4.仮想空間
「やっと出来る! ゲームにログインしてさっき貰ったIDナンバーを入力して‥。ええと‥」
ネットによると、沢山のアバターがログインしてて、交流できたりするんだ。MY八卦表を持ってるアバターは、服装とか変えられて、見たらそれとわかるらしい。
‥と、思ったんだけど‥?
自分のアバター「那須」がぽつりと立っているだけだ。
景色も、荒れ地って感じ。
そして、ふと那須の全身を見たのが初めてだということに気付いた。
麻地と思われる生地の、短い丈のシンプルな着物。着物と言っても、袂があるわけではない。作務衣とか甚平に近いのかな。袖が筒になっている。ただ、作務衣や甚平と違って別にズボンはついていない。着物一枚だ。だのに、その丈がやたら短い。膝上ってどういうことだ。そこから日に焼けた綺麗に筋肉のついた足がすらりと伸びている。子供か。江戸時代の子供か。しかも、何かしら製作者の個人的な趣味を感じずにいられない。袖も肘位しかないし。
しかし‥
鳶色の髪、鶯色の瞳。着物の色は、‥ちょうど番茶を薄く入れた様な‥草木染したような色。
つまり、お世辞にも「華やか」とは言い難い容姿。
‥ちょっと、貧乏くさい? 言い方悪いけど。
だけど、悪くない。ジャニーズjrとかにいてもおかしくない感じ。可愛い系のイケメン。
「誰も来てないなあ。ん? ステータスの『持ち物』に、『MY八卦表』がある」
気をよくしながら、自分の装備を確認する。
‥いつの間に?
「あれ、説明が書いてある。『レアの方は、一般のユーザーと違い、同じレベルの仲間が見つけにくいので、こちらで用意させていただきました。なお、このメンバーは、TAKAMAGAHARAの創ったアバターで、実際のユーザーとは違います』ああ、なるほど」
「レベルがあんまりにも違うアバターと組んでも仕方ないもんな。弱いやつだったら、敵も僕だけで倒せちゃうかも、だし」
『次に』を選択する。
『アクセスしている、同じくレアな方が通信を希望することもあります。通信を許可しますか? 』
「ふむ。『します』それはいいでしょう。どうせだったら、他のユーザーともチャットしたい」
奈水流は、『します』を選択しながら、独り言を言った。
なんだかおもしろくなってきた。自然に顔がにやついてくる。
「なんせレアだもんね。『震』のレベルカンスト目前だもんね。くふふ。『真の仲間を探したいあなたは、『メンバー募集・登録』画面で、まず登録をしてから、メンバーの募集を掛けて下さい』ふうん‥なんか、ちょっと考えるなあ、まず登録しないでやってみようかな『知り合った他のアバターをTAKAMAGAHARAの創ったメンバーと交換することができます。募集は、その機会を増やすのに有効です』ふむふむ。それはそうだな。でも、まあ、ちょっと様子を見て行こう」
こうして僕は、『Souls gate』の世界に一歩足を踏み入れてしまったのだった。
「では、記念すべき最初の一歩! 」
僕は、アバター「那須」を動かしてみた。
「あーあー」
キーボードに文字を打ち込めば、那須が話す。それは、一般的なゲームと同じだ。
思ったより、声が高い。少年って感じだ。
「初めまして」
意味のある言葉を発してみる。
でも‥
‥すっごい、無表情。
何だろこれ。すごい違和感ある~。
「性格設定しなくちゃダメなんですよ。というか、したいでしょ? 性格設定。「こんにちは」でにっこり笑う紋切り型のアバターとか、嫌じゃないですか? 」
突然後ろから、笑いを含んだ声を掛けられ、僕はここに自分以外がいることを知った。
ん? でも今まで誰もいなかったから、たった今ログインしてきたアバターか。聞かれてたとか、恥ずかしい‥。
これって、自分だけが見れる設定とかじゃなかったのか。‥違うわな。
「性格設定? 」
でも、先輩ってことだよね。分からないことを教えてくれる人は貴重だ。仲良くしたい。
「ええ。設定画面でできますよ。新入りさんですね? 初めて見る顔だ」
可愛らしい柔らかい声、だのにその話し方は一言でいえば女の子らしくなかった。
「はい、那須って言います」
自分としては愛想よく笑ったつもりだが、那須の方は相変わらずの無表情だ。
すっごい態度悪い。
やっぱり、早く性格設定しよう。これじゃ、メールしてるみたいだ。いや、メールでも顔文字とかあるぞ。メールよりひどい。
「ナス? ‥野菜の? 」
こてり、と首を傾げる先輩アバター。
「‥‥」
やばい。めっちゃ可愛い。
よく見たら、めっちゃ可愛い。
髪、さっらさらの目きっらきら。
黒髪のおかっぱ。背がちっさくて、金色の大きな目。飛鳥時代とかの服着てる。いや、飛鳥時代かどうかはわからないけど、古墳の壁画に書いてあるような服。デザインを変えたんだろう、丈も長くないし、生地も若干厚手(多分)壁画とかのだったらもうちょっと生地に動きがある気がするけど、そんな感じじゃない。木綿って感じ。
多分、動きやすいようにデザインされているんだろう。女の子だけど、ズボンだし。(確か、この手の服は女の子はスカート(というのかどうかはわからん)だったはず)。
何にしても。めちゃ可愛い。
‥しまった、ガン見しちゃった。睨んでるように見えてないだろうか。
「ごめん。悪かったよ。冗談だよ。ここにいるってことは、自分でつけた名前でもないもんねえ。選べない名前をいじられてもって感じだよね」
やっぱり睨んでいると思われたらしい。先輩に謝られた。
うう、ごめんなさい。誤解です。嫌いにならないで下さい‥。
‥でも、「見とれてました」とか正直に言ったら「真面目に聞け」って怒られそう。
‥ってか、何の話してたっけ。
「え。‥いや。そんな、いいですよ‥」
取り敢えず、笑ってごまかそうと思ったのに、この無表情。やめた。余計なこと言わないでおこう。
「‥そういやあ、自己紹介まだだったね。後で何人か来たら紹介するよ。組むとかは、別の話な」
先輩は、そういうとにやり、と笑った。
組む。いいなあ、チームプレー‥。
しかし‥。
先輩のこの、性格設定‥成功してるのかな?? キャラと顔とは全然合ってませんけど‥。そもそも、どういう性格の設定なんだろう?? ツンデレ‥でも、無いよね?
そんなことを考えながらも、返事は迅速に。にこやかに!
「はい、お願いします」
‥もう! 「お願い」してるように見えないって! この無表情~!
ふふ、と笑うと先輩は、真っ直ぐと無表情・那須を見上げた。
「僕は『アズマ』です。卦は『兌』。陰の卦だから外見が女みたいでちょっと嫌だけど、男です。惚れないでね」
那須は、慌ててちょっと大きめなリアクションでぺこり、と会釈した。
アズマさんっていうんだあ! 可愛い! どんな漢字書くんだろう!?
ってか、男の子なんだぁ!
しかも、公表しちゃうの!? 仮の性別楽しもうとかないの? それとも、男の人ってそういうの嫌なのかな‥。そういうものかもしれない‥。男に惚れられて面白いもんでもないものね。女の子が男装して女の子に騒がれて楽しい、はあんまり実害がなさそうでいいけど、男の子の場合は、生理的にも嫌なのかも。
まして今、僕は男の格好してるわけだしね。男だと思われてるよね。
奈水流は、パソコンの前で大騒ぎだ。初めてのことばかりで、もう何もかも興奮してしまう。いつもより、確実にテンションが上がっている。
‥やばい、やばい。早く返事しなきゃ。
「はい‥。よろしくお願いします。俺は『那須』です。那智の那と須磨の須で、那須」
那須が、ロボットよろしく無表情で挨拶する。ええい、ホント何とかしてくれ、これ。
「須磨? 何? 」
こてり、とアズマ先輩が首を傾げる。
うう、やっぱり可愛い。男だって聞いたのに可愛い。
「地名です。関西の。那智は、那智の滝って有名ですよね」
「ふうん? 」
またアズマ先輩、こてり。
ダメだ、精神がやられる。
「結局どんな字かわかんないけど、‥君漢字があるんだね」
「え? 」
今度は、無表情・那須がこてり。
あ。こてり、は全キャラクターに標準仕草なのかな? 『何? 』とか『え? 』とか疑問詞を打ち込むと自動的に『こうする』、みたいなプログラムなのかもしれない。
面白い~! そして、無表情・那須の「こてり」。似合わない~!
「僕は、無い」
と、アズマ先輩。
「カタカナか、ひらがなで名前が書いてあったってことですか? 」
疑問文に連動して、無表情・那須、またこてり。
「うん。カタカナ。那須君、ちょっとステータス見せてもらっていい? 」
アズマ先輩もこてり。こっちは相変わらず悩殺されるくらい可愛い。
しっかりしろ、男だぞ。
「いいですよ」
おお、無表情・那須が頷いた。ここら辺も標準仕様っぽい。
「卦は『震』。属性は雷‥。あ、僕よりちょっとランクが高いんだ」
へええ。ランクなんて出てたっけか?
「そういうこと、なのかな? 」
全くの初心者の僕にそんなことわかろうはずもなく‥。無表情・那須はまた、こてりと首を傾げるのだった。