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Souls gate  作者: 大野 大樹
三章 絶対に交わらない線
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1.確認作業

 見ただけで、それ‥つまりレベルが高いとか、純粋な卦の持ち主だとかいうこと‥、と分かる柊や楠と違い、柳たちは見ただけではわからない。だから、当然データ任せってことになる。

 つまり、souls gateの登録時のデータだ。

 あれには、顔写真と網膜認証やら、卦を判断するパターンが登録されている。

 さらに、IDとアバターを貰う為に住所や氏名などの情報を登録するわけだから、そういうデータも入手されている。

 あの手形は、まあいうならば、指紋の入手に過ぎない。

 ヘッドホンを付けて、人に聞かれないように操作・登録をするのだが、あのヘッドホンが曲者で、ちゃんと頭に当てないとエラーが出る。

 つまり、ちゃんと頭に当てる。

 ‥脳波ってのは、今ではそんなちょっとした接触でも取れるものらしい。(流石、西遠寺の研究だと思う反面、ちょっと怖い)

「ん、この子レアだな。位置情報からして近いから、柊さんか楠さん見に行ってもらえます? 」

 と、時々プログラムをチェックする意味で、柊や楠が実物を見に行ったりすることもある。

 そんな時は、大概「特別ランクの高いレア」の時だ。

 スカウト部が動く前に本当にレアか確かめる必要がある。

 色々調べる前に「そもそも本当にそうまでする必要があるのか」調べる。それは、当然だろう。

 ‥西遠寺のスカウトはそれ程特殊なんだ。

 地方に住んでいる子までは、(よっぽどじゃない限り)確認できないが、都内でしかも近所となれば、確認もしやすい。

 ‥よっぽどだったら、「どうかな」と思うような物件でも、見に行かされるわけなんだ。

 この前、楠は、九州まで行かされた。

 ホントにこの会社は人使いが荒い。

 楠の、ちょっとうんざりした顔に気付いたからか、

「ん」

 立ち上がる柊を、柳が引き留める。

「楠も一緒に行ってくれないか。柊さんも時々は外に出した方がいいと思うけど、一人だったらちょっと不安だ」

 柳がちょっと苦笑いをする。柊は別にそれで問題がないらしく、大人しく足を止めて楠を待っている。

「はあ‥」

 まあ、でも、そうでしょうね。

 という言葉は、しかしながら口には出さずに、楠は出かけるべくスマホ(っぽい最新型通信機器)を手に取る。

 今日は、ちょっと天気が悪そうだから傘も二本持って行った方がいいかな。

 などと思っていたら、隣に梛が立って「早く行こうよ」と、こてんと首を傾げる。

「‥で、なんで梛まで来るんだ? 」

 ‥ってこの会話も‥なんかデジャブかな‥。

「前に言ったでしょう! 目つきの悪い男が二人スマホもって街をうろついてたら、怪しいって! 」

 梛がわざと「呆れた」という顔をして楠を見上げる。

 この会話もこの前もした‥。

 ぼんやりと梛の頭を見下ろしてため息をついたが

 ‥でも、ちょっと身長が伸びたな。

 って思った。

 ‥学校行き始めて、動くようになったからだろうけど、ちょっと日焼けもしたし顔色も良くなった。

 因みに学校に通っているときは、前の名前‥つまり本名で通っている。



 未成年の梛の預かりは、成人するまで児童相談所の管轄になっているので、梛の現住所は児童相談所が指定した施設(まあ、仮なんだど)になっている。

 ‥まさか、未成年なのに就労しているとか、流石にまずいだろう。

 戸籍からごっそり変えるのは成人してからってことなんだろう。

 因みに、僕はまだ変えていない。(勿論成人はしているけど)

 ‥一応親と相談しないとまずいだろうしね。

 それを思うとちょっと、気が重い。

 柊さんは、親公認でもう名前が変わっているらしい。

 ‥複雑な家庭環境なんだろう。

 と、楠は思うもののそれ以上聞こうとはしなかったので、楠が元々表の西遠寺の人間であることは知らない。

 人の事情には踏み込んだりしない楠は、そのことを知ることは多分これから先もないだろう。

 柊の場合は、親戚という事もあり、恭二の養子に入った。事実上の実家との絶縁だ。そこまでしなくても、と思うが、旧家にとって表と裏というのはそれほど違うものなのだろう。

 しかし、彼の場合、そうするほうが弟の北見を跡取りにしやすくできるからや、また表の西遠寺の後継者候補である北見の足を引っ張りかねないという理由で柊が目の上のたんこぶだったという理由の方が大きいだろう。

 柳は、今はただ改名したに過ぎない状態。能力者になったら、西遠寺の誰かの家に養子に入って、完全に「西遠寺 柳」になるのだろう。西遠寺は、「そういう組織」ではなく、「そういう一族」なのだ。



「そういうもんかね」

 楠が首を傾げる。

 ‥梛も加わって、怪しい二人組が怪しい三人組になって、余計に目立つだけだと思うけど‥。

 前の時の様に‥。

 それが、‥なんで分かんないかなあ。

「そういうもんだよ! 」

 ‥言い切れる意味が分かんないよ‥。

 梛は今日も今日とて、カラーコンタクトを付けて、眩しくないように例のおもちゃみたいなサングラスをかけている。(絶対今日はサングラスなんて要らないと思うけど)

 楠は、特に日差しが眩しい日は、色の入っていないサングラスをかけているのだが、今日みたいな天気の日は必要ない、と掛けていない。

 柊さんがそういう日射し対策をしていることはないのが、楠には不思議だった。

 ‥案外、前髪がすだれみたいな役割をしているのかな。と思っているようだが、そんなことは勿論ない。なんてことはない。柊は、そんなに目の色素は薄くなく、ちょっと茶色いかなって程度なんだ。



「ああ、あの子か。‥う~ん。一人じゃないな」

 さっき柳に渡された、画質の良くない写真を見ながら、楠が確認する。写真で確認しなくたって、あの子を見た瞬間「あれだ」ってことは分かった。‥見るからに、気配が違う。



 街で偶然会えるなんてことは‥、まあない。だから、別の「探偵」が日曜日に外出するターゲットを尾行し、街に出て来たところで連絡してきたのだ。

 そんな、犯罪行為は‥でも悲しいかな楠の中では既に日常レベルになっていた。

 探偵と楠が直接接触することは、ない。

 尾行がばれた時、取り換えが聞かない楠や柊の素性までバレるのだけは絶対に避けたいという理由だった。

 そして、楠と柊も怪しい行動を取って「誰か」の印象に残ることは絶対に避けなければならない。

 そういった訓練も、日々の業務の中に組み込まれている。

 梛は子供だから、そういった訓練は受けていない。

 ‥隙の無い子供なんてかえって怪しい。

「学校生活は、普通の子供を研究する場でもあるね」

 なんて、本人は「業務」にノリノリなんだけど。



 今日も偽探偵気分でノリノリの梛が、自分も一緒に写真を横から覗き込み確認して

「そうだね」

 と軽く頷く。

「‥あの子、レアだ‥」

 柊が呟き、ちょっと身震いした楠がそれに頷く。

「確認したから帰るか‥」

 柊が回れ右しようとするのを、楠が柊の腕を掴んで止める。

 柊が楠をちらっと見る。

「いや、あの子‥。強すぎる。尊ちゃんの時に、あったでしょ、一般ユーザーにバレちゃってレア報告されたの。‥尊ちゃん、どうやらsouls gateにログインしたこともなかったみたいなんだ。‥ブロック以前の問題だね。‥だけど、今回は、ログイン画面からの「レア」の情報も一緒に上がってきてるから‥つまり、ブロックしてるけど、ブロックし切れてないパターン‥。柳さんは『souls catch』で報告されてるのは知らないみたいだね」

 まるで世間話をするような表情‥楠が例の線の様な目の笑顔のまま小声で話した。

「つまり、ブロックしきれないほど、強いってこと?! 」

 梛が目を見開いて楠を見る。

 楠が頷く

「え! まさか! 」

 ショックを受けたのはその「最強ブロック」を作った梛だった。

 あのプログラムは梛の自慢の最高傑作だ。‥まさか‥

 ‥まさか、俺のブロックを破る奴が出て来るなんて‥!

 って顔だ。

 ‥分かりやすい。

「いや、凄いのは、通報者じゃなくって‥あの子だろう‥。『souls catch』を更に違法に改造して、ブロックを破ったわけではないようだよ。そうではなく、純粋に、あの子のランクが梛のブロックのプログラムが想定した上限を超えてるんだ」

「なんと! 」

 ‥なんと! ってなんだ。小学生の驚き方じゃないぞ。

 驚きすぎだろう。

「尊ちゃんと違って、あの子は生身の人間だから、レア狩りに会うぞ、ブロックの強化をするまでちょっと見張ってる方がいいな」

 ‥写真以上に、容姿のいい女子みたいだし。

 しかも、高校生かな。随分若そうだ。

 レアだから、一般ユーザーと通信することはないんだけど、一方的に対戦を申し込んだりする輩や、すれ違い通信目的のぼっちプレーヤーに狙われたら‥一発だ。

 普通なら、「通信許可」OFFで、通信が遮断される。強化されたブロックをして、ブロック機能が上がったとしてもそれは同じ。だけど、今の状態は、ブロック機能が効いていなくて、「通信許可」ON状態と変わらないのだ。

 自分で自分の身を守れる位実は喧嘩が強い、とかも‥考えられないなあ。

 ‥あくまで見た目の問題だけど。

 ‥もしかして、見た目と反して凄く強かったりだとかしたら‥ちょっと‥助かるかも。

「お、俺、すぐに直す! 」

 顔面蒼白の梛は、もう「普通の子供ぶりっ子」を忘れているのか、完全に仕事人の顔だ。

「出来るのか? 」

 だって、現時点での最高水準だったわけだし‥。

「出来らいでか! 」

 しかし、梛は天才の(山より高い)プライドを傷つけられて、ショックと悔しさ、そして「このままにしては置くか! 」と怒りがその表情に浮かんでいる。

 傷つき、一瞬で落ち込みから回復し、今は復讐に燃えている。

 ‥頼もしい。

 しかし、目立つから‥というか、ターゲットに気付かれるから、大人しくしてほしい。

「接触する」

 楠は落ち着いた声で静かに言い放った。

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