5.八卦表
「八卦表は開いて見たことある? 」
こてり、と首を傾げる悩殺可愛いアズマ先輩に、僕は「首を振る」という動作を選択した。
無表情で「ありません」とか言うより、余程いい。
「まずステータスボックスから「MY八卦表」を選択して「見る」を選ぶ。君はまだ、選択肢がないから、「メンバーを選ぶ」は使用できない」
しかし、アズマ先輩のこの話し方、社会人の人なのかな。凄く、しっかりしてる。
案外、おじさんだったらどうしよう‥。
いや、考えないでおこう。MYフェアリー・アズマがおじさんとか、ない。
しっかりしろ。那須。
「はい」
こくん、と那須が頷く。
「やってみて? 」
ステータスボックス‥ああ、これか。「MY八卦表」‥。「見る」を選択。
八卦の卦が顔つきで出て来る。イラストの横に卦。名前がないのは、仮のメンバーだからか。それから、属性。ランク。HP。
でも
「一人だけ名前が入ってます」
「運営の人かな? 」
「わかるんですか? 」
「そういう名称が正しいかどうかは分からないんだけどね」
あ、駄目だ。話だけ聞いてたら、アズマ先輩がサラリーマンに思えてきた‥。しかも、管理職。
「ああ」
打ちひしがれた僕は、何となく頷いた。
「で‥あの。運営の人って? 」
「‥そうだな、このゲームを作った人? 」
「成程」
「僕の時にも入ってたよ。操作方法とか、いろいろ教えてくれたり、「悩んだりしてない? 」って心配してくれたり、凄くいい人だった。今は、僕の八卦表からは抜けてるけど、時々ゲーム内で会って話したりしてる」
「へえ」
「その人は、柳さんって言ったっけ。震の卦の人だったよ」
「僕と同じですね」
「そうだね。でも、見た目は違ったな。『長男』の震らしく、スラっとした大人の男性だった。なんだかカッターと綿パンって感じのラフな格好して、眼鏡を掛けてた」
‥一般人か。ゲームのキャラクターっぽくないな。
‥『長男』の震。そうだ、震は『長男』だ。だのに、なんで僕、こんな「少年」みたいなんだろ。
「そういえば、あの人も漢字だったな。ああ、そうか。君って運営の人? 」
「僕は、そういうのではないです」
「‥そうだね。何も知らない初心者の君が運営の人ってのはおかしいね‥」
アズマ先輩が俯いて首のあたりをガシガシとかいた。
‥照れてる。
可愛い人って、やっぱり何やってても可愛いんだ‥っ。
「はあ。そうですね」
無表情、いい! パソコンの前でどんなに萌え悶えててもばれない‥っ!
「で、その人どんな人? 他人の八卦表のデータは見られない様になってるんだ」
「ええと。名前は‥。楠。卦は『坎』。大人って感じの人ですね」
美人さんって感じ。坎は、たしか『中男』‥。中男って何だっけ? 長男ってのがあるから、次男みたいな感じか? でも、その下が少年だから、大中小の中なのかな。‥そういえば、そういうの、あんまりわかんないなあ。さっき、アズマ先輩が『長男』の震らしいって言ってたの聞いて初めて意識した位だ。
「あ、美人ですよ? 」
「美人って言っても、アバターだしね」
男を強調するアズマ先輩だから、もしかしたら気になるかなあ? って思って付け加えてみた情報は、しかし、どうでもよかったみたい。
うん。僕も結構どうでもいいや。
恋愛は、男も女もノーセンキュー。興味ないんです☆
「また、その人がいろいろ教えてくれると思うよ。メッセージが送れるから個人の掲示板に残して置いたら? メッセージの送り方教えるよ」
可愛い先輩のアズマさんは、ホントに優しい頼りになる先輩なのでした。