ。今のスタイルは、ほぼ小学生のころから確立していたと言える。

 中学生位になったら、そういう大人っぽいゲームをする子も周りに増えては来た。だが、その頃奈水流はすでに「ボッチプレーヤー」スタイルを確立していたから、仲間とわいわいを望むことはなかった。

ゲーム関連のイベントなんてどうでもいいし、交流会とかも、どうでもいい。

 奈水流はボッチプレーヤーに誇りを持ったボッチプレーヤーだった。

「情報は、ネットで取れば足りるしね! 」

 それに‥

「リアルじゃないのがいいんじゃないか」

 ‥あのプレーヤーの顔ってホントはこんなんだったんだ‥

 って知ってどうする。がっかりしかないだろ? ゲームにリアルを持ち込んで、「一緒にしましょう? 」とか、アホか!

 ‥奈水流は、変なポリシーを持っている。



 放って置いたら家に籠る‥。それこそ、夏休みに彼女の姿を家の外で見ることは、まあない。(外は暑いしね)

 そんな彼女をたまには買い物にでも行こう、水族館にいるかを見に行こう、と誘い出すのは、髪の短い方‥雛子の役目だった。

 服装にすら無頓着な奈水流に服を選んでいるのも、雛子だった。

 名前の通り、ちょっと雛を思わせる、ちっちゃな身体。太っていないのに太って見える丸顔。おちょぼ口で小さな丸い目。彼女が首をきゅっと傾げたら、丁度インコかオウムみたいに見える。

 可愛らしい雛子は、他人にあんまり関心を持たない奈水流にとって唯一の(リアルの)友達であり、唯一の癒しだった。(※中学生になってとうとうオンラインに手を出した)

 2つ上の奈水流の兄は、(妹がゲーム三昧の生活を送っている頃)テニス部に入り、妹同様整った容姿で女子の黄色い声援を受けて、それこそ、青春を謳歌していたのに、だ。

 そう、兄は完全にリア充なんだ。

 兄は

「あれは、本当に俺の妹なんだろうか‥。俺には妹のことが分からない‥」

 と、諦めた様な顔を妹に向けていた。

 何か現実逃避に至った原因があるのだろうか、と心配もしているが、勿論の事ながら奈水流にはそんなものない。

 ただ、大好きなゲームが出来ればそれで幸せなだけなんだ。

 その為には、(母親に文句言われないように)好成績だってキープするし、パートで働く母親の代わりに家事だってするし、偶には父親の趣味である森林浴にも付き合う(←パソコンばかり見てるから、目が悪くならないように休みの日は緑を見る様にしているらしい)

 それ以外の休日の使い方が、雛子とお出かけである。

「もしよかったら映画でも行かない? 」

 と男子に誘われたところで、平日は勉強と家事と(←ゲームの為)ゲーム(本命)で忙しいし、休日は目を休める日だから(←快適にゲームする為)映画とか目を使うことはもってのほかだし、偶には雛子とお出かけしなきゃ(←癒されたいし)だし、奈水流にはそんな暇はない。



 大川 奈水流 高校1年生

 高校名 

 部活 所属無し(学生の場合これはだいぶ重要な情報。帰宅時間や行動パターンがこれによってだいぶ変わる)

 交友関係・最も親しい友人 高橋 雛子

 恋人 なし

 趣味 ゲーム

 習い事 土曜日にペン習字(←母親に入れられた)



「うわあ。典型的な‥よくいる感じの‥今時の学生だね。‥派手なのは容姿だけで‥見事な地味っ子だね」

 データを見ながら苦笑いしたのが二日前。

 本格的に調査したわけではない。単なる「接触の為の下調べ」だから、調べてある項目は少ない。

 ‥でも、それを見ただけで「詳しく調べてもあんまり変わらなさそう」と、楠は思った。

 その現物を間近で見ながら楠は首を傾げていた。

 ‥こんだけ恵まれてて、‥ああも地味かね‥。

 ‥まあいいや。今回は「今後詳しく調べる必要性があるか否か」の見極めだ‥。

 楠は、またちらり、と二人を見て、梛も、見るでもなくそっちに意識をやる。

 ‥柊は、別に何も見ていない。



「なつ、スマホ鳴ってる、ちょっと聞こえにくいから、聞こえやすいところに移動してもいい? 」

「うん。‥スマホの調子まだ悪いの? 」

「えへへ、そうなんだ。周りの雑音拾っちゃってさ~」

 雛子が苦笑いして、二人は雑貨ビルの陰に入る。

 二人が人ごみから離れる隙を狙っていた楠がその機会を見逃すことはなかった。

 ‥こそこそ後をつけたりして、ちょっと犯罪者みたい‥。

 自分の行動には嫌気がさしたが、手段は‥選んでいられない。

「あの‥」

 目を意識して開いた。大嫌いな目。その目で、二人に視線をしっかりと合わせる。

 そして

「声を出さないで」

 僕は「命令」した。

「スマホ‥切ってもらってもいい? 」

 女の子の内の一人‥勿論、レアじゃない方・雛子だ、は、スマホの通話から「拒否」を選ぶ。

 さっきまで騒がしかった着信音が消える。

「ちょっとついて来て? 」

 楠は続けて「命令」する。

 普段だったら、こんなに長い「命令」をすることはない。

 せいぜい、動きを止める位だ。

 ‥だけど、実は‥楠はこんなことも出来る。これは、多分天音ちゃんたちも知らないと思う。‥勿論、柳さんや桂ちゃんも、そして梛も柊さんもそう。

 さっきから、梛は「え~」って顔で楠を見ている。‥柊は、(楠の予想の範囲内なんだけど)特に何も気にしていないようだ。

 ‥だけど、さっき言ったみたいに僕たちには、‥手段を選んでいる時間はないんだ。

 雛子の顔は恐怖で固まっているが、黙ったまま楠に従った。

「え。どういう‥こと? 」

 奈水流が楠と友達を交互に見る。

 背の高い楠だ。

 奈水流は見上げて楠を睨み付けた。楠は、目を開いたまま奈水流を見るでもなく、視線を前に向けた。

「‥ちょっとどうしたの、雛子をどうしたのよ‥」

 奈水流はそれを見て、で呆然として立ちすくみ、目を見開いた。だが、友達が人質に取られているわけだから、ついて行かないわけにはいかない。

 慌てて三人組と友達を追う

 柊と梛も黙ってそれについて行く。

 楠を先頭に、女子二人、子供と大人の男。

 その光景はどう考えても異様だったんだけど、幸いなことに誰にも見られていないようだった。

 梛は、ちらっと二人を見たが、柊に至っては表情ひとつ変えていない。

 口も堅く結んだままだ。

 ビルの後ろに来ると、楠は

「ちょっと座って」

 と雛子に「命令」すると、怯えたように雛子が座り込んだ。

「雛子?! 」

 楠が小さくため息をついて、雛子の前に座ると

「ちょっと、そこで「寝て待ってて」? 」

 「命令」した。

 と、その瞬間雛子は、近くにあった壁にもたれて寝息を立て始めた。

 ‥酷~。何この人、魔王?? 

 奈水流が雛子を揺り起こそうとするが、雛子に起きる様子はない。

 ただ、単に眠っているだけに見える。

 ‥催眠術!?

「君は大丈夫なんだね」

 楠は首を傾げて、奈水流をみた。

 そう言ってはみたけど、実はそれって想定の範囲内。この子ほど「強い」んだったら、それもあり得る。

 梛や柊も初めから、平気だった。

「声‥出しますよ。私たちをどうするつもりなんですか」

 きっと楠を睨み付けて、自分の後ろに雛子をかばいながら奈水流が低い声を出した。

「‥落ち着いて。僕らは‥怪しい者じゃない」

 いいながら、自分で「いや、それはないな」と突っ込みを入れそうになった

 ‥どう見ても怪しさしかない。

 が、辛うじて堪えた。

 楠は、丁寧にお辞儀をし、さっきまでのことを詫び、TAKAMAGAHARAでの名刺を差し出し、落ち着いた口調で説明し始めた。

 名刺には、社名と、楠の役職 『Souls gate』企画制作部課長 と、西遠寺 楠

 が書いてある。

 実はこれ、そう他人に見せたり、ましてや渡したりしてはいけない。

 TAKAMAGAHARAと西遠寺の繋がりを世間に知らせるわけにはいけないからだ。

 だから、この名刺はそこら辺の事情を知っている者との間でしか交換されることはない。

 そもそも、これは名刺というか、keyだ。

 これを持ってTAKAMAGAHARAの外の受付に見せて、受付で機械に通して認証されれば、TAKAMAGAHARA内部にはいれちゃうのだ。

 因みに、楠ら社員は社員証を持っていて、毎日受付で機械での認証を行う。(なりすましを警戒してのものだ)

 社員証を‥というが、もちろんそれだけではない。網膜認証や顔の認証なんかも、こっそりされているから、「社員証を借りて」とか「奪って」とかでは入れない。

 一方のこの名刺は、使い捨ての「通行届」で、網膜認証や顔の認証がカットされる。(勿論記録にはのこるんだけど)

 つまり何が言いたいのかというと、奪われて困るのは、寧ろ社員証よりも名刺だって話だ。

 もっとも名刺で入ったところで、空港か? って位厳重な持ち物チェックが行われる。カメラを持っていないか、とか通信機器のチェックだとか。(因みに、スマホはここで預かられてしまう)

そして、帰る際に名刺をまた渡され、さっき預かられたものを返却してもらう。

 (つまり、偶然名刺を拾って入れたとしても、もう一枚それを貰わない事には出られない。約束があって入ったなら、訪問者は帰りにもう一度それを貰えるわけだから、それで問題がないというシステムになっているのだ)

「おい、楠! 」

 梛は焦ったが、楠は、そんな梛を手で制した。

 奈水流は、オタクだが‥西遠寺の事情には精通していないようだ。西遠寺の名前を見ても、首を傾げているだけの様だった。

「すみません。‥これは、規定により渡すことは出来ないし‥出来れば他言無用でお願します」

 楠が深くお辞儀をする。

「僕らは‥『Souls gate』の所謂製作者サイドです。‥君の情報が、一般ユーザーから『souls catch』で寄せられたので、警告しに来ました」

 奈水流の顔から、不信感が消えることはなかった。

 楠を睨んだまま

「ええ?! 私、ブロックしました! 」

 声の大きさはそれでも抑えて、言い返す。

 楠は軽く頷き、梛は大きく頷く。

「ええ。それは僕たちも確認しました。ですが、君の力が強すぎて‥ブロックし切れていないんです」

「え‥」

「‥こちらの予想を上回る‥と言いますか‥。‥申し訳ございません。ですから、プログラムを強化する間、僕たちの方で君を保護させていただきます」

 そう言って、もう一度更に深く頭を下げる。

「え?! 保護って‥」

目の前の大人に、深く頭を下げられて焦った奈水流がつい慌ててしまう。

 ‥ヤバい、びっくりして、ちょっと慌ててしまった‥。

「ブロックが効いていない状態のレアは、‥社会的に凄く危険なんです。『Souls gate』の熱狂的なファンに狙えれることが容易に予想できます。本来なら、誰かをボディーガードにつけるか、保護できる施設に匿わせていただくか‥が確実なのですが」

「ええ?? 」

「‥ちょっと難しそうですので、陰ながら君をサポートさせて頂きます。この、ピンバッチを肌身離さず持っていただけませんか? GDPが内蔵されています。‥ちょっとでも危険があって、貴女の心拍数が著しく上昇もしくは、‥心拍数が消えかけたりすることがあれば、すぐに駆け付けます」

「心拍数‥」

 ‥消えかけるって‥それって生命の危機的な感じか!? まさか‥。

「そんな大げさな‥」

 ‥でも、有り得るな‥。

 ‥『Souls gate』の熱狂的ファン、怖いよ!!

「これは‥お願いというより‥」

 底光りのする目で見おろされて、一瞬、ぞっとする。

 ‥つまり、お願いというか‥強制ってことね‥。

「わかりました。従います」

「助かります」

 初めて、ふっと楠の表情が柔らかくなった。

 それに明らかにほっとした自分に、‥奈水流は自分のことなのに驚いた。

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