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Souls gate  作者: 大野 大樹
二章 『souls catch』と『Souls gate』
18/70

9.楠のリアル

 僕の仕事について考える。

 僕の仕事は、『異能力者』を発掘して、裏西遠寺の術者にすること。

 (すること、っていって僕が異能力者を修行させられることは勿論できないんだけど。まあ、発掘の手伝いをすることだね)

 適材適所。特技(って言えるのかはわからないが)を仕事にしたっていう点では、別に悪いことではない。

 僕自身、表向きも、ゲームクリエイト会社に勤めていて、税金も払っているから、まあ問題はない。大学にも籍があって、社会から完全に隔離しているわけでもない。

 ないんだけど、どこか『アンチリアル感』がぬぐえない。

 ‥名前を変えたり、お互いの素性が分かんなかったり、故郷を顧みすことがないってところが、『出家』っぽい。ちょっと、宗教団体っぽい。

 でも、それについて苦言を呈する家族もいないし、‥友人もいない。

「そういえば、何をしていますか? 」

 って、同窓会を開く折に、僕を思い出す人間なんていうのもいないだろう。


 ‥僕は、本当に『あの世界』にいたんだろうか。


「楠。どうしたの? 」

 パソコンを打つ手が止まっていたのに気付いた。

 今まで気付かなかった。慌てて暗くなっていた画面を起動させた。

 ‥画面が消える程の時間考え込んでたのか。

「仕事しすぎじゃない? 今日は、定時であがって、たったと寝た方がいいよ」

 梛が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 こんな、何気ないことも、昔だったらなかったことだった。

 僕に話しかける人がいない、それ以上に話しかけられるのが嫌だった。

 何かを探られている。

 それが容易に分かった。

 なんか変なこと言ったら、後で他の奴と笑ってやる。

 そんな、心が安易に透けて見えた。

「いや、修士論文仕上げちゃいたい」

 今は、そんなへまはしない。

 安定の仮面スマイルで対人関係も問題はない。

 女子の

「目、細いね~。開けてるの見てみたい~」

 って甘ったるい声は、いまだに慣れないけど。

 ‥そんなの見て、どうする? 

 って突き放したくなる。まあ、面倒だからしないけど。

 ‥怖がられるの分かってるから勿論見せもしないけど。

 あはは、って笑ってごまかして終わりだ。

「大学、まだ続けるんだね」

 梛は、小学校に行っていない。

 ‥だって、先生たちに悪いでしょ。

 って言うのは、もっともだ、と納得させられた。

 ‥だけど‥。

 


「はい、もう、寝て。食堂でおじや作ってもらって後で柊さんに持ってきてもらうから」

 梛がぐいぐいと背中を押して、僕らの部屋に押し込まれる。

 僕らの居住空間は、この建物内にある。

 一階、二階が研究所と事務所。三階以上に楠たちに充てられた寮がある。

 食事は、食堂でとれるが、自室で自炊も可能だ。

 勿論一人部屋だ(学生寮じゃあるまいし相部屋ってのは、有り得ないだろう)1LDKで、6畳のリビングとキッチンと、ダイニング? という感じの縦長の廊下(そうだ、廊下というのがあの空間の正しい名称だ)とユニットバスとトイレが付いている。

 部屋風呂とは別に、大きな共同風呂があり、日曜だけ、それに湯が張られる。大きな風呂が気持ちいいと、中々の人気だし、よその部署の仲間と情報交換の場にもなっている。

 それから、卓球台や自動販売機などが置かれた娯楽スペースと売店がある。

 独身寮の様な感じで、家族で住んでいる人はいない。

 しかしながら、僕らだけは2LDKに住んでいた。

 そう、僕ら、だ。

 柊を一人で住ませるのは心配という周りの提案だった。それには納得したものの、楠は最後まで粘って何とか2LDKを勝ち取ったのだ。一部屋が楠、もう一部屋が柊だ。部屋は違うが、近くに居るから、何かあったら直ぐ対処が出来る。そんな距離だ。(6畳間で、男二人寝るとか有り得ないだろう! )

 ‥柊さんが落ち着くまでのことだ。部屋が違うとはいえ‥何が楽しくて男と同居‥。

 楠は日頃から不満一杯の暮らしを送っていたから、それに梛が加わったところで変わらない。

 梛の部屋を決める際にそれを提案したのは楠だった。

 はじめは心配した桂が一緒に住もうと誘ったのだが「女性と同じ部屋に住むわけにはいかない」と梛が断ったのだ。

 じゃあ、僕の部屋においで。

 梛を一人で住ませる選択肢はなかった。

 ‥梛が独り立ち出来るようになったら、柊さんにも出て行ってもらおう。

 そう楠は決めている。

 ‥狭い。暑苦しい。‥俺の自由や安らぎを返せ。



「おじや」

 柊さんが持ってきたおじやを僕の枕元に置いてくれたのは、梛だった。

 心配そうに顔を覗き込まれて、つい口元を緩めた。

 ‥思えば、こんなに心配されることもなかった。

 一人じゃないっていうのは、‥心地いいものでもあるんだね。



「こら梛、野菜を残すな」

 翌日。

 社員食堂で昼食をとる楠が野菜を残して席を立とうとする梛の肩を押しとどめて席に着き直させる。

 今日だけのことではない。

 結構よくある光景だ。

「いいの。野菜は、野菜ジュースで取るから」

 ぷうっと頬を膨らませる梛は、本気で嫌そうな顔をしている。

 これでも、まあ当初に比べたらましになった。

 はじめは、答えもしなかった。

 周りの反応も、ちらっと見て視線を戻す者、珍しそうに見ている者、ビクッと肩を震えさせる者‥様々だ。

 他人に対して、興味がなかったり、逆に他人が珍しくて仕方なかったり、怖くて仕方なかったり。

 だけど共通しているのは、誰も話しかけていったりはしないことだ。

 ゲームからのスカウト組の面々は、皆ちょっと「普通」じゃない。

 それぞれ、柳や楠、桂が過去にチューターをしてきた者たちだから、事情は分かっている。

 無関心、これは一番多いタイプ。

 人は人。と他人と一線置いて付き合ってきたタイプ。

 そして、他人が珍しくてしかたないタイプ。

 これは、‥放って置かれた「いい方」のパターン。

 放って置かれたが、食料などの最低限のモノはあった。そして、虐待無し。

 そして、‥もっとも最悪なのが

 放って置かれ、更に、虐待があった例。

 彼らは、ゲームに自分の居場所を求めていった。

 梛みたいなケースで来たわけではないんだけど、ほぼそれと状況は変わらない。

「あれはあれ、だ。ちゃんと食べた方がいい。柊さんも」

 因みに、ここで梛の世話を焼いている線みたいな目の男が、麗しのチューター「楠さん」だってことを知る者はいないし、

「そうですよ。生野菜でしか取れない栄養素もあるし」

 と説教をしている幼児体形の地味な女子が「桂さん」だってことも、

「お、相変わらずやってるね」

 「柳さん」とチューター三人が揃っていることを知る者はいない。

 多分知ろうともしないだろうけどね。

 彼らにとって、Souls gate』はリアルではないんだから。

「あはは、ホントに楠さんはオカンみたいだね~。それも、一昔前の。現在のママって感じじゃなくって、昭和のオカン」

「そうですねえ」

 食堂の入り口で柳と伊吹が言った言葉は、しかし、楠には聞こえていなかった。‥聞こえていたら、きっと大騒ぎしていただろう。

 そういう点でも、楠は「予想通りの反応をする」男だから。

「あ、柳さん。伊吹さん。こっち来られます? 」

 楠が手を振って、「柳さん」の名を口にするが、スカウト組は別段柳を見ることもなかった。



 西遠寺 柳

 幹部候補生であり、システム管理部のリーダー


 が、柳さんに対する認識。

 親切で、話せるかっこよくて優しいお兄さん「柳さん」とは違う。

 そして、楠も

 優しくて麗しの美人「楠さん」とは、勿論別人。

 リアルはリアル。

 仕事は仕事。

 その方が、絶対楽しい。

 期待は裏切られないし、‥変に傷つかない。

 梛だけじゃない。

 ここの皆は、リアルに憶病で、そして傷ついている。



 だから、梛が、それでも

「‥行こうとは思ってたんだ。学校。給料もらってるから、学費も払えるし、‥私立の小学校。新souls gateの為に、子供たちの声も聞きたいしな」

 って言ったのは、嬉しかった。

 自分のことを考えると、学校が何かしてくれたってことはないし、学校に行って学んだことは、所詮処世術ってだけなんだけど

 でも、

 ゲームがリアル

 ってのは、やっぱり‥どうかと思うからね。

 強くなろう‥。

 傷ついたって、失敗したって、

 負けない。

 せめて、梛が立ち尽くしてしまわないように傍にいよう。

 柊が一人になってしまわないように、傍にいよう。

 それだけが、僕に課せられた今の仕事で、‥リアルなんだと思う。

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